Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2020/06/17
Update

映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』あらすじと感想考察レビュー。フランソワオゾンが新作で性的虐待行為をテーマに描く

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』は2020年7月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次ロードショー!

フランス映画界の最前線に立つフランソワ・オゾン監督が実話に基づいた物語に初挑戦、大きな物議を醸した問題作『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』。

神父による児童への性的虐待事件をもとに、被害者からの告発の真相に迫る物語。オゾン監督はこのテーマに対してそれまで発表してきた作品の作風を封印、実話をベースにフィクションを構成した異例の作品を作り上げました。

キャストには、オゾン監督とは3度目のタッグとなるメルヴィル・プポーを主演に迎えるほか、ドゥニ・メノーシェ、スワン・アルローら実力派の俳優が名を連ね、作品のテーマとなる複雑な社会問題に深く切り込みます。

スポンサーリンク

映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』の作品情報


(C) 2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA–PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

【日本公開】
2020年(フランス映画)

【原題】
Grâce à Dieu(英題:BY THE GRACE OF GOD)

【監督・脚本】
フランソワ・オゾン

【キャスト】
メルヴィル・プポー、ドゥニ・メノーシェ、スワン・アルロー、ジョジアーヌ・バラスコ、エレーヌ・ヴァンサン

【作品概要】
カトリック教会の神父により幼少期に受けた性的虐待。そのトラウマに苦しむ男たちが大人になり、告発の決意を固めるまでの葛藤とともに、告発によって被る代償と相反して得られる希望の光景を、彼らの表情とともに描きます。

出演は、第一の告発を行う男性アレクサンドル役に『わたしはロランス』(2013)のメルヴィル・プポー、第二の告発者フランソワ役に『ブラッディ・ミルク』(2017)のスワン・アルロー、そして第三の告発者エマニュエル役に『ジュリアン』(2018)のドゥニ・メノーシェら。

本作ではこのメインキャラクターを演じた三人が揃ってセザール賞にノミネートされており、作品としては合計7部門で8ノミネートされ、アルローが助演男優賞に輝きました。

さらに第69回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門に出品され銀熊賞を受賞したほか、2020年のリュミエール賞では最多の5部門にノミネート、本国フランスでは91万人を動員する大ヒットを記録しました。

映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』のあらすじ


(C) 2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA–PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

妻と子供たちと共にフランス・リヨンで幸せな家庭を築き上げた男性・アレクサンドル。

彼はある日、幼き頃の友人より幼少期に自分を性的虐待したプレナ神父がいまだに子供たちに聖書を教えており、自身の身近に戻りつつあることを知ります。

かつてその被害を告発し、プレナ神父を自身から遠ざけてもらったことで沈黙を守っていたアレクサンドルでしたが、教会がプレナ神父に処罰を与えなかったことを改めて言及。

そんなアレクサンドルに対し、現在の教会側責任者であるバルバラン枢機卿はプレナ神父に厳正な対処を行うことを約束します。

ところがその経過は思わしくないどころか、実は枢機卿がプレナ神父の過去の失態を知りながら見て見ぬふりをしていたことが発覚。家族を守るため過去の出来事の告発を決意しました。

その告発では、最初は関わることを拒んでいたフランソワに加え長年一人で傷を抱えてきたエマニュエルらと、同じくプレナ神父から虐待を受けた男性たちの輪は徐々に広がり、教会への抗議の声は高くなっていきました。

しかし教会側はプレナ神父の罪を認める一方で、自身の責任を巧みに避けようとします。さらにアレクサンドルたちは長い間の沈黙を破った代償として、彼らを蔑(さげす)む社会や家族との軋轢とも戦っていかなければならないのです。

スポンサーリンク

映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』の感想と評価


(C) 2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA–PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

世界で今物議を醸す問題の提起

カトリック教会の性的虐待行為は、2002年にアメリカのメディアが大々的に取り上げて以来さまざまなケースが発覚し、一部では訴訟問題にまで発展するという事態になっています。

2018年にはアメリカのペンシルベニア州で、1940年代以来少なくとも300人の司祭が1000人余りの子供たちに性的虐待を行ってきたと結論づけた起訴陪審報告書が、該当する司祭の名前とともに発表されました。

日本でも2019年4月に日本カトリック司教協議会から、全国の協会で起きた小児性的虐待の実態調査を行うことが発表されるなど、その問題意識は世界中で急速に広がりつつあります。

そんな世界情勢の中で、本作は今現在も続いているフランス国内での事件にスポットを当てたタイムリーな視点を持っており、まさしく注目すべき作品なのです。

犯罪被害の影響に対する広い考察


(C) 2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA–PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

本作の特徴は、作品の主眼の置き場所にあります。この物語はかつてカトリック教会の神父に性的虐待を受けたという3人の男性それぞれの視点で展開する群像劇です。

ここでは聖職者からの性的虐待というショッキングな事実の印象よりも、むしろ虐待を受けた人たちがその行為によって自身のその後の人生にどのような変化をもたらされたか、という点について強く言及しています。

この3人には過去に性的虐待を受けたという共通点があるものの、個々の性格やその生まれ育った境遇など、それぞれに異なる人生を歩んできました。

それゆえに、この問題に対する向き合い方や事態に対しての反応も三様に異なり、実在の人物をモデルとしながらも緻密な視点でイマジネーションを膨らませて構築したバックグラウンドにより、性的虐待が長い間被害者を苦しめるありさまをさまざまなケースで描きます。

近年ではフランスを代表する映画作家として非常に高い評価を得ているオゾン監督ですが、本作はそんな彼の作品の中でも、彼が物語を作るにあたり考える着眼点、視点を推し量るカギであるといえるでしょう。

またこの3人の役柄の中で、特にメルヴィル・プポーが演じた主人公のアレクサンドルが、家族と教会そして2人の被害者と、さまざまな人々との接触に迷いの表情を見せるシーンがあります。

この表情こそ物語の主題を強く表したものであり、アレクサンドルという役柄が本作の最も大きなポイントを明確に表す重要な役割を果たしているのです。

その意味でプポーの演技は、セザール賞で助演男優賞を獲得したスワン・アルローの演技と並んで、本作の注目すべき点となっています。

まとめ


(C) 2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA–PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

プレナ神父は2020年の3月に有罪判決を下され、さらにその判決に上告がされるなど、その審議は継続した状況にあります。

そんな中で作られた本作は、シーンによって撮影の許可が下りなかった場所があったり、一時上映差し止めの申し出が出されたりするなど、教会側としても大きな物議を醸す作品となりました。

対して本作を「この映画が教会側で受け止められることで、教会内部の問題が撲滅されるチャンスになるかもしれない」と好意的に受け止めている司祭がいることを、オゾンは明かしています。

タイトルの「Grâce à Dieu」は慣用句でもある「BY THE GRACE OF GOD」(神の庇護により)という言葉に起因しているようですが、この言葉にはこうした教会の問題点に関する風刺と、その正常化を願う切実な願いにも見えます。

また本作はあくまでも宗教、カトリックというテーマに沿った物語ですが、これに限らず古くから常識とされ見過ごされているような、常態化したさまざまな問題に対する意義のあり方を問うているようにも感じられることでしょう。

映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』は2020年7月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開されます!






関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『ブラックバード 家族が家族であるうちに』あらすじ感想とレビュー評価。ケイト・ウィンスレット×スーザン・サランドンが演じる母娘から安楽死問題を問う

映画『ブラックバード 家族が家族であるうちに』は2021年6月11日(金)からTOHOシネマズシャンテほか、全国順次ロードショー 映画『ブラックバード 家族が家族であるうちに』は、デンマーク映画『サイ …

ヒューマンドラマ映画

映画『ファーストマン』ネタバレ感想と評価。結末でニールと妻ジャネットが下した決断とは

アポロ11号で、人類が初めて月面に降り立ってから50年。 人類初の月面着陸を成功させたファースト・マンこそ、アポロ11号の船長「ニール・アームストロング」です。 宇宙飛行士ニール・アームストロングの、 …

ヒューマンドラマ映画

映画『親密な他人』あらすじ感想と評価解説。ラストにて観る者に想像させた“愛か狂気か歪んだ母性愛”を女優 黒沢あすかが巧みに演じる

第34回東京国際映画祭、上映作品『親密な他人』2022年春公開予定 1年前に行方不明になった息子を探し続けるシングルマザーのもとに、特殊詐欺グループの魔の手が忍び寄り、息子の消息をほのめかす青年が現れ …

ヒューマンドラマ映画

映画『止められるか、俺たちを』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も

反骨精神の塊で型にとらわれない伝説の映画監督・若松孝二と、そのもとに集まった若き才能たち。 男だらけのピンク映画の世界で夢に向かって戦った実在の女性助監督・吉積めぐみを通して、ひたすら熱かった時代の映 …

ヒューマンドラマ映画

『映画 賭ケグルイ』ネタバレ感想。実写版の結末は浜辺美波と福原遥のすごい演技に大注目!

血がタギル!胸がザワツク! 天国か地獄か!?さぁ、賭ケグルイましょう! 劇場版は、原作者の河本ほむらが原案・監修を手がけた、オリジナルストーリーとなっています。 リスクを負うことに快感を覚えるギャンブ …

U-NEXT
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学