映画『WAVES/ウェイブス』は2020年7月10日(金)よりロードショー。
映画界に新たな可能性と衝撃をもたらした映画『WAVES/ウェイブス』が2020年7月10日(金)より公開されます。
一家の崩壊と再生の物語を、鮮烈な映像と現代のミュージックシーンを牽引するアーティストたちの31曲もの楽曲によって彩ったヒューマンドラマです。
本作はすでに、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞2019年のトップ10や、ハリウッドレポーター誌とヴァラエティ誌が選ぶ2019年のトップ10映画に選出され、批評家から高く評価されています。
トレイ・エドワード・シュルツ監督とスタジオA24による映画『WAVES/ウェイブス』をご紹介します。
CONTENTS
映画『WAVES/ウェイブス』の作品情報
【日本公開】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
Waves
【監督】
トレイ・エドワード・シュルツ
【キャスト】
ケルヴィン・ハリソン・ジュニア、テイラー・ラッセル、スターリング・K・ブラウン、レネー・エリス・ゴールズベリー、ルーカス・ヘッジズ、アレクサ・デミー
【作品概要】
第75回ゴールデングローブ作品賞を受賞した『レディ・バード』や、第89回アカデミー作品賞に輝いた『ムーンライト』など個性と才能の光る数々の映画を世に送り出し、世界から注目を集めるスタジオA24による映画『WAVES/ウェイブス』。
監督は2015年の長編デビュー作『クリシャ』でニューヨーク映画批評家協会賞の最優秀新人賞など数々の賞を受賞し、2017年に『イット・カムズ・アット・ナイト』でさらに知名度を上げたトレイ・エドワード・シュルツです。
兄役のケルヴィン・ハリソン・ジュニアと妹役のテイラー・ラッセルは、ハリウッド批評家協会賞のブレイクスルー・パフォーマンス賞受賞他、英国アカデミー賞ライジングスター賞など数多の映画賞でその演技力の高さを評価され、今後を期待される俳優です。
また、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で様々な賞を受賞し、今後も多くの出演作を控えているルーカス・ヘッジズが妹と関係を持つ重要な役で出演しています。
映画『WAVES/ウェイブス』のあらすじ
アフリカ系アメリカ人のウィリアムズ一家は、堅実な家庭。父親は愛情ゆえに子どもたちに厳しく、特にレスリングの高校生選手の息子タイラーには時にスパルタな一面も見せ、非常に厳しくしつけをしていました。
体力も精神力も試される激しいレスリングの試合や、日々の生活の中で厳しい父からのプレッシャーを感じながら暮らしてたタイラー。彼の一番の喜びは愛する恋人アレクシスと過ごす時間。
そんなタイラーの人生の歯車がとある出来事から少しずつ狂い始めます。
そして彼が起こした事件により家族に歪みが生まれ始め、目立つ兄の陰で地味に大学生活を送っていた妹エミリーの生活は一変。
そんな中出会った青年と少しずつ心を通わせ始めたことで、エミリーは家族について改めて見つめ直し始めます。
映画『WAVES/ウェイブス』の感想と評価
本作の凄いところは、独特な視覚効果やインパクトのある楽曲を多用しているのに、違和感や慌ただしさを感じさせず、効果的に観客を物語へ引き込む点です。
美しい音楽や色彩で彩られているのは、原因は異なれど誰もが経験しうる人生の失敗や、そこから立ち直ることの難しさと強さだと感じました。
人生における普遍的なテーマを、新感覚の映像美で魅せてくれる革新的な作品です。
本作は全編135分の中で、前半と後半が別の主人公によって構成されています。それぞれに分けて映像と音楽に触れながらネタバレなしで解説していきます。
前半パート・兄タイラー
レスリングの高校生選手として活躍し、将来を期待されているタイラー(ケルヴィン・ハリソン・ジュニア)。厳しい父親からのプレッシャーと恋人とのすれ違いが彼を追い込みます。
映像表現として特徴的なのが、赤と青の鮮やかな光の色遣いと、アスペクト比の変化。
タイラーが感じた自由や焦燥感を見事に表していて、目まぐるしく変わる彼の感情や、混迷していく様子を鮮明に彩っています。
だんだんと追い詰められていく彼の緊張感は生々しく、思わず手に汗握り「どうか何も起きないで」と祈ってしまうほど…。
アーティスティックな映像と音楽が、現代の若者のうわべの華美さとその裏にある孤独を表現しているようにも感じられます。
後半パート・妹エミリー
後半は、兄の影響で自責の念と憤りを抱えることになった妹エミリー(テイラー・ラッセル)のパート。
日常の中で薄まることない悲しみとどう向き合っていいのか分からないエミリーの苦悩を、繊細かつ静かなトーンで描いています。
そんな中、学校で出会った青年ルーク(ルーカス・ヘッジズ)と心を通わせていくエミリーが、徐々に開放的になり輝き出す様子がとてもみずみずしく感じられるのです。
ルークと共にとった彼女の行動が物語を大きく動かしていきますが、前半と違ってここではスローテンポでロマンティックな楽曲が多く使われます。
豊かな木々や湖畔に降り注ぐ自然光を捉え、愛と生命力を感じさせる映像は癒し効果抜群。甘酸っぱい恋心や家族へのあたたかい気持ちが伝わってきます。
ふたつのパートを繋ぐ「水辺」
海や川は時に全てを飲み込み、洗い流す。その寛容さと変容していく様は、本作が描く「人生観」を表しているように思います。
映画の前半と後半の両方に登場するのが水辺のシーン。水面に映る色合いやそのシーンでの会話の内容は、タイラーの時とエミリーの時では異なりますがどちらも美しく、思わず息をのむほどです。
ストーリーを彩る音楽たち
人生における出会いと別れ、過ちや挫折、そして愛し許すことについてこの映画は美しい表現で見せてくれます。
プレイリストから生まれたと謳い文句があるように、本作にとって無くてはならないのが音楽です。
監督が惚れぬいたこだわりのトップバンドの楽曲が全31曲使用されていますが、その中でも印象的に使われていた楽曲を3つ紹介します。
その1.「FloriDada」(米国ロックバンド アニマルコレクティブ)
冒頭から車内を360度見回すカメラワークが爽快感を感じさせ、大声で歌うタイラーと恋人アレクシスのエネルギッシュさで、その場の空気が一瞬にして満たされます。はじめからセンス満点で映画館に観に来てよかった!と感じるはず。
その2.「What a Difference a Day Makes」(ダイナ・ワシントン)
ウォン・カーウァイの『恋する惑星』で使われていたこの曲を、オマージュの意味を込めて監督が使用したそうです。歌詞が本作とリンクしている部分もあり、心揺さぶられるいくつかのシーンで使われています。哀愁とぬくもり漂うこの曲の良さがさらに心に沁みるでしょう。
その3.「Pretty Little Birds(feat.Isaiah Rashad)」(SZA)
エミリーが苦しみから解き放たれるシーンで使われています。心の解放と成長、か弱く繊細だったエミリーが少女から大人の女性に変わっていくような力強さを感じられます。女性ボーカルの声が優しくかつパワフルに響きます。
他にもフランク・オーシャンやケンドリック・ラマ―、レディオ・ヘッド、カニエ・ウェストらトップミュージシャンたちの楽曲が使われています。
中にはタイラー役のケルヴィン・ハリソン・ジュニアのオリジナル曲もあり、オリジナルスコアを含めるとさらにいくつかの魅力的な楽曲が詰め込まれているので、鑑賞後はサウンドトラックをぜひ聴いてみてください。映画の世界観に再びどっぷりと浸れるのでお勧めです。
まとめ
物語は兄と妹が中心になっており、それぞれを演じたケルヴィン・ハリソン・ジュニアとテイラー・ラッセルの繊細な演技は文句なしに素晴らしいものですが、父と母の役割もとても大きいです。
特に注目なのが父親。愛ゆえの厳しさと後悔の念に襲われる重要な役割を見事に演じきったのは、大ヒットドラマシリーズ「THIS IS US」でランダル・ピアソン役を務めたスターリング・K・ブラウンです。
エミー賞やゴールデングローブ賞で最優秀男優賞を受賞するなど、アフリカ系アメリカ人として快挙を成し遂げている実力派俳優のひとりです。
彼の話し方や、険しい表情から一変弱さを見せる演技は見事の一言。
また製作陣としては、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ネオン・デーモン』を手掛け、スパイク・ジョーンズやルカ・グァダニーノら有名監督と仕事をしているエリオット・ホステッタ―が美術を担当しています。
音楽担当には『ソーシャル・ネットワーク』でアカデミー賞作曲賞を受賞したトレント・レズナー、アッティカス・ロスのコンビ。『ドラゴンタトゥーの女』『ゴーン・ガール』でゴールデングローブ賞作曲賞にノミネートされた経験もある実力者です。
才能あふれる作り手による、独創性と情感あふれる世界観ををもつ本作は、世界中の多くの人の心に残る一作だといえるでしょう。
映画『WAVES/ウェイブス』は2020年7月10日(金)より公開です。なるべく大きなスクリーンで、良質の音響で、この感動をご体感ください。