不当な差別と偏見に立ち向かう男たちを熱く描く!
エイズ感染により法律事務所を解雇された弁護士が、差別と命がけで戦う様を描くヒューマンドラマ『フィラデルフィア』。監督は『羊たちの沈黙』(1991)のジョナサン・デミです。
主人公・ベケットを演じた『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)のトム・ハンクスは、本作でアカデミー主演男優賞を初受賞。ブルース・スプリングスティーンが手がけた主題歌も歌曲賞を受賞しました。
『トレーニングデイ』(2001)の名優デンゼル・ワシントン、「デスペラード」シリーズのアントニオ・バンデラス、ジェイソン・ロバーズ、メアリー・スティーンバージェンが共演。
まだゲイやエイズへの偏見の強かった時代を背景に、正義を求めて法廷で闘う男たちを熱く描いた名作です。
映画『フィラデルフィア』の作品情報
【日本公開】
1994年(アメリカ映画)
【監督】
ジョナサン・デミ
【脚本】
ロン・ナイスワーナー
【編集】
クレイグ・マッケイ
【キャスト】
トム・ハンクス、デンゼル・ワシントン、ジェイソン・ロバーズ、メアリー・スティーンバージェン、アントニオ・バンデラス
【作品概要】
ギリシア語で「兄弟愛」を意味し、アメリカ最初の首都だったフィラデルフィアを舞台に描くヒューマンドラマ。ゲイとエイズへの偏見が裁判で覆されてゆく様を描きます。
監督は『羊たちの沈黙』(1991)のジョナサン・デミ。主演は『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)など多くの名作映画に出演し、本作でアカデミー主演男優賞を初受賞したトム・ハンクス。
またベケットと共に闘う弁護士・ミラー役を『トレーニングデイ』(2001)の名優デンゼル・ワシントンが演じます。
「デスペラード」シリーズのアントニオ・バンデラス、ジェイソン・ロバーズ、メアリー・スティーンバージェンら実力派が共演。ブルース・スプリングスティーンによる主題歌も、アカデミー歌曲賞を受賞しました。
映画『フィラデルフィア』のあらすじとネタバレ
一流法律事務所に勤務する優秀な弁護士ベケットは、ある日自分がエイズに感染したことを知ります。
ベケットは自身がゲイであることや病気を会社に隠していましたが、一人の同僚がベケットの額のアザを見つけてエイズだと気づきます。
やがて会社はベケットがミスをしたかのように工作し、それを口実に解雇を宣告。
エイズ患者に対する不当な差別だとしてベケットは訴訟を決意し、以前敵として法廷で闘ったことのあるミラーに弁護を依頼します。
ミラーはベケットが同性愛者であり、かつエイズ患者であることに偏見を抱き、当初は依頼を断りました。しかし、偶然図書館でベケットに再会したミラーは、偏見や蔑視と戦おうとする彼の姿に心を打たれ弁護を引き受けます。
事務所の社長らは能力不足によってベケットを解雇したと、裁判で証言します。しかしミラーは、様々な角度から応戦していきました。
しかし裁判は、日に日に衰弱していくベケットとその関係者にとって過酷なものになっていきます。
映画『フィラデルフィア』の感想と評価
正義の礎となるための大切な一歩
ゲイへの偏見が強かった1990年代のアメリカを舞台に描かれる法廷劇です。エイズという病が広く知られるようになった一方で、誤った情報も広まったことでゲイに対する偏見や差別がさらに強まっていた時代です。
そんな時代に、自身の正義と、言われなき差別に対峙する男たちの姿が描かれます。偏見に屈することなく声をあげた人々がいたからこそ、今日の「多様性」が支持される世が訪れたと言えるでしょう。苦しくとも大切な一歩を踏み出した人々に対して、尊敬の念を抱かずにはいられません。
主人公のベケットは、エイズにかかったことから会社に解雇されてしまいます。その後、自分の死期が近いと知りながら、不当解雇だと声をあげて全力で闘います。
彼自身が優秀な弁護士だったことも、訴訟を起こした大きな理由となりました。「法を守る」ということを天命としてきたベケットは、不正を見過ごすことができなかったに違いありません。
また、恋人やゲイの仲間たちが差別されずに済む未来のために、命をかけて裁判に臨んだとも思えます。
敵対する会社側の老人たちの姿は、まるで日本の政治家のようです。マイノリティーに向かって「気持ち悪い」と平気で吐き捨てる人たち。
彼らに何が悪いのか説明しても、きっと何一つ伝わらないだろうという諦めを感じてしまいます。言っていることが曖昧すぎてよくわからないのも、政治家の答弁にそっくりです。
ベケットを弁護することとなったミラーもまた、はじめはゲイに対して強い偏見や嫌悪感を抱いていました。しかし、ベケットの真摯な姿に感銘を受け、共に法を守るという使命に身を委ねる決心をします。
またベケットを愛し信じる家族は、特に大きな力となりました。
ゲイを嫌悪し、絶縁する肉親は決して珍しくありません。しかし、ベケットの家族は違いました。父親は息子の勇気を称えて「お前を誇りに思う」と語り、母親は「私は偏見に負ける子は育てなかった」「堂々と戦いなさい」と力強く背中を押します。
人が人を愛することに、性別は全く関係ありません。今なお根強く残る偏見や不平等が、一日も早くなくなることを心から祈らずにはいられません。
トム・ハンクスの鬼気迫る名演
本作の一番の見どころは、ベケットの人格が憑依したかのようなトム・ハンクスの鬼気迫る演技です。
昇進も決まり、明るい未来を約束されていた優秀な弁護士のベケット。しかし、エイズに感染したことで状況は一変し、次第に身体は衰えていきます。
次第に死に近づき、人相が変わってしまうほどに痩せ細っていくトム・ハンクス。痩せるほどに鋭くなる眼光から、ベケットの不屈の意志が伝わってきます。
対してデンゼル・ワシントン演じるミラーは健全そのものです。彼には愛する妻と、生まれたばかりのかわいい娘がおり、生命力に満ちていました。
ワシントンだからこそ演じられた、陽のパワーを持つミラー。彼との対比により、ベケットの苦しい状況はさらに浮き彫りとなります。
ベケットの恋人・ミゲールを演じるアントニオ・バンデラスにも注目です。
ラテン系のセクシーさを持つ俳優として有名な彼が、エイズに苦しむベケットを支える激しさと繊細さを併せ持つ恋人を演じます。悩みも喜びも分かち合ってきた2人の深い絆に胸打たれることでしょう。
まとめ
名優トム・ハンクスとデンゼル・ワシントンの見事な演技に魅了されるヒューマンドラマ『フィラデルフィア』。
マイノリティーの置かれた厳しい状況への警鐘と共に、法を守っていくことの重要さを教えられる作品です。
正義が認められるとは限らない世界の中で、私たち一人ひとりが声をあげていく意味について考えさせられます。