神聖な教皇選挙で繰り広げられる人間劇
新教皇を選出する教皇選挙「コンクラーベ」をテーマに、バチカンの内幕に迫る極上ミステリーです。本作公開中に、奇しくも本物のコンクラーベがバチカンで行われたことにより、大きな注目を集めました。
監督は『西部戦線異状なし』(2022)のエドワード・ベルガー監督。『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)の名優レイフ・ファインズを主演務めます。
共演はスタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニ。
熾烈なパワーゲームの先に待っていたのは、予想だにしなかった結末でした。人間くさい聖職者たちによる命がけの戦いを、素晴らしい映像で魅せる傑作です。
映画『教皇選挙』の作品情報

(C)2024 Conclave Distribution, LLC.
【公開】
2025年(アメリカ・イギリス合作映画)
【原作】
ロバート・ハリス
【監督】
エドワード・ベルガー
【脚本】
ピーター・スロトーハン
【編集】
ニック・エマーソン
【キャスト】
レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニ
【作品概要】
『教皇選挙』は、ローマ教皇選挙の舞台裏と内幕に迫ったミステリーです。第95回アカデミー賞で国際長編映画賞ほか4部門を受賞した『西部戦線異状なし』(2022)のエドワード・ベルガー監督が手がけました。
主役のローレンス枢機卿を『シンドラーのリスト』(1993)『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)の名優レイフ・ファインズが演じます。
脇を固めるのは『プラダを着た悪魔』(2006)のスタンリー・トゥッチ、『スキャンダル』(2020)のジョン・リスゴー、『ブルーベルベット』(1986)のイザベラ・ロッセリーニです。
第77回英国アカデミー賞で作品賞をはじめ、英国映画賞・脚色賞・編集賞の4部門を受賞。第97回アカデミー賞では作品賞・主演男優賞・助演女優賞・脚色賞など計8部門にノミネートされました。
映画『教皇選挙』のあらすじとネタバレ

(C)2024 Conclave Distribution, LLC.
全世界に14億人以上の信徒を持つカトリック教会の最高指導者、バチカン市国の元首であるローマ教皇が心臓発作で亡くなりました。ローマ教皇庁首席枢機卿のトマス・ローレンス枢機卿は、新たなローマ教皇を選出する教皇選挙「コンクラーベ」を執り仕切ることとなります。
「コンクラーベ」には世界中から100人を超える候補者たちが集まりました。有力候補は、アメリカ出身でリベラル派のベリーニ枢機卿、ナイジェリア出身の保守派アデイエミ枢機卿、カナダ出身の穏健保守派トランブレ枢機卿、イタリア出身で保守強硬派のテデスコ枢機卿の4人です。
ローレンスは、ウォズニアック大司教から前教皇が死去前にトランブレ枢機卿に辞任を要求したことを聞かされます。しかし、トランブレはこれを否定しました。
準備を進める中、突然メキシコ生まれのカブール大司教ベニテス枢機卿が現れました。前教皇から秘密裏に枢機卿に任命されていたため誰もその存在を知りませんでしたが、任命状があったことからローレンスはベニテスを正式な枢機卿として認めます。
審議のはじめに、ローレンスは常に疑念を抱くものが教会を導くべきだと即興で説教します。
システィーナ礼拝堂の閉ざされた扉の向こうで、いよいよコンクラーベが始まりました。
当選には三分の二の票を獲得する必要があり、1回目の投票では決まりませんでした。一位はアデイエミ、その後にテデスコ、トランブレが続きます。ローレンスが望むベリーニには票が集まらず、かつローレンスにも一部の票が流れていました。
ローレンスの補佐であるオマリー神父は、前教皇がベニテスのジュネーヴの病院で受ける診療費用を支払っていたという情報を掴みます。しかし、ベニテスは直前に診察をキャンセルしていました。
ベニテスは、ローレンスの説教に心動かされて彼に投票します。
映画『教皇選挙』の感想と評価

(C)2024 Conclave Distribution, LLC.
泥臭い人間ドラマとスリリングな展開
外部から遮断された中で行われる「コンクラーベ」の内幕を、素晴らしい映像でとびきりスリリングに描き出した傑作です。
数え切れないほど見どころがありますが、一番興味をそそられるのは「誰が教皇に選ばれるのか」という謎です。
「コンクラーベ」では、枢機卿らが隔離空間の中で三分の二の票数を獲得するまで何度も投票を行います。秘密のベールに包まれているため、新教皇となったレオ14世をはじめ、コンクラーベの流れを知るために鑑賞した枢機卿が何人もいたそうです。
何日にもわたって投票が行われますが、1回の投票を終える度にパワーバランスがめまぐるしく変わっていきます。枢機卿らが、女性関係や買収など、驚くほどに俗っぽい理由によって次々に失脚していくからです。神聖な空間、ベールの奥に隠されたコンクラーベをリアルに描きつつ、完全なるエンターテイメントを目指した作品といえるかもしれません。
最後の最後まで誰が選ばれるのかわからないまま、緊迫した展開が続きます。
「コンクラーベ」を執り仕切ることとなった主人公のローレンスは、どう舵取りするべきなのか苦悩し、追い込まれていきます。「まともな人間は教皇になどなりたがらない」と彼は言いますが、実は彼以外の人間は皆教皇を目指していました。名優レイフ・ファインズが初老の枢機卿に同化し、深い苦悩を丁寧に表現しています。
教会の権威を守ろうと奮闘するローレンス。その仕事こそが実はとても泥くさくどこか滑稽なものですが、着地点を見つけるために右往左往するさまに思わず共感せずにはいられません。
人間を泥臭く描写する一方、スクリーンには荘厳な美しさが映し出されます。精巧な美術、光の用い方など、細部に至るまで追求された本物の美に圧倒されることでしょう。赤いローブにさす白い傘のコントラストなど、思わず息を飲む印象的なショットも数多く登場します。
ジェンダーに鋭く切り込む一作

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ローレンスはコンクラーベに先立ち、「多様性」と「寛容」について説教しました。衝撃的なラストでは、この言葉がブーメランのようにローレンスを直撃し、彼は自分の言葉に真実があったかどうか試練を受けることとなります。
英語、ラテン語、スペイン語、イタリア語が飛び交う聖堂。南アメリカやアフリカもカトリックの大きな勢力で、当初優勢だったアデイエミ枢機卿はアフリカ系として描かれます。思えば、実際の前教皇フランシスコも南米アルゼンチン出身でした。まさに多様性の時代といえるでしょう。
しかし、その一方、「ジェンダー」についてはいまだ止まったままの世界です。本作はこの点に鋭く切り込む内容となっています。
本作でシスター・アグネスはトランブレを告発する際、「私達修道女は裏方の存在ですが、神は目と耳をくださった」と強い言葉を使います。その奥底には、女性だからというだけで要職につくことのない体制への怒りがフツフツと煮えたぎっているかのようです。この役をイザベラ・ロッセリーニが熱演しています。
そして衝撃のラスト。新教皇となったベニテスは両性具有といえる人物でした。盲腸の手術をきっかけに初めて自分に子宮と卵巣があることを知ったというベニテスを、前教皇は枢機卿として受け入れていました。
しかしそこには、「子宮を切除をするなら」という条件がついていました。それは果たして正しいやり方と言えるのでしょうか。
性別で差別することは許されないのは、現代社会では当たり前のことです。しかし、そうではない世界が世の中にはたくさんまだ残っています。
規則に合わせるために身体にメスを入れさせることなど、本来許されるはずがありません。しかしその一方で、現実的にはそうすることでしかベニテスを枢機卿として受け入れられなかったのも事実です。
ローレンスは女性を教皇にすることへの抵抗感と、ベニテスの素晴らしい人格を認める気持ちとの狭間で苦しみながらも、結果としてベニテスをそのまま受け入れます。しかしそれは、「口をつぐむ」という方法によってでした。
いつか現実に女性が教皇となる日がくるかもしれません。しかし、それはおそらく気の遠くなるほど未来の話になるのではないでしょうか。「伝統」を重んじる組織ほど時代から取り残されていく現実に胸が痛みます。
まとめ

(C)2024 Conclave Distribution, LLC.
スリリングなストーリーと芸術的な美しい映像で絶賛され、アカデミー賞8部門にノミネートされた傑作『教皇選挙』。実際のコンクラーベと重なったことで、神秘のベールの向こうを観ることのできる希有な作品としても話題を集めました。
正しき聖職者として崇められる教皇や枢機卿ですが、同じ人間であることに変わりなく、理想と欲望の狭間で日々闘っています。それは至極当たり前のことでしょう。
伝統を引き継ぐだけでは「組織」を維持できない時代となりました。その時流に逆らうかのような巨大組織・ローマカトリックが、今後どのような道を辿るのか興味をそそられる作品です。




































