愛知県・岡崎市発のオムニバス・ラブストーリー『おかざき恋愛四鏡』
4人の若手監督が全てのロケを愛知県岡崎市で行い、テーマも作風も違う4編のラブストーリーを描いたオムニバス映画『おかざき恋愛四鏡』。オーディションで選ばれた7名の女優をはじめ、ファッションモデル、アイドル、ベテラン俳優などさまざまなキャストと才能が集結しました。
今回、それぞれ違う作風を持つ個性豊かな4編の物語のうち、現実の恋愛「リアキュン」を求める夢見がちな女の子の物語『はちみつイズム』を手がけた川井田育美監督にインタビュー。
『おかざき恋愛四鏡』および『はちみつイズム』を制作された経緯、見どころや川井田監督の映画観など、貴重なお話を伺いました。
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「可愛いもの」がある街・岡崎
──全編を愛知県・岡崎市にて撮影されたオムニバス映画『おかざき恋愛四鏡』を制作された経緯を改めてお聞かせください。
川井田育美監督(以下、川井田):映像制作業界の若手育成を目的にはじまったプロジェクト「シネマインソムリエ」のオーディションがきっかけですね。そのプロジェクトは、配信を通じてキャストオーディションを行いファンの方からのポイント数が多い参加者をキャスティングするという形で映画制作を行うもので、本作はプロジェクト第5弾にあたる作品でした。
そして、それまでの全4作に様々な形で関わらせていただいていた中で、第1弾の『ミスムーンライト』(2017)を手がけた松本卓也監督が本作の企画プロデューサーである斉藤宣紀さんに「4人でのオムニバス映画制作」を提案されたんです。その結果、本作をオムニバス映画として制作することになりました。
また本作は岡崎という街で撮影をさせていただいたものの、私はそれまで、岡崎という街のことを全く知らなかったんです。実際、ロケ地として岡崎という街と出会えたことも偶然に近いんですが、現地でのロケハンをする中で「都会と田舎が綺麗に混ざり合った街」という印象を抱きました。遊園地などの可愛らしい場所もたくさんあって、そういった「可愛いもの」をモチーフに自身が監督する一編を撮りたいという思いが湧き上がりました。
「前提」の先にある大切なもの
──川井田監督が手がけられた一編『はちみつイズム』は、現実(リアル)の中で少女漫画のようにキュンとくる「リアキュン」を求め続ける漫画家志望の女の子の物語ですが、その物語はどのような経緯で形作られていったのでしょうか?
川井田:少女漫画原作のドラマで助監督を務めてきた経験がきっかけで、その際に「少女漫画的な物語」を描いたドラマを多く目にしてきました。そういった作品は「王子様的存在のイケメンに、主人公の女の子がキュンキュンさせられる」が王道の展開といえますし、それが魅力だとも捉えてはいるんですが、自分はそういった物語をつい俯瞰して観てしまうんですよね。
だからこそ、自身が「俯瞰」的視点で観てしまう「少女漫画的な物語」や王道の展開をパロディーチックに描き、その上で恋愛の意味について描けないだろうかと考えたことから構想が始まりました。それを続けていく中で、学校の後輩に漫画家がいたことを思い出し「これはイケるぞ」という確信から脚本を書き進めていきました。
そもそも『おかざき恋愛四鏡』は「恋愛」をテーマに制作していますが、実際の恋愛は自分たちの感情だけで済むものではなく、「あの人は良くない」「どうしてそんな人と付き合っているの?」といった周囲からの様々な干渉が前提のものじゃないですか。「リアキュン」など恋愛の魅力を表現した言葉も、その「前提」から生まれたものと言えるかもしれません。だからこそ、恋愛の当事者である本人たちがお互いに理解し尊重し合うことが一番大切なことだと感じています。本作でも公園のワンシーンをはじめ、お互いの距離が縮まり「心が通じ合った」瞬間を描いた場面があります。それが観客の皆さんに伝わればとても嬉しいです。
実は「7編」構成のオムニバス・ラブストーリー
──『おかざき恋愛四鏡』の「オムニバス映画」としての魅力や見どころについて、お聞かせ願えませんか?
川井田:本作は市原博文監督、宮本亮監督、増本竜馬監督、服部無双監督、そして私を入れて5人の監督によって作られています。そして5編の物語全てが各監督の個性がとても表れている作品なので、そのうちの1編だけでも面白いと感じてもらえたらいいなと思っています。それが「オムニバス映画」の強みであり、魅力なんじゃないでしょうか。
人それぞれが異なる人生を歩んでいて、様々な経験をしているからこそ、共感できる作品も物語も変わってくるはずです。だからこそ本作を観終わった後、一緒に観た方同士で全く違う感想を抱き、お互いにその感想を言い合うことができたらとても素敵なことだと思います。
また、本作のエンディングとオープニングに使用させていただいた2曲も恋愛をテーマとした作品となっています。ですからタイトルでは「恋愛四鏡」となっているものの、その2曲を含めると、本作は7つの全く違うタイプの恋愛模様を描いているんです。
純粋に「面白いね」と言ってもらえる映画を
──最後に、川井田監督の思う映画の魅力、その上で今後どういった映画を撮り続けられるのかをお聞かせください。
川井田:私は大学に入学し映画を本格的に学ぶまで、映画は「娯楽」であって「芸術」ではないと感じていたんですよ。ですが大学に入学し、撮影を中心に映画のことを学んでいく中で、照明一個、カメラの絞り一個を少し変えるだけで画が全く変わるのを学びました。そして、様々な計算に基づく完璧な画作りの中で撮影を進めていく現場を肌で感じて、初めて映画が「芸術」と称されている意味を実感したことを覚えています。
カメラの置き方や照明の作り方からでも、本当にその人のセンスが見られるんですよね。それは映画を観ているだけだと中々わからない感覚かもしれません。私も大学で学ぶまでは、カメラを置いておけば勝手に撮れるものだと思っていました。
ただ、私は「映画を学んだ人だけがわかる面白さ」を映画で撮りたいとは思っていないんです。私の親や友だち、映画をご覧になる多くの方々が純粋に「面白いね」と言ってくれる映画を撮っていきたいと感じています。
だからこそ、娯楽・エンタメ性が高くて誰が観ても楽しめる映画、特に誰もが共感できる「こういうことってあるよね」という日常の一コマを面白おかしく切り取った上で、非日常の映画と日常がリンクするような作品を今後も追求していきたいですね。
インタビュー・撮影/河合のび
川井田育美監督プロフィール
1990年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部映画学科撮影・録音コース卒業。日本テレビ「未来シアター」他、経済番組、バラエティー番組のアシスタントディレクターを経験。
現在はフリーランスで商業映画・ドラマを中心に、助監督としてテレビドラマ「相棒」シリーズ、『相棒 -劇場版IV-』、テレビドラマ『特捜9』、『あのコのトリコ。』他、数々の作品に参加しています。
映画『おかざき恋愛四鏡』の作品情報
【公開】
2020年 (日本映画)
【エグゼクティブプロデューサー】
渡辺未生
【監督】
市原博文(『セイブ・ザ・ガール』)
宮本亮(『うわさのわれわれ』)
増本竜馬(『タイフーン・ガール』)
川井田育美(『はちみつイズム』)
服部無双(ブリッジドラマ)
【作品概要】
愛知県岡崎市でオールロケを敢行し、若手のキャストと監督がタッグを組んで描いたオムニバスラブストーリー。『セイブ・ザ・ガール』『うわさのわれわれ』『タイフーン・ガール』『はちみつイズム』の4編のエピソードで構成されており、各エピソード間に物語をつなぐブリッジドラマが挿入される。
人気ファッションモデルの越智ゆらのをはじめ、若手・ベテラン交じる様々なキャスト陣が各作品に出演。また主題歌を愛媛出身の4人組ガールズバンド「たけやま3.5」が担当、同バンドのメンバーが『はちみつイズム』にも出演。そしてブリッジドラマには「SKE48」の熊崎晴香と松本慈子、双子ユニット「HANA&MOMO」の大崎ハナと大崎モモが出演している。
『はちみつイズム』の作品情報
【『はちみつイズム』監督・脚本】
川井田育美
【『はちみつイズム』キャスト】
越智ゆらの、神保悟志、内海啓貴、茜結、織田唯愛、斉藤莉央、新井花菜、イグロヒデアキ、星川遥香(たけやま3.5)、濵邊咲良(たけやま3.5)、脇田穂乃香(たけやま3.5)、武田雛歩(たけやま3.5)
【『はちみつイズム』作品概要】
少女漫画を目指す女の子、雛子が「生きた恋心」を描く為、一目ぼれしたイケメン男性の智樹との、リアルでキュンキュンする恋愛「リアキュン」を求めて奮闘するラブストーリー。
主演には、ツイッターのフォロワー数が約43万人以上の人気モデル越智ゆらのとミュージカル『テニスの王子様』などに出演し活躍している内海啓貴。また雛子を支える喫茶店の店長役を、「相棒」シリーズや大河ドラマに多く出演しているベテラン俳優・神保悟志が演じています。
監督は「相棒」シリーズなどの制作に携わってきた川井田育美。
映画『おかざき恋愛四鏡』のあらすじ
少女漫画デビューを目指す女の子・横山雛子は「プリズム出版」へ作品を持ち込みますが、編集長の伊藤絵梨の反応はイマイチです。雛子は絵梨に「実際に恋愛をしているか?」と聞かれ「はい」と答えたことから、そのリアルでキュンキュンする恋愛「リアキュン」を漫画にすることを提案されます。
しかし実際に雛子の周囲にいる男性は、バイト先の喫茶店のマスターだけ。「少女漫画のような恋愛をして、それを漫画にする」という雛子の理想から、現実はかけ離れていました。
そんな雛子の前に、雛子が描いた漫画に登場する生徒会長と瓜二つの外見を持つイケメン大学院生・田中智樹が現れます。智樹に一目ぼれした雛子は「現実は甘くない」という親友の松田みなみの忠告も聞かず、智樹との「リアキュン」を追い求め、あることがキッカケで智樹と親密になっていきます。
自身に訪れた「リアキュン」を漫画にしていく雛子は、絵梨からデビューのチャンスが掴める「新人漫画大賞」に作品を応募するよう勧められます。
「新人漫画大賞」への応募を決めた雛子は、無事に作品を完成させることができるのでしょうか。そして、智樹との「リアキュン」の行方はいかに……。