吃音症のイギリス国王の苦悩と成長を追う史実ドラマ
現在のイギリス女王であるエリザベス2世の父・ジョージ6世の姿を、「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズのコリン・ファース主演で描く伝記映画。
幼少時より吃音に悩まされ、内気だった王の苦悩と成長が綴られます。
『レ・ミゼラブル』(2012)のトム・フーパーが監督を務め、アカデミー賞4部門を受賞しました。
ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム・カーターら名優が出演します。
国王と言語聴覚士という身分の違う2人の魂の熱い結びつきに心打たれる一作です。
CONTENTS
映画『英国王のスピーチ』の作品情報
【公開】
2011年(イギリス・オーストラリア映画)
【脚本】
デヴィッド・サイドラー
【監督】
トム・フーパー
【編集】
タリク・アンウォー
【出演】
コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム・カーター、ガイ・ピアース、デレク・ジャコビ
【作品概要】
『レ・ミゼラブル』のトム・フーパー監督が、吃音に悩んだ内向的なイギリス王・ジョージ6世の史実を元に描いた人間ドラマ。
自らも吃音症で、30年企画をあたためてきたデヴィッド・サイドラーが脚本を務めました。
第83回米アカデミー賞で作品、監督、主演男優、脚本賞を受賞した秀作です。
「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズや「マンマ・ミーア」シリーズで人気のコリン・ファースが主演を務めます。
共演にも「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのジェフリー・ラッシュ、「ハリー・ポッター」シリーズのヘレナ・ボナム・カーター、『メメント』(2001)のガイ・ピアースら名優が顔を揃えます。
映画『英国王のスピーチ』のあらすじとネタバレ
1925年。大英帝国博覧会閉会式で、ヨーク公アルバート王子は父王のジョージ5世の代理として演説を行いましたが、吃音症でうまくしゃべることができないまま終わってしまいます。妻のエリザベスは涙を浮かべて隣で見ていました。
王子は吃音治療を受けましたが治りませんでした。エリザベスは身分を隠して優秀な言語聴覚士のライオネル・ローグを訪ねます。信頼と対等な立場が必要なので例外なく診療は自分の診療所でおこなうとローグは伝えます。
エリザベスは夫を説き伏せ、一緒に再訪しました。ローグは王子本人だけを診察室に招き入れます。そして自分をライオネルと呼ぶようにいい、自分も対等に王子をバーティと呼ぶと伝えました。
王子の吃音の原因を探っていたローグは、王子が小説を音読できる方に1シリングを賭けると言います。その言葉を信じないまま、王子は大音量で音楽をかけたヘッドホンをつけた状態でシェイクスピアを読みました。
途中でかんしゃくを起こして中断する王子。ローグは王子の声を録音したレコードを手渡しますが、王子はそのまま帰っていきました。
クリスマスラジオ放送の後、父王のジョージ5世は人妻との恋愛で問題を起こしている兄王子デイヴィッドの代わりにアルバート王子に演説の仕事が増えるので精進するよう厳しく言います。
帰宅後、イライラが募った王子がローグが録音したレコードをかけると、滑らかに小説を読み上げる自分の声が聞こえてきました。
衝撃を受けた王子夫妻は再びローグを訪ね、改めて治療を依頼しました。
アルバート王子はローグの指導の下、口の筋肉をリラックスさせる練習、呼吸、発音の訓練を毎日積み重ねていきます。
映画『英国王のスピーチ』の感想と評価
ジョージ6世と言語聴覚士ローグとの篤き友情
吃音症に悩む王が、民間の言語聴覚士の導きによって苦難を乗り越え成長していくさまをあたたかな視線で描く感動作『英国王のスピーチ』。
自らも吃音を持つ脚本家デヴィッド・サイドラーが構想を長年あたため、秀作へと昇華させました。アカデミー賞では12部門にノミネートされ、4部門を受賞する快挙を成し遂げています。
「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズでのコミカルな演技が人気のコリン・ファースが主人公のジョージ6世を好演。シリアスななかにユーモラスさを交えて、魅力ある人物像を作り上げています。
王を導く言語聴覚士のローグに扮するのは『シャイン』(1997)でオスカーを受賞したジェフリー・ラッシュ。ファースと息のぴったり合った名演をみせています。
本作の一番の魅力は、ジョージ6世とローグの身分を越えた深い友情です。
王族として平民のローグを低く見ていたアルバート王子は、診察の間は自分を「バーティ」と愛称で呼び、対等な関係を結ぼうとする彼に反発心を抱きます。
しかし、彼のメソッドで自分が吃音なしに小説を朗読できていたという事実に気づき、信頼を寄せるようになりました。
ローグは医師資格を持っていませんでしたが、戦争で心が傷つけられ言葉を失った人たちを数多く治療してきた経験がありました。王子の吃音の原因が彼の心の傷にあることをローグは初めから見抜きます。
左利きから右利きへ厳しく矯正されたことをはじめ、乳母による長年に渡る虐待、幼かった弟が亡くなった時、不吉だからとしばらく事実を隠され悼むこともできなかった経験など、幼いころに受けた残酷なまでに深い心の傷がアルバート王子を縛り付けていました。
ローグはアルバート王子の痛みをすべて受け入れ、彼を呪縛から解放し、「あなたは立派な人間だ」と傍らで言い続けます。「受け入れられる」経験が幼い頃からなかった王子の心は、ローグによって次第にあたたかな感情で満たされるようになっていきました。
王族として生まれた以上、厳しく育てられる境遇にあったことは仕方のないことかもしれません。しかし、自由がまったく許されないなかで、ただ否定され矯正され続けてきた人生の苦しさは想像以上のものだったことでしょう。
奔放な兄に代わり、突然王位を継ぐ重責を担わねばならなくなったジョージ6世の苦悩は計り知れません。海のように広い心ですべてを受け止めてくれるローグという存在は、王にとって何にも代えがたいものとなっていきました。
ローグはそんな彼を導きながらも決して優越的になることはなく、最初に自ら王に告げた通り「対等な存在」であり続けます。
国民向けスピーチのために2人きりで入った放送室での空気感のあたたかさ、心地よさは、観る者の胸を熱い思いで満たしてくれます。
心深いところで繋がれた友人同士として、生涯親交を深めたという2人の姿から多くのことを教えられる作品です。
チャーミングな妻の存在
アルバート王子のために、優秀な言語聴覚士のローグをみつけだしたのは愛妻のエリザベスでした。それも新聞広告から自力で探し出したといいます。彼女の夫への愛と心配はそれほどまでに深いものでした。
王子の妻としての高いプライドでさえも、夫への愛ゆえに抑え込む理性と賢さを持った女性・エリザベスを演じたのは、名女優のヘレナ・ボナム・カーターです。
『鳩の翼』(1998)「ハリー・ポッター」シリーズなどで知られ、「アリス・イン・ワンダーランド」シリーズでは特殊メイクで赤の女王役を演じ話題となりました。
エリザベスは初め、自宅に診察に来るようにローグに言いますが、彼は対等な立場で診察するために診察室に出向いくようにと断ります。反発心を抱きながらも、エリザベスは夫を説き伏せてローグを訪ねて行きました。
また、ローグが自分をファーストネームのライオネルと呼ぶように夫に言ったことも面白くは思っていません。しかし、最後は心を開き、彼女自身も同じようにローグを呼ぶようになるのです。
ジョージ6世とローグを結び付けたのは、間違いなくエリザベスの存在でした。
彼女は夫に、素敵な吃音と思ったから結婚したと愛し気に語ります。アルバートの誠実であたたかな性格を愛していたエリザベスは、彼の吃音を欠点とはとらえていなかったように思えます。
しかし、王族として人前で話す重圧や、威圧的な父王ジョージ5世にいつも厳しく叱責される辛さを誰より理解していた彼女は、少しでも彼の重荷を取り除いてあげたかったのではないでしょうか。
いつも明るく、自分をわかってくれているやさしい妻だからこそ、ジョージ6世は安心して彼女を心から愛し、彼女の進める治療を受ける気になったのに違いありません。
エリザベスは夫の治療記録を存命中は公表することを拒んだため、映画製作は彼女の死後進められたそうです。夫の威厳を守り、苦しみを世間に見せなかったことにも、エリザベスの愛情深さが現れているように感じられます。
まとめ
人と人の心の結びつきの大切さを教えられるあたたかな名作『英国王のスピーチ』。
吃音に悩む気の弱いイギリス王が、友となった言語聴覚士の支えによって自信を取り戻し、第二次世界大戦という困難な時代に国の士気を支え続ける存在となっていったという史実が描かれます。
幼いころに受けた心の傷を乗り越えたことで、吃音症も克服することが叶ったジョージ6世。
現在が必ず過去の上に成り立っているという当たり前の事実を思い知らされるとともに、その辛い過去を昇華させることで新たなステージに上る希望があることも教えられます。
味わいある映像と、どこかユーモラスな空気感漂う名優たちの演技を、どうぞたっぷりとお楽しみください。
: Incorrect URL specification.