スティーブン・ソダーバーグの約4年ぶりとなる監督復帰作。
チャニング・テイタム、アダム・ドライバー、ダニエル・クレイグと豪華俳優陣が集結。
娯楽性とメッセージ性を見事に融合させた力作『ローガン・ラッキー』をご紹介します。
以下、あらすじや結末が含まれる記事となりますので、まずは『ローガン・ラッキー』の作品情報をどうぞ!
1.映画『ローガン・ラッキー』の作品情報
【公開】
2017年(アメリカ映画)
【原題】
Logan Lucky
【監督】
スティーブン・ソダーバーグ
【キャスト】
チャニング・テイタム、アダム・ドライバー、ライリー・キーオ、ダニエル・クレイグ、セス・マクファーレン、ケイティ・ホームズ、キャサリン・ウォーターストン、ドワイト・ヨーカム、セバスチャン・スタン、ブライアン・グリーソン、ジャック・クエイド、ヒラリー・スワンク、メイコン・ブレア、ジム・オヘア、デビッド・デンマン
【作品概要】
スティーブン・ソダーバーグ、祝監督復帰作!
『マジック・マイク』でタッグを組んだスター俳優チャニング・テイタム、
「スター・ウォーズ」シリーズでカイロ・レン役を演じるアダム・ドライバー、
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のケイパブル役を演じたライリー・キーオ、
そして、6代目ジェームズ・ボンドとして広く認知されているダニエル・クレイグ。
超豪華キャスト陣が集結し、監督の復帰作に花を添える。
脇を固めるのはセス・マクファーレン、ケイティ・ホームズ、キャサリン・ウォーターストン、ヒラリー・スワンク。
本作がデビュー作となる脚本家のレベッカ・ブラントの筆致にも注目!
2.映画『ローガン・ラッキー』のあらすじとネタバレ
車の修理をしながら、ジミー・ローガンは愛する娘に故郷ウェストバージニア州のことを歌ったジョン・デンバーの代表曲「カントリー・ロード」の誕生秘話を誇らし気に話しています。
離婚によって親権を失ったジミーにとって娘との交流が人生において唯一の救い。ジミーは娘の歌のコンテストを観に行くことを約束しました。
ジミーは学生時代、アメリカン・フットボールのプロリーグNFL入りを期待されていた選手でした。
しかし、膝の故障によって選手生命を絶たれ、今は肉体労働によってなんとか日々の生活費を稼いでいます。
ある日、ジミーは雇い主の会社から突然解雇を告げられます。
理由は、脚を怪我していることを申告していなかったことと、そのための保険料を出す余裕はないということでした。
職を失ったジミーにさらなる追い打ちが。愛する娘が隣の州に引っ越してしまうことがわかりました。
ジミーは弟のクライドが経営するバーを訪れます。クライドはイラク従軍の際に左肘から先を失っていましたが、お金のない彼は安物の義手を付けています。
そのバーでローガン兄弟は、クライドの義手をバカにしたレーサーのマックスと一悶着起こし、ジミーはクライドに向かって「カリフラワー」と呟きました。
「カリフラワー」とはかつて二人が計画した犯罪の作戦名。今回はシャーロット・モーター・スピードウェイを狙って、金庫の金を強奪するとジミーは宣言しました。
二人は早速、金庫の爆破のプロで現在服役中のジョー・バングに話をしに面会へ。ジョーは二人をバカにしながらも、自分の弟二人を仲間に入れれば手伝ってやると答えます。
ジミー、クライド、そして妹のメリーのローガン三兄妹、ジョー、弟のサムとフィッシュのバング三兄弟によるチームが結成されました。
3.映画『ローガン・ラッキー』の感想と評価
『恋するリベラーチェ』(2013)を最後に監督業から引退していたスティーブン・ソダーバーグ。
長編監督デビュー作『セックスと嘘とビデオテープ』でいきなりパルムドールを獲得した早熟の天才のあまりにも早い引退宣言に多くのファンは驚いたことと思います。
そんな彼が引退宣言を撤回し、実に4年ぶりとなる監督復帰作に選んだのが今回の『ローガン・ラッキー』。
本作はソダーバーグの代表作として知られる『オーシャンズ11』シリーズと同じチームケイパーものと呼ばれるジャンルの犯罪映画です。
さらに今回は、現金強奪だけでなく、脱獄ものも絡んでくる増し増しスタイル。
個人的にはトム・クルーズと並んで作品選びのセンスが良いと思っているチャニング・テイタム、ジム・ジャームッシュの『パターソン』での好演が記憶に新しいアダム・ドライバー。
まずもってローガン兄弟を演じた二人が素晴らしく、脇を固めるライリー・キーオ(セクシーな美女はチームケイパーものに必須!)やキャサリン・ウォーターストンとヒラリー・スワンクの超贅沢使い(さすがソダーバーグ!)。
そして、実に楽し気にジョーを演じたダニエル・クレイグ。彼が6代目ジェームズ・ボンドに決まった時も、どっちかと言ったら『ロシアより愛を込めて』に出てきたロバート・ショウ演じるグラントみたいだという声が挙がったほどに元々悪役顔のため、今回の役はピッタリ。
しかし本作は、オーシャンズシリーズやMIシリーズのように各分野のプロフェッショナルが集まって華麗かつ大胆に盗み出すことに重点を置いた作品ではありませんでした。
ソダーバーグの監督復帰ということ以上に目を引くのが脚本を担当しているレベッカ・ブラント。
本作が脚本デビューで、ソダーバーグの友人らしいですが詳しいことはよくわからない謎の人物。彼女は実在しないのではないかと噂になったほどです。
そもそも今回のソダーバーグの監督復帰のきっかけもこのレベッカ・ブラントが書いた脚本だそうで、本来は監督を紹介するはずが脚本を読んで他の人に監督させるくらいなら自分でやるという流れになったそう。
本作は、その脚本家レベッカ・ブラントの想いが強く刻まれたお話になっていました。
アメリカでは、白人労働者階級のことを表す様々な蔑称が存在します。
それは住む地域によって異なり、「クラッカー」(ジョージア州、フロリダ州)、「オキー」(オクラホマ州)、「レッドネック」(アパラチア山脈)などなど、差別的な表現ばかり。本当に酷い表現の仕方だと思いますが、「ホワイト・トラッシュ」という言葉もあります。
本作におけるジミーもこの白人労働者階級に当てはまり、いわゆるブルーカラーと呼ばれる肉体労働者です。
彼の故郷であるウェストバージニア州を指す上述の蔑称は「ヒルビリー」、無知の田舎者というニュアンスも含んでいます。
彼らのほとんどはジミーのようにワーキングプア、働いていても賃金が低いのでどんどん困窮していく低所得者です。本作の脚本を担当したレベッカ・ブラントも同じような境遇でした。
つまりこの映画は表向きは娯楽度の高いクライム・ムービーでありながら、その実は、お金も知識もなくて精神的にも貧しい田舎者とバカにされてきた「ヒルビリー」たちによるささやかな反撃なのです。
映画の序盤こそローガン兄弟は本当に馬鹿でダメなやつなんだろうなと観客にも思わせておいて、終盤に明かされる全てを計算尽くでやっていたジミーの切れ者ぶり。
バカだと思って舐めていたやつらにいっぱい喰わせてやったわけです。
しかし、ジミーは苦労して手に入れた大金を私利私欲のために使うのではなく、そのほとんどを返してしまい、それを医療のために寄付しています。
さらには色々な人に分け与えている。そこに黒人が含まれているのも大きな意味を持つでしょう。
そこからは、俺たちは心まで貧しくないぞと訴える強い想いを感じました。他の人のために分け与える心の余裕もあるし、人間性を失うほど落ちぶれていない。「ホワイト・トラッシュ」なんかじゃねーぞと。
ここからは想像ですが、脚本に隠されたレベッカ・ブラントのこの熱き想いを感じたからこそ、ソダーバーグが本作を監督するまでに至ったのだと思います。
また、映画の冒頭はとても重要なシーンになっていることが多いですが、本作においてもすごく大きな意味を持っていました。
オンボロでも馬力のある車(たしかフォードだったと思うのですが…)を修理しながら、娘に故郷ウェストバージニア州のことを歌ったジョン・デンバーの「カントリー・ロード」について語るジミー。
車とカントリーソング、この二つのモチーフが象徴するのは古き良きアメリカ。
フォードはイーストウッドの『グラン・トリノ』においても古き良きアメリカの象徴として使われていました。
2009年のリーマン・ショックによってビッグスリーと呼ばれる自動車メーカー(フォード、GM、クライスラー)が揃って経営破綻。正確に言うとフォードは破綻はしていませんが大打撃を受けました。
そして上述した蔑称「ヒルビリー」という言葉はカントリー・ミュージックそのものも意味しています。
あのコンテストの合唱シーンが非常に感動的なのは、父と娘の愛の物語であると同時に、ウェストバージニア州あるいはアメリカという国自体の復権を願うシーンにまでなっているからだと思いました。
俺たちが愛したあの頃の姿をもう一度取り戻そうと。「ヒルビリー」という言葉は差別用語なんかじゃなくて、誇らしい愛すべきカントリー・ミュージックのことを指すんだよと。
クライドがイラク従軍で左手を失ったように、ここ何十年のアメリカが生み出してしまった負の遺産は大きすぎます。
実際にトランプ政権を支持している層はこの「ヒルビリー」だとニュースで目にします。
それでも現実を変えるためになんとか手を取り合って、愛の力で前に進んでいこうとこの映画は背中を押しているような気さえしました。
編集でもっと短くテンポよくすることも出来たようですが、ソダーバーグは人間ドラマに時間を割きたかったためそこは譲らなかったので、話のスケールに対して時間が長く、ただの娯楽作品として観に行くとおそらく中盤はややダレると思います。
しかし、ケイパーものと同時に脱獄ものも楽しめて、かつ社会的なメッセージの詰まった家族ドラマも存分に味わえます。一粒で二度も三度も味わえる力作でした。
まとめ
今年のアメリカ映画は社会的なテーマを盛り込んだ良作が多いような気がしています。
アカデミー賞を受賞した『ムーンライト』、『ドリーム』や『ゲットアウト 』は差別をテーマにしています。
トム・クルーズが好演していた『バリー・シール/アメリカをはめた男』はアメリカ批判を忍ばせた快作。
この『ローガン・ラッキー』も娯楽としてしっかり笑えて楽しめるのに、最後はきっちり感動させる見事な作りでした。
ソダーバーグはこの後も映画監督を続けるようで、近いうちに女性版『オーシャンズ11』と噂される『オーシャンズ8』を監督するそうです。
世間は暗いニュースばかりでも、ソダーバーグの復帰は映画界にとって明るいニュースですね!