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映画『ジョーンの秘密』ネタバレ感想と考察評価。スパイ嫌疑をかけられた80歳老婦人の信念とは

  • Writer :
  • 松平光冬

スパイ容疑で逮捕された80代の老女が抱える、隠された真実とは

映画『ジョーンの秘密』が、2020年8月7日(金)TOHOシネマズシャンテほかで全国順次公開中です。

『恋におちたシェイクスピア』(1998)でアカデミー助演女優賞を受賞したジュディ・デンチが、“イギリス史上、最も意外なスパイ”を演じた、実話をベースとしたヒューマンドラマです。

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映画『ジョーンの秘密』の作品情報


(C)TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018

【日本公開】
2020年(イギリス映画)

【原題】
Red Joan

【監督】
トレバー・ナン

【脚本】
リンゼイ・シャピロ

【製作】
デビッド・パーフィット

【製作総指揮】
ティム・ハスラム、ヒューゴ・グランバー、ジギー・カマサ、ジェームズ・アザートン、ジャン・ペイス、ケリー・E・アシュトン、カール・シドー

【撮影】
ザック・ニコルソン

【編集】
クリスティーナ・ヘザーリントン

【キャスト】
ジュディ・デンチ、スティーブン・キャンベル・ムーア、ソフィー・クックソン、トム・ヒューズ、ベン・マイルズ、テレーザ・スルボーバ

【作品概要】
スパイ容疑で逮捕された80代女性の実話をベースにしたジェニー・ルーニーのベストセラー小説「Red Joan(アカのジョーン)」を映画化。

突然逮捕されてしまう女性ジョーンを演じるのは、『恋におちたシェイクスピア」のオスカー女優、ジュディ・デンチ。

若き頃のジョーンを「キングスマン」シリーズ(2015~17)のソフィー・クックソン、ロシア人の恋人レオ役を、テレビシリーズ「女王ヴィクトリア」のトム・ヒューズがそれぞれ演じます。

監督は、ジュディ・デンチ主演の舞台を幾度も演出してきたトレヴァー・ナンです。

映画『ジョーンの秘密』のあらすじとネタバレ

(C)TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018

2000年5月のロンドン。

夫に先立たれ、穏やかに一人暮らしを送っていた80歳のジョーン・スタンリーは、突然英諜報機関MI5に逮捕されてしまいます。

逮捕理由は国家反逆罪、つまりは機密情報を流出させたというスパイ容疑でした。

ジョーンは容疑を否定するも、MI5は、先ごろ死亡した外務事務次官のウィリアム・ミッチェル卿が遺した資料から、彼とジョーンがロシアのKGBと共謀していた証拠が出てきたと告げます。

MI5が調査した情報を聞いていくジョーンの顔には、明らかに戸惑いの色が…。

1938年のケンブリッジ大学。

当時、大学で物理学を専攻していたジョーンは、文学専攻の同級生でユダヤ系ロシア人のソニアと親しくなります。

彼女に誘われ、「映画の会」なる集いに行ったジョーンは、そこでミッチェルと、ソニアの従兄弟レオと出会います。

端正な顔立ちと佇まいを持つレオが気になるジョーンでしたが、会場で上映されたのは、ソ連映画の『戦艦ポチョムキン』。

表向きは映画を鑑賞するその集いは、実は共産主義青年団コミンテルンの集会だったのです。

共産主義者ではないジョーンは、その実態に戸惑うも、大学構内でスペイン内戦における左翼政権への援助をカリスマ性たっぷりに行うレオに魅了され、彼らと行動を共に。

やがて2人は恋に落ちますが、レオはしばらくの間ソ連に行く告げます。

2000年。

自宅に戻ったジョーンを訪ねた息子で弁護士のニックは、彼女の脚に行動監視装置が取り付けられていることに憤り、次の尋問からは自らも立ち会うことに。

尋問では、第二次世界大戦時のジョーンの動向について訊かれます。

1939年、ナチスドイツのヨーロッパ侵攻に端を発する第二次世界大戦が開戦。

41年、トップの成績で大学を卒業したジョーンは、核兵器開発研究機関「チューブ・アロイズ」に事務員として勤務するように。

そこで原爆開発プロジェクトリーダーを務めるマックス・デイヴィス教授は、ジョーンの能力を認め、彼女もプロジェクトに参加させることに。

一方、ソ連のKGBとして多忙を極めるレオとすれ違い状態のジョーンに近づいたミッチェルは、相談に乗ると見せかけてチューブ・アロイズでの仕事内容を聞こうとします。

その後、レオがジョーンを訪ね、しきりに原爆開発の情報を欲しがるも、どうしても共産主義に賛同できないとして拒否。

突っぱねられたレオは、もし気が変わったらソニアに話すようにと、カナダへと向かいます。

自分は単にレオに利用されているだけではないのかと悩むジョーンは、デイヴィスと共に原爆開発の研究のため、カナダのモントリオール大学に行くことに。

カナダへ向かう船の中で、デイヴィスは妻帯者でありながらジョーンに求愛。

ジョーンも、自分を男性の添え物としてではなく、対等な人間として扱ってくれるデイヴィスに好意を寄せていたこともあり、2人は恋人同士となります。

モントリオール大で研究を進めていたジョーンでしたが、トイレに入った隙を突いてレオが現れます。

相変わらず原爆情報を聞き出そうとするレオに怒ったジョーンは、彼に平手打ちを食らわせてその場を去るのでした。

(C)TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018

2000年。

次々と明るみとなる、全く知らなかった母親の過去に愕然とするあまり、思わず「知らない人みたいだ」と言ってしまうニック。

捜査官の厳しい追及は続き、カナダからイギリスに戻った後の行動を問われるジェーン。

1945年7月、アメリカによる原爆実験成功のニュースに、研究所は沸き立ちます。

そしてドイツの無条件降伏を受け、研究者たちは一様に日本への原爆投下を叫びますが、ジョーンは原爆により多くの人が死ぬことを懸念し、ひとり沈黙するのでした。

8月、広島と長崎に原爆が投下されたニュースを聞き、ショックを受けたジョーンはソニアに電話をかけます。

妊娠中のソニアは、ジョーンに小型カメラを渡し、チューブ・アロイズでの原爆開発の情報を写すよう暗に指示し、さらにスパイ行為を疑われないような振舞いの仕方をアドバイスするのでした。

デイヴィスから、同僚にKGBスパイがいたことで警察による施設内の調査が入ることを聞かされながらも、資料の盗撮を開始するジョーン。

そんな中、ジョーンの部屋にレオが現れます。

警察の手が迫りつつあるため身を隠す場を求めてきたレオに、当初こそ冷たく当たるも、やはり受け入れるジョーン。

翌朝、レオは毒針が仕込まれたペンダントをジョーンにプレゼント。

それは護身用でもあり、身分がバレた時の自殺用であることを暗に示すもので、レオも同様の物を持っていました。

2000年。

ニックは、「母さんは祖国を裏切り、スターリンのような独裁者に協力したのか」と罵り、弁護人を引き受けるのを辞めるとジョーンに言い放ちます。

「私は祖国を愛している。怖くてたまらなかったけど、平和のためにやったこと。お前は頭ではなく心を使いなさい」と反論したジョーンでしたが、ニックが去ったあとで、涙ながらに毒針仕込みのペンダントを出します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ジョーンの秘密』のネタバレ・結末の記載がございます。本作をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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1945年。

映画館でジョーンは、レオから一緒に逃げようと言われるも、それを断って一人去ります。

しかし、レオのことが気になったジョーンは夜に住処を訪ねますが、そこにあったのは、首つり自殺したレオの姿でした。

2000年。

結局、毒針での自殺は思いとどまったジョーンでしたが、立ちくらみを覚えて病院に担ぎ込まれます。

ニックが付き添う中、意識を取り戻したジェーンに、捜査官はレオの死はソ連が関与した疑いがあると告げます。

1945年。

レオの死に遭遇した悲しみのあまり、ジョーンは外務省に勤務するミッチェルに助けを求めます。

とりあえずソニアと連絡を取るようにとミッチェルから告げられ、彼女に電話したジェーンですが、その番号は回線不能に。

不振に思ったジェーンは、ソニアの住所を調べて訪れますが、中はもぬけの殻。

しかしそこで、レオが所持していたペンダントと数枚の写真を見つけ、持ち帰ります。

後日、ジョーンが研究所に向かうも、目の前でデイヴィスがイギリス警察によりスパイ容疑で逮捕されてしまいます。

面会に来たジョーンに、デイヴィスは妻から離婚を突き付けられたとして、改めて求婚。

ジョーンは、ソ連側に情報を流したのは自分だと告白するも、デイヴィスは自ら罪を被ると言うのでした。

そこでジョーンはミッチェルと会い、デイヴィスを釈放してオーストラリアに逃すよう要求。

最初こそ拒否するミッチェルでしたが、ジョーンがソニアの家から持ってきた2枚の写真を見せると動揺します。

一枚目はソニアがレオとの間に産んだ幼児の写真、もう一枚はソニアと熱いキスを交わすミッチェルの写真でした。

後日、ミッチェルによってオーストラリア行きの船に乗り込む、ジョーンとデイヴィスの姿がありました。

2000年。

数日後、退院したジェーンは、自宅前に集まった報道陣から「ロシアからいくら貰ったのか?」といった非難交じりの質問を浴びせられます。

「私はお金が欲しかったのではありません。東も西も核兵器を持って互いが互いをけん制し合えば、戦争が防げると思ったからです」。

さらに、「私はスパイではない。歴史を振りかえれば、私の行為は正しかったと分かるでしょう」と正面切って答えるジョーン。

「アカ野郎!」という罵声も飛び交う中、ジェーンの傍らにニックが立ちます。

「スタンリーさんは何も恥ずべきことをしていません。彼女は世界平和に貢献した。今後、彼女に対する質問は私を通すように。私は彼女の弁護人であり、彼女の息子です」。

そう語るニックが添えた手を、ジェーンは固く握りしめるのでした――

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映画『ジョーンの秘密』の感想と評価

(C)TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018

実在した“ばあばスパイ”の物語をフィクションドラマ化

本作『ジョーンの秘密』は、80代でKGBの元スパイと判明した実在の人物、“ばあばスパイ”ことメリタ・ノーウッドをモデルにした小説「Red Joan(アカのジョーン)」の映画化です。

実際のメリタも、本作の主人公ジョーン同様にイギリス人でしたが、社会主義者の両親の影響で幼少時から共産主義に陶酔しており、ソ連の核兵器開発促進のために、イギリスの非鉄金属研究協会に入って機密情報を横流ししていたとされています。

しかし本作でのジョーンは、共産主義青年団コミンテルンとの関わりは持つものの、その動機自体は青年レオへの愛から、という立ち位置で描かれています。

さらには、男尊女卑の概念が今よりも強かった1930年代のイギリスにおいて、自身の能力を認めてくれたデイヴィス教授への愛も強くするのです。

展開だけ切り取ればハーレクインのロマンス小説を思わせるも、本作は大きな意味で、“愛”のために信念を貫く女性のドラマに仕上がっています。

(C)TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018

毒を以て毒を制す

(C)TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018

劇中、KGBのスパイであるレオが、チャールズ・ディケンズの『二都物語』の一節を引用するシーンがあります。

国と国、または人と人といったさまざまな対極を描いたこの作品の引用が示すように、本作では資本主義と共産主義、戦争と平和、そして男と女という対極が描かれます。

レオとの恋愛に疑問を抱きつつ、妻あるデイヴィスと不倫関係に至れば、自分も開発に加わった原爆が日本に投下されるという悲劇を生んでしまう。

そうした対極がもたらす負の連鎖を断ち切るべく、ジェーンは原爆の情報をソ連に流すというスパイ行為に出ます。

西側諸国が開発した原爆製造技術を、あえて東側諸国にも与えることで、お互いがお互いをけん制し合う。

原爆の恐ろしさを知るからこそ、安易に戦争を起こすこともなくなる――「毒を以て毒を制す」ではありませんが、理に適っていると思わせる一方で、あまりにも歪んだ論理と言えなくもありません。

本作監督のトレバー・ナンも、「ジョーンのとった行動が正しかったのかは、観客の皆さんがこの問題について話し合いたい、熟考したい、討論したいと感じてほしい」と語っています。

まとめ

(C)TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018

本作『ジョーンの秘密』は、スリリングなスパイものというより、恋愛ドラマに重きを置いています。

また、あらすじのベースにある、イギリス、アメリカ、カナダ、そしてソ連といった国同士の諜報戦といった歴史的背景を把握しておかないと、内容について行けなくなるかもしれません。

しかし、前述したように、本作は“愛”のために信念を貫く女性のドラマです。

「祖国を裏切り共産国家に加担したのか」と、実の母親に嫌疑の目をかけるも、やがて彼女の信念に気づき、最後には傍らに寄り添う息子ニック。

80歳のジョーンは、そこで改めて、家族の“愛”を得るのです。

ラスト、「私はスパイではない。歴史を振りかえれば、私の行為は正しかったと分かるでしょう」と語るジョーンの主張をどう解釈するかは、観た方の判断に委ねます。

映画『ジョーンの秘密』は、2020年8月7日(金)からTOHOシネマズシャンテほかで全国順次公開

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