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Entry 2018/10/29
Update

フルーツチャン映画『三人の夫』あらすじと感想。過激なエロスに女優が挑む真意とは

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

2018年10月に開催された第31回東京国際映画祭のコンペティション部門選出の香港映画『三人の夫』

フルーツ・チャン監督による、娼婦を主人公にした本作は、2000年公開の『ドリアン・ドリアン』、2001年公開の『ハリウッド★ホンコン』に続く、「娼婦三部作」シリーズとなる作品です。

主演女優を務めたクロエ・マーヤンは、監督から肉体改造の要望を受け、役作りのため13キロ増量して挑み熱演を見せています。

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映画『三人の夫』の作品情報

【公開】
2018年(香港映画)

【原題】
Three Husbands

【監督】
フルーツ・チャン

【キャスト】
クロエ・マーヤン、チャン・チャームマン

【作品概要】
フルーツ・チャン監督の娼婦を主人公とする『ドリアン・ドリアン』や『ハリウッド★ホンコン』に続いて、「売春トリロジー」シリーズ3部作となる映画。

初主演となる女優クロエ・マーヤンは、フルーツ監督の要望に応え1ヶ月で13キロ体重を増やし、新人離れした体当たりの演技を見せています。

エロスな描写を全面に出しながらも、父親や夫から美人局の買春行為を続けさせられたヒロインに込められた真意は、香港返還から20年が経つ現用や変貌する今の中国社会への警鐘を描いています。

中国本土で上映されない作品


©︎Cinemarche

フルーツ・チャン監督の本作『三人の夫』は、中国本土で上映されることはありません

理由のひとつには、この作品が、“全編にわたって性的描写で満ちている”からです。

昨今の中国映画でも性的な表現に工夫を見せつつ、男女の行為に触れる作品も増えてはきましたが、フルーツ監督の『三人の夫』は、その比ではない激しい交わりを見せ、香港でも劇場公開は成人映画の扱いになるそうです。

また、この作品の持つ“肉感さとユーモア”は、かつて日本でも精力的に制作されたピンク映画を彷彿させてもくれます。

それどころか本作『三人の夫』でフルーツ監督が描いた性欲は、巨匠・今村昌平監督の果てしないエロスと欲望のスケベ心に似ています

本作で描かれた“全編にわたって性的描写で満ちている”というものは、裏を返せば日本人が忘れてしまった、“バイタリティ溢れる逞しさ”なのでしょう。

つまりは、今の中国そのものの姿を描いているからこそ、本作は中国で上映することができないのです。

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映画『三人の夫』のあらすじ


©Nicetop Independent Limited

海上生活者のムイは、白くて豊満な肉体をたわわに実らせ、常人離れした性欲の持ち主でした。

彼女は満たされない欲情に苦しみながら、食事をするかのように男の相手をする買春行為の仕事を続けていました。

それはムイの父親にとっては一石二鳥なもので、娘の病的な性欲を満たしつつ、日々の生活の糧を得ていたのです。

しかも娘を男たちに売って得た現金をムイの父親は、陸に上がっては馬券売り場に通いつめ、競馬のギャンブルにつぎ込んでいたのです。

またムイには幼子がおり、彼女の父親は年老いた漁師にムイを嫁がせてもいました。

そんな男二人が揃って美人局をしながらムイは客を取っていたのです。

そんな事実を知るすべもない、ある青年はムイの果てしない欲望の身体に魅せられて、彼女の元に通いつめます。

街で女性を買うとすれば警察にすぐに検挙されるが、海上の舟の上なら安心して女遊びができたことが始まりでした。

青年はムイとの性行為の快楽から恋に落ち、結婚を望みます。

友人から借金をした青年は、持参金を持ってムイの3人目の“夫”となることが欲深い父親に許されます。

しかし、青年の若さを持ってもムイの性欲を満足させることは出来ず、結局は一緒に美人局となって妻ムイに客を取らせ続けますが…。

映画『三人の夫』の感想と評価


©Nicetop Independent Limited

フルーツ・チャン監督とは

参考作品:『メイド・イン・ホンコン/香港製造』

フルーツ・チャン監督は、広東出身の香港の映画監督。脚本家や映画プロデューサーでもあります。

香港に移住し、1981年から香港フィルムカルチャーセンターで映画を学びます。

1984年にゴールデンハーヴェスト社に入り、助監督や制作などの仕事につき多くの映画に関わります。

初監督作品は、1991年公開の『大閙廣昌隆』。その後、1994年に独立して監督2作目となる『メイド・イン・ホンコン/香港製造』の脚本を執筆し、1996年から撮影を開始します。

その『メイド・イン・ホンコン/香港製造』は、香港返還直前の息吹きを混じえ、行き場を失った少年と少女の様子をスタイリッシュに描いた青春映画。

この作品は資金難のみならず、当初なかなか一般公開のメドがつきませんでした。

しかし、ロカルノやナントなど国際映画祭での高い評価を受けた後、香港でも第17回香港電影金像奨で、最優秀作品・監督・新人賞の3部門を受賞します。

その後も、香港返還三部作や娼婦三部作となる『ドリアンドリアン』(2000)、『ハリウッド★ホンコン』(2001)などがあります。

参考作品:『九龍不敗/The Invincible Dragon』

また中田秀夫監督作『女優霊』のリメイク版である、『THE JOYUREI 女優霊』でハリウッド進出したフルーツ監督は、マックス・チャン主演のアクション『九龍不敗/The Invincible Dragon(日本未公開)』(2018)などもあります。

フルーツ・チャン監督は、東京国際映画祭でのマスコミ取材に囲まれた際に、「中国で性的描写を描く作品は冒険だ」と語りながらも、必要なまでに性的描写を繰り返して見せています

しかし、本作『3人の夫』に大きく漂う作品性のベースには、東晋時代(4~5世紀)に起源を持つ半人半魚伝説を基にしながら、香港のアイデンティティとしてのルーツまでも掛け合わせて、フルーツ監督にしか作り得ない大人の寓話的な世界観で表現されています。

では、それほどまでの“冒険”な映画制作を用いてフルーツ監督は、いったい何を観客であるあなたに伝えたかったのか。これからの章で紐解いていきます。

性の女神ムイ役のクロエ・マーヤン


©︎Cinemarche

女優クロエ・マーヤンは、全裸で性行為を演じるだけでなく、監督のキャラクターの要望に応じ、この作品のために1ヶ月で13〜14キロの体重を増やしました。

本作以前にフルーツ監督は、自身の映画でキャスティングを行なった時にも、クロエ・マーヤンには会ったことがあるそうです。

しかし、その折には望んだイメージの女優ではなかったようです。その後、友人に勧めらた際にふたたびクロエに会うと、非常に娼婦ムイの役柄のイメージに合っていたと語っています。

そして、本作で主人公ムイ役を演じたクロエは、キャラクターを好演したどころか怪演(快演)ではないかと思わさせるほどの体当たり演技を見せています。

この作品のストーリー展開など、何するものぞと、一手に映画の品格を引き受けた力強さを終始見せつける、クロエ・マーヤンに注目です。

激しい性欲の裏に描かれた真意とは


©Nicetop Independent Limited

映画の冒頭に施されたファースト・ショットでは、金網の上で焼かれ、踊り悶絶するアワビが登場します。

フルーツ・チャン監督は、東京国際映画祭のマスコミ取材で、このシンボライズされた映像に特に意味はないと真意を隠しますが、それは明らかにエロスを感じさせる女性器そのものです。

また、焼く炎は映像には見せてはいませんが、人が火を想像した際に思いつく色彩は、多くの場合、“赤色”であることは言うまでもありません。

赤い熱を帯びた状況下は中国の今そのものであり、“女性器のメタファーであるアワビ”は、まさに生と死の狭間に悶絶して生命体としてのエネルギーを見せる“バイタリティとパワーに漲った中国人の欲望”の表れなのではないでしょうか。

また、冒頭のアワビ以外にもフルーツ監督が女性器を想像させるアイテムがいくつも登場します。

例えば、海上生活者の船(船玉様:女陰の形)であろうし、果実のパパイヤは露骨に小道具として使用されています。

女優クロエがパパイヤを使って自慰行為に耽るシーンは、赤い下着と黄色いパパイヤ、その果実の内部に詰まった無数の黒い種と汁とともにビジュアル的な表現がなされています。

本来の女性器を直接に見せていない方が、想像力を掻き立たさており、深いエロスを観客に見せつけます。

ただ、それらの他人のエロスを、映画というスクリーンを通して覗き見た時は、どこか他者の性行為はコミカルに見えてくるので、鑑賞する場内からは笑い声が溢れてきます。

香港らしい狭い部屋の性行為やトラックの荷台での野外プレイの性行為は、金魚やウナギなどの愛撫など、どれも笑みがこぼれることでしょう。

このように本作『3人の夫』では、数々のエロスのシークエンスを重ねながら、終盤の最高潮を迎えていきます。

しかし、そこでクロエは性的快楽の満足な得られない時、事態は動き出します。その際に映像は色彩を失ってモノクロになっていく場面転換は秀逸です。

その際に鮮やかに目立つのが、パートカラーとなる“赤い色彩”。

その瞬間、描き続けてきた果てしなき性行為に隠されていた、裏のイメージである“中国の欲望や本能”に改めて気がつかされ、陸から海、そして天へどこまでも突き進む欲望のシンボライズと、昨今の中国の海洋進出と一致を垣間見ることでしょう。

むろん、そのことは中国全土や地方に暮らす中国人民たちや、少数民族の人たちではないこと言うまでもありません。

女優クロエが演じた果てしない性欲の持ち主である主人公ムイ。そして、ムイを娼婦とした3人の夫である老大、老二、老三は、中国総国民である約13億8271人のある一部の赤い色彩を帯びた中国人のメタファー、そのものなのです。

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まとめ


©︎Cinemarche

本作品『3人の夫』で描かれた過激な性描写の裏に隠した“中国人の欲望”

しかし、欲望の要素を感じさせてくれるものは、ほかにも映画に存在しています。

マカオに向かう観光船や馬券売り場、そして香港のディズニーランドの花火。

そして、“アップルの新型のパソコンを欲しがり、それを使って美人局をやらせる3人の夫”などからも、欲の現れを感じることができるでしょう。

フルーツ・チャン監督の表現スタイルには、単に過激な性描写に終始しない知性を感じせます。

それは最新モデルパソコンを欲しがるように、テクノロジーの進歩は常に性的な欲求や欲望によって、広く一般化していきます。

本作品が中国で未公開であれ、香港で成人映画であったとしても、エロスに対してよく深い人間のどうしようもないスケベ心は、どうにかして見たいという衝動を突き動かすからです。

その時に、フルーツ・チャン監督と女優クロエ・マーヤンがタッグを組んだ本作『3人の夫』は、必ず多くの観客に届くことでしょう

そして、快演を見せた女優クロエ・マーヤンは、オファー後に初めて脚本を読んだのはクランク・イン前日にこのように思ったそうです、「やるべき時にこの役が来た」と。

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