映画『Threads of Blue』は2023年9月に封切り後、2024年1月22日(月)より高円寺シアターバッカスにて劇場公開!
主⼈公が見た悪夢の奥に潜む、恐るべき真実を追うサイコ・スリラー映画『Threads of Blue』が池袋シネマ・ロサで封切り後、2024年1月22日(月)より高円寺シアターバッカスにて劇場公開されます。
映画『フェイクプラスティックプラネット』(2020)の他、『科捜研の⼥』『遺留捜査』『刑事7⼈』など⼈気ドラマの演出を手がけてきた宗野賢⼀監督が手がけました。
今回の劇場公開を記念し、『架空OL⽇記』(2020)『チェリまほ THE MOVIE』(2022)『死刑にいたる病』(2022)などで知られ、本作で主人公・縁(エン)を演じられた佐藤玲さんにインタビューを行いました。
本作での役作り、「真剣な遊び」に取り組む時間・空間としての作品制作の現場に対する想い、本作へのご出演を経て気づくことのできたものなど、貴重なお話を伺えました。
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映画の“原点”の魅力を楽しめる映画
──映画『Threads of Blue』の脚本を最初に読まれた時には、どのような感想を持たれましたか。
佐藤玲(以下、佐藤玲):以前の『フェイクプラスティックプラネット』(2020)もそうだったのですが、宗野監督は日頃から手がけているドラマ作品とは異なる物語を映画では描いているといいますか、物語以外にもフォーカスした作品を制作しているんです。
また『Threads of Blue』の脚本をいただいたのはちょうど『テネット』(2020)が劇場公開されていた頃だったのですが、本作も『テネット』のように、様々な時間が自在に変化・転換しながら描かれています。
物語としての力も強く持っているだけでなく、「時間」そのものを自在に切り取り、映し出すという映画の原点ともいえる魅力を楽しめる作品を、宗野監督は映画を制作する上で常に心がけているのかもしれません。それは脚本を読んだ時はもちろん、宗野監督ご本人とお話をした時の言葉からも伝わってきました。
あえて明確にしなかった“演じ分け”
──佐藤さんが本作で演じられた主人公はいくつもの人格を持つ人間として描かれていますが、実際のお芝居ではどのような点を意識されていたのでしょうか。
佐藤:縁という女の子を軸に、それぞれの人格のグラデーションを形作っていったといいますか、A・B・Cと人格をバツバツと切り分けてしまうのではなく、それぞれの人格の根底には共通の何かが存在し「同じ人間」であることが分かるという感覚は残したいと考えていました。
例えば衣装やメイクなどが変化しても、歩き方といった肉体の動作におけるクセは、実は少しずつ変えてはいるものの、一つの肉体を通じて共有されているものとして表現しています。
ただ、本作でのいわゆる“演じ分け”は、映画を観ている方にすぐ分かってしまったら面白くないと思えたので、あまり分かりやすさを重視し過ぎず、明確に演じ分けしないようにしました。
宗野監督と相談しながら「この場面では『A+B』で、その場面では『A+B′』で演じる」という風にとても微妙なグラデーションで演じ分ける一方で、今目の前で起きている状況に対する“反応”の演技を大事にすることで、「生きている人間」を演じられるようにしたんです。
また宗野監督はやっぱり本作の中身を一番よく理解されているので、縁というキャラクターを演じていく中でも非常に安心感がありましたし、私の役に対する思考や疑問に対しても常に納得できる言葉を答えてくださっていたので、変に悩まずに演じられたと感じています。
その上で、俳優として縁と接してきた私自身の視点も尊重してくださったので、本作での役作りはいつも以上に楽しかったですし、宗野監督と一緒に縁という人間を形作っていったという感覚があります。
空想と真剣に向き合い“余白”を埋めていく
──縁の母・由美役の筒井真理子さん、父・浩介役の野村宏伸さんは俳優として大先輩にあたりますが、本作でのご共演を通じてお二人からどのようなことを学ばれたのでしょうか。
佐藤:撮影現場で印象的だったのは、筒井さんや野村さんといったベテランの先輩たちが面白がりながら、SF作品である本作について真面目に考えている姿といいますか、SF作品の世界でしか味わえない嘘を大いに楽しみながら、その嘘を一本の作品にしようと真剣に取り組まれている姿でした。
その作品の作り手の一人である俳優として、宗野監督を起点に生まれた空想と真剣に向き合われているプロとしての姿勢を見ることができました。
佐藤:また宗野監督の視点と縁を演じた私の視点では、縁というキャラクターや作品の見え方が異なるように、由美を演じられた筒井さん、浩介を演じられた野村さんそれぞれの視点でも作品の見え方は異なっていました。
映画などの作品制作は、監督が頭の中で思い描いているものを、みんなでその“余白”も埋めながらも形にしていく過程だと思っています。そして作品に関わる作り手それぞれの視点に“ズレ”があるからこそ、そのズレを基にイメージを膨らませて余白を埋めることができるということを、本作で改めて実感できました。
作品制作という“真剣な遊び”の現場
──佐藤さんにとって、これまで俳優のお仕事を続けることができた“原動力”とは一体何でしょうか。
佐藤:元々、誰かと一緒に何かを作ることが好きなんです。私自身が一人だけでやれることには限界があるとは思っていますし、みんなの力を寄せ集めることで何かを完成させた時の感覚がとても好きなんだと感じています。
撮影スケジュールがたとえハードな時でも「みんなが一つの場所に集結し、集中して何かを作っている」という空気を感じられたら撮影をこなすことができる。みんなが共同で何かを制作する時間や環境が好きなんです。
──「みんなで何かを作る」という行為に魅力を感じられた、原体験のような出来事はありますか。
佐藤:一番幼い頃でいえば、幼稚園の頃の「忍者ごっこ」でしょうか。布を首元に巻いて走るだけの遊びだったものの、その遊びを考えついて「こうしたら忍者になれるから、みんなでやろう」と友だちを誘って遊んだ思い出は、今の自分にもずっとつながっているのかもしれません。
また、私は中学三年生の冬に劇団に入って20歳頃まで所属していたのですが、俳優としての稽古だけでなく小道具や大道具などの準備も劇団員として分担で作業していたので、当時から「みんなで一つの作品を作り上げ、お客さんに届ける」という感覚が馴染んでいました。
俳優の仕事だけでなく、各部署がどんな仕事を通じて作品に関わっているのかを少しでも知るだけでも、作品に対する思い入れもきっと変わってくるはずです。何より作品制作の現場は、みんなが物作りという遊びを楽しめる時間と場所ですから、そこに触れられるのはとても嬉しいんです。
“新しい感覚”を受け入れて楽しむ
──映画『Threads of Blue』へのご出演を経て、佐藤さんが気づかれたことは何でしょうか。
佐藤:映画の作中では、縁の弟・晃を演じた荒田陽向くんとプールサイドでお芝居をする場面があるのですが、あの場面は元々ただの歩道で撮影する予定でした。
ところが、当日は大雨が降って屋外での撮影はほぼ不可能になってしまい、「屋内プールで撮影ができる」ということで急遽プールサイドでの場面へと変更されたんです。そんなアクシデントで生まれた思いも寄らない場面となったのですが、それがむしろあの場面をより魅力的にしてくれたんです。
どれだけ想定していても、撮影の直前になって想定外の事態が起こるなんてことはたくさんあります。ただ本作でのお芝居でもそうだったように、目の前で確かに起きている想定外の状況に対しても臨機応変に反応することで、撮影したその時の状況を生かしたより良いものを作り出せるんだと今回の撮影の中で思いました。
それまで形作っていたものに固執せずに、一緒に作っている人の視点やその時々の状況といった新しいものもどんどん受け入れていく。これからも作品制作の現場だけでなく、自分自身の生き方においても、新しい感覚を受け入れて楽しむことを忘れないようにしたいです。
インタビュー/河合のび
撮影/藤咲千明
佐藤玲プロフィール
蜷川幸雄演出の舞台『日の浦姫物語』(2012)で娘役に抜擢されデビュー。
主な出演映画は映画『沈黙-サイレンス-』(2016)『架空OL日記』(2020)『チェリまほ THE MOVIE』(2022)『死刑にいたる病』(2022)『かかってこいよ世界』(2023)など。
映画『Threads of Blue』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【監督・脚本・編集】
宗野賢一
【キャスト】
佐藤玲、筒井真理子、野村宏伸、荒田陽向、広山詞葉、佐渡山順久
【作品概要】
主⼈公・縁(エン)が見た悪夢の奥に潜む、恐るべき真実を追うサイコ・スリラー。監督は映画『フェイクプラスティックプラネット』(2020)の他、『科捜研の⼥』『遺留捜査』『刑事7⼈』など⼈気ドラマの演出を手がけてきた宗野賢⼀。
主演は蜷川幸雄演出の舞台『⽇の浦姫物語』でデビューし、映画『架空OL⽇記』(2020)『チェリまほ THE MOVIE』(2022)『死刑にいたる病』(2022)などに出演した佐藤玲。
縁の⺟役を映画『淵に⽴つ』(2016)『よこがお』(2019)で多数映画祭で主演⼥優賞を受賞した筒井真理⼦が、縁の⽗役を『みをつくし料理帖』(2020)の野村宏伸が、縁の弟役をNHK連続テレビ⼩説『おちょやん』で知られる荒⽥陽向が演じている。
映画『Threads of Blue』のあらすじ
とある薄暗いマンションの一室で、燃える車の絵を荒々しく描く謎の白髪の老婆……。
ちょうどその頃、「山道での交通事故で両親と弟を失う」という悪夢から目を覚ました縁(佐藤玲)は、不吉な予感に襲われる。なぜなら、数日後に予定している家族旅行の行き先は避暑地の山であったからだ。
縁は父親に旅行をやめさせようと説得を試みるも、聞く耳を持たない。
そんな中、同じマンションの住人の百合子さんは縁に「夢で見た交通事故はもうすでに起こった出来事である」と告げる。
いったいどういう意味なのか?もしそれが本当だとしたら、縁の目の前にいる家族はいったい誰なのか?
そして不吉な絵を描く老婆の正体は……?
映画『Threads of Blue』は2023年9月15日(金)より池袋シネマ・ロサで封切り後、2024年1月6日(土)より名古屋シアターカフェで劇場公開!
編集長:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。