Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2022/04/30
Update

ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行|あらすじ感想評価と解説レビュー。究極のシネフィル男が導く珠玉のキュレーション体験【だからドキュメンタリー映画は面白い68】

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第68回

今回取り上げるのは、2022年6月10日(金)から新宿シネマカリテほかにて全国順次公開の『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』

365日、毎日映画を観て過ごすスコットランドの映画オタク監督が、2010年から21年にかけて製作された映画111本を、独自の視点でひも解きます。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』の作品情報

(C)Story of Film Ltd 2020

【日本公開】
2022年(イギリス映画)

【原題】
The Story of Film: A New Generation

【監督・脚本・ナレーション】
マーク・カズンズ

【製作】
ジョン・アーチャー

【製作総指揮】
クララ・グリン

【編集】
ティモ・ランガー

【作品概要】
20年以上のキャリアを持つスコットランドのドキュメンタリー監督マーク・カズンズが、タイムズ紙にて“映画について書かれた本の中で最も素晴らしい本”と評された自著「The Story of Film」をベースに、2011年に同名テレビシリーズを制作。

それから10年後、『ようこそ映画音響の世界へ』(2019)を手がけたイギリスの製作会社DOGWOOFと共同の元、映画版を制作。

2010年から21年にかけて公開された111本の世界各国の映画に焦点を当て、その内容や制作背景をマルチにひも解きます。

『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』のあらすじ

(C)Story of Film Ltd 2020

これまで観た映画は1万6000作品以上にも及ぶという、スコットランドのドキュメンタリー監督マーク・カズンズ。

そのカズンズ自らナレーションを務め、『アナと雪の女王』(2013)、『ジョーカー』(2019)といったメジャー作品から、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督作『光りの墓』(2015)、『グッド・タイム』(2017)などのインディペンデント作品、はては日本映画の『万引き家族』(2018)などなど、ジャンルを問わず選出。

制作に6年の歳月を費やし、独自の視点から近年の映画史をたどっていきます。

究極の映画オタクの“映画深化論”

(C)Story of Film Ltd 2020

2011年のイギリスで、とあるドキュメンタリーのテレビシリーズが製作されました。

スコットランドでドキュメンタリー監督として活躍するマーク・カズンズが手がけたその作品『ストーリー・オブ・フィルム』(日本では映画配信サイトJAIHOで配信中)は、19世紀末の草創期から2000年代に至る映画120年の歴史を、数多くの名監督、名優へのインタビューや膨大な数の映画の印象的なシーンを引用し構成。

全15章・全編900分以上にも及んだこのドキュメンタリーは、映画史を新しい視点で紐解こうとする試みに加え、ユニークな作品選びや編集のセンスも評判となり、世界中の映画ファンの支持を得ました。

まさに究極のシネフィル(映画オタク)といえるカズンズ。ですが彼の探求心は、テレビシリーズ制作から10年を経た現在も、尽きることはありませんでした。

本作『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』は、テレビシリーズの映画版として、2010~2021年の11年間に制作された映画111本に着目。社会情勢の変化やテクノロジーの進化とともに、映画を取り巻く環境や新たな表現手法の出現を考察した、最新の映画深化論となっています。

21世紀を代表するアクションとは?革新的なホラーとは?

(C)Story of Film Ltd 2020

本作に登場する111本は、ハリウッド・メジャーからインディペンデント資本のアメリカ映画から、インドやアラブ諸国、アフリカ、エチオピア、南アメリカ、中国、韓国、そして日本といった世界各国の作品をピックアップしており、取り上げるジャンルやテーマも多種多様。

「365日、毎日映画を観ている」と豪語するカズンズの選定基準にあるのは、独自の批評的視点です。

冒頭での「『ジョーカー』と『アナと雪の女王』の共通点」を皮切りに、「21世紀のアクション映画は、トーンや視覚的嗜好や色分けが革新的な作品が多い」として、そのすべてが詰まっていると断言する作品を1本挙げます。

そのほか、「21世紀を代表する社会の崩壊を描いた映画2本」の共通点や、「独特の時間感覚が冴える革新的なホラー」「GoPro、スマートフォンといった新世代カメラを先鋭的に取り入れたアクション」、または「紛争地区で撮られた緊迫のドキュメンタリー」などなど、彼ならでの考察を「映画言語の拡張」、「我々は何を探ってきたのか?」という二部構成で検証していきます。

映画を“冒険”せよ

(C)Story of Film Ltd 2020

新型コロナウイルスのパンデミックは、映画業界に大打撃を与えました。ただ逆に言えば、配信サービスの飛躍的な普及やSNSや映画キュレーション(まとめ)サイトの活用で、ステイホームによって映画に触れる機会が増えたという考え方もできます。

カズンズ監督は語ります。

知らない名前の監督を聞けば、その監督のことを調べたくなる。聞いたことのない作品や、新しい考えを持った監督を見つけること。それは、ぼくにとって冒険の旅のようなものなんだ。

コロナという未曾有の体験は、むしろ映画という名の冒険の魅力を再認識させてくれたのかもしれません。

新たな冒険の指針が111も詰まっているという点で、本作はいわば、究極のキュレーション映画

111本の中には日本未公開作も含まれているため、それらすべてを観ているという方はおそらく皆無でしょう。また日本公開作でも、未見という方もいるはず。

本作をきっかけに、未知の冒険に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。

次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

松平光冬プロフィール

テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。

2010年代からは映画ライターとしても活動。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219

関連記事

連載コラム

映画『シスターフッド』あらすじと感想レビュー。西原孝至監督の混在するドキュメンタリーと劇映画の臨界を探る|OAFF大阪アジアン映画祭2019見聞録3

連載コラム『大阪アジアン映画祭2019見聞録』第3回 女性の存在が根本から問い直されている昨今、意欲作が次々と発表されています。 しかし若手女性の映像作家の活躍は目覚ましいものがありますが、男性監督の …

連載コラム

ディストピア2043未知なる能力|ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。近未来SFアクションをタイカ・ワイティティ製作で北米先住民の苦難を描く【未体験ゾーンの映画たち2022見破録13】

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2022見破録」第13回 映画ファン待望の毎年恒例の祭典、今回で11回目となる「未体験ゾーンの映画たち2022」が今年も開催されました。 傑作・珍作に怪作、絶望的な未 …

連載コラム

ホラー映画『マタンゴ』『吸血鬼ゴケミドロ』あらすじと内容解説。こわいトラウマ必死の邦画とは|邦画特撮大全45

連載コラム「邦画特撮大全」第45章 まだ5月だというのに気温と湿度が共に高い日が時折あります。 町に出るとTシャツ姿の人も目立ちます。夏には早いですが、そんな日にホラー映画はどうでしょうか?  今回の …

連載コラム

【ネタバレ】シン仮面ライダー|ケイ(松坂桃李)元ネタはロボット刑事?ジェイ/アイ×白いバラの意味と“人類愛”の化身ゆえのジレンマ|仮面の男の名はシン6

連載コラム『仮面の男の名はシン』第6回 『シン・ゴジラ』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『シン・ウルトラマン』に続く新たな“シン”映画『シン・仮面ライダー』。 原作・石ノ森章太郎の特撮テレビドラマ『仮 …

連載コラム

映画『クレイジーズ42日後』ネタバレあらすじ感想とラスト結末の解説。リメイク版で刷新したゾンビ化現象を描いたパンデミック・ムービー|未体験ゾーンの映画たち2021見破録26

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第26回 世界の様々な国の、まだ見ぬホラー映画を紹介する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第26回で紹介するのは『クレイジーズ 42日後』。 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学