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『幽霊はわがままな夢を見る』あらすじ感想と評価解説。加藤雅也・深町友里恵らキャスト陣が贈る下関発のオリジナルムービー

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

映画『幽霊はわがままな夢を見る』は2024年6月29日(土)より渋谷ユーロスペースほかで全国順次公開!

女優になる夢破れ、故郷の下関に帰ってきたユリ。友達もなく、仕事もない……そんなユリは父が経営するラジオ局「カモンFM」を手伝うことになります。

ところが「カモンFM」も倒産寸前で、スポンサー命令で急遽ラジオドラマを企画することに。オーディションには様々な人々が押しかける中、「カモンFM」は起死回生を図れるのでしょうか。

映画『幽霊はわがままな夢を見る』は、『ハードロマンチッカー』など故郷・下関を舞台に映画を制作し続けてきたグ・スーヨン監督が、具光然と兄弟で手がけた脚本による下関発のオリジナル・ムービーです。

下関出身の深町友里恵が主人公ユリを演じたほか、ユリの父・昌治役を本作が生まれるきっかけを生んだ一人でもある俳優・加藤雅也が務めました。

映画『幽霊はわがままな夢を見る』の作品情報


(C)株式会社トミーズ芸能社

【公開】
2024年(日本映画)

【監督】
グ・スーヨン

【脚本】
グ・スーヨン、具光然

【キャスト】
深町友里恵、加藤雅也、大後寿々花、西尾聖玄、山崎静代(南海キャンディーズ)、佐野史郎

【作品概要】
キングダム」シリーズなどで知られる俳優・加藤雅也が、下関出身のグ・スーヨン監督と深町友里恵に映画制作を提案したことで企画が始まった、下関発のオリジナル・ムービー。

グ・スーヨン監督が具光然と兄弟で執筆した脚本で制作された本作は、平家が滅亡した本州⻄端の地・下関で新たなラジオドラマとして語られる怪談『⽿なし芳⼀』、女優の夢破れたユリが出会う不思議な存在たちなど、独特な世界観で描かれるユリの成長譚を描きます。

火だるま槐多よ』(2023)の佐野史郎、お笑いコンビ「南海キャンディーズ」の山崎静代のほか、オーディションを勝ち抜いた新鋭・西尾聖玄や地元の下関キャストたちまで、様々なキャストが出演しています。

映画『幽霊はわがままな夢を見る』のあらすじ


(C)株式会社トミーズ芸能社

女優を夢見て上京するも、夢破れ故郷・下関に戻ってきた富澤ユリ(深町友里恵)。

友だちもなく仕事もなく、やむなく父・昌治(加藤雅也)が経営するラジオ局「カモンFM」を手伝うことに。

ところがカモンFMは、倒産寸前で怖いスポンサーが閉鎖を迫っていた。さらにユリの周りを、不気味な青年と元同級生がつきまとうように。

そんな折にスポンサーから提案され、地元に残る怪談『耳無し芳一』をモチーフにラジオドラマに取り組むことになるが……。

映画『幽霊はわがままな夢を見る』の感想と評価


(C)株式会社トミーズ芸能社

燻った心と共鳴する「幽霊」たち

俳優・加藤雅也が中心となり、下関出身のグ・スーヨン監督と同じく下関出身の深町友里恵を主演で制作された『幽霊はわがままな夢を見る』

深町友里恵が演じる主人公ユリは、女優になることを夢見て上京するも、夢破れて下関に帰ってきます。そして本作では、ユリの燻った心と共鳴する存在として二人の「幽霊」が登場します。

一人は謎の青年で「わがままばかり言う君は死んじゃったほうがいい」と囁きます。「それもありかな」と一瞬考えるものの、現状を認めて何かをしようにも「何か」が自分の中で定まっていないユリは、高すぎるプライドも捨てきれずにいます。

もう一人は、存在感の薄いお菊という女性で、ユリとも「知り合い」だったと言います。厭世的な空気を纏う二人の幽霊と、くさくさしたユリのどうしようもなさが共鳴していきます。

道を見失い「わがまま」を言ってしまう先に


(C)株式会社トミーズ芸能社

そんなユリに時に厳しいことを言いつつも、ラジオ局の仕事などチャンスも与えてくれる父。実は父もまた、かつてユリのように夢破れた一人なのかもしれません

皆それぞれに、自分の将来に希望を抱き「何か」を求めています。しかし、その夢は叶わないこともあるし、叶うこともある。また夢を追う過程で違う道を見つけたり、それぞれ自分の道を見つけ、自分の場所に収まっていくこともあります。

そしてユリは、自分が突き進んでいたはずの道を途中で見失ってしまった、うまく大人になれていない状態にあります。

皆が皆うまく大人になれるわけではなく、途中で挫折し、見失ってしまう人が大多数なはずです。本作は、そんな消えることのない青さ、どうしようもなさを隠すことなくありありと伝えます

ユリの「わがまま」は、どうしようもないのを分かっていても誰かに、何かにぶつけてしまいたいという人の弱さでもあります。そこに「幽霊」という不思議なスパイス、「下関」という街の歴史が重なり、独特のユーモラスな世界観を形作っています

道を見失い、「わがまま」を言うユリが辿り着いた先にあるものとは。その結末を観終えた時、「挫折しても別にいいんだ、大丈夫だ」と誰かに背中をさすってもらえたような気持ちになるはずです。

まとめ


(C)株式会社トミーズ芸能社

下関出身のグ・スーヨン監督が手がけた、下関発のオリジナル・ムービー『幽霊はわがままな夢を見る』。

下関は平安時代、平家と源氏が最後の合戦「壇ノ浦の戦い」を繰り広げた地として知られ、壇ノ浦の合戦で敗北したことで平家は滅亡へと向かっていきます。

また合戦の際、敗北を知った平家方の二位尼殿(平清盛の母)は、幼き安徳天皇を抱いて壇ノ浦の海へと身を投げました。そんな非業の死を遂げた安徳天皇を祀る神社が、映画作中にも登場する下関の赤間神宮です。

敗戦した平家一門も海へ身を投げるも、源氏方に引き上げられたり、そのまま逃げ延びて生き続けた人々もいました。そのような平家の落人にもまつわる逸話は、のちに伝説のように各地で伝承されています。

さらに下関は、幕末に四国(イギリス、フランス、アメリカ、オランダ)艦隊によって砲撃されたり、日清戦争の講和条約を結んだ地でもあります。

様々な歴史の重要な地点となっている下関で足掻くユリもまた、人生の転換期を迎えています

また、様々な平家の伝説がある下関という地で、思い残しがあるがゆえに存在する「幽霊」が登場するのも、ある意味マッチしていると言えるのかもしれません。

映画『幽霊はわがままな夢を見る』は2024年6月29日(土)より渋谷ユーロスペースほかで全国順次公開!




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