Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2019/03/20
Update

韓国映画『コンジアム』感想と解説。廃病院402号室からYouTube世代へ向けた恐怖の真相を考察|サスペンスの神様の鼓動15

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。

このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。

今回取り上げる作品は、2019年3月23日(土)より全国公開される、実在する廃病院を舞台に、7人の若者が遭遇する恐怖を描いた映画『コンジアム』です。

『コンジアム』はホラー映画ですが、今回は恐怖を盛り上げる手法に注目して、考察していきます。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

映画『コンジアム』のあらすじ


(C)2018 showbox and HIVE MEDIA CORP ALL RIGHTS RESERVED.
ホラーサイト「ホラータイムズ」を運営するハジュンは、幽霊の目撃情報が耐えない廃病院「コンジアム精神病院」へ潜入し生放送を配信する企画を立ち上げます。

「コンジアム精神病院」は「理由もなく患者が死亡した」「院長が患者を生体実験し殺害してきた」など、さまざまな噂が飛び交う場所です。

ハジュンは「ホラータイムズ」のメンバーに、一般参加者を含めた7名で「コンジアム精神病院」に挑みます。

特に、呪われていると噂されている「402号室」の謎を解く事をメインにし、アクセス数100万ページビューを目指します。

生配信当日、配信と現場の指示を行うハジュンをテントに残し、6人の若者が「コンジアム精神病院」へ潜入、そこで院長と患者が写った写真や、謎の落書きを目撃します。

それらの全ては、アクセス数100万ページビューを達成し、大金を手に入れる事を目的にした、ハジュン達が仕掛けた演出でした。

しかし、一般参加者の1人、シャーロットが恐怖に耐えられず発狂を始めた事を皮切りに、予想外の怪現象が多発するようになります。

現場は大パニックになりますが、ハジュンは「402号室」の謎を解くように指示を出し続け、ハジュンに不信感を持つようになった参加者たちの間にも亀裂が入り始めます。

果たして、彼らは「コンジアム精神病院」から無事に脱出できるのでしょうか?


恐怖を構築する要素①「402号室の呪い」


(C)2018 showbox and HIVE MEDIA CORP ALL RIGHTS RESERVED.
『コンジアム』の舞台は、20年以上前に廃業した実在する廃病院「コンジアム精神病院」となっています。

同施設は2012年に、日本の青木ヶ原樹海や軍艦島と共にCNNが選ぶ「世界7大心霊スポット」に選出され、年間1000人が訪れるほどの世界的に有名な心霊スポットです。

本作の前半は、ただの廃墟と化した「コンジアム精神病院」の内部探索がメインとなっています。

「コンジアム精神病院」の院長室やシャワー室、中には実験室や集団治療室という、廃病院ならではの恐怖スポットもありますが、ここでは「コンジアム精神病院」の内部を、観客に伝えるという事が目的になっています。

後半で起きるさまざまな怪現象は、映画前半で紹介された場所でのみ発生します。

これにより、前半はただの廃病院でしかなかった「コンジアム精神病院」が、後半では別の次元に入ってしまったかのような「恐怖の病院」に様変わりした感覚を、観客は味わう事になります。

前半部分で唯一足を踏み入れていない場所があります。

「コンジアム精神病院」の402号室、ここに潜む謎が本作の主軸となります。

恐怖を構築する要素②「カメラに映し出された恐怖」


(C)2018 showbox and HIVE MEDIA CORP ALL RIGHTS RESERVED.
『コンジアム』では、臨場感を出す為に、俳優に装着されたカメラでストーリーの大半が進行します。

ただ、それだけでは必要以上に閉塞感を出してしまう為、室内に仕掛けられたカメラや、ドローンの映像なども使用されています。

映画のキャラクター目線で、ストーリーが進行する、いわゆる「POV形式」と言えば、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『REC/レック』などを連想される方も多いのではないでしょうか?

主人公視点のカメラだけではなく、防犯カメラなどの映像も取り入れた映画『クロニクル』などの作品もありますね。

ですが『コンジアム』が他の作品と違うのは、実在する心霊スポットでの撮影の大部分を、実際に出演者が撮影した映像を使用しているという点です。

これにより、撮影の粗さなどが目立ち、逆に臨場感を生んでいます。

また、ハジュン達が事前に病院内に仕掛けたカメラにより、誰もいない場所での怪現象が映し出されるという場面があります。

誰もいない場所で突然起きる怪現象を、固定されたカメラが映し出すというのは、例えばネットの「恐怖映像」などに多い、監視カメラに偶然映った怪現象を見た時のような、ジワジワとした恐怖を感じます。

サスペンスを構築する要素③「徐々に積み重ねられていく恐怖演出」


(C)2018 showbox and HIVE MEDIA CORP ALL RIGHTS RESERVED.
『コンジアム』の恐怖演出の特徴は、徐々に恐怖が積み重ねられていくという部分です。

作品前半は、楽しそうに遊び半分で廃墟探索を行う若者達の様子が中心になりますが、「コンロの火が勝手に点く」「原因不明の通信障害」などの怪現象が徐々に多発するようになります。

当初は「気のせい」で済みそうな現象が、徐々に積み重ねられていき、観客の不安を積もらせた所で、クライマックスの「逃げる事は不可能」と覚悟するしか無い、恐怖の畳み掛けに繋がっていきます。

前述した、誰もいない所で起きている怪現象の映像によるジワジワした恐怖も、後半にかけて効果的になってきます。

映画『コンジアム』まとめ


(C)2018 showbox and HIVE MEDIA CORP ALL RIGHTS RESERVED.
『コンジアム』の撮影方法は、YouTubeに親しんだ若者世代に合わせています。

登場人物達も個性的に描かれており、サイト運営の為なら、手段を選ばない危険な一面を持つリーダーのハジュン。

メンバー全員の実質的なまとめ役で姉御的な存在のジヒョン。

おっとりとした性格で妹的なアヨンに、自由奔放な帰国子女シャーロット。

男性メンバーも臆病なジェユンに、いじられキャラのスンウクなど、身近にいそうなキャラクターたちで親近感を生んでいます。

本作では、自ら遊び半分で「コンジアム精神病院」に足を踏み入れた若者達を描いています。

彼らの廃墟探索というありがちな遊びが、取り返しのつかない事態を陥るという、身近な恐怖が話題を呼び『コンジアム』は韓国ホラー映画で歴代興行収入2位を記録するほど、大ヒットしました。

若者世代に合わせ、ドローンなどの実験的なカメラ撮影を取り入れた本作ですが、作品全体からは、1982年の映画『ポルターガイスト』や1974年の映画『悪魔の棲む家』のような、往年のホラー映画の雰囲気を感じます。

また、前半に登場した何気ない下着が、作品後半で「逃れられない恐怖」を生む効果的なアイテムとなっているなど、小道具の効果的な使い方も印象的な作品です。

『コンジアム』は若者世代に合わせた、新時代の王道ホラー映画と言えるでしょう。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…


(C)2017 MARROWBONE, SLU; TELECINCO CINEMA, SAU; RUIDOS EN EL ATICO, AIE. All rights reserved.

世間から外れて生きてきた4人兄妹が直面する、日常が崩壊していく恐怖を描くサスペンス・スリラー『マローボーン家の掟』をご紹介します。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら


関連記事

連載コラム

映画『Out Stealing Horses』キャスト【ステラン・スカルスガルドのインタビュー:スキャンダラスな話】FILMINK-vol.21

FILMINK-vol.21「Stellan Skarsgård: Scandilous」 オーストラリアの映画サイト「FILMINK」が配信したコンテンツから「Cinemarche」が連携して海外の …

連載コラム

映画『i-新聞記者ドキュメント』感想とレビュー評価。森達也監督が望月衣塑子を多面的に見つめた眼差し|TIFF2019リポート33

第32回東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ『i-新聞記者ドキュメント-』 2019年にて32回目を迎える東京国際映画祭。令和初となる本映画祭が2019年10月28日(月)に開会され、11月5日(火) …

連載コラム

映画『マイ・ツイート・メモリー』あらすじ感想と評価解説。松本卓也監督が男女の恋愛と“SNS”で独自の手法で描く|インディーズ映画発見伝11

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第11回 日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝 …

連載コラム

【ネタバレ考察解説】ほの蒼き瞳|結末感想とラストあらすじ評価。おすすめどんでん返し映画でエドガー・アラン・ポーの“繰り返される死の運命”に迫る|Netflix映画おすすめ130

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第130回 ルイス・ベイヤードの原作小説を『荒野の誓い』『アントラーズ』のスコット・クーパー監督が映画化し、「ダークナイト」シリーズで知られ …

連載コラム

映画『ザ・ルーキーズ』あらすじネタバレと感想。 ミラ・ジョヴォヴィッチがお調子者のド素人と世界を救う!?|未体験ゾーンの映画たち2020見破録20

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第20回 毎年恒例となった劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020」は、今年もヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田にて実施、一部作品 …

U-NEXT
【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学