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Entry 2022/07/02
Update

映画『エルヴィス』ネタバレあらすじ感想と解説評価。プレスリーの“伝説と歌声”は不出世のスターであり、キング・オブ・ロックンロールそのものだ

  • Writer :
  • 松平光冬

“キング・オブ・ロックンロール”、エルヴィス・プレスリーの生涯

映画『エルヴィス』が、2022年7月1日(金)より全国ロードショーです。

“キング・オブ・ロックンロール”と称された不出世のスター、エルヴィス・プレスリーの激動の生涯を描いたバス・ラーマン監督作を、ネタバレ有りでレビューします。

映画『エルヴィス』の作品情報

(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

【日本公開】
2022年(アメリカ映画)

【原題】
Elvis

【製作・監督・脚本】
バズ・ラーマン

【共同製作】
キャサリン・マーティン

【共同脚本】
クレイグ・ピアース、サム・ブロメル

【編集】
マット・ビラ、ジョナサン・レドモンド

【キャスト】
オースティン・バトラー、トム・ハンクス、オリビア・デヨング、ケルビン・ハリソン・Jr.、ゲイリー・クラーク・Jr.、デビッド・ウェンハム、ルーク・ブレイシー、デイカー・モンゴメリー、ナターシャ・バセット、ゼイビア・サミュエル、コディ・スミット=マクフィー

【作品概要】
“キング・オブ・ロックンロール”と称されるエルヴィス・プレスリーの生涯を、『ロミオ&ジュリエット』(1996)、『ムーラン・ルージュ』(2001)のバズ・ラーマン監督が映画化。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)に出演した若手俳優のオースティン・バトラーがエルヴィス役を、マネージャーのトム・パーカー大佐をオスカー俳優トム・ハンクスがそれぞれ演じます。

その他のキャストは、『ヴィジット』(2015)のオリビア・デヨング、『モールス』(2010)のコディ・スミット=マクフィー。

第75回カンヌ国際映画祭のアウト・オブ・コンペティションで高い評価を得ました。

映画『エルヴィス』のあらすじとネタバレ

(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

1972年のアメリカ、ネバダ州ラスベガス。

インターナショナルホテルで4年目のショーを行っていたエルヴィス・プレスリーが、開幕直前に卒倒。マネージャーのトム・パーカー大佐が、エルヴィスの顔を氷水に浸け、主治医に薬を打つよう指示します。

1997年のアメリカ、ラスベガス。

自宅で昏睡状態となった87歳の大佐が病院に運ばれます。ニュースメディアでは、彼を“天性の詐欺師”と呼んでいました。

目を覚まし、病院のベッドを抜け出してカジノのテーブルに腰かけた大佐は、意識朦朧の中でエルヴィスとのこれまでを語り出します。

1953年の夏のアメリカ。

カントリー・アンド・ウェスタンの人気シンガー、ハンク・スノウのマネージャーを務めていた大佐は、ハンクの息子ジミーが聴くラジオから流れる、リズム・アンド・ブルースを歌う白人青年の声に耳を傾けます。

1935年にミシシッピ州で生まれたその青年エルヴィスは、双子の兄ジェシーを生後間もなく亡くしたことで、母グラディスの愛情を受けて育ちます。しかし家計が非常に苦しかったため、貧困層の黒人が多いテネシー州メンフィスへと引っ越すことに。

メンフィスでゴスペルやブルースといった黒人音楽に触れ、その音楽性を養ったエルヴィスは、やがて母グラディスへのプレゼントとしてバラード曲を吹き込んだレコードをきっかけに、歌手としてデビュー。

大佐が生のエルヴィスを初めて見たのは、ハンクが出演したショーでした。ハンクの前座としてステージに立つも、緊張からなかなか声が出せず、観客にヤジられるエルヴィス。

ところが一呼吸おいて、圧倒的な歌唱力と官能的な腰の動きを伴った『ザッツ・オールライト(ママ)』が女性観客を魅了。大佐の推薦で、ハンク主導の巡業ツアーにエルヴィスも帯同することに。

エルヴィスのおかげでツアーは女性ファンが急増しますが、彼のパフォーマンスを嫌うハンクは面白くありません。そこで大佐は内々でエルヴィスに接触し、大手レコード会社RCAビクターと独自契約するようアドバイス。

エルヴィスの両親は素性不明の大佐に不信感を抱くも、大佐はプレスリー・エンタープライズを設立し、経営者に両親を据えることで信用を得ます。

次々とヒット曲を重ね、映画界にも進出したエルヴィスは、メンフィス郊外に豪邸“グレイスランド”を建て、「母にピンクキャデラックをプレゼントする」というかねてからの願いも成就。その一方で大佐はさまざまなエルヴィスのグッズを作成し、その利益を得るという根回しを行いました。

(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

名声を得ていくと同時に、エルヴィスへの世間の反発が高まります。火付け役となったのは、ミシシッピ州上院議員のジェームズ・イーストランドでした。

白人至上主義者で公民権運動に反対するイーストランドは、エルヴィスは黒人音楽を白人社会に持ち込んだ者であり、彼の歌を「悪魔の歌」と糾弾。パフォーマンスを改めなければ、大佐ともども収監も辞さないと警告します。

大佐はバッシングを鎮めるために、ステージ衣装をタキシードに、歌もカントリーテイストを推し出した曲調に変えるよう命じます。

自分がやりたいパフォーマンスを封じられたストレスを晴らすべく、エルヴィスはライヴ・ハウスが立ち並ぶビール・ストリートに車を走らせます。

盟友のB.B.キングの「やりたいことをやれ。お前は白人だから大丈夫だ」というアドバイスと、リトル・リチャードの『トゥッティ・フルッティ』を聴いたエルヴィスは、翌日のラスウッド・パークスタジアムで行われるライブに臨みます。

スタジアムのステージ裏で、大佐から「指も腰も動かすな」と命じられるも、エルヴィスは「誰も俺を変えられない」と、腰をくねらせながら『トラブル』を歌います。

そのパフォーマンスに熱狂し、やがて暴徒と化した観客の姿に大佐は声を失い、エルヴィスは警察に拘束され、客席にいた両親と引き離されてしまうのでした。

1958年3月、エルヴィスは米陸軍に入隊。これは収監を免れるためと、入隊が愛国心のアピールになるという大佐の意向によるものでした。

しかし8月、体調を崩していた母グラディスの容態が急変し、帰らぬ人に。母の服にしがみついて泣き喚くエルヴィスに、父ヴァーノンは何も言えません。

ヴァーノンに頼まれてエルヴィスの元に向かった大佐は、「母がお前のために犠牲にしてきたことは無駄にするな」と声をかけます。そんな大佐に「あなたは僕の父代わりだ」と答えるエルヴィス。

1959年、エルヴィスは従軍していた西ドイツで軍隊長の娘プリシラと恋に落ち、除隊後グレイスランドで同居を開始。

60年代は大佐の意向で映画俳優に専念することとなるも、主演作の批評が軒並み芳しくなく、低迷期に入ります。

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1968年1月、大佐は全米ネットワークテレビ局NBCとの間で、12月放送のスペシャル番組『エルヴィス』制作の契約を交わします。内容は、スポンサーのミシン会社と大佐の意向で、エルヴィスが全編クリスマスソングを歌うショーと決定。

エルヴィスと番組のプロデューサー兼ディレクターのスティーヴ・ビンダー、そしてプロデューサー兼エンジニアのボーンズ・ハウの3人は、ハリウッドサイン下で密かに会合。

4月に公民権運動の指導者だったマーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺されたのを受け、『エルヴィス』をただのクリスマス番組にはしないという思いで一致します。

番組制作と並行してリハーサルも行われるも、なかなかクリスマスソングを歌おうとしないエルヴィス。大佐はスポンサー陣のご機嫌取りに奔走します。

そんな中、6月に大統領選に出馬していたロバート・ケネディ上院議員が暗殺されます。奇しくもその現場は、リハーサル会場にほど近いロサンゼルスのアンバサダーホテルでした。

大きなショックを受けるエルヴィスに、「そんなの気にすることではない」と言い放つ大佐。

その後、ビンダーやハウたちと語り合ったエルヴィスは、自身の思いを込めた歌詞を元に曲を作成。

迎えた収録当日。クリスマスムード一色となったスタジオセットの向かいに立った白スーツ姿のエルヴィスは、出来たばかりの曲『明日への願い』を熱唱。

そのメッセージに感動したスポンサー陣は拍手を贈るも、何も知らされていなかった大佐は不満を露わにします。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『エルヴィス』のネタバレ・結末の記載がございます。本作をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

テレビ番組『エルヴィス』(通称『’68カムバック・スペシャル』)は高視聴率を獲得し、完全復活となったエルヴィスはライブ活動を本格的に再開。それに併せて、日本やヨーロッパを含む世界を回るツアーを望むも、大佐は却下します。

69年、大佐はラスベガスにオープンしたばかりのインターナショナル・ホテルで、エルヴィスのワンマンショーを行う契約を交わします。

ショーが開始し、ステージ上で大佐やホテルオーナーに感謝のスピーチをした後、『サスピシャス・マインド』を歌うエルヴィス。

その一方で大佐は、エルヴィスがこのホテルで歌い続ける限り、大佐がカジノで作った借金を帳消しにできる上に、無期限で融資を取り付けられるという密約をオーナーたちと結ぶのでした。

キング牧師やケネディ、そして女優シャロン・テートといった著名人の殺害事件が多発し、自身にも脅迫状が届くようになったエルヴィスは、恐怖心から精神安定剤を多用し、ホテルに閉じこもるように。大佐は、エルヴィスが世界ツアーを行わないのは、彼の命を守るためだとマスコミに説明します。

1997年のラスベガス。87歳の大佐は、妄想の中でイーストランド上院議員から、エルヴィスの世界ツアーを拒む本当の理由は、大佐がアンドレアス・コルネリス・ファン・カウクという本名のオランダ人であり、アメリカ市民権を持たない密入国者だからだと追及され、狼狽。

1972年。グレイスランドに帰らず、ホテルで他の女性と一夜を共にしていたエルヴィスは、プリシラに別れを告げられます。

別れ際、「あなたは大佐と離れるべき」と告げられたエルヴィスは、その後のステージ上から、客席に座っていた大佐を猛批判してクビを宣告。しかし大佐の「私をクビする前に、父親に貸し付けていた数百万もの金を返せ」という言葉に唖然とします。

父ヴァーノンから「稼いだ金はすべてお前が散財していた。だから大佐から借金をしていた」と告げられたエルヴィスは、やむなく大佐のクビ斬りを取り消します。

薬物が手放せなくなり、日に日に体調が悪化していくエルヴィスは、ショー開幕直前に卒倒。慌てふためくヴァーノンを横目に、大佐はエルヴィスの顔を氷水に浸け、主治医に薬を打つよう指示します。

その数日前、娘のリサ・マリーとのつかの間の生活を過ごしたエルヴィスは、迎えに来たプリシラと空港で再会。愛する娘のために病院に行くようにとプリシラに嘆願されるも、「無理だ」と言って、プライベートジェット機に乗り込みます。

1977年、エルヴィスは心臓発作で42歳の若さで死去。

「エルヴィスを殺したのは私だと言われるが違う。彼は薬でもアルコールでもなく、愛に殺された」と語る大佐は、ホテルのワンマンショーで、付添人にマイクを持たせながらも、衰えぬ歌唱力で『アンチェインド・メロディ』を歌うエルヴィスを思い出しながら、息を引き取ります。

大佐によるエルヴィスへの金銭的搾取は、エルヴィスの死から数年経った後、一連の訴訟で明らかとなり、大佐は、わずかな財産をラスベガスのスロットマシンに注ぎ込む晩年を過ごすことに。

エルヴィス・プレスリーは、世界で最も成功したソロ・アーティストであり、彼の音楽への影響と遺産は今日まで続いています――。

映画『エルヴィス』の感想と評価


(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

世界で最も成功したソロ・アーティスト

本作『エルヴィス』は、“キング・オブ・ロックンロール”と称されたエルヴィス・プレスリーの42年の生涯を描きます。

『ロミオ&ジュリエット』、『ムーラン・ルージュ』のバズ・ラーマン監督作らしく、絢爛豪華かつ圧巻のライブパフォーマンスが見どころですが、特に必見はエルヴィス役のオースティン・バトラーでしょう。

“世界で最も成功したソロ・アーティスト”としてギネスブックに登録されるエルヴィスですが、そのあまりのカリスマ性ゆえに、演じ方によってはギャグに見えてしまう恐れもあります。

しかし本作では、エルヴィスの動きの振り付けを『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)でフレディ・マーキュリーをラミ・マレックに変貌させたポリー・ベネットが担当したことで、過剰でも滑稽でもない“普通の”エルヴィス像を構築しています(なお、バトラーは撮影開始前にマレックに連絡を取り、音楽界の偉人を演じる際のアドバイスを求めたそう)。

11歳の誕生日にライフル銃を望むも母のグラディスに却下され、代わりにギターをプレゼントされたことが音楽との初接触となったエルヴィス。

本格的に歌手を目指したのも、母へのプレゼントとしてレコードを自主制作したのがきっかけで、デビュー曲も、母への愛を綴った『ザッツ・オールライト(ママ)』でした。

“母性”がミュージシャンを生む――ジョン・レノンもモリッシーも、ロックミュージシャンとなったのは母親の存在が大きく影響しました。

その両者が好きだったエルヴィスもご多分に漏れず、誰よりも母への愛が強い人物というのが、実に興味深いです。

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“信用できない語り手”によるスーパースターの裏側


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よく映画やドラマなどでは、劇中人物がストーリーテラーとして物語を進める手法が用いられますが、本作ではその役割をエルヴィスではなく、マネージャーのトム・パーカーが担当しています。

エルヴィスの専属マネージャーとして辣腕を振るうも、オランダからの密入国者であることを隠し、米陸軍に志願した際の面接官の名を騙って“大佐”と偽っていたとされる暴君ぶりは、ある意味でもう一人の主人公です。

主にサスペンス・スリラーにおいて、信用が置けない人物をストーリーテラーにして観る者を惑わす“信用できない語り手”手法の作品は、近年では『ジョーカー』(2019)がありましたが、本作では文字通りの“信用できない語り手”をストーリーテラーに据えることで、エルヴィスとの愛憎入り混じる関係性や、彼の死の真相にまつわるミステリアスな描写を強めています。

終盤、ホテルのワンマンショーの客席で、大佐がホテルオーナーたちとエルヴィスの知る由もない悪魔のような契約を交わす一方で、当のエルヴィスがステージで『サスピシャス・マインド』を歌うシーンがあります。

愛に囚われすぎて疑心暗鬼になっていく者の心情を綴った『サスピシャス・マインド』が、ここではエルヴィスと大佐の“その後”を暗示するように引用されます。

ショービズ界での奴隷契約は、『ジュディ 虹の彼方に』(2020)でも描かれていたように時代問わず普遍的に存在します。

「脚のない鳥は、陸に降りずに空を飛び続けるしかない」――、大佐=契約に縛られたエルヴィスの哀しき裏の顔が染みわたります。

ちなみに大佐役のトム・ハンクスは、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1995)で幼少時に若きエルヴィスと出会う主人公役、『キャスト・アウェイ』(2001)ではエルヴィスファンの主人公役、そして『トラブル IN ベガス』(2005)でエルヴィスのそっくりさん役をそれぞれ演じるなど、何かとエルヴィスとは縁があったりします。

エルヴィス・プレスリー『サスピシャス・マインド』(歌詞付き)

まとめ


(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

黒人発祥のリズム・アンド・ブルースと、白人発祥のカントリー・アンド・ウエスタンを融合させたエルヴィスの音楽センス。アメリカの作曲家にして指揮者のレナード・バーンスタインはこう評しています。

エルヴィス・プレスリーは、20世紀最大の影響力だ…。エルヴィスは、あらゆるものにビートを持ち込んだ。あらゆるものを一変させた。音楽、言語、服装などに全てに。それは全く新しい総合的社会革命だった。
――『エルヴィス、’68カムバック・スペシャル』(前田絢子・著 青土社・刊)

劇中でエルヴィスが歌う『明日への願い(If I Can Dream)』は、尊敬していたマーティン・ルーサー・キング牧師の名演説「I Have a Dream」のアンサーソングです。

人種差別廃絶を願う公民権活動が活発になっていく最中、凶弾に倒れたキング牧師およびロバート・ケネディの2人への思いと、アメリカの平和を願うこの曲は、差別問題が悪化する現代アメリカに突き刺さります。

『ボヘミアン・ラプソディ』、『ロケットマン』(2019)、『リスペクト』(2021)など、近年の世界的ミュージシャンの人生を描いた伝記ドラマは佳作揃い。『エルヴィス』も間違いなくその一本に入るでしょう。

映画『エルヴィス』は、2022年7月1日(金)より全国ロードショー



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