Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

【大西礼芳インタビュー】映画『夜明けまでバス停で』困っている人のために一歩踏み出したいと思える作品

  • Writer :
  • 咲田真菜

映画『夜明けまでバス停で』は2022年10月8日(土)より新宿K’s Cinema、池袋シネマ・ロサほかにて全国順次公開。

高橋伴明監督による本作は、2020年冬に幡ヶ谷のバス停で寝泊まりする、あるひとりのホームレスの女性が突然襲われてしまった悲劇をモチーフにした作品で、誰もが置かれるかもしれない「社会的孤立」をリアルに描いています。

コロナ禍で職を失った女性が誰にも助けを求めることができず、あっという間にホームレスへと転落していく姿を通じて、今の日本が置かれている危うい状況を目の当たりにする作品となっています。


photo by 田中舘裕介

このたび主人公・北林三知子がパート社員として勤務する居酒屋の店長・寺島千春を演じられた大西礼芳さんにインタビューを敢行。

ご自身が演じられた役について、そして主人公・北林三知子を演じた板谷由夏さんとの撮影時のエピソードなどを語っていただきました。

スポンサーリンク

生き方が不器用な千春


photo by 田中舘裕介

──本作を拝見する前は、とことん落ち込んでしまう作品なのでは……と思っていましたが、大西さんが演じる居酒屋の店長・寺島千春が一筋の光になっていたと感じられました。大西さんご自身は千春をどのような役だと捉えられたのでしょうか?

大西礼芳(以下、大西):千春は板谷由夏さんが演じたパート社員・北林三知子の上司という立場ですし、パートやアルバイトの人たちからすると、千春はとても安定した安全な場所にいる人と思われがちなんですが、そうではないのです。

実は千春も、不安定でいつ転げ落ちてしまうかわからないところにいる。そのことを表現できたらと演じました。


(C)2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

──三知子やパート社員たちに対し厳しい言葉を放つ場面もありましたが、千春はその内にどのような感情を抱えていたのでしょうか。

大西:本作はコロナ禍が起きたことで、いろいろなことがものすごく早いスピードで変化していく様子が描かれています。ですが千春は、それ以前から「このままではいけない」という気持ちがずっとあったと思うんです。

千春は人との距離を上手くとることができないし、その方法も分からない。簡単に他人に心を開ける人ではないんです。パート社員の人たちとも普段から親しくしていたわけではないのに、いきなり距離をギュッと近づけようとしたりしまうので、演じながら「千春って不思議な人だなあ」と感じていました。

ただ、そういう千春がとても面白くて、共感できたんです。私自身が、不思議な人、面白い人、生き方が不器用な人が好きだからなのかもしれません。何もかもバランスよくできる人も魅力的ですが、千春みたいな人も魅力がありますよね。

千春と自身を突き動かしたもの


photo by 田中舘裕介

──千春は物語の後半、コロナ禍で居酒屋をクビになってしまったパート社員たちのために奔走します。彼女を突き動かしたパワーの源は何だったのか、大西さんはどのように感じられていたのでしょうか。

大西:居酒屋で働く中、三知子さんに手を差し伸べてもらった瞬間が何度かあったことが、千春の中で確実に大きかったと思っています。

些細なことなのですが、仕事中に男性社員たちが下品な話をし、場の空気を悪くしている時にビシッとたしなめてくれたり、千春が突然「ちーちゃんと呼んでください」と無理に距離感を縮めようと唐突なことを言った時も、一瞬驚くけれど「分かった。ちーちゃんね」と受け止めてくれたり……それらは、千春が「人として認めてもらえた」と三知子に感謝した瞬間でもあったと思うんです。そうした小さな出来事の一つひとつが、原動力になったのではないでしょうか。

そして役ではなく大西礼芳として言えば、撮影の合間に板谷さんをはじめ、ルビーモレノさん、片岡礼子さん、私の大学の後輩でもある土居志央梨さんを含め、皆さんと話すことができ、私のことをプライベートでも「店長」と呼んでくれたことが、とてもうれしかったんです。

千春が三知子さんに抱く感情だけでなく、半分は大西礼芳として共演者の皆さんに対して生まれた「好き」という感情も含まれていたと思います。

スポンサーリンク

板谷由夏との「普段の会話」のような芝居


(C)2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

──板谷さんは本作が久しぶりの映画主演だったと伺っています。一緒に演技をしてみていかがでしたか?

大西:板谷さんとは「芝居をしている」という感覚が起こらなかったのが、私にとって貴重な体験となりました。休憩時間や待ち時間もずっと板谷さんと話していたというのもあるのですが、待ち時間と撮影の境目があまりないような感覚だったので、とても心地よかったです。

セリフがセリフとして聞こえてこないというか、板谷さんとの芝居が普段の会話のようにできたのがとても良かったです。プライベートの板谷さんと、演技をされている板谷さんの違いが分からないぐらい自然な雰囲気が出ていると思います。

──千春の上司・大河原聡を演じられた三浦貴大さんとのお芝居も多かったと思います。今回の三浦さんの役は「女性の敵」ともいえる役どころでしたが、大西さんの目にはどのように見えたのでしょうか。

大西:私は、嫌な人を演じる時「こんな嫌な人、おるんかな……」と疑問に思うことがあって、若干役に対して抵抗感が生まれ、演技にブレーキをかけてしまう時もあります。ですが、三浦さんは全くそんなことがなく、悪役を演じることを楽しんでいらっしゃって「すごいなあ……」と思いました。

これは裏話になってしまうのですが、ちょうど三浦さんが他の作品のため意識的に体重を増やされていた時期だったので、その雰囲気が嫌な人を演じる上で、より効果を上げていたような気がします(笑)。


(C)2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

──三浦さんとのお芝居では、どのような演技を意識されていたのでしょうか。

大西:千春は三浦さんが演じている大河原に好意を持っているというスタンスで演じていたので、大河原は嫌な男性なんだけれども、千春も少しその気になっていたという微妙なところが表現できれば……と考えていました。「何でこんな人に傾いている自分がいるんだろう……」という千春の葛藤みたいなものを表現したかったんです。

また、三浦さんご本人は面白くてものすごくいい人なので、そういう三浦さんが本来持っていらっしゃる優しさや面白さを頼りに、千春の大河原に対する気持ちを固めていきました。そうすることで、「嫌な奴……」という感情だけでなく「大河原にもいいところがあるんだ」という感情も含めての千春の心情を演じました。

誰かに助けられ、誰かを助ける


photo by 田中舘裕介

──本作を手がけられた高橋伴明監督は大学時代の恩師でもいらっしゃるとお聞きしました。今回、高橋監督の作品に再び出演されて、どのようなことを感じられましたか。

大西:高橋監督はいつも「これを意識してやってみて」とポツッと動作の指示をされるだけなので、ほとんど演技に関する話はしませんでした。

私はデビュー作が高橋監督の作品だったので、そういうものだと思って俳優をやっていますが、「こういう気持ちで、こういうことをしています」とか「こういう状況なので、こういう動作をするかもしれない」と限定されると縮こまってしまうので、曖昧なまま撮影でスタートがかかるほうが楽しいんです。高橋監督とまた一緒に映画を作ることができたのは本当にうれしかったですし、光栄でした。

──改めて、作品の見どころをお聞かせください。

大西:千春を演じてみて、私たちは日々生活していく中で誰かに助けられているし、もしかしたら知らないうちに誰かを助けているかもしれないと感じました。人生は、それの連続のような気がします。

困っている人を目の前にして「余計な手助けをすると迷惑かもしれない」と思って行動に移すことをためらうことがたくさんあったりします。ですが、確実に目の前の人が苦しんでいたり困っていたりするなら、勇気を出して一歩踏み出して、手を差し伸べてみるのもいいかもしれない……と思ってもらえる作品だと思います。実は高橋伴明監督自身も、そっと手を差し伸べてくれる……そういう人なんですよ(笑)。

インタビュー/咲田真菜
撮影/田中舘裕介
ヘアメイク/廣瀬瑠美
スタイリスト/田中トモコ(HIKORA)

ワンピース(IN-PROCESS Tokyo/SUSU PRESS/03-6821-7739)
右耳イヤリング、ブレスレット、左中指リング(e.m./e.m. 青山店/03-6712-6797)
右手リング、ピンキーリングにしたイヤーカフ、左耳イヤーカフ(NOMG/info@nomg.jp)

大西礼芳プロフィール

1990年生まれ、三重県出身。

2011年の映画『MADE IN JAPAN こらっ!』ではヒロインを、短編映画『Fast&Slow』『かなわぬ恋』では主演を務めた。

2014年にNHK連続テレビ小説『花子とアン』、2015年にTBS『天皇の料理番』に出演。2016年には映画『グッドモーニングショー』、2017年には『菊とギロチン』『ナラタージュ』に起用された。2022年11月23日から舞台『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』に出演予定。

趣味は映画鑑賞、音楽鑑賞、楽器演奏、読書、絵を描くこと。特技は日本舞踊、英会話、映像編集、サックス、ピアノ、水泳、剣道、ルービックキューブ。

スポンサーリンク

映画『夜明けまでバス停で』の作品情報

【公開】
2022年(日本映画)

【監督】
高橋伴明

【脚本】
梶原阿貴

【キャスト】
板谷由夏、大西礼芳、三浦貴大、松浦祐也、ルビーモレノ、片岡礼子、土居志央梨、柄本佑、下元史朗、筒井真理子、根岸季衣、柄本明

【作品概要】
『痛くない死に方』の名匠・高橋伴明監督の「今、これを世の中に発信しなければ」という想いに、日本映画が誇るスタッフとキャストが集結。

バス停で寝泊まりするホームレスに転落してしまう主人公・三知子役に『欲望』(2005)以来の映画主演となる板谷由夏、三知子の働く居酒屋の店長に大西礼芳、マネジャーに三浦貴大。

石を振り上げる男・工藤武彦役に松浦祐也、居酒屋の同僚役にルビーモレノ、片岡礼子、土居志央梨。ユーチューバー役に柄本佑、三知子のアトリエのオーナーに筒井真理子、介護職員にあめくみちこ、古参のホームレスに下元史朗、根岸季衣、柄本明と実力派俳優が勢ぞろいしました。

主題歌は、全世界配信のNetflixアニメ『BASTARD?-暗黒の破壊神-』エンディングテーマにも楽曲が起用され話題となったTielleの新曲「CRY」。

映画『夜明けまでバス停で』のあらすじ


(C)2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

北林三知子(板谷由夏)は、昼間はアトリエで自作のアクセサリーを売りながら、夜は焼き鳥屋で住み込みのパートとして働いていましたが、突然のコロナ禍により仕事と家を同時に失ってしまいます。

新しい仕事もなく、ファミレスや漫画喫茶も閉まっており、途方に暮れる三知子の目の前には、街灯が照らし暗闇の中そこだけ少し明るくポツリと佇むバス停がありました……。

一方、三知子が働いていた焼き鳥屋の店長である寺島千晴(大西礼芳)は、コロナ禍で現実と従業員の板挟みになり、恋人でもある上司・大河原聡(三浦貴大)のパワハラ・セクハラにも頭を悩ませていました。

誰にも弱みを見せられず、ホームレスに転落した三知子は、公園で古参のホームレス・バクダン(柄本明)と出会い……これは、ある日誰にでも起こりうる、日本の社会の危惧すべき現状を描いた物語です。

執筆者:咲田真菜プロフィール

愛知県名古屋市出身。大学で法律を学び、国家公務員・一般企業で20年近く勤務後フリーライターとなる。高校時代に観た映画『コーラスライン』でミュージカルにはまり、映画鑑賞・舞台観劇が生きがいに。ミュージカル映画、韓国映画をこよなく愛し、目標は字幕なしで韓国映画の鑑賞(@writickt24)。



関連記事

インタビュー特集

【芋生悠インタビュー】映画『ソワレ』和歌山を舞台に山下タカラという孤独な女性に寄り添い一緒に歩んでいく

映画『ソワレ』は2020年8月28日(金)よりテアトル新宿ほかにて全国ロードショー公開! 映画『ソワレ』は和歌山県を舞台に、暗い過去を持つ若い女性・山下タカラが、ある罪を犯したことで偶然出会った俳優志 …

インタビュー特集

【タニア・レイモンド:インタビュー】映画『バッド・アート』テーマはジオ ・ゼッグラー共同監督との愚痴が発端⁈

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019にてタニア・レイモンド、ジオ・ゼッグラー共同監督作品『バッド・アート』が7月15日に上映 埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティにて行われるデジタル …

インタビュー特集

【速水萌巴監督インタビュー】映画『クシナ』“母娘”を通じて自身の人生と無意識に潜む物語を描き出していく

映画『クシナ』は2020年7月24日(金)より全国にて絶賛公開中! 人里離れた山奥で独自の共同体を築き営んできた村に、外界の男女が足を踏み入れたことで始まる綻びと、母娘の愛情と憎悪を映し出した映画『ク …

インタビュー特集

【グー・シャオガン監督インタビュー】映画『春江水暖』中国の文人的な視点で“変わりゆく故郷”と“家族”を問う

第20回東京フィルメックス「コンペティション」作品『春江水暖』 2019年にて記念すべき20回目を迎えた東京フィルメックス。令和初の開催となる今回も、アジアを中心にさまざまな映画が上映されました。 そ …

インタビュー特集

【ジョゼ・パジーリャ監督インタビュー】映画『エンテベ空港の7日間』弱き者の言葉にも耳を傾ける意義はある

映画『エンテベ空港の7日間』が、2019年10月4日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開! ブラジルの麻薬組織と警察の闘いを描いた「エリート・スクワッド」シリーズ(2007~2010) …

U-NEXT
タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』
山田あゆみの『あしたも映画日和』
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学