Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

Entry 2022/10/05
Update

映画『アッテンバーグ』アティナ・ラヒル・ツァンガリ監督インタビュー|“動物のように育てること”が重要だったキャラクター誕生の秘密を語る

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『アッテンバーグ』アティナ・レイチェル・ツァンガリ監督インタビュー!

映画『アッテンバーグ』は、アティナ・レイチェル・ツァンガリ監督が自身のオリジナル脚本をもとに制作にした2010年のギリシャ映画。第67回ヴェネツィア国際映画祭にてエントリーされたのち、主演を務めたアリアン・ラベドがコッパ・ヴォルピ主演女優賞を受賞した注目作です。

そのほかにもメキシコ国立大学国際映画祭(FICUNAM)、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭、ニューホライズン映画際などでも高く評価されています。

このたび、映画『アッテンバーグ』の映画配信サービス「JAIHO(ジャイホー)」での配信を記念し、本作を手がけたアティナ・ラヒル・ツァンガリ監督のインタビューを公開!

ギリシャ・ボエオティア地方にあるアスプラ・スピティアの町で撮影された本作の魅力、そしてクエンティン・タランティーノ監督に「私たちを最も成長させ、別のギリシャを示した」と言わしめた作品の内容に深く迫ります。

主人公マリーナをめぐる着想と“手本”

──アリアン・ラベドさんが演じられた映画『アッテンバーグ』の主人公マリーナのキャラクター設定を、アティナ監督はどのような着想から生み出したのでしょう。

アティナ・ラヒル・ツァンガリ監督(以下、ギリアティナ):この作品は、私がギリシャで撮影を行った最初の映画になります。自分自身の言葉で映画を制作できるか、また作れるとしたらどんなものなのか、それを考えるのに何年も月日がかかりました。

⻑くアメリカで過ごしたため、自分をギリシャの映画監督として捉えるのはとても難しいことです。そして、ギリシャ語で脚本を書くことも難しい。だから、自分の周辺の環境や、社会にも属さない少女の物語にしました。

──マリーナとベラの動物的な要素について教えてください。

アティナ:制作に入る前から動物学者のデイビッド・アッテンボローの映像をたくさん見ました。キャラクターを動物のように育てることが重要だったからです。俳優たちにはそれぞれ好きな映像や動物があり、それは彼らが演技をしている時の記憶でもあります。

私はアッテンボローの熱烈なファンで、子どもの頃から彼の映像を見続けてきました。とても優雅で、自然や被写体に対する優しさを持っていて、映画におけるキャラクターへのアプローチ方法について、私にとって大きなお手本となっています。

“関係性”と“愛情”を描く意図

──映画冒頭のキスの場面をはじめ、アティナ監督が描かれた、マリーナとベラの関係は衝撃的でした。どのような意図のもと演出をされたのでしょうか。

アティナ:本作の冒頭のシーンは、ただのキスであってレズビアンのシーンではないので、余計に物議を醸すのだと思います。2人の女性が一緒に居たり、愛し合ったり、自身の性的指向に気付いたりすることを描写したのではありません。

ある少女が別の少女に、基本的な物事を教えるという内容。それは、ギリシャでは非常に稀な、同じ目線に立って対等であろうとする父と娘の関係のようなものです。彼女は父親とはとても親密な関係ですが、ベラとは非常に敵対的な関係にあります。

──恐怖や緊張の不安な気持ちが巧みに表現されている、マリーナとエンジニアのラブシーンについてはいかがでしょう。

アティナ:マリーナは、異国のものについて探りながら、ひたすらしゃべり続けるというアイデアが好ましいという思いに至りました。俳優への演出という力点だけでなく、皆友だちで仲間意識が強かったのが、とても良かったですね。その親密さが光っていたと思います。

あの愛情表現を描いた場面では、ぎこちなく見えないように気を使い、あまりリハーサルをしませんでした。また、私がしばらく前から考えていることでもあるのですが、私より若い世代の女の子たちはセクシュアリティに夢中で、自分の体について何の恐れも持っていないと感じています。

ギリシャ映画界と、地域への思い

──アティナ監督はギリシャで自身の制作会社を設立し、『籠の中の乙女』(2009)の映画製作にも携わっており、ギリシャ映画界に活気を吹き込んでいらっしゃいます。

アティナ:ギリシャの映画界が活気づいているのは既に起こっていることで、私は数年続いている状況のなかの一部でしかありません。

ギリシャで初めて製作した映画は、ヨルゴス・ランティモスの初の⻑編映画『Kinetta』(2005)でした。自由で独立した感覚を味わえるので、私は自分の作品をプロデュースするのが好きです。『籠の中の乙女』と『アッテンバーグ』には共通点があるという人もいますが、私はそのようには感じていません。

しかし、ヨルゴスと私は親類関係のようなもので、⻑い間ともに議論しながら映画の仕事をしてき中ではありますね。

──モダニズム的な雰囲気を持っている『籠の中の乙女』と『アッテンバーグ』のロケーションは、どのような経緯で選ばれたのでしょうか。

アティナ:私が生まれ育ったアスプラ・スピティアの町へ戻り、映画の撮影を行いました。そこは1960年代に建設された企業城下町で、70年代には多くの若いエンジニアが移り住み、その家族がこのモダニズムのユートピアに住んでいました。

フランスの巨大コングロマリットに属する会社だったことも起因して、住⺠は半分がギリシャ人で半分がフランス人でした。私たちはその地を離れることになりましたが、私と妹は夏になると何度も足を運びました。なので、マリーナがディスコで男の子に夢中になるように、性に目覚める場所という個人的なイメージを持っていたのです。

──ある意味、とても美しい町だと感じました。父親との場面では、マリーナは「画一的なものはとても落ち着く」と口にしています。

アティナ:とても美しいんです。町はとても活気があり、幸せで、スポーツや芸術が盛んであったことをよく憶えています。そんな文化的な環境でした。

冬にクルーと一緒に戻ると、ゴーストタウンのような雰囲気があり、それがとても私に合っていました。20世紀の失敗についての父親の認識と一致していました。しかし、私たちスタッフにとって、この何もない画一的な町、白いブロックばかりの町での撮影は、とても不思議なものでした。まるで月のような、地球外にある町のようで、伝統的な美しさがないのです。

アティナ・ラヒル・ツァンガリ監督プロフィール

ギリシャ・アテネ出身。

テッサロニキにあるアリストテレス大学の哲学科で学位を取得。またニューヨーク大学のティッシュ・スクール・オブ・アーツにて、パフォーマンス研究の修士号、テキサス大学オースティン校で映画監督の修士号を取得しています。そして1991年、リチャード・リンクレイター監督作品『スライカー』で初めて映画制作に携わりました。

主な監督作品は、2000年にテッサロニキ国際映画祭で上映された長編初監督作品『The Slow Business of Going』、2010年にヴェネツィア国際映画祭で上映された『アッテンバーグ:Attenberg』、2015年にトロント国際映画祭で上映された『Chevalier』など。

映画『アッテンバーグ』の作品情報

【公開】
2010年(ギリシャ映画)

【プロデュース】
マリア・ハツァコウ、ヨルゴス・ランティモス、イラクリス・マヴロディス、アティナ・レイチェル・ツァンガリ、アンジェロス・ヴェネティス

【監督・脚本】
アティナ・レイチェル・ツァンガリ

【撮影】
ティミオス・バカタキス

【編集】
マット・ジョンソン
サンドリーヌ・シェイロール

【キャスト】
アリアン・ラベド、ヴァンゲリス・ムリキス、エヴァンジェリア・ランドウ、ヨルゴス・ランティモス

映画『アッテンバーグ』のあらすじ

23歳のマリーナ(アリアン・ラベド)は、海岸沿いの工場の町で建築家の父スピロスと暮らしています。

男性経験の無いマリーナは、経験豊富な親友ベラとキスの練習や性に関する相談を重ね、若いエンジニア(ヨルゴス・ランティモス)相手に実践を試みます。

マリーナの父は病に侵されていて、余命が少ないことを感じているマリーナは、ベラにある頼み事をする……。

日本未公開映画『アッテンバーグ』は「JAIHO」にて
2022年11月14日(月)まで配信中!

映画配信サービス「JAIHO」の名前は「万歳!」「勝利あれ!」という意味のヒンディー語をもとにしており、その言葉の力強い響きを“すべての映画を称える、悦びと感動の合言葉”としてサービス名に冠しました。

JAIHO」はオンラインでの視聴に加え、「JAIHO」無料アプリを利用してFire TVでもご視聴いただけ、月額770円(税込)、初回加入のみ2週間無料でお楽しみいただけます。

世界中の多様な映画をより多くのユーザーと分かち合いたく、選りすぐりの作品を毎日配信します。アルゴリズムでは見つけられない、あなたのための映画がここにあります。映画ファンのための定額制映画配信サービス「JAIHO」にご期待ください。

【JAIHO公式Twitter】
@JAIHO_JP #ジャイホー

【JAIHO公式Instagram】
@jaiho_JP

「JAIHO」の3つの特徴

厳選された映画を365日、毎日1作品配信

「JAIHO」最大の特色は、365日、毎日1作品新たな作品を配信し、常に30作品が視聴可能であること。

配信作品は、多様性を考慮し、世界中のさまざまなジャンルやカテゴリーから、映画のエキスパートたちが厳選した最高に面白く、楽しく、今見る価値のある映画ばかり。観たい映画を探す手間や時間を省き、今見るべき映画を毎日1本提案します。

24時間いつでも、新しい映画との出会いが待っています。

JAIHO独占配信・日本初配信映画や、感性と好奇心をくすぐる映画を提案

世界の映画祭での受賞作を中心に、JAIHOが日本で初めて紹介する独占初公開作で編成される「プレミア」をハイライトに、世界各国で大ヒットした娯楽作から、一生に一度は観たい巨匠の名作、各国の映画史に残るクラシックなどを網羅。

さらにドキュメンタリー映画、音楽映画、邦画の名作、世界のアニメーションなど、バラエティに飛んだ特集が毎月目白押しです。

映画のエキスパートが多角的な視点で紹介

本サービスでは映画配信だけでなく、日本映画界屈指の目利きたちによる読み応え抜群のコラムや解説も掲載。

JAIHOでの映画鑑賞をさらに深く、楽しいものにしてくれるはずです。

《JAIHOアドバイザリーボード・メンバー(敬称略・順不同)》
市山尚三(東京国際映画祭プログラミング・ディレクター、映画プロデューサー)
暉峻創三(大阪アジアン映画祭プログラミング・ディレクター、映画評論家)
松岡環(インド映画字幕翻訳者、アジア映画研究者)
江戶木純(映画評論家、プロデューサー)



関連記事

インタビュー特集

【久保田直監督インタビュー】映画『千夜、一夜』“田中裕子が港を見つめる姿”が自然と想い浮かんだ佐渡島の風景

映画『千夜、一夜』は2022年10月7日(金)よりテアトル新宿、シネスイッチ銀座ほかにて全国公開! 夫が突然姿を消してから30年。彼はなぜいなくなったのか。まだ、生きているのか。妻は愛する人とのささや …

インタビュー特集

【藤田恵名インタビュー】映画『WELCOME TO JAPAN』言えない事は歌の中へ込め、なりふり構わず闘い続ける

映画『WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス』は2019年10月11日(金)より、「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション」にて限定上映! 1968年に創設され、スペイン・バ …

インタビュー特集

【チョン・ボムシク監督インタビュー】『コンジアム』実在の心霊スポットとホラー映画を融合させた映像作家の正体

韓国ホラー映画『コンジアム』は、2019年3月23日(土)より全国公開! 2012年にアメリカのテレビチャンネルが発表した「世界7大心霊スポット」。なかでも韓国から選出された廃病院の昆池岩精神病院(コ …

インタビュー特集

【堤真矢監督インタビュー】映画『もうひとつのことば』いつもと違う東京の景色を“さりげなく”描くことの意味

映画『もうひとつのことば』は2022年7月22日(金)より池袋 HUMAXシネマズにて劇場公開! オリンピックが延期となった2020年夏の東京を舞台に、ワンコイン英会話カフェで出逢った男女の《嘘》と《 …

インタビュー特集

【ジョゼ・パジーリャ監督インタビュー】映画『エンテベ空港の7日間』弱き者の言葉にも耳を傾ける意義はある

映画『エンテベ空港の7日間』が、2019年10月4日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開! ブラジルの麻薬組織と警察の闘いを描いた「エリート・スクワッド」シリーズ(2007~2010) …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学