映画『愚か者のブルース』は2022年11月18日(金)より全国ロードショー!
広島で絶大な人気を誇るアナウンサー、横山雄二が描いた「ストリップ三部作」の完結編『愚か者のブルース』。
広島最後のストリップ劇場「広島第一劇場」を舞台に、『浮気なストリッパー』『彼女は夢で踊る』に続いて描かれたドラマ。
加藤雅也、熊切あさ美ら実力派俳優に加え、現役ストリッパーの矢沢ようこらはじめ、バラエティー富んだキャストが集結しました。
映画『愚か者のブルース』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督・脚本・出演】
横山雄二
【キャスト】
加藤雅也、熊切あさ美、横山雄二、佐々木心音、小原春香、矢沢ようこ、さいねい龍二、ノッチ、仁科貴、太田光、未唯mie、筒井真理子、藤江潤士
【作品概要】
広島の歓楽街・流川、薬研堀を舞台に、RCC中国放送のアナウンサーである横山雄二が監督・脚本を務め描いたドラマ。
主人公の映画監督・大根役を『彼女は夢で踊る』(2019)でも主演を務めた加藤雅也が担当。また横山はその後輩・那須役として出演を果たしました。そして大根を健気に支えるヒロイン・タマコ役を熊切あさ美が演じます。
映画『愚か者のブルース』のあらすじ
30年前、アマチュアながら一本の映画を作り上げ、映画業界に旋風を巻き起こした映画監督・大根。
しかしその後一本の映画を撮りながらも落ちぶれ、今はすでに過去の人となりピンサロ嬢タマコのヒモとして空虚な日々を過ごしていました。
そんなある日、タマコを自分の女だと主張するストーカーの男が現れます。困惑した大根とタマコは大根の大学時代の後輩・那須が営む広島のストリップ劇場に逃げ込むことを決断します。
大根を大歓迎する那須の計らいで、2人は劇場の楽屋に住み込むことに。那須や歓楽街の仲間たちは彼らを温かく迎え入れ、不運にまみれていたタマコは日々自分を取り戻していきます。
一方、30年前から次の一歩を踏み出せない大根は、周辺の人たちとの間に亀裂を生じさせることで、タマコとの関係に大きな摩擦を生み出してしまうのでした…。
映画『愚か者のブルース』の感想と評価
本作の印象的な要素の一つとして冒頭や要所で流れる、タマコが口ずさむ『てるてる坊主』の歌があります。
2022年の映画『島守の塔』でも、萩原聖人が演じる主人公・島田叡が、戦争の不安におののく沖縄県民らを励ますかのように大声でこの歌を歌うシーンが登場します。
歌が登場する意味としては、自身の望むべき未来に対し強い意志を感じさせるところでもありますが、一方で物語では、その歌を口ずさむ人物の思いは両作ともに叶えられない方向で終始しています。
そんな視点よりこの歌が醸し出す印象は、自身の人生を意図するところに変えていきたいという強い意思と、叶えられない現実という二つの状態のぶつかり合いを示しているようでもあります。
熊切が切なく口ずさむそのメロディー、そしてその旋律を追う印象的な画作りは、そのテーマの普遍性を今という時代につなげる重要な要素として機能させていることで、「時代を限定しない」物語であることを物語っています。
この点を含め全般的にぎこちなさを感じるセリフなど一見粗削りで古びた作風の中には、制作の落ち度というよりは、どこか70~80年代に見られた古き良き時代の映画を感じさせる作風を意図して作り込んだ巧みさが垣間見られ、「映画人が作った」と思わせる玄人好みの作品にも見えてきます。
一方、『浮気なストリッパー』『彼女は夢で踊る』に続いて三部作、その完結編とされている本作ですが、時に息をのむような映像美で物語を描いた前作『彼女は夢で踊る』からは若干趣を変えながら、そのテーマには変わらぬポリシーが織り込まれている印象があります。
横山監督が『ラジオの恋』(2012)で演じた自身の役は、ラジオという業界に失望し空虚な毎日を過ごしながら、あるきっかけで自身の歩むべき道を取り戻していくラジオパーソナリティーという役柄。この方向性は『彼女は夢で踊る』においてもしっかりと引き継がれています。
そして本作では、30年という空白の時間を持つ伝説の映画監督の物語でそのポリシーをまた受け継ぐ格好となっています。
前作と異なり「広島第一劇場」の本当の最後までも描いた本作は、結末の描き方としては少し趣を変えたものとなっていますが、映画のメッセージ的な部分は不変的なものとして織り込まれています。
核心的な技術の進歩で一昔前では不可能と思われることが、今やいとも簡単に実現できるということも少なくありません。
しかし、現在はそれゆえに人が夢を持つ、希望を抱くという意識が希薄になっているとも言えるでしょう。自殺率の上昇は、そんな社会情勢を表す一つの指標とも言われています。
本作はそんな今という時代に生きる人たちに向けた、作り手側からのメッセージとも捉えることができるでしょう。
まとめ
本作の冒頭には「HIROSHIMA NOUVELE VAGUE(広島ヌーベルバーグ)」という表記が行われており、製作陣の強い主張を表しています。
近年広島という地は、近年の東京・渋谷駅周辺の開発を彷彿する駅周辺開発や新スタジアム建設などを筆頭にさまざまな革新事業が進んでいます。
一方で核兵器禁止条約における日本の参加を求める大きな動きの中で、中心的な位置に存在し世界的にも注目を集めるなど、国内でも大きな関心の集まる場所であります。
一方、広島の姿として見られる風景に、本作で描かれるような歓楽街の姿は、「広島を紹介するもの」として描かれることは意外にもあまりない印象でもありますが、作品からは、だからこその「広島の素顔」を描いているイメージも感じられます。
本作を手掛けた横山監督、そして主人公を務めた加藤ともに広島の出身ではありません。
ですが、実はそのことが「広島」という場所の真実をうまく捉えているようです。‟だからこその広島”という場所の特徴、そして広島から新たな作品を発信していく意味の大切さを強く示しています。
この作品、そして後々に続いていく「HIROSHIMA NOUVELE VAGUE」作品がどのように人々に受け入れられ、広がりを見せていくかは、これからの映画作りという領域の発展に大きな意味をもたらしていくものであるとも考えられるでしょう。
映画『愚か者のブルース』は2022年11月18日(金)より全国ロードショー!