混沌とした現代社会を生きるみずみずしい16歳の夏
『君の見る世界をなぞる』は、企画、原案のローラン・カンテ監督の逝去後、カンテ監督と数々の作品でタッグを組んだロバン・カンピヨ監督がその遺志を継ぎ、製作された作品です。
南フランスの裕福な家庭に育った16歳のエンゾ。居場所を見つけられずにいたエンゾは、建築現場で出会ったウクライナ人移民の青年ヴラドに強く惹きつけられていきます。
しかし、祖国ウクライナはロシアと戦争中にあり、ヴラドは祖国に帰り兵役につかねばなりませんでした……。
エンゾ役には、元競泳選手であり、本作で俳優デビューを果たしたエロワ・ポユ。
ヴラド役には、ウクライナ出身でフランスに移住し、建設業の作業員として働いていたマクシム・スリビンスキー。エロワ・ポユ同様本作が俳優デビューとなりました。
映画『君の見る世界をなぞる』の作品情報

(C)Les Films de Pierre / Lucky Red / Page 114 / Les Films du Fleuve / France 3 Cinéma / AMI, Alexandre Mattiussi
【日本公開】
2026年(フランス・ベルギー・イタリア映画)
【監督】
ロバン・カンピヨ
【原案】
ローラン・カンテ
【脚本】
ロバン・カンピヨ、ジル・マルシャン、ローラン・カンテ
【キャスト】
エロワ・ポユ、ピエルフランチェスコ・ファビーノ、エロディ・ブシェーズ、マクシム・スリビンスキー、ナタン・ジャピ、ブラディスラフ・ホリク、マルー・ケビジ、フィリップ・プティ
【作品情報】
本作は、『パリ20区、僕たちのクラス』(2010)のローラン・カンテ監督の企画、原案でしたが、闘病の末に2024年逝去。
カンテ監督と数々の作品でタッグを組んだ『BPM ビート・パー・ミニット』(2018)のロバン・カンピヨ監督が遺志を継ぎ、製作しました。
エンゾ役を演じたエロワ・ポユは、競泳選手でしたが、肩を怪我し本作のオーディションに参加、映画初出演となりました。ヴラド役には、ウクライナ出身で実際に建設現場で働いていたアマチュア俳優マクシム・スリビンスキーが務めました。
他のキャストには、『シチリアーノ 裏切りの美学』(2020)のピエルフランチェスコ・ファビーノ、『コンセント/同意』(2024)のエロディ・ブシェーズなど。
映画『君の見る世界をなぞる』のあらすじとネタバレ

(C)Les Films de Pierre
南仏の裕福な家庭で育った16歳のエンゾ。家に居場所を見つけられず、学校にも馴染めず辞めてしまったエンゾが選んだのは、建設現場で働くことでした。
しかし、建設現場でもサボっていたり、仕事をなかなか覚えられずにいたりで、雇い主に怒られてしまいます。雇い主はエンゾの両親に話すためエンゾを連れて家まで送りますが、想像していたのとは違う豪邸を前にして驚きます。
親の前で仕事を頑張ると宣言したエンゾは、心を入れ替えて仕事に励みます。そんなエンゾを何かと気にかけてくれるのは、ウクライナからやってきたヴラドでした。
ヴラドは同じくウクライナからやってきたミロスラフと暮らし、2人でウクライナの言葉でよく話しています。ブラドより年上のミロスラフは、兵役の年齢に達したら祖国に帰り、兵役に就こうと考えています。
一方、ヴラドは「プーチンのせいで死にたくない」と兵役に行くべきか悩んでいます。
陽気さの奥に戦争という影や、家族とあまりうまくいっていなかったなど暗い過去を抱えたヴラドに、エンゾは惹かれていきます。
ある日、ミロスラフがエンゾにクラブに行こうと誘います。エンゾは2人の家でシャワーを浴び、ヴラドに服を借ります。
そしてクラブに行き、未成年のエンゾは19歳だと嘘をつきますが、身分証がないと入店させられないと断られてしまいます。
エンゾは平気だと言ってクラブに入らず引き返しますが、家には戻らず海の近くの崖の上で寝そべり、夜空を眺めます。家に帰ったのは深夜になってからでした。
エンゾのことが心配な父親はソファで帰りを待っていました。「どこに行っていたんだ、なぜ連絡しないのか」と問い詰める父親に、エンゾはクラブに行ったと嘘をつき、「人生で一番最高な夜だった」と言います。
エンゾを心配する両親は、エンゾに合う学校があるはず、お前には才能があると言い、学校に通うことを勧めますが、エンゾは耳を貸しません。
エンゾは、ヴラドたちに出会ったことで、両親や兄のようにならないと、どこか軽蔑するような態度をとっていました。
両親とエンゾのすれ違いはどんどん広がっていき、父親と喧嘩したエンゾはヴラドのアパートに向かいます。
映画『君の見る世界をなぞる』の感想と評価

(C)Les Films de Pierre
16歳の少年エンゾの心の機敏を捉えた映画『君の見る世界をなぞる』。
裕福な家庭で育ちながらも、家にも学校にもどこか馴染めず、居場所を見つけられずにいます。そんなエンゾにとってブラドは眩しく見えます。
しかし、ウクライナ出身のヴラドは、家族や友人がロシアと戦っていたり、戦火にさらされています。ヴラドも国に戻って、徴兵に参加すべきか揺らいでいます。
明るいヴラドの奥にある戦争という暗い影もまた、エンゾを惹きつけるものでした。
裕福で過保護と思える両親のもとで育ったエンゾは、言ってしまえば何も知らない。幼さも残る少年と言えます。
口論になって拗ねたり、当てつけのような行動をしたり……そんなエンゾの幼さは等身大の姿であり、だからこそもどかしく、愛おしく思えるのです。
幼いエンゾは自分が触れる世界しか見えていない、だからこそヴラドと同じものを見たくて「2人なら怖くない」とよくわからず、自分もウクライナに行くとまで言ってしまうのです。
現実を知っているヴラドは、皮肉っぽく「ニュースで見るだけで十分だ」と言います。一方で、20代前半のヴラドもまたエンゾよりは大人であっても、人間として成熟しているわけではありません。エンゾとの距離感や家族とのこと、そして祖国のこと、様々なことに思い悩んでいる様子も伺えます。
エンゾは、過保護な親に反発しますが、自分が気づかないことろで守られているとも言えます。
エンゾの両親はある程度自由にさせる様子もありつつ、未成年だからこれはダメだという線引きをしています。
エンゾが男性と関係を持ったという嘘をついた際、両親はエンゾのセクシャリティーを否定するのではなく、“未成年だから”成人は関係を持ってはいけないと言います。
ヴラドもまた、エンゾのセクシャリティーを否定はせず、自分は成人でエンゾは未成年という線引きをしていました。
そんなヴラドに対し、エンゾは自分の気持ちに反応してほしいというもどかしさを感じてしまうのです。
両親はなるべくエンゾを否定することなく、エンゾに他に向いている道がある、自分の人生に目標を持って欲しいと思いますが、エンゾにとってそれがかえって居心地が悪く、自分は家族と違う、恥晒しだと思われていると感じていました。
そんなエンゾにとっては自分のありのままを受け入れ、皆目の前を見て生きているように見える建築現場の人々、生活と結びつく建築の仕事が居心地が良かったのかもしれません。
しかし、エンゾはまだまだ幼く、大人になってみて気づくことはたくさんあるでしょう。同時に、回り道に思えるようなことも今のエンゾにとっては必要なことだったのかもしれません。
まとめ

(C)Les Films de Pierre
南仏を舞台に16歳の少年エンゾの葛藤を描いた映画『君の見る世界をなぞる』。
北イタリアを舞台にした『君の名前で僕を呼んで』(2018)でも、年の離れた男性に惹かれる17歳のエリオのみずみずしい恋と、その苦しさを描いていましたが、時代設定は80年代でした。
切ないすれ違いの背景には、同性愛者に対する偏見といった社会の目も根底にありました。また年齢差においても、現代と80年代の認識は同じとは言えないでしょう。
『君の見る世界をなぞる』では、同性愛者に対する偏見の目や、親にカミングアウトすることへの葛藤が主軸に描かれているわけではありません。
恋愛感情の発露や将来への不安、漠然としたモヤモヤや苛立ちを前にどうしたら良いのかわからないエンゾの姿が、ハラハラするような危うさと共に描かれています。
それだけでなく、ウクライナ出身のヴラドを通して、エンゾの知らない世界の現実も浮き彫りにしていきます。好きだからこそ知りたいと思うエンゾと、現実を知っているからこそ、どこか突き放すことでエンゾを守ろうとするヴラド。
しかし、ヴラドの思いも、両親の思いを汲むことも今のエンゾには難しいのです。それでもいつか、エンゾにも分かる時がくる、そんな予感を感じさせるラストになっています。
一方で、もどかしさや大切だという思いが強すぎて、エンゾの気持ちにうまく寄り添えない両親の葛藤にも共感できる部分は多いのではないでしょうか。


































