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Entry 2022/01/25
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映画『GAGARINE/ガガーリン』感想評価と解説レビュー。宇宙飛行士の名のついた公営団地取り壊しを阻止したい少年の奮闘劇

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『GAGARINE/ガガーリン』は2022年2月25日(金)より全国ロードショー!

『GAGARINE/ガガーリン』は、公営住宅地を舞台に、一人の少年が友人らと自分の住む団地に持ち上がった解体計画の阻止に挑む姿を描いた映画です。

解体予定団地の「ガガーリン団地」という名前がタイトルになっているのも注目です。

本作を手掛けたのは、ファニー・リヤタールとジェレミー・トルイユ。主人公ユーリを演じたのは、本作で俳優デビューとなったアルセニ・バティリです。

消えゆこうとする場所で、それを阻止しようとする少年や周囲の人々が見た奇跡的な光景とは……。

映画『GAGARINE/ガガーリン』の作品情報


(C) 2020 Haut et Court – France 3 CINEMA

【日本公開】
2022年(フランス映画)

【原題】
GAGARINE

【監督、脚本】
ファニー・リヤタール、ジェレミー・トゥルイル

【出演】
アルセニ・バティリ、リナ・クードリ、ジャミル・マクレイヴン、フィネガン・オールドフィールド、ファリダ・ラウアジ、ドニ・ラヴァン

【作品概要】
フランス・パリ郊外に実在する公営住宅地の「ガガーリン団地」を舞台に、自分の住まいの解体計画が立ち上がったことから、一人の少年が友人らとその阻止に挑む姿を描きます。

監督は『青い犬』(2018)のファニー・リヤタールとジェレミー・トルイユ。

主人公ユーリを演じたのは、本作で俳優デビューとなったアルセニ・バティリ。ほかに『パピチャ 未来へのランウェイ』(2019)などのリナ・クードリや、ジャミル・マクレイヴン、ドニ・ラヴァンらが名を連ねています。

映画『GAGARINE/ガガーリン』のあらすじ

(C) 2020 Haut et Court – France 3 CINEMA

パリ郊外の公営住宅であるガガーリン団地は、老朽化と2024年に開催されるパリ五輪のために解体が決定し住人の退去が始まります。

団地に住む16歳の少年・ユーリ(アルセニ・バティリ)は、亡き母との思い出が詰まったこの場所を守りたいと考え奔走しはじめます。

刻々と期限が迫る中、成果らしい成果も出ないながらも友人のフサームやロマのディアナらと解体計画の阻止に奔走するユーリ。

宇宙飛行士になる夢を抱く彼は、無人となった団地が宇宙船に見えるように手を加えることを考え始めます……。

映画『GAGARINE/ガガーリン』の感想と評価

(C) 2020 Haut et Court – France 3 CINEMA

立ち退き問題とかかわる少年

主題としてはいわゆる「立ち退き」に関わる問題を背景とした物語。フランスのある老朽化した集合住宅における、建物取り壊しに伴う住人と行政との対立の中に見える人間模様を描いています。

「ガガーリン」といえば……といわれるほどにそのキーワードには大きなインパクトがある一方で、本作との直接的な関係はその集合住宅につけられた実在の建物の名前であるということにとどまりますが、物語が展開していく中で、徐々にこのキーワードに大きな意味があることが感じられていくことでしょう。

物語はこの消えゆく集合住宅に住む一人の少年ユーリが、何が何でも建物を守ろうとする姿を描いており、建物の取り壊しが近づくにつれて、彼の思いに同調する人は一人また一人と離れ最後には独りぼっちとなってしまいます。

一見みじめにも思える展開の中、彼が憧れる一人の陽気なロマの少女、初対面で悪印象を受けながらもなぜかユーリが住宅に作り出した世界に引き込まれていった少年らの存在は、ユーリがそこに留まろうとする信念と重なり後押ししているようにも見えます。

また彼らが集合住宅の運命とは全く関係ないところで出くわすハプニングは、ユーリ自身がこれから遭遇しようとする運命とどこか重なり、物語は一人の少年にスポットを当てたものであるのにかかわらず、テーマへの普遍性を感じさせるものとなっています。

そしてクライマックスへ

(C) 2020 Haut et Court – France 3 CINEMA

このタームは物語序盤の展開からは予想しづらい、かなり抽象的な表現が用いられていますが、それが表現の効果とも相まって見る側の意識に不思議な浮遊感を与えてきます。

さまざまな事情を抱えながらも、国の希望を背負い「ガガーリン」という名をつけられ、この地は人々に愛されてきました。

そんな思いが交差する中、消えゆくこの場所で人々は奇跡的な光景を目の当たりにします。

病院の中で徐々にユーリが作り上げていった不思議な空間、そしてこのラストに描かれる不思議な光景は、一つの希望として生まれたものが時代とともに単にむなしく消えゆくという運命に向かってしまうのでなく、人々の心に永遠に残り生き続ける美しいものであることを非常に鮮烈に描いています。

本作は、事実としてはネガティブな印象となっている事柄から、美しいものや魅力的なイメージを十二分に引き出しています。

まとめ

(C) 2020 Haut et Court – France 3 CINEMA

物語では、「スクォッティング」いわゆる「空間占拠」というテーマにも触れています。

近年は非常に創造的な意味合いでも用いられるこのテーマ。作中では「立ち退き」と対立する存在となる「スクォッティング」ですが、ユーリがこの住宅地の中で作り上げた自身の空間もまた非常に魅力的な空間である上に、彼が「そうせざるを得なかった」という必然性すら感じられる展開を示しており、このテーマを深く考えさせるものとなっています。

また主人公ユーリを演じたアルセニ・バティリは、どちらかというと感情をそれほどあらわにしない繊細な演技を見せていますが、ガガーリンという集合住宅である自分の家を守ろうとする意志の強さを巧みに表現しています。

本作で俳優デビューを果たしたばかりの新人ではありますが、たたずまいだけで非常に強い存在感を示しており、本作の注目すべき筆頭ポイントとしてあげられるものとなっています。

映画『GAGARINE/ガガーリン』は2022年2月25日(金)より全国ロードショー



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