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映画『このまちで暮らせば』感想レビュー。考察【仕事と家族を超えた活動的次元】

  • Writer :
  • 森田悠介

映画『このまちで暮らせば』は、2018年7月14日(土)より、新宿K’scinemaにて1週間限定ロードショー

熊本県にある林業の町・南小国町を舞台に、親子の絆と人々が未来に向かって歩む姿を、たくましく育つ杉の木の姿に重ねて描いた意欲作。

今回は注目の若手俳優笠松将の主演作品『このまちで暮らせば』をご紹介します。

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映画『このまちで暮らせば』の作品情報

【公開】
2018年(日本映画)

【脚本・編集・監督】
高橋秀綱

【キャスト】
笠松将、芋生悠、藤本喜久子、勝野洋

【作品概要】
平成29年度熊本県地域づくり夢チャレンジ推進事業の一環として制作され、熊本県南小国町を舞台に主人公の樹の従事する林業と親子の絆を描いたヒューマンドラマ。

映画『このまちで暮らせば』のあらすじ

熊本県にある南小国町。ある思いを胸に、一人前の林業作業士を目指している青年、樹。

彼は母親町子と不仲となり、福岡にある実家から家出をしてきました。

師匠の茂に樹は両親はいないと嘘をついて暮らしています。

ある日、樹を訪ねて母親の町子がやって来ました。

師匠の茂に嘘がばれてしまった樹、しかも、東京から逃げて来た茂の孫娘の緑からも責められてしまう始末。

それでも母町子を受け容れようとしない樹は、町子は命に関わる病気であると茂から知らされます…。

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映画『このまちで暮らせば』の感想と評価

近年の邦画では、ある仕事の舞台裏や働きぶりをドラマにみせる作品がよくつくられ、それらは“特殊職業映画”としてジャンル化されています。

たとえば、国語辞典の編集(編さん)過程を追う『舟を編む』(石井裕也監督/2013)や、林業に就労した若者の青春を描く『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』(矢口史靖監督/2014)などといった作品群があげられます。

なお、どちらも「特殊職業」に焦点を当てた小説を数多く発表する作家、三浦しをん原作の映画です。

本作『このまちで暮らせば』も、福岡から熊本の南小国町にやってきた樹(たつき)が「林業作業士」を目指すという設定をもっており、一見するとそのジャンルに近いように感じられます。

しかし、林業を特殊職業として扱うのではなく、木々とおなじく世代を超える物語をもつ「家族」のモチーフとしたり、樹の働き方から「労働」と「仕事」の違いを表現していたりと、主眼はあくまで「人間」の側にあります。

『WOOD JOB!』とはまた異なるそれらの問題系を、以下にみていきます。

樹の「労働観」

樹は「土砂災害で両親を亡くした」ことを背景に、熊本県阿蘇郡南小国(本作の舞台ならびに製作を担当)に“移住”し、林業を営む茂(しげる)のもとで日々働いています。

茂は孫娘の緑(みどり)と暮らしており、彼女も母親と住んでいた東京から祖父のもとへ“移住”してきました。

茂の言うように3人はまるで「家族みたい」な関係で、みんなで温泉に浸かりにゆくこともあります。

またじつの兄妹のように、樹と緑はなかなか言い争いが絶えません。

緑が食材の調達や料理の準備で「こっち来てから手、がさがさ」とでも言えば、樹はこのように返します。

「文句あるんやったら東京帰れや。仕事もせんで。」

樹は事あるごとに緑に対してこの「仕事もしないで」という言葉を吐きます

今後の樹の成長を理解するためにも、ここがひとつのポイントですので、覚えておいてください。

樹の「家族観」

そのような日常を過ごすなか、ある日、ひとりの女性が森林組合を探して当地に訪れます。

彼女は樹の顔を目にとめると「樹」と名前を呼び、おどけた素振りで「よっ、久しぶり!」と左手をあげてみませます。薬指には白く輝く指輪がはめられていました。

観客はこの演出により、ここですべてを把握します。

女性は樹の母であり、カメラが左手薬指の指輪をわざわざねらっていることから、おそらく再婚したのであろうと。事実その通りで、それを一瞬で示すこのショットはとても良くできているといえるでしょう。

樹は“移住”というよりは、“逃避”してきたのです。父親は大学に勤める森林の研究者で、研究中に山で不慮の死を遂げたことが、のちに明かされます。

母親(町子)にはそれで林業に反対されたと言い、家を飛び出してきたのでした。

この町は、父親が小国杉をつかって家を建てようとしていた土地でもあり(植樹をした思い出もあり)、やがては3人で移住する予定だったようです。

これが“逃避=移住”の本当の理由でした。

「あいつがなにをいっとるか知らんが、俺は仕事するために来たんやけ!」

緑が町子の身を案じることをすこし口にすると、樹は激しい口調でそう返します。

そしてまた「逃げてきたお前と一緒にすんな(…)仕事もせんで生活しとるお前にはわからんやろうが」と“仕事”を口実に罵倒しはじめるのです。

緑は緑で、小国杉の工芸品をつくる工房で働きたく、故郷に戻ってきたことが茂の話から示されます。

樹も緑も夢があることには変わりありません。樹のほうがすこし早く実作業に取り組んでいるからといって、自分は働いていて、緑は働いていないことになるのでしょうか?

そもそも“仕事”とはなんでしょうか

茂の「労働観」

町子は心臓の病気で、必ずしも成功するとはかぎらない手術を控えていました。

茂はそのことを聞かされており、樹にも母親と一緒に帰るよう促します。

その忠告にもかかわらず、樹はつぎの日もなに食わぬ顔で職場にやってきます。それを見た茂は「この町にお前に切らせる木はない!」と激怒して、山に入る資格はないことを告げるのです。

樹の切ってきた「木」というのは、単なる植物ではなくて、「この町で暮らしてきたひとが、何百年も前から、何代も何代も、つぎの子どもや孫の暮らしのためにつないできた」木々であり、そこでの仕事には「親たちの思いを、守って、つなげていく」という意味が込められていました。

親子の絆を大事にできない者が、何世代にもわたる「絆」など仕事で扱えるわけがない。茂はそう説き伏せます。

自分のために、その日ごと手足を動かすことは“仕事”ではない。それはもっと社会的で、人間的な行為であることがここでは示唆されています。

ハンナ・アーレント『人間の条件』からみる樹の働き方

よりわかりやすく整理するために、ドイツの哲学者ハンナ・アーレントの著作『人間の条件』からいくつかの概念を借りたいと思います。

アレントは、人間の生活を「労働(labor)」と「仕事(work)」と「活動(action)」の3つにわけてそれぞれの意味をとらえます。

1つ目の「労働」とは、先述したような日常的におこなわれる作業、生命を維持するための行動です。

2つ目の「仕事」は、生物的な個体をはなれて、人工的な財やサービスをつくる行動です。

3つ目の「活動」は、人と人の協働を通して、他者を認識し、自分を獲得するような行動です。

樹が威張って「俺は仕事をしている」という場合の“仕事”は、ここでいう「労働」です。

自分しか見えていません。たしかに切った木材は市場に流通しますが、自分の命を超えて受け継がれる歴史性を意識していないため、「仕事」にはなりえません。

また茂の説教からは、活動的な領域も確認できます。林業を生業とすることで、自分が歴史的な存在であり、かつ多くの人に支えられている社会的な存在であるとこが、よくわかります。

樹は血のつながった実の父親の思い出に縛られ、再婚した父親の存在は眼中になく、「他者」に対してとても非寛容です。

そのため、仕事を通して「活動」の次元に踏み入れることもできないでいます。

茂は樹の働きぶりから、彼のそのような未熟さを喝破したのでした。

まとめ

緑は茂に追い返された樹を見かねて、彼をあるところへ案内します。そこには1本の若木が植えられていました。「なんでここに」と尋ねる樹に、「それは町子さんが植えたもの」と緑は答えます。

母の「植樹」の2つの意味

「昨日おじいちゃんにお願いしに来たの。あんたの役に立ちたいって。あんたが心配だからって。」

茂の叱責からもうかがえるように、この町では樹はまだ、“よそ者”に過ぎません木とともに歴史を背負っていないからです。

この植樹にはまず、「樹が住民になれますように」という母の願いが込められていると推察できます。

そもそも“移住”に反対などしていなかったのです。

「私、それ植える町子さん見て、わかったことがある。どこに住んでいても、そんなに離れていても、やっぱり親は親で、家族は家族なんだってこと。」

植樹の2つ目の意味は、緑が言う通りでしょう。ましてや町子は生死の危機に瀕しています。「どこでも一緒」の裏には「死んでも一緒だよ」という遺言めいたメッセージが隠されているのかもしれません

みずからの過ちに気がついた樹は、あわててバス停まで駆けだします。しかしもう、バスは発ったあとです。

そこから夢うつつになって向かった先は、幼いころ家族3人で見学した製材所でした。

製材の隙間から、父と母と子どもの自分が幻視となって立ちあらわれ、とても美しいショットがつづきます。

そのイメージのなか、ふいに母から呼びかけられ、我に返る樹。なんと町子もバスを見送り、この思い出の場所に立ち寄っていたのでした。

樹が与えた3つ目の意味

ここで、樹は「母の植樹」に3つ目の意味を与えます。

「見に来れば。自分が植えた木が毎年育っていく姿、ちゃんと自分で確かめればいいよ。」

そして、「仕事の意味」もついに理解したようです。

「俺、この町で家建てられるよう、がんばるけん。だから、遊びに来いよ……ふたりで。」

自分が建てた「家」に「他者=再婚した父」を迎え入れる

これぞ「仕事」であり、人間としての「活動的次元」に樹が足を踏み入れた瞬間でした。

以上考察してきたように、本作品『このまちで暮らせば』は、よくある「職業映画」や「家族映画」ではありません

労働の外に仕事の意味を見つけ、他者の内に家族の意味を発見する、極めてよくできた作品です。

どなたにも自信をもってお薦めできる映画です。

『このまちで暮らせば』(監督:高橋秀綱)が2018年7月14日(土)より、新宿K’scinemaにて1週間限定ロードショー。お見逃しなく!

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