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【宮崎彩監督インタビュー】映画『グッドバイ』恩師・是枝裕和からの学びとある家族の変化と崩壊を通じて描くもの

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  • Cinemarche編集部

第15回大阪アジアン映画祭上映作品『グッドバイ』

2020年3月の第15回大阪アジアン映画祭「インディ・フォーラム」部門にて上映された、宮崎彩監督の長編デビュー作『グッドバイ』。

ある親子、そして家族のもとに訪れた「距離」の変化を描いたNHK連続テレビ小説『スカーレット』に出演の福田麻由子を主演に迎えたヒューマンドラマです。


(C)Cinemarche

このたび同映画祭での上映を記念して、宮崎彩監督にインタビューを敢行。本作の制作経緯をはじめ、家族の関係性を描くにあたってのアプローチ、映画監督として今後も描き続けたいテーマなど、貴重なお話を伺いました。

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当初はオムニバスだったストーリー構成

──本作の制作経緯を改めてお聞かせください。

宮崎彩監督(以下、宮崎):2017年の夏頃、私が監督した短編作品が上映されたのが発端ですね。その作品は大学と並行して通っていたニューシネマワークショップで制作したもので、学校主催の映画祭で上映されたんですが、その際の舞台挨拶で「次回作の予定はありますか」と尋ねられたんです。そして思いつくままに、私は「40・50代のおじさんを今まで撮ったことがないので、次回作ではそういった人物を中心に撮ってみたいですね」と答えたんです。

その後、私は早稲田大学での授業を通じて映像制作を学んでいたものの、授業自体が終わったことで映像制作の環境が実質なくなってしまいました。ですが「それでも映像制作を続けたい」という思いから、大学4年の秋頃に「残りの大学生活を使って映画を撮ろう」と一念発起したのが、本作の企画のスタートでした。

やがて企画を作るにあたって、以前「おじさんを撮りたい」と言っていたことを思い出したため、一人のおじさんをストーリーの中心に据えた上で、彼に関わる女性たちのそれぞれの視点からおじさんの輪郭を描いていくオムニバス形式の作品を制作しようと当初は考えていました。

けれども作品のプロットを書き上げた段階で、早稲田大学の教授であり私に映像制作の基本を教えてくださった是枝裕和さんにそれを見ていただいたところ、「このプロットの中で宮崎さんが一番撮りたいのは、おじさんと“娘”の関係性を描いているパートだと感じられた」「だからこそ、このパートを掘り下げて一本の作品にした方がいいんじゃないか」と助言してくださったんです。その助言をもとにプロットをさらに練り直し完成させたものが、『グッドバイ』の原型となるストーリーとなっています。

「親離れ」を逆説的に描く

──作中では物理的・精神的な「距離」を通じて、家族の微妙な関係性を描いていますね。

宮崎:プロットがオムニバス形式だった段階で、少し変わった家族の形、そして親子の関係性を描きたいと考えていたんですが、その際に「親離れ」という心理現象を意識しました。

親の元で育つ子どもの多くは、心や身体の成長とともに親との間に「距離」が生まれ、結果的に親の保護下から離れます。それは子の性別を問わず、家族という共同体が大抵経験する出来事でもあるんですが、そうした親離れにおける一連の流れが「逆」に進んでいった場合、家族という共同体には歪みが生まれるんじゃないかと思い、「父の単身赴任」という物理的距離をストーリーに組み込んだんです。

遠くにいると感じていた親との距離が様々な要因によって徐々に近づいていく。そうして子が親との距離や記憶を再認識または再発見していく中で、それまで形を保っていたはずの家族や親子の関係性にもゆっくりと歪みが生じ、やがて崩壊へと至る。そうした歪みを伴う家族の微妙な変化を、その過程において生じる要因や人間関係が複雑に絡み合う状態を含めて多層的に描きたかったんです。

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母娘の変化がもたらすもの

──主人公・さくらと父の関係性はもちろん、母との関係性において生じた歪みについても、ある意味では父とのそれ以上に深刻なものを感じました。

宮崎:さくらと両親は、ある種の三角関係で結ばれていると思っています。またさくらと母に関しては長らく二人暮らしをしていたため、いわゆる一般的な「親離れ」の過程にあった親子関係でもありました。

ところが新藤という男との出会いによってさくらは父の存在を意識するようになり、家族に対する認識も変化していく。くわえて彼女との生活の中で、母はさくらの心境の変化をそれが父に関わっているという点も含めてダイレクトに感じとることになります。そうして母と子の関係性における危うさが高まっていき、とある場面でその危うさが頂点に達するわけです。

また母の方も、家族の三角関係やその関係を内包し続けてきた家という場所への執着、それを守りたいという思いを強く抱いていました。ですがさくらの変化を目の当たりにしたことで、彼女はある種の諦めとともにさくらの変化を、三角関係の崩壊を致し方ないものとして受け入れるという変化に至ったんです。

恩師・是枝裕和からの学び


(C)Cinemarche

──先ほども触れられていましたが、宮崎監督は早稲田大学在学中に是枝裕和監督のもとで映像制作を学ばれました。その中で現在の宮崎監督の中で最も心に残っている「学び」とは何でしょうか。

宮崎:やはり最も影響を受けたのは脚本の段階、作劇に関することだと感じています。是枝さんはその登場人物にとって重要な感情を「セリフ」としては描写しない、「たまたま」によってストーリーを展開させないなど、少なからず現実に即さない表現を良しとされない映画監督です。その上で作劇についても、登場人物たちの「人間」としての思考の積み重ねに基づいて執筆されるため、その点はとても感化されました。

私が撮る映画は、あくまで自分にとって「地に足がついている」と感じられる事象しか描けないと思っています。そうした自分の志向ともリンクしたこともあり、是枝さんから学んだ作劇に対する姿勢は今現在も強く意識しています。

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現実に深くつながるもの


(C)Cinemarche

──宮崎監督にとって、「地に足がついている」と感じられる事象とは何でしょうか。

宮崎:現在の日本の映画界では、リアリズムがないことで成立するストーリーや人物を描いた作品、或いはそういった作品を作りたい方が多いと感じています。確かに映画の娯楽性を踏まえると、作品におけるインパクトやキャッチーさを重視した作品が作られることも必然ではあります。

ただ現時点での私は、自身の映画においてそういった作品を作れるタイプではないですし、「そうではない描き方」で映画を作りたい人間だと思っています。ある種のリアリズムの中で、人間の関係性やそれらをもたらす環境が徐々に、しかし確実に変化していく。そしてその変化とあわせて小さな歪みが生じ、最後には様々な形で崩壊という結果が訪れる。そうした一連の出来事は現実においてありふれたものであるものの、個々の人間にとっては人生を左右する重大な事件でもあるんです。私が映画を通じて描きたいものはそこにつながっています。

ある意味では、ありふれているけれど重大な、けれど現実へと深くつながっている出来事を映画で描き続けること自体が、私にとって「地に足がついている」と感じられる表現なのかもしれません。

インタビュー/河合のび
撮影/出町光織

宮崎彩監督プロフィール

1995年生まれ、大分県出身。

2014年、早稲田大学文学部入学。また2015年には映画学校ニューシネマワークショップ・クリエイターコースに入学。その際に初監督作となる短編『ふさがる』(2016)を発表する。

2016年には早稲田大学基幹理工学部の設置科目であり、是枝裕和監督・土田環氏が指導を務める「映像制作実習」にて『よごと』(2017)を制作し、監督・脚本を務めた。

映画『グッドバイ』は初の長編監督作となる。

映画『グッドバイ』の作品情報

【公開】
2020年(日本映画)

【監督・脚本】
宮崎彩

【キャスト】
福田麻由子、小林麻子、池上幸平、井桁弘恵、吉家章人

【作品概要】
単身赴任の父と離れて暮らし、母と二人の生活を続けてきた娘が、とある出会いをきっかけに父との記憶を思い出していく様。そして蘇る記憶とともに訪れる、親子の関係性の変化と揺らぎを描く。

監督は、早稲田大学にて名匠・是枝裕和のもとで映像制作を学んだ経験を持つ宮崎彩。本作は宮崎監督にとって長編デビュー作となる。また主人公・さくら役をNHK連続テレビ小説『スカーレット』への出演で知られる福田麻由子が務めている。

映画『グッドバイ』のあらすじ

郊外の住宅地、その一角にある上埜家。さくらは母親と二人で暮らしている。

仕事を辞めたさくらは、友人の頼みから保育園で一時的に働くことに。そこで園児のあいの父親である、新藤と出会う。やがて彼に、幼い頃から離れて暮らす父の姿を重ねるようになるさくら。

ある晩、新藤家で夕飯を作ることになった彼女は、かつての父親に関する“ある記憶”を思い出す。一方、古くなった上埜家を処分することに決めた母。

桜舞う春、久しぶりに父が帰ってくる──。離れた家族、父を知らない娘。はじめてその距離が変化する。



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