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Entry 2022/01/23
Update

映画『百花』小説原作あらすじネタバレと結末の感想評価。川村元気が忘れられない出来事を通じて“親子の愛と記憶”を綴る

  • Writer :
  • 星野しげみ

小説『百花』は2022年9月9日(金)に実写映画公開!

映画プロデューサーで脚本家であり、小説家でもある川村元気の自身4作目となる小説『百花』。

認知症を患った母とその息子が送る残る日々を描いた作品が映画化され、脚本と監督を担当する原作者の川村元気は、本作で長編監督デビューを果たしました。

映画では、認知症を患う母に原田美枝子、その母と向き合い懐かしい思い出を蘇らせていく息子を菅田将暉が演じます。

親子や家族の在りし日の大切さが、壊れゆく母を思う息子の切ない気持ちを通じて心に響いてくることでしょう。

映画『百花』は2022年9月9日(金)に全国公開。映画公開に先駆けて、小説『百花』をネタバレ有りでご紹介します。

小説『百花』の主な登場人物

【葛西泉】
音楽ディレクター。シングルマザーの母に育てられました。

【葛西百合子】
泉の母。女手ひとつで泉を育てます。高齢者になるとアルツハイマー型認知症を発症します。

【葛西香織】
葛西泉の妊娠中の妻。百合子との相性もうまくいっています。

小説『百花』のあらすじとネタバレ


『百花』(文春文庫刊 2019年)

大晦日の日、葛西泉は母の百合子が1人で暮らす実家に帰ってきました。

泉は父親のことは何も知らず、昔ピアニストだった百合子が、自宅でピアノ教室を開き、女手一つで泉を育てあげました。

家を出て15年。音楽ディレクターとなった葛西泉は、現在は同じ会社に勤める現在妊娠中の妻・香織と暮らしています。

年に2回ほどしか実家に帰って来られませんが、元日が百合子の誕生日ということもあり、毎年大晦日は2人で過ごすようにしていたのです。

けれども、今年は泉が実家に帰ると母がいませんでした。泉は近所を探しに行き、寒い夜の公園で、コートも羽織らずにブランコに乗っている百合子を見つけました。

泉が声をかけると、百合子は「買い物に行ったら少し疲れた」と言いますが、その手には買い物袋も何もありません。

結局、泉は百合子と一緒に近所のスーパーで買い物をして帰宅することになりました。

泉は家に帰って買ってきた食材を片付けます。そして、冷蔵庫の中にあるのは賞味期限切れのものがほとんどであることや、家に既にある食材を買ってきていることに気がつきました。

泉が指摘すると「最近よくやっちゃうのよね」と百合子は笑って答えます。

一方、泉の妻である香織は、妊娠中にも関わらず、優秀なディレクターです。現在も大きな仕事を任されており、初めて親になる不安を抱えながら、夫婦共に仕事に追われる日々を過ごしていました。

泉が香織と交際するきっかけになったのは、大物新人歌手の仕事を一緒に受け持ったときです。

新人歌手は歳が離れた男性に溺れるような恋をして、その彼を追って逃げ出してしまいました。

その時に、香織はその新人歌手には父親がいなかったため、年上の男性に惹かれたのかもしれないと言い、泉は自分も父親がいないと打ち明け、その話をきっかけに交際が始まりました。

香織と結婚することを百合子に伝えたとき、百合子が「せっかくこれから泉と2人で楽しく暮らせるのに」と言ったことが忘れられず、泉は百合子に香織の妊娠を告げていません。

香織のお腹に宿る小さな命を思い、泉は自分が親になるということを考えました。思い出すのは、母親でありながら、時には泉の父親にもなろうとしてくれていた百合子のことです。

そんなある日、泉の元に百合子がスーパーで万引きをしたと警察から連絡が入ります。慌てて百合子を迎えに行った泉は、警察官から百合子を病院に連れていくことを勧められました。

泉も付き添い、百合子は病院に行き検査を受けます。

そこで、百合子に下された診断は、アルツハイマー型認知症。泉は、母の記憶が徐々に失われていくことを、すぐに受け入れることができませんでした。

泉は、実家に帰り疲れて寝てしまった百合子の代わりに家の掃除をします。

そこで、食器棚の引き出しから、認知症についての本を見つけ、挟まれていた隣町の総合病院で受けた検査結果も発見しました。

そこには、アルツハイマー型認知症の疑いがあると書かれていました。日付を見ると半年も前のものでした。

泉は半年前に百合子から頻繁に電話がかかっていたことを思い出しました。

電車で1時間半ほどの距離に住んでいるのに、1人で住んでいる母親に会いにいくこともしなかった泉。

1人で検査を受けに行った百合子を想像し、泉はひどい後悔に襲われます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『百花』ネタバレ・結末の記載がございます。『百花』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

やっと泉は百合子に香織の妊娠を告げることにしました。心配をよそに百合子は喜んでくれました。

その後百合子は、ヘルパーの助けを借りて一人暮らしを続けることにします。

泉はつわりで体調がすぐれない香織の代わりに家事をこなしながら、週に何日かは百合子の様子を見に行くようにしました。

ヘルパーとも逐一電話で情報を共有してもらうようにしていますが、百合子は日に日にわがままな言動をとるようになりました。

ある日、ヘルパーから百合子がいなくなったと連絡があり、泉は慌てて百合子を捜しに行きました。

百合子が見つかったのは小学校の教室でした。教室に飛び込んでいった泉をみて、百合子は「ずっと探していたのよ。泉は昔からどこでも迷子になる」と言います。

百合子は迷子になった息子を探していると説明します。泉はそんな母を見ながら、昔の自分は母を心配させて探して欲しくてわざと迷子になっていたことを思い出しました。

香織の出産日も徐々に近づいていることもあり、泉と香織は周りの人に相談して、百合子を海の近くにある施設に入れることにしました。

百合子の入居日がきました。百合子の荷物は少なく入居準備はすぐに終わりました。

百合子を施設に残し、泉は片付けのために百合子が1人で住んでいた実家に戻りました。沢山のものを整理していく中に、小さなメモが出てきました。

食材を買いすぎないこと、ヘルパーの来る時間、泉の名前、泉の好物、泉の仕事、泉に迷惑をかけないこと。

そこにあるのは、百合子の字で書かれたたくさんの言葉。そして最後に「泉、ごめんなさい」と……。

そのメモを見て、泉はずっと1人で苦しんでいた百合子を思いあふれ出る涙を止めることが出来ませんでした。

押し入れの中には母の日記もありました。1994年から1995年の日記。泉と百合子には空白の1年があり、まさにこの日記の期間でした。

泉が中学二年生になろうとしていたある日、百合子は朝食を作ってちょっと出かけてくると言い残したきり、1年間、泉の前からいなくなります。

百合子は家庭のある人と関係を持ち、その人についていく形で家を出てしまったのです。これはまだ中学生だった一人息子の泉を捨てたともいえる行為でした。

百合子が家を出てから5日間、泉は1人で百合子を待ち続けました。食べるものもなくなり、お金もなくなった泉は、母の手帳に書かれていた祖母の電話番号に電話をしました。

祖母とは疎遠でしたが、週に2度ほど来てくれるようになりました。泉は、その期間に百合子との写真を全てゴミ箱に投げ入れた。

1年後、百合子は何事もなかったかのように帰ってきました。泉は、喜びも怒りもなく1年間をなかったことにしてその後を過ごします。

泉の元に帰ってきた百合子は、その1年間を一生かけて償おうとしていたのでしょう。

泉は母の日記を読み、初めて2人にとって白紙にされた1年間をどう過ごしていたのかを知ったのです。

一方、施設に入った百合子は、病状は進行しつつも穏やかな日々を過ごしているようでした。

ある日、「半分の花火が見たい」と言う百合子のために、近くにある花火大会を調べて、百合子を連れて行きました。

花火を見ながら百合子は嬉しそうですが、百合子にねだられた泉がりんご飴を買いに行った間に姿が見えなくなりました。

泉は慌てて百合子を探し、見つけた百合子は「半分の花火が見たい」を繰り返し、最後に百合子は泉に「あなたは誰?」と言ったのです。

いよいよ香織の出産の日。分娩室に入った香織を待つ間、泉は自分がどうしたら父親になれるのかと、どうしようもない不安に襲われました。

分娩室に入って赤ん坊の泣き声を聞いた時に、言いようのない何かがこみあげてきて、泉は周りの視線など気にせず嗚咽しました。

しばらくたって、百合子が亡くなりました。葬儀が行われましたが、泉は涙を流すことはありません。

百合子がいない世界を受け入れるには時間が必要だったのです。

小さい頃から百合子と過ごした実家を1人で片づけていると、どこかで爆発音が聞こえました。それは花火の音でした。

その時、泉と百合子がこの家に引っ越してきた日の夜、家から花火が見えたのを思い出しました。

しかし家の前には大きな団地が建っており、花火は半分しか見ることができません。百合子はその花火を、今までで見た花火の中で一番きれいだと言いました。

幼い泉は一瞬で消えて忘れてしまう花火を悲しいと言いますが、百合子は「色や形は忘れても、誰と一緒に見て、どんな気持ちだったかは思い出として残る」と言います。

「ぼく、忘れないよ」と言う泉に、「そうかしら? あなたはきっと忘れるわ」とも言いました。

今、泉は一人で半分の花火を見上げています。半分の花火のことを忘れていたのを、花火見学に行った時に百合子は気がついていたのです。

母が最後に見たがっていた花火を見せてあげることができませんでした。そんな歯がゆい後悔と美しくあがる「半分の花火」が、百合子との思い出を次々に蘇らせます。

百合子が自分にしてくれたこと、その時嬉しかったのにそれをどうして忘れてしまったのでしょう。

次々と打ち上げられる半分の花火。泉と百合子が過ごした家で咲いていた数百の花のように、美しかったことだけを記憶に残し、やがて消えていきます。

にじむ視界の中で光る色とりどりの半円が、泉の母の姿をいつまでも浮かび上がらせていました。

小説『百花』の感想と評価

『百花』は、『億男』や『世界から猫が消えたなら』の川村元気が綴った、シングルマザーの親子を通じて語られる母と息子の絆の物語です。

女手一つで育て上げた息子が一人立ちし、やっと自分の余生を平穏に送れると思ったころ、母である百合子は認知症を発生します。

認知症は過去の記憶を消し去り、愛すべき人の存在も忘れさせます。その人の人格さえも破壊し、生きる屍のような存在にしてしまいます。

人間の力ではどうすることもできない病気を患った母に対して、息子である泉は痛ましい思いで接しています。

母は一時泉を捨てたことを忘れ、泉と2人で見た「半分の花火」をもう一度見たいと願いました。

「半分の花火」とは何なのでしょう。花のように夜空に咲く花火を見上げ、ラストシーンでは泉の脳裏に母との懐かしい思い出が蘇ります。

気まずい期間があっても、病気で腹立たしい行動をとられても、母は母。自分を育ててくれた大切な人に変わりはありません。

誰が悪いわけでもなく、病気で記憶を失くしていく方も忘れられていく方も、どちらもその気持ちは辛く切なく悩ましい……

読後は、矢のように過ぎていく毎日の記憶の中で、大切な人との思い出だけは忘れずにいたいと、誰もが思うのではないでしょうか。

そして、愛する人との限りある時間を大切にしたいと思うに違いありません。

映画『百花』の見どころ


(C)2022「百花」製作委員会

小説でも映画でも『百花』の中の重大な要素は、百合子が認知症を患ったことです。

認知症はこれまでの記憶を徐々に無くしていく恐ろしい病気で、親しい人の顔もわからなくなり、自分自身も徐々に壊れていきます。

こんな百合子を演じるのは、黒澤明監督、増村保造監督、深作欣二ら日本映画界の巨匠たちの作品に出演してきた原田美恵子。

原田美枝子は『百花』に出演したことを、「いろいろなチャレンジがあり、冒険をさせてもらった現場」と語っています。

原田美枝子は自分で『女優 原田ヒサ子』(2020)を監督していますが、実はこの作品は、自分のお母さんが認知症になっていくさまをとらえた短編ドキュメンタリーでした。

身近なところで認知症患者との接点があった原田美枝子

自分の経験も活かして、本作の記憶を失いながらも思い出の奥底にある“秘密”に手を伸ばそうとする母の姿を、圧倒的な存在感と確かな演技力で魅せてくれるでしょう。

一方、百合子の愛する息子を演じるのは、『溺れるナイフ』(2016)『』(2020)『花束みたいな恋をした』(2021)と人気作に引っ張りだこの菅田将暉。

本作では、音楽関係の仕事につき、社内結婚をして間もなく父親になろうとする平穏な日常から一変、認知症が進む母から封印していたはずの過去の記憶と向き合うという、複雑な役どころに挑戦します。

老いと病魔による親の介護問題。誰にでも起こりうるであろうことですが、菅田将暉が演じる泉の場合、健康だった頃の母との間に気まずい時期がありました。

屈折した少年の想いは忘れることができませんが、それでいて記憶を失くしていく母を見るにつけ、2人で過ごした少年時代の温かな思い出が蘇って来て切ない想いにかられます。

繊細で複雑な心境の泉を演じる菅田将暉に注目です。

映画『百花』の作品情報

【公開】
2022年公開(日本映画)

【原作】
川村元気「百花」(文春文庫刊)

【監督】
川村元気

【脚本】
平瀬謙太朗、川村元気

【音楽】
網守将平

【キャスト】
菅田将暉、原田美枝子

まとめ

原作者川村元気が自身の体験をもとにしたともいえる小説『百花』をご紹介しました。

親子が共通する美しい思い出の記憶の中に、実際に認知症を患った家族を持った人でないとわからない苦しみや悲しみを散りばめています

映像化されたら、夜空一杯に咲くであろう、美しい「半分の花火」の登場も楽しみです。

映画『百花』は2022年9月9日(金)に全国公開!





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