映画『女神の継承』は2022年7月29日(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷、グランドシネマサンシャイン池袋、アップリンク吉祥寺ほかにて全国ロードショー!
ある祈祷師一族を襲う正体不明の恐怖を描いたタイ・韓国合作ホラー映画『女神の継承』。
『チェイサー』(2008)『哭声/コクソン』(2016)でその名を轟かせた、韓国映画界が誇る監督ナ・ホンジンが原案・プロデュースを務めた作品です。
このたび、2022年7月29日(金)からの日本での劇場公開を記念して、本作を手がけられたバンジョン・ピサンタナクーン監督にインタビュー。
本作を通じて実感したタイ国内における「祈祷師」という存在の意味、映画監督を志したきっかけと自身が目指す映画監督の在り方など、貴重なお話を伺いました。
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「祈祷師」と呼ばれる地域密着型の精神科医
──本作を手がけられるにあたって、タイの各地で活動する祈祷師について調査をされたとお聞きしました。その調査を経て、バンジョン監督は祈祷師と呼ばれる人々をどう捉えられたのでしょうか。
バンジョン・ピサンタナクーン監督監督(以下、バンジョン):実は私自身は、祈祷師という存在を全く信じていません。ただ、この映画を撮るにあたっての調査を通じて、タイの各地には本当に大勢の祈祷師と呼ばれる人々が長年活動を続けていることを改めて知り、祈祷師という存在そのものがタイという土地に根付いた文化であることも実感できました。
そのためこの映画では、決して祈祷師が行なっている仕事に対する真実の是非をジャッジしているわけでも、疑問を提起しているわけでもありません。また祈祷師と呼ばれる人々には本当に様々なタイプがいて、一概に「これが“祈祷師”だ」と断言できないのが本音です。
バンジョン:困っている人間を騙し大金を得ようとするタイプも確かに存在する一方で、「地域の人々の生活の悩みを解決したい」「病院でも治らない病を癒したい」といった理由で、真に人助けの想いから活動をし続けている方もいる。またそうした人々の中には、お金を受け取らない、或いは本当に少額の報酬しか受け取らないという方もいます。
今回の調査を終え、私は祈祷師と呼ばれる人々を、地域密着型の精神科医や心理カウンセラーのような存在なのだと認識するようになりました。地域の人々の気と心を癒し、生きてゆくための力を与える。そうした意味も含めて、本当に多くの側面を持つ人々なのだと思います。
「みたことのないもの」或いは「みたことのない語り方」
──本作をはじめ、映画を撮られる上でバンジョン監督が常に心がけていることは何でしょうか。
バンジョン:映画を撮る際には常に、ストーリーを最も重要視しています。心の底から自分が興味を持てる題材を見つけ出し、その題材を自分自身でよく調べていった上で、観客がまだ気づけていないもの、或いは忘れてしまっているもの……言い換えれば「みたことのないもの」にまつわるストーリーを描きたいと思っています。
今回の『女神の継承』に関しても、タイ国内における祈祷師という存在に疑問と興味を抱けたことはもちろん、祈祷師とその家族のドラマ、そして人々を襲う正体不明の恐怖をめぐるホラーとミステリーなど、多くの要素が組み合せることで立体的なストーリーを描き出せると考えられたのです。
「みたことのないもの」にまつわるストーリーを描くこと、或いは「みたことのない語り方」でストーリーを描くことは、作り手が常に心がけるべき挑戦だと思っています。また自分自身も映画を多く観る人間である以上、「自分が観客だったら、こういう映画を観たい」という観客の視点も忘れないようにしています。
映画というマジックの力
映画『女神の継承』メイキング写真より
──バンジョン監督はどのようなきっかけを経て、映画監督を目指されたのでしょうか。
バンジョン:私は中華系タイ人の家系の出身なのですが、子供の頃から家族に映画館へ連れていってもらっていました。実は私はジャッキー・チェンで育てられてきた世代であり、彼の出演作であるコメディ・アクションをはじめ、多くの映画を観てきました。
また私が暮らしていた地域には中華系の神社もあったのですが、そこでは映画の屋外上映会を毎年やっていて、自分もよく観に行っていました。大きなスクリーンに映し出される世界に皆が感動しているその光景に、私は子どもながら「映画」というマジックの力を感じさせられました。
そうして映画と接していく中で、自然と映画が好きになっていきました。映画監督という選択も、その自然な流れを通じて見つけたものといえます。
「人間を魅了する映画」というストーリー
映画『女神の継承』メイキング写真より
──バンジョン監督は現在、どのような映画監督になりたいとお考えでしょうか。
バンジョン:映画監督という存在は、映画によって自分自身の個人的なメッセージを伝えると同時に、観客となる人々の心に語りかけ、様々な感情を沸き起こさせることで楽しませます。私は映画監督として、その二つの目的をバランスよく達成したいと考えています。
映画は総合芸術であり、様々な芸術が映画という芸術の中に込められています。私はそんな映画に魅了された人間であり、自分自身が魅了されたからこそ、その魅力もまた一つのストーリーとして伝えたいのだと思います。
映画はとても面白い。自分にとって本当に伝えたいストーリーとは、それなのかもしれません。
インタビュー/河合のび
バンジョン・ピサンタナクーン監督プロフィール
1979年生まれ、タイ出身。バンコクのチュラロンコン大学映画学科を卒業後、いくつかの短編を製作する。
パークプム・ウォンプムと共同で監督を務めた『心霊写真』(2004)で長編デビュー。2004年度のタイ国内興収にて1位を記録した同作品は、落合正幸監督のハリウッド映画『シャッター』(2008)としてリメイクされた。
その後はホラー映画『Alone』(2007)、2011年の大阪アジアン映画祭で上映されたラブ・コメディ『アンニョン!君の名は』(2010・日本未公開)などを発表。タイの有名な怪談に基づくホラー・コメディ『愛しのゴースト』(2013)は、国内の歴代興行成績を更新し、1000万人を動員する大ヒットとなった。続いて、北海道ロケを行ったラブ・ストーリー『一日だけの恋人』(2016・日本未公開)を発表。同作品は、2017年の大阪アジアン映画祭で日本に紹介された。
映画『女神の継承』の作品情報
【日本公開】
2022年(タイ・韓国合作)
【原題】
랑종(英題:THE MEDIUM)
【原案・プロデュース】
ナ・ホンジン
【監督・脚本】
バンジョン・ピサンタナクーン
【キャスト】
サワニー・ウトーンマ、ナリルヤ・グルモンコルペチ、シラニ・ヤンキッティカン
【作品概要】
『チェイサー』『哭声/コクソン』で知られるナ・ホンジンが原案・プロデュースを務めたタイ・韓国合作ホラー。タイの祈祷師一族を襲う正体不明の恐怖を描く。
監督・脚本を手がけたのは、ハリウッドリメイクされた『心霊写真』や『愛しのゴースト』で知られるタイの映画監督バンジョン・ピサンタナクーン。
映画『女神の継承』のあらすじ
小さな村で暮らす若く美しい女性ミンが、原因不明の体調不良に見舞われ、まるで人格が変わったように凶暴な言動を繰り返す。
途方に暮れた母親は、祈祷師である妹のニムに助けを求める。もしやミンは一族の新たな後継者として選ばれて憑依され、その影響でもがき苦しんでいるのではないか……。
やがてニムはミンを救うために祈祷を行うが、彼女に取り憑いている何者かの正体は、ニムの想像をはるかに超えるほど強大な存在だった……。
編集長:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、2020年6月に映画情報Webサイト「Cinemarche」編集長へ就任。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。