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『本心』原作小説ネタバレとあらすじ感想評価。平野啓一郎作品を映画化!池松壮亮×石井裕也監督で描くAI化社会と“生きる人間の想像力”

  • Writer :
  • 星野しげみ

平野啓一郎の近未来で母を亡くした一人の青年の物語『本心』が映画化に!

小説家の平野啓一郎が『マチネの終わりに』『ある男』に続き、2021年に発表した長編小説『本心』。

近未来の日本で「自由死」を願い続けた母の本心を知りたい息子が、最先端のAI企業に《仮想の母》を製作するように依頼。果たして息子は《仮想の母》との会話で、亡き母の本心を知ることができるのでしょうか。

未来では、AI技術との共存が必ずあるでしょう。小説『本心』でもデジタルな社会が描かれ、その中で暮らす人間の存在とは何だろう、AIはどこまで人間の心を理解することができるのかと考えさせられます。

そんな同作を、池松壮亮主演で石井裕也監督が映画化し、2024年11月8日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほかでの全国公開が決定!それに先駆けて、小説『本心』をネタバレありでご紹介します。

小説『本心』の主な登場人物

【石川朔也】
遠く離れた依頼主の指示通りに動く「リアル・アバター」として働く青年。

【石川秋子】
朔也の実母。朔也に黙って「自由死」を希望し、死後にVF(ヴァーチャル・フィギュア)として“復活”する。

【三好彩花】
秋子の職場での友人。朔也と知り合い友人になる。

【イフィー】
世界的に有名なアバターデザイナー。

小説『本心』のあらすじとネタバレ


平野啓一郎『本心』(2021、文春文庫)

近未来の日本では、AI(人工知能)とAR(添加現実)の技術の発達によって、死んだ人そっくりの「VF(ヴァーチャル・フィギュア)」が作り出されていました。

優しい母と二人暮らしの朔也。ある日、最愛の母が突然事故に巻き込まれ帰らぬ人となってしまいました。そんな母は、生前「自由死」を望んでいました。

個人が自身の「死」の時期を選択できる「自由死」が合法化された世界。その中で自由死を考えていた母の本心を知りたいと思った朔也は、ある企業に彼女のVFの製作を依頼します。

故人の写真や動画、遺伝子情報、生活環境、各種ライフログ、友人や知人の情報などのあらゆる提供資料によって製作されるVF。朔也の母のVFは姿形・しゃべり方まで「母」そっくりです。

《仮想の母》との新しい生活が始まり、朔也は彼女との会話から、生前に働いていた場所で仲良くしていた三好という女性の存在を知りました。

29歳の朔也の職業は「リアル・アバター」。自らの身体を依頼者の「分身」=アバターとし、依頼者が望む疑似体験を担う仕事です。依頼者からの指示に従って行動をすることが、業務内容のほとんどでした。

朔也の仕事仲間・岸谷は、そんな生活に疑問をもっていました。やがて岸谷は、不穏な依頼を受けることになります。

一方の朔也は、三好と実際に会うことにしました。三好は朔也に自身の不遇な話と整形手術を受けている事実を伝え、二人は気持ちが通じ合います。

その頃、日本には勢力の強い台風が襲来。三好の住んでいたアパートが被害を受けたことを知った朔也は、母の使っていた部屋が空いていると伝え、三好に一時的なホームシェアを提案。朔也と三好の共同生活がスタートしました。

三好は自分が使っている「縁起」というアプリを朔也に教えます。それは、宇宙が始まってから現在までの100億年もの時間の旅を疑似体験できるという代物でした。

その後、朔也はテロ事件の犯人として岸谷が逮捕されたことを知ります。事件とともにリアル・アバターの世間的な風当たりが強くなり、会社からの要求も厳しくなっていきます。

ある日、朔也が受けた依頼は「真夏にスーツを着用し、指示された店でメロンを購入する」というものでした。品定めの末に購入するメロンが決まり、店員に包装をしてもらっている途中で、「やっぱりやめた」と、急に辞めるように言われます。

そして、また次のメロンを探すよう指示された朔也は、今回の依頼者はリアル・アバターに何でもさせて遊んでいることに気が付きました。仕事の終了時間を迎えた朔也は、依頼者の了解を得ずにコンビニへ向かい、仕事の評価は既定値を下回り解雇されると思いました。

コンビニでレジに並んでいると、前の客が外国人と思われる店員に差別的な発言をしています。朔也は店員の前に立ち、その客に向かって「帰れ」と凄みました。この一件を機に、朔也はリアル・アバターの仕事を辞めました。

リアル・アバターを辞めた朔也ですが、食べていくには別の仕事をしなければならず、アルバイトを始めることに。その頃、元の職場から朔也にリアル・アバターの依頼が殺到しているとの連絡が入ります。中には高額で依頼をしている案件も。

何が起きているのか分からない朔也でしたが、ある時インターネット上に、先日のコンビニでの店員を庇う一幕が投稿され、反響を呼んでいたのを知りました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには小説『本心』ネタバレ・結末の記載がございます。小説『本心』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

朔也を指名する依頼者の中には、世界的に有名なアバターデザイナーのイフィーもいました。

車椅子で生活しているイフィーは朔也の勇敢な行動に感激し、これまでの倍の報酬を払うので専属のリアル・アバターとして働かないかと持ちかけます。イフィーの大ファンであった三好は彼から朔也が申し出を受けたことに驚き、喜んで後押しします。

また朔也は、生前の母が読んでいた本を持ち出して読み始め、中でも母が愛読していたと思われる本の著者である藤原亮治に手紙を送って交流を図ろうとしました。

やがてイフィーの自宅へ三好も招き、3人の交流も始まります。そして朔也は、イフィーが三好に好意を抱いていることを知り、同時に自分自身も彼女に好意を持っていることに気付きます。

その年のクリスマスのこと。イフィーは朔也を通じて、三好に気持ちを伝えようとしました。朔也は三好とは「同居人」であるという誓いと、三好への自分の気持ちを伝えるべきかという思いの間で揺れます。

三好へ自身の気持ちを伝えた未来と、伝えなかった未来。どちらも、宇宙の100億年という時間の中でみれば、ほんの一瞬のことだと思えます。結果、朔也はイフィーからの言葉をそのまま三好に伝え、三好とイフィーは付き合うようになりました。

そんな折、藤原から「一度会わないか」と以前送ったメールに対して返信をもらいます。朔也は「もしかしたら自分は藤原の息子なのではないか?」と思いつつも、藤原に会って生前の母のことを聞こうと決心。介護付き有料老人ホームに入居した藤原へ会いに行きました。

そこで知ったのは、母と藤原の関係は朔也が生まれてからのこと、母が出産を望んでいたこと、そしてどのようにして朔也を妊娠し出産に至ったかの真実でした。

母は東日本大震災で、とても親しくなった女性と同居していました。母は40歳になって子どもがどうしても欲しくて、誰とは解らない男性の精子をもらって妊娠・出産し、同居する女性と一緒に子どもを育てようと思っていたようです。

しかし、その女性は母の出産前に突然いなくなってしまいます。そして藤原とは母が愛読者ということで知り合い、朔也が保育園の頃から数年に渡って愛人関係にありましたが、決して朔也の実の父ではありませんでした。

藤原を通して、朔也は生前の母の人生を、一人の女性の人生として見つめ直せました。その心の色合いは朔也が知りたいと願っていたよりも、ずっと複雑に混ざり合ったものであり、これが母の「本心」だったのかも知れないと。

朔也が藤原と面会した後、三好はイフィーの元で一緒に暮らし始めました。三好がイフィーの元へ行く前夜、朔也はVFの母と二人で滝を見ます。

自由死や出産の話をしても、VFの母は「わからない。その記憶がない」と回答します。根気よく話し続けるうちにいつか学習し、生前の母の本心らしきことを言うのではないかと朔也は思いますが、その前に「母との関係を終わらせたい」と思うようになりました。

三好が家を出た次の日、朔也はテロに関わってしまったために、小菅の東京拘置所に収監された岸谷に面会しました。

また、リアル・アバターの仕事中に助けたコンビニ店員のティリと会います。彼女を助けたことで、朔也は日本に住む日本語も母国語も不自由な人に向け、語学を教える非営利団体に関わっていきたいと考えるようになりました。

そのために、朔也はイフィーからのリアル・アバターの依頼を断り、福祉の仕事に携わるための勉強を始めようと決心しました。

母の死後、自由死を望んでいた彼女の本心を探ろうとした結果「母が何を一番に望んでいたのか」に触れられた朔也。彼ははじめて、母の「本心」と呼べるものに出会えたのです。

小説『本心』の感想と評価

仲の良い母と息子が物語の主人公でした。母を愛する息子の朔也ですが、事故で亡くなった母が、実は個人が自身の「死」の時期を選択できる「自由死」を願っていたのを知り驚きます。

なぜそんなことを願うのかと、母の本心を知りたい朔也はAI・AR技術で製作された《仮想の母》に問いかけます。ですが……彼女は「わからない」「記憶にない」と答えます。

母の本心がわからないまま、生前の母の友人関係から自身の出生の秘密がわかってきます。これは朔也が知りたいことではなかったので、驚きを隠せません。

物語は亡き母の「本心」を明確にしないまま展開し、現在を生きている朔也が「母の本心はこうだったのではないだろうか」と想像することでラストを迎えます。

そこにあるのは、同じ《仮想》であったとしても、AIとは一線を画す「生きる人間」の想像力の素晴らしさではないでしょうか。

小説の世界は決してフィクションの一言では片付けられず、間近にせまる近未来の姿と言えます。それはAI技術が現在以上に、日常生活の中に浸透し存在する世界です。

何をAIに頼り、何を自分たちでやるべきか。そこには、人とAIたちが社会で共存する上での明確な、しかし繊細な境界線もあるはずです。

作者は朔也が母の「本心」を探る姿を通して、デジタル化された社会での人間の存在の意義を問いかけているのに違いありません。

映画『本心』の見どころ


(C)2024 映画『本心』製作委員会

『本心』の物語は、現代以上にAI技術が普及する近未来で描かれます。

亡き母の本心を知りたいために、自身が提供し得る生前の母の情報を基に《仮想の母》の製作を依頼した息子の朔也。母の本心を知りたいだけなのに、次第に自分の心や尊厳さえも見失っていきました。

本当の人間ではない《仮想》の記憶は、信じられるのでしょうか。AIを頼ることにする朔也ですが、「AIの言葉を100%信じていいのか」といった複雑な思いに囚われます。

映画では、複雑に揺れ動く朔也の心をどう表現するのか。AI技術が着々と組み込まれていく「AI化社会」の課題点を盛り込み、それに左右される人間のおぼつかない気持ちの表現の仕方に注目です。

映画の脚本も執筆した石井裕也監督は、本作を次のように語っています。

これから確実に到来する複雑な世界の中で、登場人物たちは地に足をつけられず、ひたすらに迷子になっていきます。それは明日の僕たちの姿です。あるいは、もしかしたら僕たちはもうとっくに迷子になっているのかもしれません。
素晴らしいキャストとスタッフと共に人が生きる喜びをシンプルに祝福するためにこの映画を作りました。不思議で面白い極上の迷子を是非劇場でご堪能ください。

本作は、AI化社会で迷子になりながらも、人間というものの本質にスポットライトを当てて作られたとも言える作品なのです。

映画『本心』の作品情報

【日本公開】
2024年公開(日本映画)

【原作】
平野啓一郎『本心』(文春文庫刊)

【監督・脚本】
石井裕也

【キャスト】
池松壮亮、三吉彩花、水上恒司、仲野太賀、田中泯、綾野剛、妻夫木聡、田中裕子

まとめ

平野啓一郎が『マチネの終わりに』『ある男』に続き、2021年に発表した長編小説『本心』をご紹介しました。

このたび、小説『本心』の映画化が決定。2024年11月8日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかで全国公開されます。

本作の監督を務める石井裕也は、「これからさらに普及していくAIやテクノロジーに対して少しでも不安に思っている方々に捧げる映画」と語っています。

AI技術が発展し、今以上に普及している近未来を舞台に、AIが人々に与える影響も鋭く描いています。近い将来本当にこのような社会になっているのかもしれません。

その時、人はAIとどう接するのか。答えを探るヒントとして小説『本心』を読み、映画をご覧になるのはいかがでしょうか。





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