ベネチア国際映画祭で金獅子賞に輝いた戦争映画の名作。
ジッロ・ポンテコルヴォが脚本・監督を務めた、1966年製作のイタリア・アルジェリア合作の戦争ドラマ映画『アルジェの戦い』。
1950年代初頭、フランス統治下のアルジェリアを舞台に、カスバのチンピラだった男が地下組織の独立運動に身を投じていく姿とは、具体的にどんな内容だったのでしょうか。
1954年から62年にかけてアルジェリアで起きた独立戦争をリアルに再現し、1966年ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した、20世紀を代表する戦争映画の名作『アルジェの戦い』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
CONTENTS
映画『アルジェの戦い』の作品情報
【公開】
1967年(イタリア・アルジェリア合作映画)
【脚本】
ジッロ・ポンテコルヴォ、フランコ・ソリナス
【監督】
ジッロ・ポンテコルヴォ
【キャスト】
ブラヒム・ハギアグ、ジャン・マルタン、ヤセフ・サーディ、トマソ・ネリ、ファウジア・エル・カデル、ミシェル・ケルバシュ
【作品概要】
ジャーナリスト出身のジッロ・ポンテコルヴォが脚本・監督を務めた、イタリア・アルジェリア合作の戦争ドラマ作品。
1966年ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した、20世紀を代表する戦争映画の名作です。2016年にはオリジナル言語版のデジタルリマスター版が公開されました。
ブラハム・ハギアグが主演を務め、『恐怖に襲われた街』(1975)や『王と鳥』(2006)などに出演するジャン・マルタンが共演しています。
映画『アルジェの戦い』のあらすじとネタバレ
1957年、フランス統治下のアルジェリア。フランス軍は、アルジェリアの再建と独立を目指す地下組織「民族解放戦線(FLN)」の最後の1人、アリ・ラ・ポワントを捕まえるべく、彼の居場所を知る男を捕まえ拷問しました。
拷問に耐えかねた男はアリの居場所を吐き、フランス軍の正規兵に扮してアリの元へ彼らを案内しました。
アルジェリアの首都カスバの街を包囲し、アパートの浴室の壁の中に潜むアリを追い詰めたフランス軍は、アリに潔く投降するよう求めますが、アリは沈黙を貫き続けます。
時を遡ること1954年、アルジェリア。ヨーロッパ人地区のカスバでは、FLNによるアルジェリア人に向けた声明が発表されました。
「アルジェリア人民よ、我々は植民地主義と闘い、祖国の再建と独立を目指す組織だ」「イスラムの原則と基本的自由に基づく、垣根のない国家を樹立する」
「無用な流血を避けるため、フランス政府には平和的対話を提案する」「アルジェリア人民よ、自由のために闘おう」
「勝利は諸君のものだ、力を合わせ進もう。FLNと共に闘うのだ」………一方、カスパに暮らす青年アマール・アリ(通称アリ・ラ・ポワント)は、幼い頃から何度も器物損壊罪や騒乱罪などで逮捕され、非行少年や非行少女の保護・教育を目的とした福祉施設「感化院」へよく出入りしていたチンピラです。
そんなある日、アリは白昼堂々賭博行為をしていたことが、警官に見つかり逃走。その際、足を引っかけて転ばせてきたフランス人男性に「アラブのドブネズミ」と罵られ激昂し、男性に殴りかかったところを逮捕されました。
刑務所に収容されたアリは、イスラームの神「アッラー」を賛美する囚人が、断頭台に連れて行かれ処刑された場面を目撃します。
それから5か月後、釈放されたアリの元に、突如1人の男の子が現れ声を掛けてきました。
「カスバにあるカフェの主人ムハルビは警察と通じている。毎日夕方5時に警官が店に立ち寄る」
「表向きはコーヒーを飲むためだが、実際は店主から情報を仕入れている」「カゴを持った若い女性が店の近くにいる、2人で警官を尾けろ」
「タイミングを見て女が拳銃を渡すから、警官の後ろから射殺しろ」………謎の人物からの命令を遂行するべく、アリは女と一緒に警官を尾行し、射殺しようとしました。
しかし、女から渡された銃には弾が入っていませんでした。アリは警察の追手から逃げつつ、先に逃げた女を追いかけ、少年を介して自分に命令を下した者への面会を求めました。
アリに警官の暗殺を命じたのは、FLNの指導者エル・ハディ・ジャファー。彼は出所したばかりのアリをすぐさま仲間に引き入れたかったのですが、もしアリが警察と通じていたらと考え、その真偽を確かめるテストを行いました。
ジャファーは本気で警官を殺そうとしたアリの話を聞き、彼を正式に組織のメンバーに加えることにしました。
ただFLNが本拠地とするこのカスパには、酒飲みや娼婦、麻薬中毒者が多いです。そのため口が軽く裏切る可能性が高い連中は、完全に組織に引き込むか排除するしかありません。
ジャファーは新たな仲間となったアリに、「まずは味方を整理し、組織を固めてから本当の敵に立ち向かおう」と言いました。
1956年4月。FLNはアルジェリア人に対し、24号となる声明を発表しました。「アルジェリア人民よ、植民地政府は我々を貧困の奴隷としただけでない」
「民族の尊厳を奪い、多くの兄弟姉妹を汚染し堕落させた」「FLNはこの事態を改善するため、全人民に協力を求める。それがアルジェリア独立のための第一歩だ」
「本日をもってFLNは、アルジェリア人民の心身の健康を保つため、麻薬と酒の販売及び消費、売春及びその斡旋行為を禁じる」
「違反者は処罰し、再犯者には極刑を科す」………この声明が発表されてすぐ、路上で酒を飲んでいた男が、FLNに協力する子供たちに捕まり、階段の上を転がされていました。
アリは組織からの命令により、麻薬取引を行っている旧友ハッサンを警告した上で、抵抗する彼を持っていた機関銃で射殺しました。
映画『アルジェの戦い』の感想と評価
最後までアルジェリア人の自由のために戦ったFLN
物語の最後では、オマールたち他の仲間を死なせないために、隠し部屋で1人で残る決心をするほど、実は仲間想いな熱い男アリ。
しかしアリは、根っから血の気が多く喧嘩っ早い性格故に、最後まで力でフランス政府を黙らせようとする傾向があり、終始ハラハラドキドキさせられます。
対してムヒディとジャファーは、武力を使って自由を勝ち取るのではなく、世界に自分たちの存在を知らせ、自由を訴える声を届けることを独立運動の目的としていました。
対照的な3人でありながらも、アルジェリア人の自由を願う気持ちが強いという共通点があります。アリたちは出会うべくして出会った仲間、同志なのでしょう。
命を懸けて自由を訴え続けたアリたちが、独立国家アルジェリアの誕生に立ち会って欲しかったと、本作を観た誰もが切に願うほど心揺さぶられます。
徹底した抗ゲリラ作戦を展開するフランス軍の空挺師団
アルジェリアの治安を回復させるため、FLNの壊滅に挑むマチュー中佐たちフランス軍の空挺師団。記者団にマチュー中佐が否定した、FLNメンバーへの拷問は想像以上に酷く、思わず目を背けたくなります。
それでもマチュー中佐は、非合法な拷問を行う一方で、アリたちに自ら投降するよう何度も求めました。
それはジャファーたちと同じ、無益な戦いによる流血を避けたいからです。それと同時に、テロリストであるアリたちを処刑することで裁くのではなく、裁判による裁きを受けて欲しかったと考えたのではないでしょうか。
FLNによるテロ活動で、同じフランス人や仲間を失って恨む気持ちの方が強いはずなのに、即座にアリたちを射殺するのではなく、投降するか否か選択肢を与えたマチュー中佐の優しさに胸を打たれます。
まとめ
最後までアルジェリア人の自由を、フランスの支配下からの独立を訴え続けたアリたちFLNの姿を描いた、イタリアとアルジェリア合作の戦争ドラマ作品でした。
ジッロ・ポンテコルボ監督が目撃者や当事者の証言、残された記録文書をもとに、アルジェリア人とアラブ人たちカスバの住民とFLNによるアルジェリアの独立運動を、ドキュメンタリータッチでリアルに再現しています。
よりリアルさを追求してか、さらにジッロ・ポンテコルボ監督は、本作の舞台であるカスバでオールロケを敢行。5年の歳月をかけて製作した本作の撮影には、アルジェリア市民8万人による協力と、主要キャストには実戦経験者の活躍の賜物でもあったのです。
結果的にFLNは壊滅し敗北したものの、命懸けで訴え続けたアリたちの声は、他の国や地域に暮らすアルジェリア人の心を動かしています。
それがやがて大きな団結という名の力となり、アリたちが切に願ったアルジェリアの自由を勝ち取ったのです。さすがにフランス政府も軍も、白旗をあげるしかありません。
白黒映画でありながらも、観ている人の心を強く揺さぶってくる登場人物たちの言動と描写、そして緊張感あふれる爆破が描かれた感動の戦争ドラマ映画が観たい人に、とてもオススメな作品です。