元・大悪党が再び銃を手に賞金首を狙う
『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)の名匠クリント・イーストウッドが監督・主演を務め、92年度のアカデミー賞で作品・監督を含む4部門を受賞した異色の名作西部劇映画『許されざる者』。
かつて悪事に手を染めていたものの、妻との出会いによって引退して静かに暮らしていた主人公・マニーが、幼い子供のために賞金を得ようと再び銃を手にとる様を描きます。
悪徳保安官を演じたジーン・ハックマンは、本作でアカデミー最優秀助演男優賞を受賞しました。共演はモーガン・フリーマン、リチャード・ハリス、ジェームズ・ウールベット。
改心してまっとうな生き方をしてきたマニーが、子供のために再び銃を手にした時、立ちはだかったのは悪徳保安官リトル・ビルでした。果たしてマニーは無事子供のもとへ帰れるのでしょうか。手に汗握る、正統派西部劇の魅力をご紹介します。
映画『許されざる者』の作品情報
【公開】
1993年(アメリカ映画)
【監督】
クリント・イーストウッド
【脚本】
デヴィッド・ウェッブ・ピープルズ
【編集】
ジョエル・コックス
【キャスト】
クリント・イーストウッド、ジーン・ハックマン、モーガン・フリーマン、リチャード・ハリス、ジェームズ・ウールベット、ソウル・ルビネック、フランシス・フィッシャー
【作品概要】
『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)の名匠クリント・イーストウッドが監督・主演を務め、師匠であるセルジオ・レオーネ監督とドン・シーゲル監督に捧げた異色の西部劇。92年度のアカデミー賞では作品、監督を含む4部門を受賞した名作です。
かつては悪名を轟かせていたものの、妻との出会いにより改心した主人公マニーが、娼婦をナイフで切りつけたカウボーイの賞金首をとるために再び銃を握る様をスリリングに描きます。
イーストウッド監督作品『目撃』(1997)でも悪役を魅力的に演じたジーン・ハックマンが、悪徳保安官リトル・ビルを好演し、アカデミー最優秀助演男優賞を受賞しました。
そのほか、『ショーシャンクの空に』(1995)のモーガン・フリーマン、「ハリー・ポッター」シリーズのリチャード・ハリス、『タイタニック』(1997)のフランシス・フィッシャーら豪華俳優陣が顔を揃えます。
映画『許されざる者』のあらすじとネタバレ
1881年。ワイオミングにあるビッグ・ウィスキーの酒場兼売春宿で、カウボーイ二人組がトラブルを起こして娼婦をナイフで切りつけます。
酒屋の主人に取り押さえられますが、駆けつけた保安官のリトル・ビルはカウボーイらを罰することなく、彼らが馬を7頭渡すことで落着させました。
娼婦らはこの裁定に憤怒し、自分たちの金をかき集めて、1000ドルの賞金をカウボーイの首にかけます。
カンザスに、かつて列車強盗や保安官殺しなどで悪名を轟かせたウィリアム・マニーが暮らしていました。
愛する妻により生まれ変わり、まっとうな農夫となりましたが、3年前に妻に先立たれ、2人の幼い子供たちとともに貧しい暮らしに苦労しています。
そこに若いガンマン、キッドが立ち寄り、賞金稼ぎの話をマニーに持ちかけました。
映画『許されざる者』の感想と評価
男同士の深い友情の物語
男達の厳しく激しい生き様から目が離せなくなる、本格派西部劇です。
妻との出会いから改心し、悪事を一切やめて真人間になった主人公・マニーは、妻亡き後も愛する二人の幼い子供達を守りまっとうに暮らしていましたが、ひどい貧困に苦しんでいました。
キッドから賞金稼ぎに誘われたマニーは、幼い我が子の将来のために金を得ようと、昔の犯罪仲間のネッドを誘って再び人を殺める決意をします。
ネッドらとの旅の道中見せる、マニーの妻への変わらぬ深い愛情に胸打たれます。彼は雨に打たれてもなお、妻との断酒の誓いを破らず、冷え切って熱を出して苦しむのです。
しかし、何事もうまくはいきませんでした。旧友のネッドは、ターゲットを前に銃の引き金を引くことが出来ません。引退して長いネッドにとって、「殺し」は遙か遠い世界のものとなっていました。
若く青いキッドも同じでした。実は一度も人を殺めた経験のなかった彼は、カウボーイを射殺した後、もう殺しは嫌だと言って、銃を二度と持たないと心に決めます。
自分を殺すのかと問うキッドに向かい、マニーは言いました。「たった一人の友だちだからお前のことは撃たない」と。
ネッドをリトル・ビルになぶり殺されてしまったマニーにとって、生きている友だちはキッド一人となっていました。
子供過ぎてモノを知らないキッドにイライラさせられながらも、いつの間にかマニーはキッドを愛おしく思うようになっていたに違いありません。
そして、死んでしまった大切な友・ネッドのために、マニーは危険を顧みず、町に戻ってリトル・ビルらを撃ち殺し復讐を果たします。
過去と決別していたはずのマニーとネッドに銃を持たせたのは、か弱き娼婦をナイフで切り刻んだカウボーイへの強い怒りでした。
人情味ある2人はよく似た者同士であり、お互いにとって唯一無二の親友だったのです。
酒によって再び殺戮者に変貌し、冷酷なガンファイターに戻ったマニー。悪徳保安官のリトル・ビルと、死んだ後に行く場所は同じだという事実に、胸を締め付けられます。
超豪華なキャストが競演
登場するキャストの豪華さに目を見張る作品です。
監督・主演のクリント・イーストウッドは、10年前に脚本の権利を買い取っておりながら、自分がマニーと同じ年齢となるのを待って制作したという熱の入れようでした。
その甲斐もあり、本作は高い評価を得て、アカデミー賞でも多くの賞を受賞。妻への愛ゆえに生まれ変わった男が、友のために復讐鬼となる姿を見事に演じています。
酒をあおった途端、まるでガソリンを得たかのように神がかったガンさばきを発揮する場面を観て、思わず身震いすることでしょう。
ラスボス的存在、町の悪徳保安官リトル・ビルを演じるのは、ジーン・ハックマンです。
数々の名作に出演してきた名優は表情を変えずにイングリッシュ・ボブを蹴りつけ、ネッドをなぶり殺す憎たらしい顔と、下手な大工仕事に楽しそうに勤しむごく普通の中年男の顔を、絶妙なバランス感覚で魅力的に演じています。
マニーと再びタッグを組んだ旧友ネッド役を演じるのは、やはり名優として知られるモーガン・フリーマンです。
ライフルの名手だという自信に満ちていたはずの男が、数年ぶりに標的を前にして引き金を引けない自分に気づき、うろたえる様を印象的に演じています。
「ハリー・ポッター」の初代ダンブルドア役で知られるリチャード・ハリスは、リトル・ビルに痛めつけられる悪党イングリッシュ・ボブを、『タイタニック』でローズの母親役を演じたフランシス・フィッシャーが、傷つけられた仲間のために憎き相手に賞金をかけるたくましい娼婦・アリス役を生き生きと演じます。
まとめ
人間の熱い心がぶつかり合う様をスリリングに描く本格西部劇『許されざる者』。
人公マニーの複雑に揺れ動く思いが映し出されます。イーストウッドの繊細な演技に目を奪われる一作です。
超豪華な共演陣のいぶし銀の演技も大きな見どころです。マニーを取り巻く人々それぞれの持つ人生にも思いを馳せて、濃密な世界観をたっぷりお楽しみください。