リヴァー・フェニックスの魅力あふれる名作青春映画
『スタンド・バイ・ミー』(1986)のリヴァー・フェニックス主演のヒューマン・ドラマ『旅立ちの時』。
テロリストとして指名手配されている両親を持つ少年が、苦悩の末に自由を手に入れ、親から離れて自立するまでの姿を描きます。
演出を担当するのは、映画『十二人の怒れる男』『オリエント急行殺人事件』『狼たちの午後』など名作揃いの名匠シドニー・ルメット監督。
人目を避けながら孤独な逃亡生活を送る家族の胸熱くなる団結と愛、そして苦悩が鮮やかに描かれます。今なお、絶大な人気を誇るリヴァー・フェニックスの輝きがスクリーンからあふれ出る名作をご紹介します。
映画『旅立ちの時』の作品情報
【公開】
1988年(アメリカ映画)
【脚本】
ナオミ・フォーナー
【監督】
シドニー・ルメット
【編集】
アンドリュー・モンドシェイン
【出演】
リヴァー・フェニックス、クリスティーン・ラーチ、マーサ・プリンプトン、ジャド・ハーシュ、ジョナス・アブリー
【作品概要】
『スタンド・バイ・ミー』(1986)のリヴァー・フェニックス主演のヒューマン・ドラマ。
両親がテロリストとして指名手配されている家族の愛と成長を描く作品です。
監督を『キングの報酬』(1987)のシドニー・ルメットが務めています。
共演はクリスティーン・ラーチ、マーサ・プリンプトン。
映画『旅立ちの時』のあらすじとネタバレ
17歳のダニー・ポープは両親と弟と4人で暮らしています。反戦運動家の両親のアニーとアーサーは1971年に軍事研究所を爆破し、それ以来、FBIに追われながら一家で身を隠して生きてきました。
みつからないように半年ごとに名前も住む場所も変え、髪を染め直す生活への不満をダニーは母にもらします。
アーサーは仲間から母親がガンで1か月前に死んだことを知らされ、深く落ち込みます。アニーに母の思い出を話し、これからはこの家族でやっていこうと気持ちを新たにしました。
マイケルという名で新しい学校に通うようになったダニーは、音楽の授業でピアノの才能を教師のフィリップスに認められます。
フィリップスに自宅に招かれたダニーでしたが、ベルを鳴らしても誰も出てこなかったため無人の部屋でピアノを弾き始めました。ピアノを聴いて部屋から出てきた娘のローナと会話を交わします。
その後、フィリップス家でのコンサートに招かれたダニーは、行くことに反対する父と口論になります。
ダニーはこっそりと聴きに行き、弦楽室内楽に感銘を受けました。フィリップスはダニーに演奏させようとしますが、ダニーは断ります。彼の思いを理解したローナは自分の部屋に招き、窓から逃がしてやりました。
映画『旅立ちの時』の感想と評価
一家を愛の呪縛から解き放ったローナ
1999年にわずか23歳で早逝したリヴァー・フェニックス。いまなお絶大な人気を誇る彼の永遠の輝きを観ることのできる名作です。
指名手配中の両親のもとで育った天才児が、恋にめぐり逢い大人になっていく姿を鮮やかに映し出します。
逃避行を続けるポープ一家に生まれた17歳のダニーと10歳のハリーの兄弟。育ち盛りの彼らにとって、半年ごとに住まいも名前も変える生活は切ないものでした。
常に自分を隠し、友達に本当のことを言えず、仲良くなってもすぐに別れ別れになってしまう残酷な生活。新たな名前、違う色になった髪では、自分のアイデンティティを保つことも難しかったに違いありません。
しかし、生まれた時からのその生活しか知らない彼らは、すべてを受け入れて生きてきました。
成長したダニーはローナに恋したことをきっかけに、大切な人に嘘をついたり、自分のことを何も話せないことに苦悩するようになります。
独学で学んだピアノの才能を見出され、ジュリアード進学という大きなチャンスも巡ってきますが、日の当たる場所に息子を送り出してしまえば二度と会えなくなることを恐れる父から猛反対されてしまいました。
ダニーはずっと人生を奪われてきました。自らの思いも、才能も、すべて封じ込められてきたのです。決してつかむことを許されない未来を前に、どれだけの歯がゆさ、苦しみ悲しみがあったことでしょう。
次の土地に移る際、いつでもキーボードだけは大事に抱えているダニーの切ない姿に胸が締め付けられます。
アーサーとアニーもまた、現在の生活に疲れきっていました。特に母のアニーは、子どもたちにひどいことをしているという自責の念に苛まれます。
苦境の中だからこそ、家族は揺るがない団結と愛で結ばれていました。愛に満ち溢れた家族だからこそ、息子たちも厳しい現状を受け入れてきたのです。
母が傷ついた時にはやさしく抱きしめ、自分を受け入れてくれる父にはそっとキスする優しいダニー。宝である息子を手放したくないが故、両親はこの逃避行を続けざるを得ませんでした。
カチカチに愛で凝り固まってしまっていた家族に風穴を開けたのはダニーの恋人・ローナの存在でした。信頼できる第三者である彼女が現れたことで、ダニーは明るい世界へ踏み出すことができたのです。加えて、ジュリアード入学という明るい未来が一家を鎖から解き放ちました。
もしローナに出会えていなかったら、おそらく彼らは光に背を向け、ダニーは進学することなくまた別の土地に去っていたことでしょう。
人と人との出会いの素晴らしさ、そして勇気を持って自身を正すことの大切さを教えられます。
まとめ
反戦運動に身を投げた両親とともに逃避行を繰り返してきた少年が、光当たる世界へ踏み出していく感動作『旅立ちの時』。早逝した永遠のスター、リヴァー・フェニックスの主演作としていまなお愛される名作です。
堅い愛で結ばれた一家が、愛ゆえに苦悩し、愛ゆえの答えを出すさまに心揺さぶられます。
誰かを本当に愛するということは、決して束縛することなく、自由に生きられるように解き放つことなのでしょう。
それは劇中のドラマチックな境遇の家族に限らず、どんな家庭にも同じことが言えるのかもしれません。巣立ち、旅立ち、家族からの自立は、互いの信頼の上にこそ成り立つものにちがいないからです。
ダニーはまた別の苦悩に向き合うようになることでしょう。しかし、きっと彼はそれらを幸せなことと理解し、喜んで受け入れたに違いありません。