女性騎手として初めての栄冠を手にしたミシェル・ペインの半生を映画化!
レイチェル・グリフィスが製作・監督を務めた、2019年製作のオーストラリアのヒューマンドラマ映画『ライド・ライク・ア・ガール』。
兄たちのほとんどが騎手という競馬一家で育った10人兄弟の末っ子ミシェル・ペインが、騎手生命を左右する大怪我を負いつつ、女性騎手では勝てないとされてきた競馬界の「聖杯」に挑む物語とは、具体的にどんな内容だったのでしょうか。
オーストラリア競馬最高の栄誉とされるメルボルンカップで、女性騎手として初めての栄冠を手にしたミシェル・ペインの半生を映画化した、映画『ライド・ライク・ア・ガール』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
CONTENTS
映画『ライド・ライク・ア・ガール』の作品情報
【公開】
2020年(オーストラリア映画)
【脚本】
アンドリュー・ナイト、エリース・マクレディ
【監督】
レイチェル・グリフィス
【キャスト】
テリーサ・パーマー、サム・ニール、サリヴァン・ステイプルトン、スティーヴィー・ペイン、ジェネヴィーヴ・モリス、マグダ・ズバンスキー、ブルック・サッチウェル、アンネリーゼ・アップス、ザラ・ゾーイ、ケイティ・キャッスルズ
【作品概要】
『ほんとうのジャクリーヌ・デュプレ』(2000)でアカデミー助演女優賞にノミネートされ、『ウォルト・ディズニーの約束』(2014)や『ハクソー・リッジ』(2017)などにも出演した女優レイチェル・グリフィスの、長編映画初の監督作品であるオーストラリアのヒューマンドラマ作品です。
『X-ミッション』(2015)や『ハクソー・リッジ』(2016)などに出演しているテリーサ・パーマーが主演を務め、「ジュラシック・パーク」シリーズのサム・ニールがミシェル・ペインの父親役を演じています。
映画『ライド・ライク・ア・ガール』のあらすじとネタバレ
10人兄弟の末娘としてこの世に生を受けたミシェル・ペインは、生後半年の時に母親を交通事故で亡くしましたが、父のパディや9人の兄と姉に囲まれ、健やかに成長しました。
10人のうち8人が騎手という競馬一家で育ったミシェルの夢は、オーストラリアで最も有名なレース「メルボルンカップ」で優勝することでした。
何故なら、競馬界の「聖杯」であるメルボルンカップで出走する騎手の大半は男性であり、オーストラリア・メルボルンのフレミントン競馬場の芝3200mで行われる極めて過酷なレースに女性騎手では勝てないとされていたからです。
ある日、ミシェルは仲良しのダウン症の兄スティーヴィーとパディ、ペイン家と親交が深い女性ジョアン・サドラーと一緒に、4人の兄と姉が出走するレースを観戦しに行きました。
バララット競馬場で行われたレースでは、4人は同じ第4レースで出走。結果、姉のブリジッドが1着、兄のパトリックが2着、姉のテレーズが3着。
兄のパトリックはビリでした。ですがパディは、ビリだったパトリックが、じきメルボルンカップに出ると言うのです。
1991年。パディがミシェルに言っていたように、パトリックはメルボルンカップに出走。
しかしパトリックは、レース序盤は先頭を走っていたものの、ペース配分を間違えてしまい、結果は最下位でした。
学校でそれを観戦していたミシェルは、迎えに来たパディにパトリックのことを話すと、彼にこう言われました。
「それがメルボルンカップだ、簡単に順位が入れ替わる」「つまり最下位から優勝する可能性だってある」
それから10年後。高校生になったミシェルは、ブリジットたち5人と同じ騎手になるべく、パディから厳しい指導を受けていました。
「よく聞けおチビさん。馬は肺で疾走し心臓で耐え、気持ちで勝つ」「スピードだけの問題じゃない。大事なのは忍耐だ」
「周りの馬に囲まれ息もつけず、ダメだと思っても諦めるな」「周りの馬は順番に疲れを見せ始める」
「すると突然、目の前に隙間が開く」「神の声をよく聞け、でなきゃ隙間はあっという間に閉じる」
ブリジットたちも、ミシェルにいくつかアドバイスをしました。「隙間を見過ごすと女は臆病者だと言われる」
「力の勝負だ」「最後の100mに力を残せ」「大事なのは力より姿勢よ。鞭に頼らず、馬の首を手の平の下で押すの」
「隙間に入って負けたら、女には技術がないと言われる」………そしてついに、ミシェルは初めてのレースを迎えましたが、結果はビリでした。
それ以降、ミシェルはいくつものレースに出走しましたが、なかなか勝利を掴めません。
それでも諦めず続けた結果、ミシェルは10年前にブリジットたちが出た、バララット競馬場のレースに出走し、1着でゴール。
しかし初勝利を飾ったその日、別のレースに出ていたブリジットが落馬し、命を落としました。ミシェルたち9人の兄弟姉妹とパディは、彼女の突然の死に悲しみに暮れました。
それから2年後。見習い騎手として活躍していたミシェルは、競馬の最高格付けの競走「G1」レースで出走できるほどの一流の騎手となるべく、別の調教師と組み、今より上のクラスの馬に乗りたがっていました。
そんなミシェルに対し、パディは「まだ見習い期間はあと1年残っている、今は耐えるしかない」との一点張りでした。
パパは自分を騎手にしたいんじゃなくて、パパが営む牧場を継がせたいんだ。そう思ったミシェルは家を出て、コーフィールド競馬場にいる調教師たちに直接自分を売り込みに行きました。
しかし現実はそう甘くはなく、競馬界は男性騎手に優位なところも相まって、誰もミシェルを雇ってくれません。
挙げ句の果てに、ミシェルは1人の調教師に「ヤラせてくれるなら、君を雇ってあげてもいいよ」と言われてしまいます。
そんなある日、ミシェルは「その馬が私に乗れと言ってる」と言い、他の騎手の馬に乗り、コーフィールド場を疾走。馬主や調教師たちは彼女の騎手としての才能を認めてくれるようになりました。
それに加えて、ジョアンがミシェルのマネージャーに立候補したおかげで、ミシェルはようやく、レースに出走できるようになりました。
実はジョアンは、内心ミシェルを心配しているパディに、マネージャーになってくれないかと頼まれていたのです。
映画『ライド・ライク・ア・ガール』の感想と評価
ミシェルの努力と挫折の日々
本作を鑑賞する前、確かに競馬界には男性騎手が多いなというイメージを持つ人が沢山いることでしょう。
実際作中でも、メルボルンカップをはじめとする多くのレースで活躍しているのは、男性騎手ばかりです。
「女性騎手ではメルボルンカップでは勝てない」と言われ続け、何度も悔し涙を飲んだミシェルの姿は、観ているこちらの胸が痛くなるほど辛いものでした。
きっと落馬して命を落とした彼女の姉ブリジットも、現役時代はミシェルと同じ悔しさと葛藤を抱えていたことでしょう。
それでも夢を諦めず突き進んでいったミシェルは、女性騎手だからという周囲の逆境をはね返し、人生を一変させます。
そのきっかけとなったのは、ミシェルよりも怪我が多い馬プリンスオブペンザンスとの運命的な出会いを果たしたことです。
まさしく、出会うべくして出会ったミシェルとプリンスオブペンザンス。メルボルンカップへの出走権をかけたレースでも、メルボルンカップでも彼女たちは一体となってレースに臨み、勝利と栄光を掴みました。
それまでのミシェルの努力と挫折の日々を観てきたからこそ、このメルボルンカップでの出走と優勝は、思わず画面の前で大声で彼女に賛辞の言葉を贈りたくなるほど感涙します。
いつだって娘を大事に想っている父親の愛情
物語の前半まで、親子二人三脚で多くのレースに挑んできたミシェルとパディ。ですが、ミシェルがもっと上を目指したいと訴える一方、パディは彼女のレースへの出走を制限し、今は耐え忍ぶ時だの一点張りでした。
そのせいで衝突してしまった2人は、ミシェルがレース三昧の日々を送ってもまだ、まともに口を利いていません。というのも、パディがミシェルを頑として無視し続けているからです。
パディは最愛の妻だけでなく、最愛の娘ブリジットをレースで亡くしています。大事な2人を亡くしたことがとてもショックだったパディは、もうこれ以上娘を失いたくない一心で、ミシェルを手元に置いておきたかったのです。
それをアンドリューから知らされてもなお、レースに出続けるミシェル。まさに親の心子知らずですね。
騎手生命を絶たれそうになったミシェルを、家族の中で唯一復帰を応援したパディの深い愛情は、観ている人の胸にグッとくるものがあります。
まとめ
女性騎手では勝てないとされてきた、メルボルンカップでの優勝を成し遂げた女性騎手ミシェル・ペインと、彼女を支え続けた家族の姿を描いたオーストラリアのヒューマンドラマ作品でした。
作中ではミシェルや彼女の兄弟姉妹が、いくつものレースに出走していますが、どれも臨場感たっぷりに描かれています。
中でも物語の最後、メルボルンカップのレースでの出走はミシェルはもちろん、他の騎手の気迫と馬たちがレースを駆け抜ける音がとても迫力があり、まるでその場にいるかのようなリアリティーが感じられました。
激闘の末、ミシェルがメルボルンカップ史上初の、女性騎手の優勝という栄光を勝ち取れたのは、パディやスティーヴィーが献身的に支え続け、見守ってくれていたからでしょう。
ミシェルを見守り続けたパディ・ペインと彼の家族、そしてサム・ペインという人物への感謝が込められた、感動のヒューマンドラマ映画が観たい人に、とてもオススメな作品です。