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Entry 2022/04/20
Update

【小川貴之監督インタビュー】映画『3つのとりこ』の一編『それは、ただの終わり』で悲劇的な現実を描く理由と“こだわりのコラボ”という作風

  • Writer :
  • タキザワレオ

オムニバス映画『3つのとりこ』は2022年4月23日(土)より池袋シネマ・ロサにて1週間限定レイトショー!

映画『3つのとりこ』は、何かに囚われ、心奪われる人々を描いた小川貴之監督による3つの短編『それは、ただの終わり』『ASTRO AGE』『つれない男』で構成されたオムニバス作品です。


photo by 助川祐樹

このたびの公開を記念し、3作の短編それぞれで監督・脚本・編集を務めた小川貴之監督へのインタビューを敢行。

今回初公開となる『それは、ただの終わり』の内容をメインに、コロナ禍が人々の関係性に生んだ不安や映画監督としてそれを昇華することの意義について語って下さいました。

「どんな形の映画を作っても良い」という土壌を作る


(C) 六本企画 『それは、ただの終わり』

ー3つの短編からなるオムニバス映画『3つのとりこ』において、今回初公開となる『それは、ただの終わり』は新型コロナウィルスの蔓延後の世界をSF的設定で描かれた作品です。

小川貴之監督(以下、小川):本作のプロットを考え始めたのは、新型コロナウイルスの感染拡大が1番ひどい時期でした。映画制作に携わっている人たちの間でも感染者が増えており、少なからず私も影響を受けましたが、それは新作に取りかかろうとしていた矢先のことでした。そこで改めて脚本段階から、その時点での時代背景と重なるものを作ってみようと思い立ったんです。

ただウイルスのパンデミックそのものを描くより、それを何かに置き換えた方が自分らしさが出るのではないかと考え、本作に登場する正体不明のバルーンを設定しました。

また同時期に作られた作品のほとんどが、コロナの影響を受けた人々を応援するポジティブな内容の作品が多かったと記憶しています。その際に一作り手としてまず考えたのは「こんなときだからこそ色んな映画あって良いじゃないか」という映画そのものの可能性でした。

ハッピーを描いた作品で希望を見出すのと同じように、あえて自分は悲劇的でアンハッピーな結末を迎える作品を撮ることで、「どんな形の映画を作っても良いんだ」という作品作りの幅が狭まらない土壌を作り出したかったんです。その方がこれから色んな作品を撮る上でもプラスになると思いましたし、コロナ禍だからこそ、その時に生まれる極端な悲劇性に表現の可能性とその広がりを感じられました。

不安の象徴「バルーン」と緊迫感の関係性


(C) 六本企画 『それは、ただの終わり』

ー目に見えないウイルスを浮遊している様が見えるバルーン(風船)に置き換えたという設定が斬新でした。

小川 :バルーンの設定は、実際に報道されたニュースから着想を得たものです。東北地方で「正体不明のバルーンが飛んでいる」というニュースが2・3年前に話題になりましたよね(※1)。ただ報道で知る限りだと国や自治体は大きな動きを見せず、その後、騒ぎはすぐに落ち着いたと記憶しています。

バルーンをめぐる描写の一部は、そのニュースの報道の様子を参考にしています。劇中ではニュース映像で「気象観測用ではないか」と言及されていますが、それも「謎の物体が飛んでいるのに全然危機感がない」という頭に残っていた光景を基にしています。

もしそれが爆弾や化学兵器、テロにつながるものだったらと考えると恐ろしいですし、もしそれが東京に来ていたら、騒動の大きさも違っていたのかもしれません


photo by 助川祐樹

小川:コロナという未知をバルーンに置き換えてスタートした本作の物語ですが、そこでの緊迫感の変化の描写は、好きな作品でもある『機動警察パトレイバー2 the Movie』(1993)のそれに近いのかなと勝手に思っています。

同作の劇中では「毒ガスが中に仕掛けられているのでは?」という疑惑のある飛行船が登場しますが、バルーンはそれに近いかもしれない。ただ『機動警察パトレイバー2 the Movie』と比べると、『それは、ただの終わり』はより象徴的でミニマムな物語として緊迫感を描いていると思います。

※1:「2・3年前の正体不明の飛行物体」……2020年6月17日に宮城県上空付近で観測された白い飛行物体。気象観測用のラジオゾンデに酷似しているが、航空法に基づく届け出ではなく、依然として正体不明のままであった。その後同一のものと思われる物体は2021年9月3日に青森県八戸市鮫町の大須賀海岸においても観測されている。

空虚な中心人物としての臣


(C) 六本企画 『それは、ただの終わり』

ー周囲の人物によって語られるのみで実際には登場しない臣(おみ)は、空虚な中心人物ですね。

小川:本作に登場する人々の人物造形は、すべて一から作っていったものです。はじめから特定の誰かを想定したわけではなく、設定を肉付けしていくうちに性格や背景など考えていきました。

臣という人物については「体格は自分よりふっくらしていて、背も少し高い男」というざっくりしたイメージを抱いていました。劇中に登場こそしないものの、衣舞(えま)やみどりが錯綜する中で、臣や彼と接していた人々との間に何が起こったのかを時系列で書き出しています。

臣という中心の周辺だけを描くことで映画に広がりができると思い、本作を衣舞とみどりの物語として構成しました。本作を最後まで観ていただくと、本筋の隙間を縫う物語として成立していると分かっていただけると思います。

中心にいるメインキャラが登場しない、スピンオフのような物語が『それは、ただの終わり』という映画になったわけですが、周りの人間だけを描くことに面白さを見出しました。

実存を越えた不安が分断を生んでしまう


(C) 六本企画 『それは、ただの終わり』

ー臣の母親・衣舞も臣の恋人・みどりもそれぞれ不安を抱えていますが、その不安に対する態度は対比的に描かれていました。

小川:『それは、ただの終わり』の根底にある「不安の放置」は、個人的に引っかかっていた現実の問題を反映させたものです。

短編を作る時は実在する要素をいくつか組み合わせて作っていくので、今回は実際のコロナと実際にあったバルーンを組み合わせていますがその上で関心のある社会問題も加えました。それが、家庭の中で知らないうちに家族が加害者になってしまう、被害者になってしまうという状況に置かれた当事者はどうなるかという問題です。

また不安の方向性は、コロナ禍の時期に考え方の違いによって分断が生まれたという現実の悲劇に集約します。新型コロナウイルスそのものの怖さよりも、一つの未知な存在に対する考え方の違いだけで、それまで家族・仲間であったはずの集団も分断され関係性が崩壊してしまうことが衝撃的だったんです。

どういう分断が生まれるかは状況によって違うのかも知れませんが、たとえ同じ状況に置かれても出発点が違ったり、考え方が噛み合わなかったりするだけで悲劇が生まれてしまう。

衣舞とみどりの場合は、世代間格差も意識しました。彼女らの会話の噛み合わなさ、言い回しはいくつか考えましたが、親子くらい離れた世代の考え方の違いを描きたかったんです。現実がつらい時期に衝撃的な悲劇を題材にし、結末ではさらに上乗せする悲劇を描いたのが『それは、ただの終わり』です。

「こだわり」同士が生む想像を超えるもの


photo by 助川祐樹

ーオムニバス映画『3つのとりこ』として3つの短編『それは、ただの終わり』『ASTRO AGE』『つれない男』を改めてご覧になられた際に、小川監督はどのような思いを抱かれましたか。

小川:「どれも分かりにくいな」の一言です(笑)。コメディをやりたくて出発したものが、次第にブラックコメディへとスライドしていき、最終的に悲劇になってしまう。自分の作品を観返して、改めてそう感じました。

今回オムニバス映画として3作品を続けて観ていただけるのは貴重な機会なので、観てくださった方の感想や印象をお聞きできるのはとても楽しみにしています。

また今回の『3つのとりこ』の公開を通じて、3作の短編が「何かにこだわっている人間」の話であるという共通点に気づかされました。それは側から見れば自分の「作風」と呼べるのかも知れません。

自分はいつも、こだわりがある人と一緒に作品を作りたい、作品のためなら自分の意見よりも正しい意見やより面白い意見を採用したいと考えています。カメラマンなどスタッフさんが3作品に共通していたりするので、そういう意味でも座組みの特色は出ているのかもしれないです。

映画は一人では作れないものなので、映画作りそのものよりも「こだわり」同士のコラボのためにやっている気がします。いくら物語を作り込んでも、最終的には全く別のものができあがることもある。想像を裏切る面白いものが生まれるのが、映画のやめられない点ですね。

インタビュー/タキザワレオ
撮影/助川祐樹

小川貴之監督プロフィール

1978年生まれ、栃木県出身。短編映画を主軸に作品を発表。

『3つのとりこ』の一編『ASTRO AGE』は、ショートショートフィルムフェスティバル2020に入選。同映画祭内で「日本の地方の魅力・日本の今後」を感じさせるという観点でセレクションする「LEXUS OPEN FILM」に選出されたほか、アカデミー賞公認映画祭であるセントルイス映画祭など国内外の多数の映画祭で入選・上映を果たした。

また同じく『3つのとりこ』の一編『それは、ただの終わり』は、今回が初公開となる。

映画『3つのとりこ』の作品情報

【公開】
2022年(日本映画)

【監督・脚本・編集】
小川貴之

【キャスト】
『それは、ただの終わり』:黒沢あすか、山口まゆ、門田宗大、大熊花名実
『ASTRO AGE』:小西桜子、椎名泰三、島侑子、石井凛太朗、安住啓太郎、信江勇、奥村アキラ
『つれない男』:荒谷清水、串山麻衣、尾倉ケント

【作品概要】
何かに心奪われ虜になる人々を描き、独特の世界観で作品発表してきた小川貴之監督の3つの短編によるオムニバス作品。今回初公開となる『それは、ただの終わり』では、上空に正体不明のバルーンが出現した東京を舞台に、失踪した大学生の息子・臣を探す母と臣の恋人の対話をサスペンスフルに描く。

臣の母親・衣舞(えま)役を『六月の蛇』(2002)『楽園』(2019)の黒沢あすか、臣の恋人・みどり役を『樹海村』(2021)『真夜中乙女戦争』(2022)の山口まゆが演じる。

また『ASTRO AGE』の主演を『猿楽町で会いましょう』『真・鮫島事件』(2021)の小西桜子が、『つれない男』の主演を荒谷清水が務め、個性的かつ実力派の俳優が各作品を彩る。

映画『3つのとりこ』のあらすじ


(C) 六本企画 『それは、ただの終わり』

映画『それは、ただの終わり』のあらすじ

有害物質を放っているとされる正体不明のバルーンが浮遊する東京で、ある日忽然と姿を消した大学生の臣。手がかりを求めて上京した臣の母・衣舞は、息子の恋人・みどりとともにその消息を探っていく。

話がすれ違う2人だったが、やがて臣は生死に関わる危険にさらされているのではないかという疑念が浮かび上がる。

映画『ASTRO AGE』のあらすじ


(C) 六本企画 『ASTRO AGE』

若手サイエンスライターのみさきは、有人小惑星探査を成功させて地球に帰還した宇宙飛行士へのインタビューを任される。

夢のようなオファーに張り切っていると、やがて思いもよらない宇宙観に遭遇する……。

映画『つれない男』のあらすじ


(C) 六本企画 『つれない男』

男は毎朝スーツに身を包み、妻に見送られて家を出る。しかし向かうのは会社ではなく、いつもの川。

素人の釣り人をあざ笑い、ただひたすら釣るのだったが……。

その夜、帰宅した男は自分のしくじりに呆然とする。

タキザワレオのプロフィール

2000年生まれ、東京都出身。大学にてスペイン文学を専攻。中学時代に新文芸坐・岩波ホールへ足を運んだのを機に、古今東西の映画に興味を抱き始め、鑑賞記録を日記へ綴るように。

好きなジャンルはホラー・サスペンス・犯罪映画など。過去から現在に至るまで、映画とそこで描かれる様々な価値観への再考をライフワークとして活動している。





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