Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

Entry 2022/08/04
Update

【三木聡監督×六角精児インタビュー】映画『コンビニエンス・ストーリー』成田凌と前田敦子のさりげない気遣い、南雲という“二律相反”で“人間的”なキャラクター

  • Writer :
  • ほりきみき

映画『コンビニエンス・ストーリー』は2022年8月5日(金)よりテアトル新宿ほかにて全国公開!

成田凌主演の異世界アドベンチャー映画『コンビニエンス・ストーリー』。若き脚本家が人里離れたコンビニ店に迷い込み、妖艶な人妻と束縛系変人夫との奇妙な三角関係の果てに待ち受ける顛末を、三木監督らしいシュールな笑いを挟み込みながら描かれています。

三木組への参加を切望していた成田凌が、初めて三木聡監督とタッグを組んだ作品です。


photo by 田中舘裕介

このたびの劇場公開を記念して、本作を手がけられた三木聡監督、束縛系変人夫を演じた六角精児さんにインタビュー取材を敢行。

六角さんが演じられた南雲の人物像、彼を演じられるにあたっての六角さんの役の掴み方、三木監督にとっての演出のあり方などを語っていただきました。

南雲は「二律相反」で「人間らしい」キャラクター


photo by 田中舘裕介

──六角精児さんは『大怪獣のあとしまつ』(2022)に続いての、三木聡監督作へのご出演となりました。

三木聡監督(以下、三木):南雲は狂気を秘めていながら、なおかつ温厚そうにも見えるという二律相反な気質を持つキャラクターです。

六角さんとは『時効警察はじめました』(2019)など何作かでお仕事をご一緒させていただいていますが、この役は六角さんしかできないだろうなと思いました。六角さんに南雲をやっていただけるかどうかが、この作品のカギでした。


(C)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

六角精児(以下、六角):三木さんの映像作品は「こういう風にやりたい」というご自身のビジョンがしっかりあり、そこに人間として乗っかれば大丈夫だと感じています。また違う時は「違う」と言っていただける。何度かご一緒させていただいて、やりやすいなと感じていたので、すぐにお受けしたいと思いました。

南雲については正直、最初に脚本だけを読んだ時にはよくわからなかった。ですが次第に、彼も実は「普通の人」じゃないかと気づいたのです。束縛が強すぎて、最終的にはとんでもない行動に出てしまいますが、人にはそれぞれ、嫉妬や振り返ってもらえない寂しさといったものがあります。

彼が存在する世界がどこにあるのかわかりませんが、そういうものを紐解いていくと、非常に人間らしい人なのではないかという気がしたのです。それまで一体何をやってきたのかは謎ですが、人間らしい人であれば、謎のままでもいいかなとも思いました。

非人間的なキャラクターへの「肉付け」が生んだもの


photo by 田中舘裕介

──三木監督はいつも撮影前には、脚本の読み合わせとリハーサルを徹底されているとお聞きました。

三木:今回はいつもほどではなかったですが、成田凌さんと前田敦子さんとは初めてのお仕事だったので、六角さんには1日・2日ほど来ていただき、本読みの最初の段階のすり合わせをしてもらいました。

六角さんだけでなく、ベテランの方々はみなさん、本読みに手ぶらでは来ない。どういう風なお芝居を持ってきて、それを僕がどう捕まえることができるか。先ほど、六角さんが脚本から感じとった南雲への印象について「よくわからなかった」とおっしゃっていましたが、それでもいいのです。最初に役者さんがどう感じたのかが重要ですから。

みなさんの本読みでの打ち出し方で、役や作品に対するファーストインプレッションはわかるので、それで実際の芝居のニュアンスなどを調整していくのですが、細かく構築することはしていません。


(C)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

──今回の『コンビニエンス・ストーリー』では、六角さんが本読みの際に持ってこられたものを三木監督はどのように捕まえていったのでしょうか。

三木:南雲は表層的には、非人間性が高いキャラクターです。六角さんはそこに、人間としての普通さと人の良さを肉付けしてきてくれた。

これは面白いと思いました。特異なキャラクターにそうした気質があったらギャップを感じますし、より気持ち悪く思える。それが作品に、ホラーやサスペンスといった要素をもたらしてくれる。六角さんが持ってきてくれたリアリティは、南雲というキャラクターに厚みを作ってくれました。南雲は異常な人間として描くこともできますが、もし六角さんにそちらに振り切られていたら、他のキャラクターとの芝居の調整は難しかったかもしれません。

──六角さんは南雲に対して、ご自身との共通点を感じられることはありましたか。

六角:似ているというか、ほぼ同じですね(笑)。嫁さんに冷たくされたら寂しいし、誰かと仲良くしているところを想像したら嫉妬をするし、腹も立つ。その結果、「束縛」という手段に出る人もいるでしょう。

自分はそんなに束縛タイプではないのですが、そうなる気持ちはわかります。作中、南雲が長い脚立に乗って覗いている場面には「哀れな男だな」と思いましたけどね。何らかの行動を起こすか、起こさないかという違いはありますが、最初に抱く感情みたいなものは同じだと思います。

成田凌と前田敦子、それぞれに異なる「高い俳優力」


(C)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

──今回初めてご一緒にお仕事をされたという成田凌さんと前田敦子さんは、どのような俳優だと感じられましたか。

三木:お二人はまず、芝居のアプローチがそれぞれ違います。役者は役柄をそのまま創造するのではなく、どこかに自己の体験を投影してくるもの。もちろん役者である以上、自己主張や自己表現は本能といえますが、それを優先されると他のキャラクターとのバランスが悪くなってしまいます。

その中で成田さんは、映画に対してとても献身的でした。地続きのリアルを演じて、それが急に迷い始めていくという役柄ですが、きちんと映画に向き合って「自分がどう見えるか」「どう評価されるか」というよりも、良い映画ができあがることを優先してくれました。


photo by 田中舘裕介

三木:また前田さんは役者として、本質のある場所にたどり着くのが圧倒的に早い。あの年代の女優さんの中では規格外なほど大きい才能を感じさせられ、本当に驚きました。

六角:成田さんも前田さんも、年上の人といることに慣れているんだと思います。気を遣っているという意識をこちらに見せずに、きちんとコミュニケーションをとってくれました。僕は話してもいいし、話さなくてもいい。うまい感触で距離感がつかめた気がして、会話に困ることも疲れることもなく、撮影現場にいられました。それはとてもありがたかったです。

迷ったら「成田凌についていけ」


photo by 田中舘裕介

──完成した映画をご覧になった際には、どのような感想を抱かれましたか。

六角:自分が出ていないパートの方が好きですね(笑)。

現実パートで描いていることも、それはそれで不思議でした。三木監督は他の監督さんとは少し違ったアプローチの仕方をされますから、脚本を読んでもそれがどういう風な完成形になるのか、頭の中で組み立てられない。できあがったものを観てやっとつながったといいますか、自分のパートも含めて、初めて観た気がしました。日常の先にある異世界、ちょっとした「くるぶし」のようなものがお客さんに伝わればいいなと思います。

三木:僕自身もそうです。現場でモニターを通して見ていますが、ロケーションや役者の芝居というパーツが組み合わさり、すべてがつながって上がってきたものは、現場で見ていたものとは印象がかなり違います。自分で言うのもなんですが、「こうなるんだ」という感覚でした。監督の僕ですらそうですから、出てくださった役者さんはみんなそう感じられたのではと思います。

今回、ふせえりさんや岩松了さんがどんな笑い方をするのかということもポイントでしたが、それぞれアプローチの仕方が違う。自分の中だけで完結しないところが面白いし、人と映画を作る意味はそこあると思っています。

もし本作を観ていて迷ったら、とにかく「成田凌についていけ」です。そうすれば大丈夫です。意味が分からないことは恐怖につながる。だからこそ人は、そういうことを本能的に自分で埋めていくじゃないですか。映画を観ながら、それをする。ある種の体験型映画だと思いますので、そこを楽しんでもらえるとうれしいです。

インタビュー/ほりきみき

三木聡監督プロフィール

1961年生まれ、神奈川県出身。大学在学中から放送作家として活動し、「タモリ倶楽部」「ダウンタウンのごっつええ感じ」など数多くの人気番組に携わる。1989年から2000年まではシティボーイズのライブの作・演出を務め、2005年の『イン・ザ・プール』で長編映画監督デビュー。

以降、シュールな持ち味を活かして『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』(2018)、『大怪獣のあとしまつ』(2022)などの映画作品で一貫して監督と脚本を兼任。また「時効警察」シリーズや「熱海の捜査官」などのテレビドラマも手がけている。

六角精児プロフィール

1962年生まれ、兵庫県出身。1982年、劇団「善人会議」(現・扉座)の旗揚げに参加。舞台、映画、ドラマなど幅広く活躍。2009年「相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿」で映画初主演。またミュージシャンとして「六角精児バンド」を結成し2枚のCDをリリース。2022年4月には初ソロ・アルバム『人は人を救えない』をリリース。

近作は『くらやみ祭の小川さん』(2019)、『前田建設ファンタジー営業部』(2020)、『すばらしき世界』(2021)、『大怪獣のあとしまつ』『ウェディング・ハイ』『ハケンアニメ』(共に2022)など。

映画『コンビニエンス・ストーリー』の作品情報

【公開】
2022年(日本映画)

【監督・脚本】
三木聡

【キャスト】
成田凌、前田敦子、六角精児、片山友希、岩松了、渋川清彦、ふせえり、松浦祐也、BIGZAM、藤間爽子、小田ゆりえ、影山徹、シャラ ラジマ

【作品概要】
映画評論家でプロデューサーのマーク・シリングがコンビニエンスストアを舞台にして書いた小説を「時効警察」シリーズや『大怪獣のあとしまつ』の三木聡監督が映画化。

主演はデビュー前から三木組への参加を熱望していた成田凌。スランプ中の売れない脚本家、加藤を演じる。

加藤を誘惑するファムファタルな人妻を前田敦子、その夫でワーグナーの楽劇をひとり指揮するのが日課のコンビニ店長を六角精児、加藤の恋人で女優のジグザグを片山友希のほか、三木作品の常連であるふせえりや岩松了が出演する。

映画『コンビニエンス・ストーリー』のあらすじ


(C)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

スランプ中の売れない脚本家、加藤(成田凌)は、ある日、恋人ジグザグ(片山友希)の飼い犬“ケルベロス”に執筆中の脚本を消され、腹立ちまぎれに山奥に捨ててしまう。

後味の悪さから探しに戻るが、レンタカーが突然故障して立ち往生。霧の中のたたずむコンビニ「リソーマート」で働く妖艶な人妻・惠子(前田敦子)に助けられ、彼女の夫でコンビニオーナー南雲(六角精児)の家に泊めてもらう。

しかし、惠子の誘惑、消えたトラック、鳴り響くクラシック音楽、凄惨な殺人事件、死者の魂が集う温泉町……加藤はすでに現世から切り離された異世界にはまり込んだことに気づいていなかった。

堀木三紀プロフィール

日本映画ペンクラブ会員。2016年より映画テレビ技術協会発行の月刊誌「映画テレビ技術」にて監督インタビューの担当となり、以降映画の世界に足を踏み入れる。

これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、白石和彌、篠原哲雄、本広克行など100人を超える。海外の作品に関してもジョン・ウー、ミカ・カウリスマキ、アグニェシュカ・ホランドなど多数。




関連記事

インタビュー特集

【大塚信一監督インタビュー】映画Blu-ray盤『横須賀綺譚』社会における“映像の見方”が変容する中で目指す“千年を超える普遍的な作品”

映画『横須賀綺譚』Blu-ray盤は2023年5月31日(水)より発売開始! 忙しい日常を送る青年が、東日本大震災後に行方不明になった恋人の消息を追う旅に出たことから始まる奇妙な物語を描き出した映画『 …

インタビュー特集

【橋爪功インタビュー】映画『ウスケボーイズ』成熟したワインのような役者が若き後輩たちに語る思い

桔梗ヶ原メルローを生んだワイン界の巨匠、麻井宇介の思想を受け継ぎ、日本ワインの常識を覆した革命児たちを描いた映画『ウスケボーイズ』。 ワイン造りに生涯をかけ、若者たちにワインを伝播するレジェンド麻井宇 …

インタビュー特集

【パク・ジョンボム監督インタビュー】映画『波高(はこう)』宗教的な描写を用いて“倫理観の欠如”とその構造・発端を問う

第20回東京フィルメックス「コンペティション」作品『波高(はこう)』 2019年にて記念すべき20回目を迎えた東京フィルメックス。令和初の開催となる今回も、アジアを中心に様々な映画が上映されました。 …

インタビュー特集

【黒須杏樹インタビュー】映画『ピストルライターの撃ち方』観客と自身がつながる瞬間を生み出す“心で伝える芝居”

映画『ピストルライターの撃ち方』は渋谷ユーロスペースで封切り後、2023年11月25日(土)〜富山・ほとり座&金沢・シネモンドにて、12月2日(土)〜広島・横川シネマにて、近日名古屋にて劇場公開! 2 …

インタビュー特集

【筒井武文監督インタビュー】映画『ホテルニュームーン』日本が観逃してきたイラン文化と風景の“最先端”を撮る

映画『ホテルニュームーン』は2020年10月24日(土)より名古屋シネマテーク、10月30日(金)よりテアトル梅田とアップリンク京都、以降も元町映画館ほかにて全国順次ロードショー!  10月31日(土 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学