映画『ヒトラーのための虐殺会議』は2023年1月20日(金)より全国ロードショー!
第二次世界大戦の残酷な出来事として語り告げられるホロコースト(ナチス・ドイツがユダヤ人などに対して組織的に行った絶滅政策)、その大きな起点となった一つの会議が1942年、ドイツ・ベルリンの郊外にて行われていました。
大戦下に起きた悲劇の前日譚として存在した一つの会議の様子を、緊張感たっぷりに描いた映画『ヒトラーのための虐殺会議』。
ドイツのテレビ映画を数多く手がけてきたマッティ・ゲショネック監督が、歴史の裏に隠されたショッキングな出来事を映像作品として製作。劇場映画として自身18年ぶりの作品を完成させました。
映画『ヒトラーのための虐殺会議』の作品情報
【日本公開】
2022年(ドイツ映画)
【原題】
Die Wannseekonferenz
【監督】
マッティ・ゲショネック
【キャスト】
フィリップ・ホフマイヤー、ヨハネス・アルマイヤー、マキシミリアン・ブリュックナー、ファビアン・ブッシュ、ペーター・ヨルダン、アルント・クラビッター、フレデリック・リンケマン、トーマス・ロイブル、マルクス・シュラインツアー、ジーモン・シュバルツ、ラファエル・シュタホビアク
【作品概要】
第2次世界大戦半ばにナチス政権が、1100万人のユダヤ人絶滅政策を決定した「ヴァンゼー会議」の様子を、出席した高官たちの複雑な表情とともに描きます。
実際に会議に参加したキーマンの一人、アドルフ・アイヒマンが記録した議事録を基に物語が作られました。
主人公を務めたオーストリアのベテラン俳優フィリップ・ホフマイヤーをはじめとした俳優陣が、会議に出席した人物たちがユダヤ人問題解決をまるでビジネスのように話し合う冷酷な表情を見事に演じ切りました。
映画『ヒトラーのための虐殺会議』のあらすじ
1942年1月20日正午、ベルリンのヴァン湖畔に建つ大邸宅。この日は各所を代表するナチス・ドイツ親衛隊と各事務次官が集められ、総統アドルフ・ヒトラーが掲げた「ユダヤ人問題の最終的解決」を議題とした会議が開かれました。
「最終的解決」とは、ヨーロッパ全土にいるユダヤ人種絶滅の意。ナチス・ドイツによるユダヤ人の推定総数はドイツ国内外の分布より1100万人と発表されます。
この人種の根絶を実行に移すべく、国家保安部代表ラインハルト・ハイドリヒを議長とする高官15名と秘書1名により移送、強制収容、強制労働、計画的殺害などの方策が次々と議決され、ユダヤ人の運命はたったの90分で決定づけられてしまいました。
映画『ヒトラーのための虐殺会議』の感想と評価
『最終的解決』を目指す真意
会議が行われたのは、第二次世界大戦のちょうど半ばに当たる1942年。
時期的に見ると、この時期はナチス・ドイツがその存在自体に対して大きな転換期を迎えた時期であるとも考えられます。
この会議が行われた趣旨としては、『最終的解決』に向けての関係各所の足並みがそろっていなかったというジレンマの解消であったと言われています。
その理由としては、単に各所の実行が伴わなかったというだけではなく、『最終的解決』という目標、そしてその実行に対しての異論を持つ者もいたであろうという説も考えられ、本作でも会議の中に垣間見られる疑問、反論によって描かれています。
実際の会議はまさに「足並みが揃った」という結論で終了したわけですが、その裏には『最終的解決』という絶対目標によって打ち消された様々な異論が垣間見られます。
物語はこの歴史的な事実の一片を描いているだけでなく、そのこと自体が現代社会にも巣食う様々な問題の一場面を描いているようです。
この会議で主導を握っていたのは、国家保安部長官のラインハルト・ハイドリヒ。劇中では、彼をはじめ会議に出席している人物の半分は彼と同じ色の軍服を着た者たちが占めています。
このことから、会議でナチス・ドイツは軍隊を主導に『最終的解決』という目標に向けた道筋をゴリ押しで決定してしまったようにも見えます。
つまりこの物語では、戦争という行為に対して一番大きな実権を握っていた組織が会議において主導を握り、さまざまな異論、疑問を握りつぶした形で結論に向かったという姿が見えてきます。
大きな力に少数派が飲み込まれてしまうことで、さらに大きな争いがおこるという構図が見えてくるわけです。
『最終的解決』自体が人道的思想をはじめ果たして客観的に見て正しいことか、などという議論は無視し、軍は暴走していたとも見えます。
総じて見ると、この事象は現在世界的に起きている紛争などにとどまらず、さまざまな「問題解決」の場面で不均衡な力関係により思わぬ道筋へ向かっていく様子とも重なって見えてくることでしょう。
ヴァンゼー会議の実施について現在残されているエビデンスは、出席者の一人であるナチス親衛隊中佐アドルフ・アイヒマンが作成した会議議事録のみで、そこに出席者たちのどのような腹の探り合いがあったか、そこまでを読み取ることはかなり困難であることが推測されます。
その意味で本作は会議の場という映像としてはなかなか物語を作りづらい構図の中で、見事に深いメッセージ性を作り上げた秀作であると言えるでしょう。
『ヴァンゼー会議』とは
第二次世界大戦中の1942年1月20日にドイツにて行われてたという『ヴァンゼー会議』。
会議の名称は会議がベルリン郊外にある住宅地ヴァン湖(ヴァンゼー)のそばにあった、親衛隊の所有する邸宅で開催されたことより名付けられました。
当時ドイツを率いたアドルフ・ヒトラーは、ユダヤ人の絶滅を目的とする演説を行ったものの、目標達成のための官僚組織の協調体制を確立することが出来ないままとなっていました。
このことを受け『最終的解決』、すなわちユダヤ人種の絶滅完遂に向けて関係各所の足並みをそろえるために、ナチス・ドイツの高官らが集まりユダヤ人の移送や殺害について討議した会議であると言われています。
ちなみに本作は、ヴァンゼー会議から80年後にあたる2022年に制作されました。
まとめ
例えばこの会議の出席者の一人である国家保安本部第IV局のハインリッヒ・ミュラーは、当時親衛隊のトップであったハインリヒ・ヒムラーの伝記を描いた作家ピーター・パドフィールドより、リサーチの末に「政治への無関心と冷静さ、組織力からして『典型的な中間管理職』」タイプであるとみた、と評価されています。
彼はその力を遺憾なく発揮し、文字通りナチス・ドイツの前進に貢献したわけですが、他方でそんな「中間管理職」的な人物がいたということは、やはり会議自体の目指す道筋があいまいに感じられ、当時のナチス・ドイツという国の方向性にズレが生じた傾向も感じられます。
一堂に冷徹な表情を崩さない軍人の中で、フィリップ・ホフマイヤー演じるラインハルト・ハイドリヒの表情は『最終的解決』という一線を崩さないながら、腹の見えない表情の中でどこか芯のない意思を感じさせており、満場一致だったといわれるこの会議の結末に歪みを残しているようでもあります。
たとえば「ヴァンゼー会議が行われなかったら、果たして第二次世界大戦の戦局はどのように変わっただろうか?」などと考えると、この物語で描かれているテーマがどのようなものなのか、より深く感じられることでしょう。
戦争という悲劇を二度と起こすまい、という反対運動があちこちで叫ばれる現代において、本作は「なぜその悲劇というものが起きるのか」「その悲劇を食い止めるにはどうすればいいのか」という思想を生み出す次のステップ、新たなアプローチを感じさせる作品であるともいえます。
映画『ヒトラーのための虐殺会議』は2023年1月20日(金)より全国ロードショー!