映画『アッテンバーグ』アティナ・レイチェル・ツァンガリ監督インタビュー!
映画『アッテンバーグ』は、アティナ・レイチェル・ツァンガリ監督が自身のオリジナル脚本をもとに制作にした2010年のギリシャ映画。第67回ヴェネツィア国際映画祭にてエントリーされたのち、主演を務めたアリアン・ラベドがコッパ・ヴォルピ主演女優賞を受賞した注目作です。
そのほかにもメキシコ国立大学国際映画祭(FICUNAM)、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭、ニューホライズン映画際などでも高く評価されています。
このたび、映画『アッテンバーグ』の映画配信サービス「JAIHO(ジャイホー)」での配信を記念し、本作を手がけたアティナ・ラヒル・ツァンガリ監督のインタビューを公開!
ギリシャ・ボエオティア地方にあるアスプラ・スピティアの町で撮影された本作の魅力、そしてクエンティン・タランティーノ監督に「私たちを最も成長させ、別のギリシャを示した」と言わしめた作品の内容に深く迫ります。
CONTENTS
主人公マリーナをめぐる着想と“手本”
──アリアン・ラベドさんが演じられた映画『アッテンバーグ』の主人公マリーナのキャラクター設定を、アティナ監督はどのような着想から生み出したのでしょう。
アティナ・ラヒル・ツァンガリ監督(以下、ギリアティナ):この作品は、私がギリシャで撮影を行った最初の映画になります。自分自身の言葉で映画を制作できるか、また作れるとしたらどんなものなのか、それを考えるのに何年も月日がかかりました。
⻑くアメリカで過ごしたため、自分をギリシャの映画監督として捉えるのはとても難しいことです。そして、ギリシャ語で脚本を書くことも難しい。だから、自分の周辺の環境や、社会にも属さない少女の物語にしました。
──マリーナとベラの動物的な要素について教えてください。
アティナ:制作に入る前から動物学者のデイビッド・アッテンボローの映像をたくさん見ました。キャラクターを動物のように育てることが重要だったからです。俳優たちにはそれぞれ好きな映像や動物があり、それは彼らが演技をしている時の記憶でもあります。
私はアッテンボローの熱烈なファンで、子どもの頃から彼の映像を見続けてきました。とても優雅で、自然や被写体に対する優しさを持っていて、映画におけるキャラクターへのアプローチ方法について、私にとって大きなお手本となっています。
“関係性”と“愛情”を描く意図
──映画冒頭のキスの場面をはじめ、アティナ監督が描かれた、マリーナとベラの関係は衝撃的でした。どのような意図のもと演出をされたのでしょうか。
アティナ:本作の冒頭のシーンは、ただのキスであってレズビアンのシーンではないので、余計に物議を醸すのだと思います。2人の女性が一緒に居たり、愛し合ったり、自身の性的指向に気付いたりすることを描写したのではありません。
ある少女が別の少女に、基本的な物事を教えるという内容。それは、ギリシャでは非常に稀な、同じ目線に立って対等であろうとする父と娘の関係のようなものです。彼女は父親とはとても親密な関係ですが、ベラとは非常に敵対的な関係にあります。
──恐怖や緊張の不安な気持ちが巧みに表現されている、マリーナとエンジニアのラブシーンについてはいかがでしょう。
アティナ:マリーナは、異国のものについて探りながら、ひたすらしゃべり続けるというアイデアが好ましいという思いに至りました。俳優への演出という力点だけでなく、皆友だちで仲間意識が強かったのが、とても良かったですね。その親密さが光っていたと思います。
あの愛情表現を描いた場面では、ぎこちなく見えないように気を使い、あまりリハーサルをしませんでした。また、私がしばらく前から考えていることでもあるのですが、私より若い世代の女の子たちはセクシュアリティに夢中で、自分の体について何の恐れも持っていないと感じています。
ギリシャ映画界と、地域への思い
──アティナ監督はギリシャで自身の制作会社を設立し、『籠の中の乙女』(2009)の映画製作にも携わっており、ギリシャ映画界に活気を吹き込んでいらっしゃいます。
アティナ:ギリシャの映画界が活気づいているのは既に起こっていることで、私は数年続いている状況のなかの一部でしかありません。
ギリシャで初めて製作した映画は、ヨルゴス・ランティモスの初の⻑編映画『Kinetta』(2005)でした。自由で独立した感覚を味わえるので、私は自分の作品をプロデュースするのが好きです。『籠の中の乙女』と『アッテンバーグ』には共通点があるという人もいますが、私はそのようには感じていません。
しかし、ヨルゴスと私は親類関係のようなもので、⻑い間ともに議論しながら映画の仕事をしてき中ではありますね。
──モダニズム的な雰囲気を持っている『籠の中の乙女』と『アッテンバーグ』のロケーションは、どのような経緯で選ばれたのでしょうか。
アティナ:私が生まれ育ったアスプラ・スピティアの町へ戻り、映画の撮影を行いました。そこは1960年代に建設された企業城下町で、70年代には多くの若いエンジニアが移り住み、その家族がこのモダニズムのユートピアに住んでいました。
フランスの巨大コングロマリットに属する会社だったことも起因して、住⺠は半分がギリシャ人で半分がフランス人でした。私たちはその地を離れることになりましたが、私と妹は夏になると何度も足を運びました。なので、マリーナがディスコで男の子に夢中になるように、性に目覚める場所という個人的なイメージを持っていたのです。
──ある意味、とても美しい町だと感じました。父親との場面では、マリーナは「画一的なものはとても落ち着く」と口にしています。
アティナ:とても美しいんです。町はとても活気があり、幸せで、スポーツや芸術が盛んであったことをよく憶えています。そんな文化的な環境でした。
冬にクルーと一緒に戻ると、ゴーストタウンのような雰囲気があり、それがとても私に合っていました。20世紀の失敗についての父親の認識と一致していました。しかし、私たちスタッフにとって、この何もない画一的な町、白いブロックばかりの町での撮影は、とても不思議なものでした。まるで月のような、地球外にある町のようで、伝統的な美しさがないのです。
アティナ・ラヒル・ツァンガリ監督プロフィール
ギリシャ・アテネ出身。
テッサロニキにあるアリストテレス大学の哲学科で学位を取得。またニューヨーク大学のティッシュ・スクール・オブ・アーツにて、パフォーマンス研究の修士号、テキサス大学オースティン校で映画監督の修士号を取得しています。そして1991年、リチャード・リンクレイター監督作品『スライカー』で初めて映画制作に携わりました。
主な監督作品は、2000年にテッサロニキ国際映画祭で上映された長編初監督作品『The Slow Business of Going』、2010年にヴェネツィア国際映画祭で上映された『アッテンバーグ:Attenberg』、2015年にトロント国際映画祭で上映された『Chevalier』など。
映画『アッテンバーグ』の作品情報
【公開】
2010年(ギリシャ映画)
【プロデュース】
マリア・ハツァコウ、ヨルゴス・ランティモス、イラクリス・マヴロディス、アティナ・レイチェル・ツァンガリ、アンジェロス・ヴェネティス
【監督・脚本】
アティナ・レイチェル・ツァンガリ
【撮影】
ティミオス・バカタキス
【編集】
マット・ジョンソン
サンドリーヌ・シェイロール
【キャスト】
アリアン・ラベド、ヴァンゲリス・ムリキス、エヴァンジェリア・ランドウ、ヨルゴス・ランティモス
映画『アッテンバーグ』のあらすじ
23歳のマリーナ(アリアン・ラベド)は、海岸沿いの工場の町で建築家の父スピロスと暮らしています。
男性経験の無いマリーナは、経験豊富な親友ベラとキスの練習や性に関する相談を重ね、若いエンジニア(ヨルゴス・ランティモス)相手に実践を試みます。
マリーナの父は病に侵されていて、余命が少ないことを感じているマリーナは、ベラにある頼み事をする……。
日本未公開映画『アッテンバーグ』は「JAIHO」にて
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市山尚三(東京国際映画祭プログラミング・ディレクター、映画プロデューサー)
暉峻創三(大阪アジアン映画祭プログラミング・ディレクター、映画評論家)
松岡環(インド映画字幕翻訳者、アジア映画研究者)
江戶木純(映画評論家、プロデューサー)