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映画『13月の女の子』あらすじネタバレと感想考察。小宮有紗×秋本帆華×萩原みのりで描く女子の純粋な友情SFファンタジー

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

どうしても、あなたに会いたかった!

映画『13月の女の子』が2020年8月15日(土)より、全国公開されています。

2017年と2019年に公演された同名舞台をもとに、脚本は舞台版の脚本を手がけた角畑良幸、監督は戸田彬弘で映画化されました。

本作で映画初主演を務めるのは、テレビアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』で声優としても活躍し、雑誌『bis』の専属モデルも務める小宮有紗。

引っ込み思案の穴森一穂(小宮有紗)は唐木田巫女(秋本帆華)に出会って親しくなりますが、唐木田巫女は心臓が悪く、入院中に亡くなってしまいます。悲しみにくれる一穂の元に唐木田巫女に関する一通の手紙が届きました。

その手紙に書いてある約束の場所に向かうと、不思議な転校生、浮間莉音(萩原みのり)が現れます。彼女の正体は、唐木田巫女との関係性は何なのか……。

ディストピアな世界における少女達の、リアルな感情のぶつかり合いやピュアな友情などみずみずしい演技に注目です。

映画『13月の女の子』の作品情報

(C)2020 映画「13月の女の子」製作委員会

【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
戸田彬弘

【キャスト】
小宮有紗、秋本帆華、萩原みのり、石川瑠華、茜屋日海夏、田野優花、酒井萌衣

【作品概要】
戸田彬弘監督自身が演出し、2017年に初演をむかえた舞台『13月の女の子』を同監督が映画化。脚本も舞台、映画共に角畑良幸が務めました。戸田彬弘監督は株式会社チーズfilm 代表、劇団チーズtheater 主宰として、演劇や映画と多岐にわたって活動しています。代表作は作家道尾秀介原案の映画『名前』(2018年全国劇場公開)。

主演の小宮有紗をはじめ、名古屋発のアイドルグループ「TEAM SHACHI」の秋本帆華、声優ユニット「i☆Ris」の茜屋日海夏、元「AKB48」の田野優花、元「SKE48」の酒井萌衣などアイドル出身女優や、『お嬢ちゃん』(2019)の萩原みのりや『猿楽町で会いましょう』の石川瑠華など若手女優が勢揃いです。

また名バイプレーヤーの津田寛治、『あゝ、荒野』(2017)などで知られる今野杏南、声優界から中島由貴なども出演しています。

映画『13月の女の子』のあらすじとネタバレ

(C)2020 映画「13月の女の子」製作委員会

引っ込み事案で、クラスに馴染めずにいた穴森一穂(小宮有紗)は、ある時階段の所に座り、桜の絵を描いていました。

その後ろで物音がし、ペットボトルが落ちてきました。振り返ると倒れ込む少女の姿が……。慌てて駆け寄るとクラスメートの唐木田巫女(秋本帆華)でした。

唐木田巫女は心臓が悪く、その時も突然の発作に倒れてしまったのです。そのことをきっかけに友達になった一穂と巫女。2人の秘密の場所は美術室でした。

そんな2人の幸せな時間はそう長くは続かず、巫女は入院することになりました。

巫女は一穂のヌードを描いており、元気になったら必ずこの絵を仕上げて、一穂にあげると約束していたのですが、その思いも届かず巫女は入院中に亡くなってしまいます。

悲しみにくれる一穂のもとに、一通の手紙が届きます。

『唐木田巫女について話があります。明日の夜、あの部屋に来て』 。不審に思いつつも、一穂は夜の校舎に足を踏み入れます。

そこに現れたのは謎の転校生・浮間莉音(萩原みのり)でした。

「私、唐木田巫女なの」

姿も名前も違うけれど異なる世界線からやってきた唐木田巫女だと浮間莉音は言いますが、一穂は戸惑って信じません。そんな一穂に浮間莉音は2人しか知らないはずの話をして信じてもらおうとします。

「巫女に会いたい」

一穂は巫女に会いたい一心で浮間莉音が別の世界線からきたのならば、唐木田巫女がいる世界に行けるはずだと言い、自分も別の世界線に行きたいと訴えます。

最初は戸惑っていた浮間莉音も一穂の一途な思いにうたれ、薬を手渡します。

「思いの強さが行き先を決めるから」

以下、『13月の女の子』ネタバレ・結末の記載がございます。『13月の女の子』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2020 映画「13月の女の子」製作委員会

一穂が目を開けるとそこは見覚えのある学校でしたが、何かが違います。走っていく女生徒の姿を見かけて一穂も後を追いかけます。

そこでは生徒たちと保健の教師が、一人の男を囲み何か言い争っていました。どうやら男は死んでいるようです。死んだ男をどうすべきか言い争っており、生徒同士は険悪なムードです。

一穂は戸惑い皆に質問しますが、皆はそんな一穂の様子に驚き保健室で休ませました。一穂に対して皆は、浮間莉音と呼び掛けます。

「穴森一穂は?」

そう問いかけても穴森一穂のことを誰も知らず、鏡の前に写った自分の姿を見ると。そこに写っていた顔は転校生の浮間莉音の顔でした。どういうことなのか分からず戸惑う一穂。

保健室にかけてあるカレンダーの日付は“13月”。一体何が起こっているのだろうか。

そんな時、保健室のベッドから人が起きる気配がし、ふと見ると、そこには会いたいと思い続けていた唐木田巫女の姿がありました。一穂は思わず泣きながら駆け寄ります。

そんな一穂に巫女は戸惑います。何故なら一穂のことをこの世界の巫女は知らず、巫女にとってはあまり話したことのないクラスメート浮間莉音だと思っているからです。

一穂は巫女に必死に自分は穴森一穂で、別の世界で巫女と親友同士だったことを伝えますが、相手にしてもらえません。しかし、巫女が心臓が悪かった話を伝えると驚いた表情をします。

誰にも心臓の病気のことを伝えていないはずなのに何故知っているのかと驚き、一穂の話を信じると巫女は言いました。

そしてこの世界にきたばかりの一穂に、この世界で今、何が起こっているのかを巫女は説明します。

その世界では地震が起き、大勢の人が亡くなり、この学校の生徒の多くも家族を亡くしました。家族を亡くした生徒はこの学校に残り、学校にある食糧などで命を繋ぎ、生徒同士で協力して生きていこうと決めたのだそうです。

この学校の外で何が起こっているのかも分からず、外の世界に行った人は帰ってこない、外の世界は地獄だと伝え聞いています。

しかし、食糧も限界があり、いつまでもつか分からない状況で、生徒たちは不安でお互い険悪になっています。この先どうしたら良いのか誰も分からない状況です。

「本当に別の世界から来たのなら、早く元の世界に戻った方がいいよ」と巫女言いますが、もう巫女のいない世界で暮らしたくない一穂は聞きません。

巫女の言った通り、生徒たちは死んだはずの恋人から電話がきたと電源の切れた携帯で会話する生徒がいたり、外の世界に行ったきりの男性教師の帰りをいつまでも待ち望む生徒など問題を抱え、険悪になる生徒もいる状態でした。

そんな中、いよいよ学校にあるわずかな食糧も少なくなり、このままでは皆で食糧がなくなって餓死するか、誰か一人外の世界に行く人を決めなくてはならないということになりました。

話し合いの末、それぞれ一番不必要だと思う人間の名前を匿名ではなく、記入制で投票することに。無記名もルール違反です。

誰もが外の世界に行きたくない一心でお互い疑心暗鬼になり、探り合いながらもとうとう投票の時間が来てしまいました。

一人ずつ名前が呼ばれていきます。しかし一穂は誰の名前も記入しませんでした。

「誰もいなくなって欲しいない」と訴えますが、無記名はルール違反とされ、ペナルティとして浮間莉音に2票入ってしまいます。

心臓病を抱え、自分が一番役に立たないと感じていた巫女は自分自身に投票します。

投票の結果、中神沙苗(磯原杏華)が3票で一番多く外の世界に行くことが決まりました。沙苗は絶望し、重苦しい空気が流れます。

そんな空気を壊したのは乃木真琴(長谷川かすみ)でした。真琴はうまく誘導し、沙苗に投票が集まるように仕組んでいたのでした。

そして、恋人が亡くなった現実を受け入れられないでいる四ツ木まどか(愛菜)に事実を突き付けます。真琴の容赦ない言葉にまどかは絶望し、屋上に向かってしまいます。

そんなまどかを追いかける巫女と一穂。

今にも飛び降りそうなまどかに巫女が、「私が目を閉じてまどかのもとに行くから、もし私がまどかを捕まえられずそのまま落ちたら、その後は好きにしていい。けれど掴められたら生きよう」と言います。

そしてそのまま走り出す巫女の手はしっかりとまどかの手を掴みました。泣きじゃくるまどかを駆けつけたクラスメートが抱きしめます。

巫女が無事で良かったと一穂がほっとしたのも束の間、心臓の発作が起きてしまいます。しかし心臓の薬はとっくに切れていました。

「もう二度と巫女を失いたくない」

一穂は無我夢中で世界線を飛び越える薬を手にし、巫女に飲ませます。

「思いの強さが行き先をきめるから」

走馬灯のように様々なシーンが溢れ、冒頭の桜の風景に。桜の木を眺め絵を描く一穂のもとにペットボトルが転がり落ちてきます。

映画『13月の女の子』の感想と評価

(C)2020 映画「13月の女の子」製作委員会

映画『13月の女の子』は、穴森一穂が唐木田巫女に出会いお互いに強く思い合う2人の様子を冒頭に描き、儚くもみずみずしい少女たちの一途な友情を描く映画なのかと思いきや、一穂が別の世界線に迷い込んだ瞬間180度世界観が変わるという、良い意味で観客を裏切ってきます

迷い込んだ世界の日付は13月。地震により全てが失われてしまったディストピアです。

クラスメートの関係性も元にいたた世界とは少し異なっています。例えば、元の世界では話していた奥沢ほのか(石川瑠華)は、別の世界線では耳が聞こえず話すことが出来ない…など。

情報も遮断され、食糧も尽きるかもしれない、どうすれば良いのか分からない状況で感情をぶつけ合う少女たちの生々しさが描かれつつも、唐木田巫女に出会い、想いが溢れ出す一穂の様子には、冒頭から変わらぬ2人の少女の純粋な友情というテーマがあります。

また、別の世界線に迷い込んだ穴森一穂はもはや穴森一穂ではなく、姿形は一穂が元の世界で出会った転校生、浮間莉音になっています。

更に、一穂なのか莉音なのかが曖昧になっていく回想シーンを時折挟むことにより、浮間莉音は本当に存在するのか。13月の世界は何なのかと観客を揺さぶります。

そしてラスト、今度は巫女が薬を飲み、世界線を越え、冒頭のシーンに戻っていく。

この物語は円環の物語である可能性も考えられます。しかし、それは新たな穴森一穂と唐木田巫女の出会いでもあります。

“もう一度会いたい”その思いが2人を繋げるのです。

まとめ

(C)2020 映画「13月の女の子」製作委員会

『13月の女の子』は少女の友情の物語ではありますが、そこにディストピアという要素をいれることにより、生死が分からない極限の状況であっても、お互いを思い合う純粋な友情のありようを浮き彫りにしています。

更に穴森一穂と唐木田巫女の出会いを冒頭とラストに映し出し、人と人が出会うべくして出会う、その奇跡を改めて感じさせてくれます。

映画初主演となった穴森一穂役の小宮有紗のみずみずしくピュアな演技、唐木田巫女のキャスティング秋本帆華の儚くも包み込むような存在感が、この映画で際立っています。

更に謎の転校生・浮間莉音を演じた萩原みのりの存在感も素晴らしく、それぞれ若手女優たちが演じる少女たちの強く純粋な思いがディストピアという世界に生きています。

今の彼女たちだからこそ出来る演技に注目です。



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