二つの冤罪をかけられた武士の生き様
「孤狼の血」シリーズ、『凶悪』(2013)の白石和彌監督が初めて手がけた時代劇。
古典落語の演目「柳田格之進」を基に、冤罪事件によって娘と引き裂かれた男が武士の誇りをかけて復讐に臨む姿を描きます。
主演を務めるのは『ミッドナイトスワン』(2020)の草彅剛。
清原果耶、中川大志、奥野瑛太、音尾琢真、市村正親、斎藤工、小泉今日子、國村隼ら豪華俳優陣が出演します。
復讐に燃える武士・格之進と、彼の生き様を誰より理解する愛娘・お絹。二人の絆に胸打たれる本作の魅力をご紹介します。
映画『碁盤斬り』の作品情報

(C)2024「碁盤斬り」製作委員会
【公開】
2024年(日本映画)
【監督】
白石和彌
【脚本】
加藤正人
【編集】
加藤ひとみ
【キャスト】
草彅剛、清原果耶、中川大志、奥野瑛太、音尾琢真、市村正親、斎藤工、小泉今日子、國村隼
【作品概要】
「孤狼の血」シリーズ、『凶悪』(2013)、『死刑にいたる病』(2022)など数々の話題作・ヒット作を手がけてきた白石和彌監督の初の時代劇映画。
『凪待ち』(2019)で白石監督とタッグを組んだ加藤正人が脚本を務めます。
古典落語『柳田格之進』を題材に、冤罪によって娘と引き裂かれた武士が、囲碁を武器に死闘を繰り広げます。
『ミッドナイトスワン』(2020)で第44回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した草彅剛を主演に迎えて描き出します。
主人公の一人娘・お絹を演じた清原果耶をはじめ、中川大志、奥野瑛太、音尾琢真、市村正親、斎藤工、小泉今日子、國村隼など実力派が集結しました。
映画『碁盤斬り』のあらすじとネタバレ

(C)2024「碁盤斬り」製作委員会
浪人・柳田格之進は身に覚えのない罪をきせられた上に妻も喪い、故郷の彦根藩を追われ、娘のお絹とふたり、江戸の貧乏長屋で暮らしています。
しかし、かねてから嗜む囲碁にもその実直な人柄が表れ、嘘偽りない勝負を心掛けていました。
ある日、旧知の藩士により、悲劇の冤罪事件の真相を知らされた格之進とお絹は、復讐を決意します。
お絹は仇討ち決行のために、自らが犠牲になる道を選びますが・・・。
映画『碁盤斬り』の感想と評価

(C)2024「碁盤斬り」製作委員会
原作落語を超える珠玉のラストシーン
古典落語「柳田格之進」を原作とする、名匠・白石和彌監督が初めて手がけた時代劇です。未練無く映画監督を全うするためには時代劇を撮らねばならない、という思いに突き動かされたといいます。白石監督ならではのアレンジが光る一作です。
原作は、懇意にしていた萬屋から盗みの嫌疑をかけられた主人公の格之進が、彼らへの復讐を誓う物語です。白石監督はここに、もう一つ大きな柱となる藩時代の憎き相手への仇討ちのストーリーを加えました。
藩時代に格之進に冤罪をかけて陥れたのは柴田兵庫でした。生真面目な格之進を嫌っていた彼は、格之進の妻にも手を出して死に追いやります。
それらの真実を知った格之進は怒りに燃え、強烈な復讐心を胸に仇討ちの旅に出ました。
重要な役割を果たす吉原の女将・お庚もまた、本作のオリジナルキャラクターです。父が萬屋から五十両の窃盗の疑いをかけられたことを知った娘のお絹は、父の誇りを守るために自ら吉原行きを志願しますが、彼女を引き受けたのがお庚でした。
お庚は大晦日までに貸した50両を返すよう父子に告げ、その期限まではお絹を店に出さないと約束します。以前からお絹をかわいがってきたお庚だからこその寛大な処置でした。
もし、原作通り、単にお絹が吉原入りしていたなら、物語はもっとすさんだ色を帯びたことでしょう。カラッとした気性の粋な女将を小泉今日子が好演し、見事ブルーリボン賞助演女優賞を受賞しています。
柴田、萬屋の両名への仇討ちを終えた後、格之進は弥吉と結ばれて幸せそうなお絹の姿を目に焼き付けてから、再び旅立ちました。藩を追われた人達の現在の苦境を知った格之進は、彼らを救ってまわる道を選んだのです。
実直に己の生き方を選び続ける格之進。草むらを一人進む孤独で寂しい画でありながらも、彼にとって新たな出発点として未来あるラストシーンとして映し出されます。
白石監督も、本作は自分にとってどう生きていくかの出発点となったかもしれないと語っています。格之進の姿はそのまま監督に重なるかのように感じられます。
白石監督の格之進への強い愛情が感じられる珠玉のオリジナルラストシーンです。
仇・柴田が格之進に残したもの

(C)2024「碁盤斬り」製作委員会
白黒をつけねばならない世界に生きてきた格之進は、自身を陥れた柴田兵庫を討つ旅にでます。堅物な彼にとっては、仇討ちだけが武士として選び取る唯一の道だったのです。
名誉を何より重んじる格之進にとって、濡れ衣を着せられるのは死にも等しいことで、そのことを絹もよく理解していました。
そんな武士の世界がどれほど異様であるかは、萬屋の弥吉や源兵衛の驚きを見てもわかります。名誉や誇りが生き死に直結するとは夢にも思わないからこそ、弥吉はいともたやすく格之進に向かって「五十両をとっていないか」と聞いてしまったのです。
一方、悪役であるはずの柴田は、同じ武士でありながらも実は弱者の側に立って物を見る力のある人物でした。格之進の堅苦しい性格によって藩を追われた者たちのその後の苦境や、周囲から責め立てられていた格之進の妻の苦しみなどを、柴田は格之進に向かって話します。
それらの言葉は、格之進の胸に楔のように深く突き刺さりました。
仇討ちの後、柴田が売り払ったと言っていた狩野探幽の掛け軸が、まだ彼の手元に残っていたことを格之進は知ります。逃亡中の苦しい流浪生活でも掛け軸に手をつけなかった柴田。柴田の侠気は、格之進の心を揺さぶります。
柴田の語った格之進自身の性質の危うさを、真実として受け入れた格之進は、萬屋源兵衛と弥吉の命を助けます。以前の格之進ならば、「命を差し出すと約束した」の一点張りで、迷いなく二人の命を絶っていたのではないでしょうか。
格之進は、藩に戻さねばならないはずの掛け軸を、筋を曲げて左門に頼んで内密に譲り受けます。それで金を作り、苦境に陥っている藩の元仲間たちを助ける道は、柴田の遺志を継いだものでした。
憎み合いながらも、誰よりも深い絆を結んだ格之進と柴田。死を挟んでしか向かい合えなかった彼らの無念が悲しみを誘います。
まとめ

(C)2024「碁盤斬り」製作委員会
白石監督が渾身の力で描き出した美しき武士のドラマ『碁盤斬り』。出演する俳優陣が、監督の熱意に応える素晴らしい演技を見せています。
孤高の復讐者を演じきった主演の草彅剛、けなげで芯の強いお絹を体現した清原果耶、格之進と魂で向き合う柴田役の斎藤工、菩薩と般若を兼ね備えた顔を持つ吉原の女将役の小泉今日子。
なかでも特筆すべきは、萬屋源兵衛役の國村隼の素晴らしい演技です。ケチ兵衛と呼ばれるほど細かい金にうるさかった商売人が格之進の人柄に惚れ込み、囲碁を通して心をつないでいく様をとても魅力的に演じています。常に漂わせるユーモラスな空気感はさすがです。緊張感漂う本作の大切な緩衝材となっています。
個性的な登場人物が織りなす濃密な人間ドラマから目が離せなくなることでしょう。


































