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Entry 2020/03/06
Update

【アオキ裕キ インタビュー】映画『ダンシングホームレス』新人Hソケリッサ!で“オジサンたち”と人間が生きる根源を踊る

  • Writer :
  • 大窪晶

映画『ダンシングホームレス』は2020年3月7日(土)より公開。

路上生活経験者によるダンス集団「新人Hソケリッサ!」を追った、三浦渉監督によるドキュメンタリー映画『ダンシングホームレス』

本作は、路上生活者がダンスを通して“リアル”に生きようとする姿を映し出し、そこにある喜びや葛藤をも見つめていきます。


(C)Cinemarche

今回は映画公開に合わせて、「新人Hソケリッサ!」の主宰・振付家でありパフォーマーでもあるアオキ裕キさんのインタビューを行いました。

ソケリッサのメンバーを「オジサンたち」と呼ぶアオキ裕キさん。アオキさんがソケリッサを立ち上げた経緯や経験、「オジサンたち」と「踊り」を挑戦し続ける姿をお届けします。

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9.11で変化した「踊り」への価値観


(C)Tokyo Video Center

──本作は「踊り」の原点を強く感じさせる作品でした。作中、アオキさんは「2001年9月11日に起きた同時多発テロに直面し価値観が変化した」と仰っていましたが、具体的にはどのように変わったのでしょう。

アオキ裕キ(以下、アオキ):最初はマイケル・ジャクソンに憧れてダンスを始め、カッコ良さを追求するダンスなどに傾倒していました。それから東京に出てきて、タレントのバックダンサーをやれるようになり、CMの振付などに流れていったのですが、自己の中でダンスを表面的にしか捉えていないことに気がついたんです。

そんな時期に、ニューヨークで直にテロの衝撃を受けました。自身の身内が亡くなったことに対して泣いている方、「行方不明」の人間を必死に探している方、破壊に対して怒りに燃えている方など、多くの人々の姿を目の当たりにする中で、人間の中にある真相的な感情、普段の日常ではなかなか現れることのない人間の内なる驚異的な力を感じました。人間の身体の中には、“良い”も“悪い”も全て含まれている。そういった人間の存在というものを自分は捉えていなかったことに気づいた。もう少し「踊り」というものが、人の心に響くように出来ないかと考えはじめた。それほどまでに、今までやってきたことを全否定するぐらいのショックを受けたということです。

ニューヨークから東京に戻ってすぐ路上生活の人と踊りたいという考えに至った訳ではなく、何をやっていいのかわからないような時期があって、とにかく自分を見つめることからはじめました。舞踏や日本人の作った踊り、ヨガといったもので内側に目を向けることなどを繰り返し、自分を構成する要素とは一体何なのかを探求していきました。

そんな最中に、路上でお尻を出して寝ているオジサンの風景を見かけて「あっ」と思ったんです。そこからいろんなものが組み合わさっていき、この人が人前で立つ側になって、その時に何がうまれるかを見たいと思うようになったんです。

リアルな「人間」との出会い


(C)Tokyo Video Center

──路上生活者の方たちとの活動において、当初の理想とは離れた現実にも直面されたのではと想像します。

アオキ:そうですね。そのギャップはストレスでもあり、喜びでもあり、発見でもありました。リアルな「人間」と出会い、躍動を感じられる。これは素晴らしいことです。また自分が表面的なことを話したり、そういった態度で接すると、オジサンたちのリアルな感覚や言葉に飛ばされてしまい、だんだん僕の中でも殻が取れていきました。最初はみんなを率いてリーダーをやるぞと意気込んでいましたが、本当はそうではないことに気づかされました。皆が同等であり、そして僕自身が学ぶべき存在であると、他者との関係の重要性も学んでいきました。

──作中でもメンバーの皆さんが話されている中で、アオキさんは寡黙でいらっしゃる様子が印象的でした。

アオキ:オジサンたちは言葉で変わるのではなく、なにも考えずに、そのまま踊りを通して変化していく。僕自身は踊りというもので、如何に繋がっていくかを大事にしているので、基本的に言葉は必要以上には言わないことを大事にしています。

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嘘がない素材そのものをぶつけてくる身体


(C)Tokyo Video Center

──路上生活者の方たちだからこそ生み出される表現はありますか?

アオキ:一般の方向けにもワークショップを行うことがあるんですが、参加者のうちには踊りに対してある種の理想を持っている方がいます。ですが、オジサンたちにはそういった理想がなくて、出来ることをやるしかない。僕は踊りのヒントになるキーワードを言葉で渡して、それをなんとか自分の中の解釈でカタチにするという方法をとっています。その時に身体からグッと出てくる何かがあるのですが、多くの人は、何らかの理想へと身体をハメようとして、自分自身を変えようとしたり矯正していきます。

オジサンたちは踊りに対しての理想がない分、見たこともない動きが表れる。身体そのものに則した動きをするんです。それは、その人それぞれの生きてきた骨格、その人の理にかなったカタチであり、何かを捨てた身体の強さを感じられます。もちろん、中には恥ずかしくて身体を大きく動かせない人もいるし、自分を見て欲しい一心の人もいたりと、その点は一般の方たちと本質的には同じです。ですがオジサンたちそれぞれに共通するのは、嘘がない素材そのものを本当にぶつけてくるという点です。

──そういった表現の共通性を気づけるほどにまで活動を継続していく中では、苦労も多かったのではないでしょうか?

アオキ:最初はいろんなことが順当に行くように「遅刻しない」「休む日は電話する」といったルールを作ったんです。すると、みんなが死んだようになってしまって(笑)。「これは違う」と今はルールをなくし、ただ人に危害を与えないことぐらいで、あとはもう好きにやってもらっています。来れない分だけ人前に立って拍手をもらえるのが少なくなるわけで、みんな踊りの面白さも感じているし、必然的にそれぞれが稽古に来て懸命に取り組んでいる。そこまでにたどり着く過程は苦労といえば苦労でしたが、そういった全てを活かして観せる。それも自分たちの強みと考えて活動しています。

今もずっとともに活動していたメンバーの1人が大阪へと行ってしまい心配しているのですが、一方でそれはその人の「自由さ」ですし、急に東京の家を捨てて行ってしまうことは僕には出来ない凄いことで、そういう存在も尊重して自分たちの次に活かしていけたらと考えています。あとは経済的な面、その苦労は物凄くありますね(笑)。

踊りが社会と繋がるツールとなる


(C)Cinemarche

──「踊る」という行為を「観せる」ということは、他者との繋がりを持つことでもあります。特に路上生活の方たちは社会から離脱し、違う生き方を選択された。社会と繋がりを持つことについて、皆さんはどのように感じているのしょう。

アオキ:みんなからは「ソケリッサがなかったらもう社会とは繋がらないで過ごしちゃう部分があるから、それは怖い」という話は聞きました。踊りが世の中と繋がるツールになっている。公演として人前で踊ることもそうですし、オジサンたちが集まるとそこにお客さんが来たり、見学者が来たりする。様々な環境や立場を通じて、いろんな人に出会うことになる。そういったあらゆる「繋がり」が生まれるため、ソケリッサの活動全体がオジサンたちと世の中との接点になっています。

──アオキさんご自身も演者として路上生活の方たちと一緒に踊っています。アオキさんがソケリッサで踊る理由は何ですか?

アオキ:ひとつは、「対比」として観てもらいたいからです。路上生活をしている嘘のないオジサンたちの身体と、「型(カタ)」から覚え、内側は二の次で「型」のカッコ良さを求めてきた中途半端な身体との対比です。オジサンたちといることで逆に浮き立ちますし、もしかしたら存在として「現代人」を投影しているのかもしれない、そういう立場でオジサンたちとの関わりを作品として観せていく。

舞台では、オジサンたちのアプローチと全く違う部分で自分の身体は存在しています。もしかしたら自分が踊りを追求するならば、田中泯さんのように山奥に行って自然を常に感じながら、感覚を広げて生きるということに向き合う生活をすべきかもしれませんが、自分はCMやタレントのバックダンサーを経た身体だから、逆に中途半端な身体を矯正せずに存在として曝(さら)け出す。その上で、オジサンたちとの対比を観てもらう。そんな考え方です。

また「踊り」は日常の延長であり、自分が自由になる手段だと思っています。それは偶々「踊り」というものと出会ったからこそ、それを使っているだけなのかもしれません。不自由さから逃げる為の手段ですね。

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「ソケリッサの活動」という「アート」を発信する


(C)Tokyo Video Center

──仰るようにソケリッサの踊りには「型」に収まらない魅力が溢れています。一方で、これは観る人によっては困惑する可能性もありますが、活動の中で経済的事情も含め葛藤することもあるのでしょうか。

アオキ:今の世の中の仕組みは、お金が儲かる方法があり、みんなはそこに自身をハメることで価値を付け、お金を儲けていく。それは一つの「型(カタ)」だと思うんです。「アート」という括りとして考えている踊りに、自分の役割としては、こちらから「ソケリッサの活動」という「型」を提案し価値を付ける。そこを責任を持ってやっていかないと芸術がブレていきます。だからこそ、今の世の中にはさまざまな「芸術」がブレはじめている部分があるとも感じています。

自分の使命は、ここにお金が付くために、需要があることを理解してもらう、発見してもらうことです。もしかしたらもう少し時間がかかるかもしれないし、それはわかりませんが、この映画がきっかけとなっていろんなところに自分たちの活動が届くチャンスになれば嬉しいですね。

白黒で割り切れない「生きる身体」を探求する


(C)Cinemarche

──ソケリッサでの今後の新しい目標などはありますか?

アオキ:活動を始めた当初、他の路上生活者の方たちからは「上手く行くわけない」「路上生活者であることを公言しなきゃいけないわけだから、誰もやる人はいない」という声が強かったのですが、ずっと続けてきたことによって、そういう声も少なくなり、周りの路上生活者の方たちからの言葉も「やりたいけれど、今ちょっと時間がなくて」「やりたいけれど、まだ心の準備が出来てなくて」といったものへと変わっていき、それは続けてきた強みに感じています。以前は路上生活者が「踊る」ということはダメだという風潮がありましたが、段々と周りの価値観が変わってきているのかもしれません。

オーディエンスも、最初は福祉関係の方が多かったのですが、最近はダンスに興味がある方や、アートに興味がある方が増え、若い人の中でもチラホラ興味を持ってくれる方が増えてきています。そういう存在に自分たちの活動やオジサンたちのやっていることが、何かの力になっていったり、反面教師でも、これからを担う次の世代に「響く」ということを大事にしていきたいです。

アオキ:「踊る」という行為はもっともっと世の中で自由にあるべきで、それに向かい続けていきたいですね。また、日本のみならず海外の方にも観てもらいたいです。違う文化背景を持つ方に、オジサンたちの踊りがどう捉えられるのか。例えば、物質的に豊かではない貧困の国で表現をした時にはどうなるのか。そういったチャレンジはどんどんしていきたいです。

──最後に、ソケリッサの「アート」とは?

アオキ:「生きる身体」かな。それはもしかしたら、ごく普通のことだけど、とてつも無く世の中に欠けているものかもしれないです。なぜなら「生きる」ことを意識しなくても、人間は生きていけちゃいますから。ソケリッサの持っているものはそういう部分でしょうか。僕はそんなオジサンたちに興味を持っていて、弱々しいもので揺れているものかもしれないけれど、そこに「生きる身体」がある。そんなとりとめもなく、言葉にできない、白黒では割り切れない塊を自分は探求し観せていきたいです。

インタビュー・撮影/大窪晶

アオキ裕キ(あおきゆうき)プロフィール


(C)Cinemarche

兵庫県出身。ダンサー/振付家。

1987年より東京にて平田あけみ氏よりジャズダンスを教わり、テーマパークダンサーとして活躍。チャットモンチーの「シャングリラ」やL’Arc-en-Cielの「STAY AWAY」を初め、数多くのMVやCMなどの振付けを手掛けます。

2001年NY留学時に9.11に遭遇。帰国後、自身の根底を追求。2005年ビッグイシューの協力とともに路上生活経験者を集め、ダンスグループ「新人Hソケリッサ!」を開始。言葉による振り付け等を行い、個人しか生み出せない体の記憶を形成した踊りは、社会的弱者への社会復帰プログラム、またダンス教育としてのアプローチとしても定評を得ます。

2004年NEXTREAM21最優秀賞受賞。一般社団法人アオキカク主催。

映画『ダンシングホームレス』の作品情報

【日本公開】
2020年(日本映画)

【監督】
三浦渉

【キャスト】
アオキ裕キ、横内真人、伊藤春夫、小磯松美、平川収一郎、渡邉芳治、西篤近、山下幸治

【作品概要】
路上生活経験者によるダンス集団『新人Hソケリッサ!』を追ったドキュメンタリー作品。

三浦渉監督は学生時代、祖母を描いたドキュメンタリー作品によって数々の賞を総なめしたという経歴の持ち主ですが、長編ドキュメンタリーは本作が初監督となります。

キャストは実名で出演するホームレスたちと、『新人Hソケリッサ!』主宰者であるダンサー/振付家のアオキ裕キです。

映画『ダンシングホームレス』のあらすじ


(C)Tokyo Video Center

普段その姿を目に止めることもない、路上生活者。彼らは何を思い、生きているのか。

「新人Hソケリッサ!」は、路上生活者や路上生活経験者だけで構成されたダンスグループ。彼らは実名で登場し、その日常が包み隠さず描かれます。

メンバーは家庭内暴力や病気、社会的な挫折を味わい、疎外感に苛まれながらホームレスになりました。

グループの主宰者は、振付家のアオキ裕キ。あらゆるものを捨ててきたからこそ、唯一残された原始的な身体から人間本来の生命力溢れる踊りが生み出される。

人生からすべてをそぎ落とした彼らは、生きるために舞う。

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