映画『永遠の1分。』2022年3月4日、東京・池袋シネマ・ロサから全国公開
『カメラを止めるな!』の曽根剛と上田慎一郎のタッグで、“東日本大震災”と真摯に向き合った最新作『永遠の1分。』をご紹介します。
監督は初長編映画『口裂け女in L.A.』(2015)、『9つの窓』(2015)をロサンゼルスでプロデュース及び監督を務め、『カメラを止めるな!』(2017)では、第42回日本アカデミー賞優秀撮影賞を受賞した曽根剛が務めます。
脚本には映画製作団体「PANPOKOPINA」の代表、初の劇場用長編映画『カメラを止めるな!』(2019)、『100日間生きたワニ』(2020)で、監督を務めた上田慎一郎が手掛けました。
“笑い”は困難や試練の力になりうるのか? そのことをテーマに、“東日本大震災”で復興半ばの現地の被災者を通して、向き合っていくヒューマンドラマです。
物語は“3・11”を題材にしたドキュメンタリーの企画を渡された、アメリカ人映像ディレクターのスティーブを中心に、震災のトラウマから立ち直れずにいる、麗子が震災と向き合っていくまでの葛藤を描いています。
映画『永遠の1分。』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督】
曽根剛
【脚本】
上田慎一郎
【キャスト】
マイケル・キダ、Awich、毎熊克哉、片山萌美、ライアン・ドリース、ルナ、中村優一、アレキサンダー・ハンター、西尾舞生、渡辺裕之
【作品概要】
スティーブ役に「コンフィデンスマン」シリーズ、『最高の人生の見つけ方』(2019)に出演するなど、日本で俳優活動をしながら、オーガニック農場を営むなど、幅広く活躍中のマイケル・キダが演じます。
ヒロインの麗子役はヒップホップクルー“YENTOWN”に所属し、2020年「Partition」でメジャーデビューした、実力派シンガーのAwichが映画初出演をします。
麗子の夫役は『万引き家族』(2018)、『サイレント・トーキョー』(2020)などの話題作に出演した毎熊克哉。女性記者のマキ役に『ばるぼら』(2020)、『ボクたちはみんな大人になれなかった』(2021)に出演した片山萌美。
マキの元上司役に『オン・ザ・ロード』(1982)の主演で俳優デビューし、平成版「ガメラ」シリーズ、Vシネマ「修羅がゆく」シリーズに出演する、渡辺裕之が務めます。
映画『永遠の1分。』のあらすじ
コメディを得意とする映像ディレクターのスティーブは、会社に度重なる損害を出し最後通告として、東日本大震災のドキュメンタリーを作るよう勧告されます。
乗り気しないスティーブでしたが、彼には他に思惑があります。相棒でカメラマンのボブを無理矢理同行させ来日をしました。
2人は通訳のレイナと被災地を訪れ、被災者たちを取材し甚大な被害の現実を目の当たりにします。
2人はますますモチベーションがダウンしますが、スティーブが地元民による3・11をテーマにした演劇と出会い、それをヒントにコメディ映画の企画を考えはじめました。
その舞台演劇を取材していた、女性記者のマキはスティーブの企画に賛同し、週刊誌で取り上げてくれます。
しかし、なぜかそれが誹謗中傷記事として出てしまうなど、企画が暗礁に乗り上げてしまいます。スティーブは暗中模索の中、取材を通し映画を撮る使命があることを思い出していました。
一方、ロサンゼルスに移住している日本人シンガーの麗子は、3・11の日に息子を亡くしていました。
麗子は歌手をしていたことで、息子を失ったという罪悪感に苦しみ、歌うことも日本に残してきた夫とも、向き合えないまま9年間過ごしています。
夫は読まれることのない手紙を送り続けますが、ある日、麗子はその手紙の中にあるものを見つけ、運命も動き始めます。
映画『永遠の1分。』の感想と評価
映画『永遠の1分。』のキャッチフレーズ、「不謹慎!?アメリカ人が3・11を題材にしたコメディ映画を撮る」とは、3・11を題材にした映画を制作しようと発起した、曽根監督と上田監督の2人が直面したテーマでもありました。
脚本の上田監督は本作について「企画が持ち上がったのは2013年頃だった」と、曽根監督から脚本の依頼があった当時を振り返ります。
震災から2年足らずの時でいざ取り組み始めると、被災者でもない両者はまさしく“部外者”という感覚にさいなまれはじめます。
この作品には“部外者”という壁をどのように乗り越え、エンターテイメント性のあるドキュメンタリーになったのかが描かれてもいました。
教訓は“部外者”をつくらない
共通認識として人生には「困難」がつきものです。
また、自然災害大国の日本で、“3・11”は決して他人事ではなく、むしろ自分事のようにとらえ向き合うことが、大切であると再認識させられるでしょう。つまり、「教訓」です。
日本は地震も多いけれども台風などの被害も多い国です。毎年のようにどこかで自然災害が発生し、大切な人を失っている方がいることを忘れてはいけません。それは、大災害を何度も経験し、それを乗り越えてきた唯一無二の国だからこそです。
ところが個人になると、自分が経験していないことには無関心であったり、発生直後は関心を持っても時間が経つにつれ、“風化”し忘れていきます。
記憶から消されてしまう怖さ、繰り返してしまう愚かさを回避させるため、ノンフィクション映画やドキュメンタリー作品にありがちですが、曽根監督と上田監督が描いた3・11は一味違っていました。
奇しくも世界中が共通の困難に見舞われている現在……。脚本の上田監督は困難に立ち向かうには、“ユーモアの力”が必要になると信じ、脚本に取り組みます。
そして、最終的に曽根監督は「あらゆる困難に立ち向かうための映画」とするために、構成を変え9年越しで本作を完成させました。
スティーブ役のマイケル・キダは、日本でもタレントとして活動経験があり、本作の出演に意欲的でした。
しかし、実際に東北で被災者たちと関わる中で、スティーブの感じた気持ちにリンクしたといいます。外国人から見た東日本大震災と現実も伝わります。
また、麗子役のAwichは沖縄県出身ということで、「多くの人々の命が奪われる大惨事が起こった歴史を持つ土地」で生まれ育ったこと、彼女自身が2011年に最愛のご主人を亡くしていたことから、その悲しみと向き合う被災者や麗子の気持ちとリンクしたとも語っています。
こうした観点から日本には“部外者”はいないはずなのです。
“部外者”ではいられない祈りと回帰の日
大震災の起きた被災地では発生した日時になると、鎮魂の祈りを捧げます。被災者でなくとも気がつけば目を閉じて祈ります。
そして、日本には鎮魂の祈りを捧げる日が夏にあります。原爆の日と終戦の日は、戦没者への鎮魂と世界平和を祈る時間です。
敗戦国の日本人として平和を祈ることは、国民共通の祈りであり、戦争の悲惨さを戒める時間は、当時を知らなくとも“部外者”ではありません。永遠に残っていく時間です。
そして、自然災害が多発する日本にとって、数々の大震災も例外ではなく、我が事として肝に命じる時間…それが「永遠の1分」なのだと思いました。
まとめ
人為的な災害や戦災であれば被害者と加害者というストーリーやキャラ設定がしやすいものです。
ですが、それとは違う自然大災害を題材にコメディーに挑戦しようとする海外映像ディレクターの目線を通して、長年悲しみから立ち直れないヒロインと家族の姿を描いた作品です。
果たして、直面している困難に立ち向かう「力」を笑いから見出すことができるのでしょうか?
本作は3・11を描いた映画やドキュメンタリー作品とも一線を引く、避けて通れない実際に起きた事実を突きつめながら、実際に復興に向けて動いた人達の“糧”となったことについて描いた作品です。
また、曽根剛監督と上田慎一郎のドキュメンタリー映画ともいえる作品です。
人間はかくもたくましく立ち上がる…(特に日本人)。その術が、遺伝子レベルで“笑い”を欲求することだったと、垣間見ることもできるでしょう。
映画『永遠の1分。』は、2022年3月4日(金)より、東京・池袋シネマ・ロサをはじめ全国で公開予定。