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Entry 2019/09/06
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映画『フリーソロ』監督エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィへのインタビュー【アレックス・オノルドは“2つの山”を乗り越えた】

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『フリーソロ』は2019年9月6日(金)より、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー!

稀代のクライマーとして知られるアレックス・オノルド

彼がカリフォルニア州のヨセミテ国立公園にそびえる巨岩エル・キャピタンにフリーソロで挑むプロセスと、その背景にある私生活を捉えたドキュメンタリー映画『フリーソロ』が日本での公開を迎えました。


(C)2018 National Geographic Partners, LLC. All rights reserved.

2019年度アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞受賞をはじめ、2018トロント国際映画祭観客賞、2019英国アカデミー賞を受賞する(共にドキュメンタリー部門)など、世界で45賞ノミネート、20賞受賞の快挙を成し遂げた秀作である映画『フリーソロ』。

本作の監督を務めたのは、エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィとジミー・チン。ふたりはプライベートでもパートナーであるだけでなく、映画ファンの記憶にも鮮明な山岳ドキュメンタリー映画『MERU/メルー』(2015)によりサンダンス映画祭2015で観客賞を受賞した名コンビの映画作家です。

今回は『フリーソロ』の日本での劇場公開を記念して、女性監督であるエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィにインタビューを行いました

アレックス・オノルドの人物像とその魅力。命をかけたクライミングに挑戦する姿を撮影することの責任。そして、完成させた『フリーソロ』という作品が描きたかったものは何か。貴重なお話をお聞きしました。

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究極的な状況を乗り越えるビジョン

『フリーソロ』の監督エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ


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──今回、日本公開される『フリーソロ』と、2016年公開の『MERU/メルー』との違いについてお教えください。

エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ監督(以下、エリザベス):本作品の『フリーソロ』と過去作の『MERU/メルー』とでは、山を題材にしながらも全く異なる作品だと思っています。

本作の制作は、主人公アレックスの人物像に惹かれたことが起因になっています。彼は普段の生活では対人面を含むあらゆる面で非常に怖がりで、例えば、人とハグすることも、人と話すのも、向き合った「野菜」ですら怖がったりする人でした。

そのアレックスが、自身の夢、将来のビジョンに向けて努力をしていく。どんなことでもできる、可能になるんだということを、彼の生き様を通じて描いていきたいという思いが、作品制作のきっかけになりました。


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アレックスのクライミングだけでなく、彼が何か究極的な状況を乗り越えて自身の目標を達成し、ビジョンを現実のものとしていくという事実を伝えたかった。その点で、前作『メルー』とはかなり違う作品だと思っています。

ただ前作を作ったおかげで、今回の作品の中で活かされたことはたくさんあります。

登山の状況に関して、やたらと説明する必要がなくなったし、観客に映像作品を鑑賞してもらうだけで、世界に向けてたった10分間だけであっても、山を登るという文化の有り様が伝えられると実感しました。

アレックス・オノルドの人物像


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──共同監督であり、あなたの夫でもあるジミー・チン監督が、主人公アレックスをSF映画『スター・トレック』に登場する「ミスター・スポック」と評していましたが、あなたはアレックスをどのような人物だと感じていますか。

エリザベス:アレックスは、自分の生き様や、目指すものがものすごく明確に存在しており、その意識へのこだわりが凄く強い人であると感じました。そのことを私は尊敬し、大きな刺激を受けました。

この時代を生きる私たちが抱えている不幸な境遇や困難な状況は、自分が努力することによって乗り越えられると思っています。

アレックスは、たとえ今はしんどいと思える状況にあっても、ほんの少しわずかな光さえあれば、乗り越えることは可能だということを証明してくれているといえます。

私たちは生活していく中で、誰もが行き先の見えない状態にあると思うのですが、アレックスの生き様を通じて、努力をすることによって何とか乗り越えられるということを知るわけです。その様なことを知らせてくれるアレックスを、非常に尊敬しています。


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稀代のクライマーの私生活


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──本作の中で描かれた、私生活のアレックスとその恋人・サンニの関係には非常に興味を持ちました。

エリザベス:ノンフィクションの映画を撮影する中で、運命的に起こる偶然というのはあまりないのですが、サンニの登場はまさに運命的なものでした。

この作品を撮り始めた頃のアレックスは、それこそネットでデートの相手を見つけているような人でした。だから、まさか現実世界の女性とここまで真剣に向き合う人に出会うなんて思ってもみなかったのです。

アレックスはサンニと付き合うようになって、人の誰しもが持つ「感情」の部分で進化を遂げていきました。彼はサンニを愛し、そして彼女も彼を非常に愛している。


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やがてサンニは、アレックスに対し自分の気持ちをぶつけていく自信を持つようになります。アレックスがサンニに関心を示さないときに、自分がどう感じているのか、どう思っているのかを伝えていきます。そういった変化が彼女の中で起きていく。その過程に立ち会えたのは特別だったなと思います。

作り手として、映画を作っている意識を持ち、目の前で起きている現象にしっかりとアンテナを張っていました。

この二人の関係は、映画の中で非常に大切な要素だったということ。また、アレックスはサンニの登場によって、2つの山を登らなくてはいけなくなったわけです。

エル・キャピタンという山と、それまで不得意としていた“人間関係”という山。彼は見事にその二つを乗り越えたのです。

生死を写す目撃者としての重圧


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──ジミーと一緒に共同監督をやっていく中で、決断をする場面や、困難な壁があったと思いますが、どのように向き合っていったのかをお聞かせください。

エリザベス:今回の作品を制作していく中で唯一難しいと感じたことは、「この映画を果たして作るべきなのか」という倫理的な部分です。その判断が私たちにとって困難な壁でした。アレックスにリスクがあるように、私たちにのしかかる責任や重みがありました。

共同監督であるジミーとはコミュニケーションが取れているし、互いの判断に対する信頼があります。撮影中、細かい判断をするのはそれほど大変ではありませんでしたが、この作品を作る上で、もし何かがあったらどうしようという思いを抱えながら撮影しなければならなかった。

この撮影行為自体がアレックスに余計な負担をかけているのではないか。彼の本来のパフォーマンスを損なうものになるのではないか。その思いが肩にのしかかっていたのです。

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観客へのメッセージ


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──エリザベス監督が最も気に入っているシーンはどこでしょう?

エリザベス:アレックスが山に登っている最中に、ユニコーンの着ぐるみを着た変な人物が突然登場したんです。その驚きもさることながら、ユニコーンの着ぐるみというのが、まさに象徴的だなと思いました。

というのも、山を登っているアレックス自身が、私たちにとってまさに“ユニコーン”のような存在だったからです。そのアレックスが山を登っている途中にユニコーンの着ぐるみを着た人に出会う。それは吉兆だと思いました。

もう一つは、アレックスがサンニと対話の中で、勇気を出しながら自分の本音をぶつけていくところ。それはとても印象に残っています。

──最後に、日本の観客へメッセージをお願いします。

エリザベス:この映画『フリーソロ』には、美しい風景もたくさん出てきますし、登場人物の人間関係も面白いと思います。人とのコミュケーションでアレックスが少しずつ心を開き、不可能を可能にしていく姿を観ていただきたいです。

彼にとってはエル・キャピタンという山が最大の挑戦でしたが、すべての人にそれぞれのエル・キャピタンがあると思います。達成できそうにない夢も努力次第で達成できるということを、ぜひスクリーンで鑑賞し、体感してほしいです。

インタビュー/ 出町光識

エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィのプロフィール

参考映像:『MERU/メルー』を上映したサンダンス・インスティテュートの
エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ監督のインタビュー

監督、プロデューサー(全米監督協会と映画芸術科学アカデミー会員)

これまでに監督として手掛けた作品には、『MERU/メルー』(2016年アカデミー賞のショートリスト入り、サンダンス映画祭2015観客賞受賞)、『Incorruptible(原題)』(インディペンデント・スピリット賞2016、Truer Than Fiction Award部門受賞)、テルライド映画祭とトロント映画祭でプレミア上映された『Youssou N’Dour: I Bring What I Love(原題)』(オシロスコープ2009)、『A Normal Life(原題)』(トライベッカ映画祭2003、ベスト・ドキュメンタリー賞)、『Touba(原題)』(サウス・バイ・サウスウェスト映画祭2013特別審査員賞最優秀撮影賞)などがある。

夫で共に本作を手掛けたジミー・チン(監督・プロデューサー・撮影監督)とニューヨークで暮らしており、本作品『フリーソロ』で初めて米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞の快挙を果たす。

映画『フリーソロ』の作品情報

【日本公開】
2019年(アメリカ映画)

【原題】
Free solo

【監督・製作】
エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ、ジミー・チン

【撮影監督】
ジミー・チン、クレア・ポプキン、マイキー・シェイファー

【音楽】
マルコ・ベルトラミ

【主題歌】
ティム・マッグロウ「Gravity(原題)」

【キャスト】
アレックス・オノルド、トミー・コールドウェル、ジミー・チン、サンニ・マッカンドレス

【作品概要】
ロープや安全装置を一切使わずに山や絶壁を登る「フリーソロ」と呼ばれるクライミングスタイルで世界的に知られるクライマー、アレックス・オノルドの緊迫感迫るクライミングに密着したドキュメンタリー。

オノルドが登攀する様子を臨場感あふれるカメラワークで収め、第91回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞しました。

監督は、山岳ドキュメンタリー『MERU/メルー』(2015)も高い評価を得たエリザベス・チャイ・バサルヘリィとジミー・チンです。

映画『フリーソロ』のあらすじ


© 2018 National Geographic Partners, LLC. All rights reserved.

身体を支えるロープや安全装置を一切使わずに山や絶壁を登るフリーソロ・クライミングの若きスーパースター、アレックス・オノルドには、途方もなく壮大な夢がありました。

それはカリフォルニア州のヨセミテ国立公園にそびえる巨岩エル・キャピタンに挑むこと。

この世界屈指の危険な断崖絶壁をフリーソロで登りきった者は、かつてひとりもいません。

幾度の失敗と練習を重ね、2017年6月3日早朝、アレックスは一人エル・キャピタンへと歩を進めていきます。

それは人類史上最大とも呼ばれる歴史的な挑戦の始まりでした…。

映画『フリーソロ』は2019年9月6日(金)より、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー!


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