実在の最恐心霊スポット×伝説の怪談「牛の首」
恐怖の村シリーズ第三弾『牛首村』!
九州に実在する心霊スポットを題材にした『犬鳴村』(2020)、自殺の名所として有名な富士の樹海を舞台にした『樹海村』(2021)に続く村シリーズ第三弾『牛首村』。
北陸最恐の心霊スポット・坪野鉱泉を舞台に、「その恐ろしさゆえに誰もその内容を知らない」とされる伝説の怪談「牛の首」をモチーフに新たな恐怖譚を生み出しました。
本作を手がけた清水崇監督曰く、『犬鳴村』『樹海村』そして『牛首村』は「恐怖の村」シリーズであると同時に「血筋の三部作」でもあるとのこと。
本記事では、映画『牛首村』をネタバレ有りあらすじとともに紹介していきます。
映画『牛首村』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督】
清水崇
【脚本】
保坂大輔、清水崇
【出演】
Kōki,、萩原利久、高橋文哉、芋生悠、大谷凜香、莉子、松尾諭、堀内敬子、田中直樹、竜のり子、麿赤兒
【作品概要】
清水崇監督が手がけてきた「恐怖の村」シリーズの第三弾。富山県に実在する北陸最恐の心霊スポット・坪野鉱泉を舞台に、「その恐ろしさゆえに誰もその内容を知らない」とされる伝説の怪談「牛の首」をモチーフとした物語が描かれる。
主演は本作で映画初出演・初主演を果たしたKōki,。「牛首村」にまつわる呪いと恐怖に巻き込まれてゆく女子高生姉妹を一人二役にて演じた。
映画『牛首村』のあらすじとネタバレ
ある夜、肝試し配信をすべく、多くの曰くや体験談の数々によって恐れられている温泉旅館の廃墟、通称「坪野鉱泉」へと訪れた女子高生のアキナ(大谷凜香)とミツキ(莉子)、そして詩音(Kōki,)。
顔出しを嫌がる詩音に「牛の首」を模したゴムマスクを被せるアキナ・ミツキ。そして「異世界につながる」と噂される建物内のエレベーターに、詩音を無理やり閉じ込めてしまいます。
エレベーターのカゴ内に、ひとりきりにされた詩音。すると彼女の腰にボロボロに傷ついた何者かの両腕が絡みつき、詩音の恐怖は頂点に達します。
またカゴの天井からも、何者かの手が降りてきます。詩音はその手を掴もうとし、腰に絡みつく両腕から逃れようとしますが、結局天井から降りてきた手を掴むことはできず、誤ってその手に深い引っ掻き傷を残してしまいます。
異変に気づいたアキナ・ミツキはエレベーターのドアを開けようとしますが、突如昇降路内のカゴが動き出し、最下階へと落下。しかし轟音とともに最下階へと着地したカゴの中に、詩音の姿はありませんでした。
……どこかの部屋の窓ガラスに指で蝶と花の絵を描く、二人の少女。少女たちは外で虫取りをするが、一人が蝶を殺してしまう。蝶を埋葬し終えた彼女は、「殺しちゃったの?」と尋ねてきたもう一人の少女に「ひとりぼっちじゃ、かわいそう」と答える……そんな夢から目覚めた、女子高生の奏音(Kōki,)。
奏音は普段通りの日常を送りますが、スマホの音声認識端末の異常や自室の外から感じとった何者かの気配、何よりもいつできたのか分からず、明らかに自然にできたものではない手の引っ掻き傷を無視できずにいました。
ある日、バイト先に訪れたクラスメイトの蓮(萩原利久)にアキナたちの肝試し配信の動画を見せられる奏音。そして彼女は、動画内で誤って牛首マスクを外してしまった詩音……どこの誰かも知らない、しかし自分とあまりに瓜二つな女子高生の顔を見て驚きます。
スマホの音声認識端末や作曲アプリの異常、そして泣き続ける「牛頭人身」の少女の幻覚など、奏音が周囲から感じとる異変は次第に強まっていきました。ついに彼女は、動画内に出演していた自分と瓜二つな「あの子」に会うため、蓮とともに坪野鉱泉がある富山県へと向かうことを決心します。
夜行バスで富山県に到着した奏音・蓮。名物である蜃気楼で見えた「無数の、二人組の人影」奏音が違和感を抱きながらも、二人は富山県で暮らしているという山崎(松尾諭)と出会います。
二人と知り合った山崎は、自身の車で目的地である坪野鉱泉へ案内することに。またその道中での車内にて、奏音・レンは山崎から「牛首トンネル」とそのトンネル内にあったという奇妙な地蔵、そして知ってはならない怪談「牛の首」の噂を聞かされます。
「車の前に突如女が飛び出してきて轢いてしまうが、轢かれた女はどこにもいなかった」というアクシデントに遭遇しながらも、坪野鉱泉に到着する三人。山崎は外へ残り奏音・蓮は建物の探索を始めますが、山崎は「屋上から身を投げ続ける女」に遭遇してしまいます。
一方、奏音は詩音が乗っていたエレベーターへ向かいます。原因不明の手の引っ掻き傷……夢の中で誰かを助けようとして伸ばした手についた引っ掻き傷がやはり「ここ」で生じたのだと察しつつも、奏音は最下階に落ちたエレベーターのカゴ内を確かめようとします。
カゴ内の壁に設置されていた鏡には、指で描かれた蝶と花の絵が。それは奏音が夢で見た絵そのものでしたが、スマホの音声認識端末が以前同様に「ヨリシロ(依り代)」を勝手に検索し始め、ひとりでにカゴ内の鏡が割れるという怪現象も目の当たりにしました。
その後、奏音・蓮は例の動画を山崎に見せた際に、詩音らの着ている制服が山崎の卒業校と同じものだったことが判明。また彼女らのSNSに投稿されていた写真に映っていた海岸も分かり、奏音・蓮はその海岸を訪ねることにします。
映画『牛首村』の感想と評価
「血筋の三部作」最終作には『犬鳴村』のあの子も!
2020年の『犬鳴村』、2021年の『樹海村』、そして2022年の『牛首村』と続いてきた「恐怖の村」シリーズ。シリーズ全作を手がけてきた清水崇監督は、『牛首村』までの三作は「血筋の三部作」でもあると語っています。
その集大成にあたる『牛首村』では、一作目・二作目ともに登場しいずれも悲惨な死を遂げているパラレルワールドならぬ「パラレルキャラクター」のアキナをはじめ、過去作に登場したキャラクターも再登場しています(実は本作のカフェの場面では、映画『ホムンクルス』主人公の名越進にそっくりな男の姿も)。
『牛首村』作中、詩音に会うために坪野鉱泉がある富山県に向かった奏音は、夜行バスの車内でひとりの少年と出会います。そしてその少年は、ふとした瞬間、犬のような唸り声とともに口元を拭った……彼こそが犬鳴村の村人の子孫であり、アキナ同様『犬鳴村』『樹海村』に登場し続けてきた遼太郎なのです。
『樹海村』での再登場時にも、樹海村とコトリバコの呪いを察知していた遼太郎。その犬以上の嗅覚は『牛首村』でも発揮されており、奏音とその妹・詩音を侵蝕する「牛の首」の呪いを感じとっていました。
シリーズ三作の主人公はなぜ全員「音」の名前?
『犬鳴村』の主人公の名は「奏」。『樹海村』の主人公とその姉の名は「響」と「鳴」。そして『牛首村』の主人公とその妹の名は「奏音」と「詩音」……。
改めて並べてみるまでもなく、これまでシリーズの作品を観続けてきた方の誰もが「なぜ主人公は全員、『音』にまつわる名前なのだろう?」と疑問を持たれたはずです。
『犬鳴村』でのわらべ歌と犬の唸り声、『樹海村』での声なき声など、音/声による恐怖の演出が描かれてきた過去のシリーズ作品。
『牛首村』においても、奏音・詩音の祖母であり怨霊と化したアヤコの姉・妙子が歌うわらべ歌が登場します。しかし何よりも重要なのは、本作のモチーフとされている都市伝説「牛の首」最大の特徴が「誰もその内容を知らない、聞いたことがないが流布されてきた怪談」という点です。
怪談の名すらほとんどの文献に記されず、誰もその内容の全容を知らないし存在の証拠となるソースもない。ところが、その存在だけは流布されてきた。それは「真実か否かは怪しいが、人々の間で語られ続けてきた恐ろしい話」=「怪談」の特徴そのものといえます。
そして「これは○○から聞いた話なんだけど……」という怪談お決まりの定型句の通り、怪談が生じる「虚実性」が成立するのになくてはならないのが、「記録する」でも「読む」でも「語る」でもない、「聞く」という行為なのです。
それこそが、世間に流布されてきた都市伝説/怪談を題材にしたシリーズの主人公たちに「音」にまつわる名を命名した理由なのではないでしょうか。
まとめ
「遠方から迫り来る脅威」を感知する時、最も重要なのが「震え」という音であることは、人間のみならずほとんどの動物が同じであるといえます。
鳴き声・うめき声・呼吸音といった音声としての空気の震えはもちろん、怪獣映画のように巨大な怪物が歩いてくる時の地響きもまた「震え」の一部といえます。つまり「震え」とは、生命の危機という根源的な恐怖を感知するために最も重要な要素なのです。
『犬鳴村』『樹海村』そして『牛首村』の主人公たちの名が皆「音」にまつわる名であるのは、「震えを伴う恐怖を感知する者」としてのホラー映画の主人公には最早必然ともいえるネーミングなのだといえます。
また『牛首村』のラストにて、怨霊アヤコとその呪いに憑かれたままである詩音の名だけが、ただの震えや音声ではない「言葉」としての意味も持つ「詩」を冠していること……「詩(シ)」は「死(シ)」を連想させる音であることも、本作が「血筋の三部作」の最終作たる所以なのかもしれません。