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Entry 2020/02/28
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ソケリッサ映画『ダンシングホームレス』感想レビューと評価。振付師アオキが路上生活者の魂の叫びを“肉体表現ダンサー”と化す

  • Writer :
  • 星野しげみ

映画『ダンシングホームレス』は2020年3月7日(金)より公開。

社会の片隅でひっそりと生きているホームレスたち。

振付師のアオキ裕キが指導するダンス集団『新人Hソケリッサ!』は、ホームレスや路上生活経験者だけで結成されています。

『新人Hソケリッサ!』を追ったドキュメンタリー映画『ダンシングホームレス』が、2020年3月7日(金)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開となります。

わけありメンバーたちはなぜ踊るのでしょうか。本作はこれまでの経歴も日常もさらけだしてダンスをする彼らをカメラが捉えます。

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映画『ダンシングホームレス』の作品情報

(C)Tokyo Video Center

【日本公開】
2020年(日本映画)

【監督】
三浦渉

【キャスト】
アオキ裕キ、横内真人、伊藤春夫、小磯松美、平川収一郎、渡邉芳治、西篤近、山下幸治

【作品概要】
路上生活経験者によるダンス集団『新人Hソケリッサ!』を追ったドキュメンタリー作品。

三浦渉監督は、学生時代に制作した、祖母を描いたドキュメンタリー作品が数々の賞を総なめという経歴ですが、長編ドキュメンタリーは本作が初監督となります。

キャストは実名で出演するホームレスたちと、『新人Hソケリッサ!』主宰者であるダンサー・振付家のアオキ裕キです。

映画『ダンシングホームレス』のあらすじ

(C)Tokyo Video Center

人気の少ない早朝の公園や中央分離帯などで、1人の男性が躍っています。2人目、3人目とダンサーは次々と変わります。変わらないのは、ダンサーが皆ホームレスだということ。

このホームレスたちにダンスの指導をしているのが、振付師のアオキ裕キです。彼はある時、都会の街の片隅でひっそりと生きているホームレスの存在に気が付きました。

路上でライブをする若者たちの隣で寝そべっている“おじさん”のホームレス。

いったい彼らは何を思い、生きているのか。彼らの思いをダンスで表現したら面白いのではないか。

ふとひらめいたアオキは、路上生活支援団体『ビッグシュー』の協力のもと、2005年に路上生活者のダンス集団『新人Hソケリッサ!』を立ち上げます。

名前の「H」は、ヒューマンであり、ホームレスでもあるということ。やがて、踊りたいという希望者が徐々に集まってきました。

新宿南口のバスロータリーをねぐらとする西篤近は、自分のやりたいことをしたいと仕事を辞めて上京。都会でダンスをしたいというその夢は色褪せ、金銭問題、人間関係に疲れて、いつしかバスロータリーの片隅で寝ているだけのホームレスとなっていました。

ある時、これではいけないと思い立ち、ビッグイシューの雑誌販売の仕事を始めます。ビッグイシューの事務所に、ダンス集団『新人Hソケリッサ!』の部員募集の張り紙があり、西は迷うことなくメンバーに加入。

メンバーには、仕事をしていないホームレスもいれば、生活保護を受けながら仕事をこなし、『新人Hソケリッサ!』の練習に来る者もいました。

最年長の小磯松美は若い頃にイギリスで暮らした経験を持っています。日本に戻って来ても、その英語力を活かせず、仕事も結婚も長続きしませんでした。彼は「仕事からも結婚からも逃げてばかりの人生さ」と言います。

突如頭痛が襲ってくるメニエール病という難病を抱える横内真人。新聞配達店で働いていましたが、病気のせいで仕事に就けず、ホームレスになります。

15歳で家庭から逃げ出した平川収一郎は、年齢をごまかしてパチンコ店や新聞配達員をし他の地、大阪・西成でホームレスになっています。

人生の目標を失った者、定職に就けない者、病気、家庭内暴力など、様々な過去を持つメンバーたち。

日々の生活に疲れ果てたり、気持ちの乗らない時は、ダンスの練習に来られない日もあります。わずか2人だけの練習となることも少なくない中、アオキはレッスンを続けました。

そしてついに、ホームレスダンサーグループ『新人Hソケリッサ!』は、大阪・西成区でのイベントに出演するため、大阪へ赴くことになり…。

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映画『ダンシングホームレス』の感想と評価

(C)Tokyo Video Center

振付師アオキが閃く、“路上生活者は身体の五感が原始的だ”

振付師のアオキ裕キ率いる異色ともいえるダンスグループ『新人Hソケリッサ!』の活動を、約1年かけて三浦渉監督が追ったドキュメンタリーです。

路上生活をする彼らは身体の五感が原始的な身体に近いから、人間本来の生命力溢れる踊りが出来るのでは? 

アオキ裕キが路上で寝ているホームレスを見て閃いた考えは、この独特なダンススタイルの誕生となるきっかけでした。

キレッキレッのスマートなダンスでもなく、バレリーナのような優雅なダンスでもないホームレスのダンス。彼らのダンスからは、もがき苦しむ感情や心の奥から湧き上がる思いが感じられ、ホームレスたちの自我が「表現」されているかのようです。

集大成ともいうべき作品は、ラストダンスの「日々荒野」。荒野の中をあてもなく彷徨うホームレスの現状を追求したようなダンスです。

原始的といえば原始的ですが、泥臭く汗の匂いが感じられるそのダンスはとても力強いもの。自分たちの葛藤が目で見るように描かれています。インパクトがありいつの間にか魅了されました。

傍観者の「踊るなら働け」と当事者「魂の叫び」

ホームレスのダンスについては「踊るなら働け」などという批判的な意見もあります病気や家庭内暴力、社会的疎外感からホームレスとなったメンバーには、落ち込むような意見ですが、それでも彼らはダンスを続けています。

気持ちの赴くまま、自由にやらせる主義のアオキ裕キ流のダンスが、ホームレスには自分を取り戻せる居心地の良いところとなっているようです。まるで肉親のようにホームレスたちの行動を全て受け止めているアオキ裕キの存在が大きいのでしょう。

自己表現の面白さが分かるにつれてダンスにのめり込むメンバーたち。その汗にまみれながら踊る姿に、挫折から這い上がろうとする魂の叫びが感じ取れました。「生きる」躍動感に満ち溢れたダンスドキュメンタリーです。

まとめ

(C)Tokyo Video Center

2005年から活動を始めている路上生活経験者のダンス集団『新人Hソケリッサ!』

「新人」は「ダンス界の新人」「ニュータイプ」、「H」は「Homeless」「Human」「Hope」、「ソケリッサ!」は「それ行け!」の意味を含むそうです。

ドキュメンタリーの撮影は主として東京や大阪で行われ、ダンスの練習風景や路上ダンスツアーの様子が捉えられています。

雨の中で泥だらけになりながら踊るシーン、路上という空間を上手く利用して複数で葛藤するシーンなど、ホームレスたちがダンスに熱中する姿は、社会への自己主張といえるかもしれません。

彼らが重い口を開いて語る壮絶な過去の物語を知ると、もがき苦しむような「表現」に重点をおいたダンスが、彼らの「生きる姿」そのものに思えます。

『新人Hソケリッサ!』創立10周年を記念して実施した東京近郊路上ダンス「日々荒野」ツアーは、2018年8月東池袋中央公園で終幕しました。

都会での路上浄化作戦などで、ホームレスたちの行き場がどんどんなくなってきていますが、『新人Hソケリッサ!』でなければできないダンスは、着々と人々の記憶に根付いてきています。

彼らがどこに追いやられようとも、社会の片隅で自分たちの「生きる舞」を披露していることでしょう。

ドキュメンタリー映画『ダンシングホームレス』は、2020年3月7日(金)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開です。

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