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Entry 2019/08/20
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【ルカ・ミニエーロ監督インタビュー】映画『帰ってきたムッソリーニ』で描いた現代イタリアの現実と混迷

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『帰ってきたムッソリーニ』は、2019年9月20日より全国ロードショー!

日本ではこれまで公開の機会がなかったものの、イタリアでは喜劇映画の名手として知られるルカ・ミニエーロ監督

東京・有楽町朝日ホールで開催された「イタリア映画祭2019」では、映画『帰ってきたムッソリーニ』が日本初上映され、風刺の利いたユーモラスなコメディ作品が満を持して紹介されました。


©︎Cinemarche

今回は、日本公開を前にルカ・ミニエーロ監督へインタビューを行い、映画『帰ってきたムッソリーニ』のユニークな発想の秘密や、現代にタイムスリップした独裁者ムッソリーニの姿を通して伝えたかった混迷のイタリアの状況についてお話を伺ってきました。

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制作までの経緯

© 2017 INDIANA PRODUCTION S.P.A., 3 MARYS ENTERTAINMENT S.R.L.

──本作はいつ頃から構想されていたのでしょうか?

ルカ・ミニエーロ監督(以下、ミニエーロ):この映画を取り始めたのは2017年6月でした。その少し前、ドイツで2012年に出版された『帰ってきたヒトラー』という本を読み、その内容をイタリアに移して撮りたいなと思いました。しかし直後にドイツで映画化され、映画化権はそこから買っています。

ドイツ版は非常にドイツ風の映画になっていて、イタリア版はイタリアらしい映画になっていると思います。二つの作品を比較してみると、イタリア版の方がインパクト大きいかもしれません。、ヒトラーを悪魔のような人だと言うことは簡単ですが、ムッソリーニのよりノーマルな部分を人間的に描いているからです。

嘘から出た真をついた作品世界


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──ムッソリーニが空から飛来するという冒頭の描写は、どのように着想されたのですか?

ミニエーロ:実際のムッソリーニはミラノの近くにあるコモで殺されて、映画に出てくる広場で愛人のペチッタと死んだ状態で逆さ吊りにされてさらし者にされました。ということでそのまま頭を下にして落ちてくるんです。

ただ亡くなったミラノではなくローマで物語を始めました。落ちたところに塗り籠められた扉があるんですが、そこは都市伝説では、生きた人の世界と死んだ人の世界を繋ぐ扉だと言われている場所で、そこに落下させようと決めました。

──はじめはコミカルな描写の連続に笑っていましたが、後半部では思わず後ろめたさも感じてしまう展開に驚きました。

ミニエーロ:それが狙いです。まさにファシズムや独裁のやり方なんです。最初は親しみやすい人たちが集まっていって、最終的にそれが独裁になって自由が制限されていく。イタリアのファシズムはそういったかたちで起きてしまいました。はじめは笑ったけれども、後になってほんとうに笑ってよかったんだろうかという実感は、実際にファシズムを行った人たちの歩みを辿ってくれたことになると思います。

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イタリアの政治とファシズムへの寛容さ

© 2017 INDIANA PRODUCTION S.P.A., 3 MARYS ENTERTAINMENT S.R.L.

──現在のイタリアの政治状況について教えてください。

ミニエーロ:この映画が撮られてしばらくして選挙がありました。それによって二つの新しい政党が政権を握りました。自分たちでポピュリズム政党だと言っている北部同盟という政党と五つ星運動という新しい政党が与党として今政権を組んでいるのですが、両者の間にはかなり齟齬するところがあり、必ずしも意見が一致するわけではありません。

この政権は議会よりもFacebookを使って発信し、SNSを重視するような政治になってきています。さらに北部同盟の党首サルビーニがどんどん党に力を付けていって、特に移民排斥というのを梃に人気を集めてきています。もうすぐ五月にヨーロッパの欧州議会の選挙がありますが、おそらく同盟が運動よりも投票率をあげて、攻勢が逆転するでしょう。野党には力のある政党がありません。政権を組んでいる与党の間に軋みが出てきて、欧州議会選挙の後に政府が崩れるのではという懸念が今のイタリアの不安定な状況です。

──「ファシズムは国民の潜在意識に訴える」という字幕がありますが、これはまさにポピュリズムが伸張しているイタリアの観客に向けた言葉でしょうか?

ミニエーロ:あれは実際にムッソリーニが言った言葉です。映画の中ではムッソリーニの発言を70%近くも使っています。そういった台詞を聞いて、これがファシズムの映画ではないということを分かる人は分かってくれるかと思うのですが、イタリア人の政治へのリテラシーは低下しており、混乱しています。

ムッソリーニには有名な台詞が色々あって、それが本テキストから抜き出されて解釈されてしまったりもするので、本来の意味を探るためにムッソリーニの演説をたくさん聴きました。ムッソリーニが独裁者であったことは周知の事実ですが、ヒトラーほどではなかったという感覚があります。

映画監督のロベルト・ベニーニがそうしたイタリア人の一般的な姿勢に対してジョークを言っています。水道管が壊れて、修理工が修理してくれたけれども、ついでに自分の家の犬も殺していったら、いい人だったといいますかと。それがイタリア人のムッソリーニに対する寛容さであり、甘さであり、弱さであると思います。

ムッソリーニのキャラクター性について


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──そうした政治性とは別に、ムッソリーニが、ドライブ中に歌を歌ったり、カナレッティのラブレターに協力したりする人物像がユニークでした。

ミニエーロ:この映画がイタリアで公開された時、ムッソリーニがあまりに人間的に描かれていると左派から批判されました。周りの人々を笑わせて、好ましくみえる人物にみえるとことが右派からも嫌われました。しかし人間的にも捉えることがこの映画のひとつの目的です。

実際にインタビューしている中で、ムッソリーニは悪人だとはっきり言う人たちもいましたが、幾つかの過激な発言はカットしています。ファシズムが間違った出来事だったということはまず明らかです。だからこそファシズムを批判する映画を作る気は全くありませんでした。そうではなく、こういった組み立てを通じて今のイタリアが抱えている人種主義や他者への寛容さのなさといった問題を描きたかったんです。

郊外にある大型スーパーや商業施設の中にある映画館で上映すると、若い観客たちがファシズムを称揚する映画だと勘違いして、好ましくない態度を取った人もいたようです。それに対して、実際にファシズムを生きた高齢の方たちが誤りを正そうとディスカッションする場面もあり、私は満足しています。まさに今イタリアの中で起きている混乱を描きたかったからです。

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個性的なキャスティング

© 2017 INDIANA PRODUCTION S.P.A., 3 MARYS ENTERTAINMENT S.R.L.

──ムッソリーニを演じた俳優についても教えてください。

ミニエーロ:ムッソリーニ役のマッシモ・ポポリツィオは、主に演劇畑の俳優で、映画界ではそれほど名前を知られている人ではありません。ムッソリーニとして色々な場所に連れていきますから、誰でも知っている俳優であってはいけなかったんです。異次元からやってきて、現代にすっと入っていけるような役を演じられる実力があったので、選びました。

またカナレッティ役のフランク・マターノをキャスティングしたのは、芝居が上手いというだけでなく、彼はYouTuberであり、SNSの世界に詳しい人だったことが大きいです。

混迷の行方


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──ロードムービーとして各地を回っていくわけですが、撮影時に苦労はありませんでしたか?

ミニエーロ:ムッソリーニの衣装を着て街の中を歩いてもらう時、気付かれないようにカメラは遠くから狙っていました。一応ガードマンを付けて、何かあったら対応出来るようにはしていましたが、実際に危険な状況は起こりませんでした。

しかし、バルに入ろうとすると入店を拒否されたり、ムッソリーニが演説したことで有名なヴェネツィア宮殿のバルコニーの撮影許可も政府からおりませんでした。公共の場や政府機関からの拒否の方が多く、むしろ一般の人たちは受け入れてくれましたね。

──街頭インタビューでの人々の意見や反応はいかがでしたか?

ミニエーロ:一番印象深かったのは、一般の人たちがムッソリーニの姿をみて囃し立て、喜んで受け入れたことです。そうした反応に対してムッソリーニ役の俳優の対応が大変で、常にムッソリーニが使っていたような言葉や口調で応えなくてはいけません。その準備に時間をかけましたし、イヤホンを付けてもらってこちらからアドバイスもしていました。

人々の反応は、最初は当惑していましたが、相手側がムッソリーニの口調で対応してくれば、話しているうちに段々ムッソリーニと話しているようになるんです。たとえ火星人だとしても最初はギョッとするでしょうが、そのうち火星人は火星でどんな暮らしをしているかなど聞くようになると思いました。そうした人間のコミュニケーションはとても重要なことですが、一方では安易な親しみが独裁に繋がり、ファシズムを引き起こしたことを、今のイタリア人は改めて考えていかなければなりません。

ルカ・ミニエーロ監督プロフィール


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1967年、ナポリ生まれ。

ミラノに転身後、数々のCM作品を手がけ、2002年に『A Neapolitan Spell』をパオロ・ジェノヴェーゼと共同監督します。

その後、2010年に『Benvenuti al Sud』を単独監督。

日本公開作品はありませんが、本国イタリアでは喜劇映画の名手として知られる実力派の映画作家です。

イタリア語の軽快な響き、展開の早さ、笑いを扱う緩急などを活かした作風を特徴的としています。

映画『帰ってきたムッソリーニ』の作品情報

【公開】
2019年(イタリア映画)

【監督】
ルカ・ミニエーロ

【キャスト】
マッシモ・ポポリツィオ、フランク・マターノ、ステファニア・ロッカ

【作品概要】

2015年に日本でヒットしたドイツ映画『帰ってきたヒトラー』のムッソリーニ版リメイク作品。

現代にタイムスリップした独裁者ムッソリーニが、インターネットやテレビを通じて人気を博し、スターになっていく様が活写されます。

監督は、喜劇映画の名手ルカ・ミニエーロが務め、風刺の利いたコメディ作品に仕上がっています。

映画『帰ってきたムッソリーニ』のあらすじ

独裁者ムッソリーニが現代のローマによみがえった!

売れない映像作家が、復活した彼をカメラに偶然収めたことから、ムッソリーニを主役にしたドキュメンタリー映画の制作を思い立ちます。

2人でイタリアを旅しながら、若者がスマホで彼の姿を撮ろうとする現代のカルチャーに戸惑いながらも、テレビに出演したりとかつての総帥は人気者になっていきます。

そして国を再度征服しようとするのですが…。


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