ナチス・ホロコーストから1,100人以上のユダヤ人を救った実在の人物を描いた、スティーヴン・スピルバーグ監督感動の超大作!
第二次世界大戦下のナチスによるユダヤ人大量虐殺「ホロコースト」から1,100人以上のユダヤ人の命を救ったオスカー・シンドラー。
1993年(日本公開は1994年)の映画『シンドラーのリスト』は、シンドラーがいかにしてユダヤ人たちを救うことを決意し行動に至ったのかを描いた、実話に基づく作品です。
第66回アカデミー賞では作品賞・監督賞・脚色賞・撮影賞・編集賞・美術賞・作曲賞の7部門で受賞。スティーヴン・スピルバーグが初のアカデミー最優秀作品賞・監督賞受賞を果たした作品としても知られています。
自らもユダヤ系アメリカ人であるスピルバーグ監督が、10年近い構想期間を経て完成させた超大作『シンドラーのリスト』。世代を超えて人々の心を揺さぶる作品となっています。
映画『シンドラーのリスト』の作品情報
【公開】
1994年(アメリカ映画)
【原題】
Schindler’s List
【脚本】
スティーヴン・ザイリアン
【監督】
スティーヴン・スピルバーグ
【キャスト】
リーアム・ニーソン、ベン・キングスレー、レイフ・ファインズ、キャロライン・グッドオール、ジョナサン・サガール、エンベス・ディヴィッツ
【作品概要】
第二次世界大戦下、金儲けのために自らの軍需工場を経営し、労働力としてユダヤ人たちを雇っていたドイツ人実業家オスカー・シンドラー。しかしナチスによるユダヤ人の大量虐殺(ホロコースト)が進み恐ろしい現実を目の当たりにする中で、「ある決意」に至ります。
オスカー・シンドラーを演じるのは「96時間」シリーズで知られるリーアム・ニーソン。そしてシンドラーの下で働くユダヤ人の会計士イザック役を『ガンジー』(1982)『バグダッド・スキャンダル』(2018)のベン・キングズレーが熱演。またナチス将校のアーモン・ゲート少尉を『イングリッシュ・ペイシェント』(1997)「ハリー・ポッター」シリーズのレイフ・ファインズが演じています。
レイフ・ファインズは本作で全米映画批評家協会賞、ニューヨーク映画批評家協会賞でともに助演男優賞を受賞。監督は『E.T.』(1982)や「ジュラシック・パーク」シリーズで知られるスティーヴン・スピルバーグです。
映画『シンドラーのリスト』のあらすじとネタバレ
ユダヤ教の司祭「ラビ」が祈りを唱えながら、ともされる蝋燭。その蝋燭の芯が燃え尽きるとき、くゆる煙と共に時は遡ります。
1939年9月。ポーランドはドイツ軍の侵攻にあい、1万人以上のユダヤ人がポーランドの都市クラクフに集められていました。
駅舎での検閲では、「ソロモン」「ワイズマン」「ファーバー」「クライン」「シュタイナー」「ノイマン」と多くのユダヤ人たちの苗字が確認されながら、タイプライターによって打ち込まれリスト化されていきます。
その頃、コニャックを飲み、贅沢にも所有する数々のカフスやネクタイの中から好みのものを選び、ジャケットにはナチスの党員バッジを付ける男がいました。
男は、実業家として活躍するドイツ人オスカー・シンドラー。夜な夜な金にものをいわせてはドイツ人のナチス将校らにとり込み、夜の社交界では一目置かれる存在になっていました。
一方で集められたユダヤ人は、ドイツ政府の命により24人のユダヤ人によって「ユダヤ人評議会」を組成。ドイツ政府の意向に則ったユダヤ人の食糧の割り当てや労働の班分け、そして苦情などを受け付ける任務を担わされることになります。
ある日、シンドラーはユダヤ人評議会の場にイザック・シュターンを訪ねます。自分の事業の為に、有能な会計士であると噂のイザックをスカウトしに来たのです。
シンドラーは自身の事業として、琺瑯(ホーロー)製品工場の設立を計画。軍用はんごうなどの軍用商品の注文を軍から取り付けることで、戦時中に一儲けし財をなすことを考えていました。また自身は事業の広告宣伝を含むプロモーションを担うので、イザックを会計士として雇いたいこと、もし興味があれば工場の経営自体を任せても良いことを話します。
イザックは自身がユダヤ人であること、そしてユダヤ人は経営に関われないことをシンドラーに告げます。しかしシンドラーもまた工場を軍から買い取るお金が不足していること、そしてユダヤ人から投資資金を募りたいことをイザックに伝えます。
1941年3月。クラクフの全ユダヤ人はユダヤ人ゲットー(居住区)へ強制移動させられました。とあるユダヤ人富豪が退去した家に、シンドラーは移り込みます。
一方で、イザックは集められたユダヤ人の中から投資家になりえる人達をシンドラーに紹介します。そしてシンドラーは毎月の琺瑯製品と引き換えに、投資資金を募っていきました。
また、ポーランド人よりも給与水準の安いユダヤ人を雇うことに決めたシンドラーの指示に従い、イザックはゲットー内からシンドラーの琺瑯工場で働く人材の確保に奔走します。
そして、遂にシンドラーは「ドイツ琺瑯工場(DEF)」の設立にこぎつけます。
シンドラーは金に糸目をつけず、戦時中の闇取引から集めた贅沢品のギフトをドイツ人将校たちに贈ることで、軍用製品の発注を促すようアピールします。
対して「人生には3人(神父・名医・会計士)が必要」という父親からの言葉を用い、イザックに感謝を述べるシンドラー。有能な計理士であるイザックの存在があってこそ、工場が開設され稼働できたことに対する感謝でした。
あくる日、シンドラーが愛人と過ごしている自宅に、妻エミリーがやってきます。エミリーに工場で350人を雇っていることを自慢し、皆が自信の金儲けのために一丸となっていることを伝えるシンドラー。
そしてきっと将来誰もオスカー・シンドラーの名前を忘れないと、「オスカー・シンドラーは凄いことをした。誰にもできないことを」「無一文でやってきて、破産した工場を買い取り見事に再建した」「そして大きなトランク2個に世界中の財宝を詰めて去った」と話します。
ある日シンドラーは、工場でユダヤ人の機械工の一人と対面します。機械工は工場に雇ってもらったお礼をシンドラーに告げますが、その機械工は左手のない身体障害者であり、老人でした。
しかしナチスは工場の労働力よりも、公道の雪かきにユダヤ人の労働力をあてがいました。そして、ナチス親衛隊はそこにいた左手のない機械工を役に立たない存在だと銃殺。シンドラーはナチス将校に、殺された機械工が有能なプレス加工員であったと申し立て、ナチスに人材1名分の保障を問いただします。
また、イザックが強制収容所に連行されると聞きつけたシンドラーは、収容所行きの列車の発着場にかけつけ、イザックを救い出します。イザックは労働証明書の所持を忘れ、収容所送りにさせられるところだったのです。
多くの罪のないユダヤ人が所持品をすべて没収され、収容所に送られていきました。その所持品もまた同胞のユダヤ人によって貴金属・写真・絵画・衣服と分別されていたのです。
1942年の冬、寒空の下ゲットー内のユダヤ人は談笑していました。少なくともゲットー内は自由があると。
そこへナチス将校のアーモン・ゲート少尉が見学にやってきます。彼は建設中のプワシュフの強制収容所の所長に就任が決まっていました。
建設中の収容所敷地内、ゲート少尉は集めた女性ユダヤ人の中からメイドとして、ヘレン・ヒルシュを雇います。そのそばから、ゲート少尉は収容所の建設監督をする女性を射殺。目撃したヘレンは恐怖に立ちすくみますが、どうせいずれ死ぬのならと運命を受け入れ、メイドを粛々と務めることになります。
ゲート少尉が収容所開設に伴いナチス親衛隊に向かってスピーチする間、ゲットーの解体準備が始まっていました。多くの兵士と猟犬たちがゲットーに乗り込み、ゲットー内のユダヤ人たちの確保が始まります。
ゲットー内のユダヤ人が着の身着のままで追われていきます。財産の金銀ダイヤを隠し持つもの、床下に隠れ、下水道から逃げる人たち、ゲットー内を逃げまどう子供たち。
もはや、ゲットー外へ出られる許可証でもある労働証明書も意味をなしません。反抗する者、逃げる者は容赦なく射殺され、病院では医師が患者に毒薬を与え、ナチスに捕まる前に自死へと導いていきました。
広場に追い込まれたゲットー内のユダヤ人は男女に分けられます。断末魔のような叫び声と銃声が響く中、一人の赤いコートを着た女の子が縦横無尽にゲットー内を放浪していました。その光景を、愛人と連れ立って乗馬をしていたシンドラーは、丘の上から眺めていました。
その夜、ゲットー内ではナチスによる執拗なユダヤ人探しが行われていました。屋根裏や床下に隠れていた者たちは、軒並み発見され射殺されていきます。すべては、ゲート少尉の指示のもとに。
映画『シンドラーのリスト』の感想と評価
初めてこの映画を観た時の衝撃は、未だに忘れることができません。1994年の日本での初公開時には、体を何かが突き抜けたような感覚に見舞われ放心し、映画館で観終わった後、椅子から立ち上がれなかったことが昨日のことのように思い出されます。
それだけの衝撃を覚えるのは、本作品が史実に基づいて作られているからです。
本作品は、現代の時間軸を過去に遡って描かれる部分がモノクロとなっており、冒頭と最後以外は全てモノクロの映像で展開されています。
それは史実に基づく内容であることから、ナチスによるユダヤ人迫害という同じ人間が犯し得たとは理解しがたい描写をモノクロにすることで、観衆に受け入れやすいものとしている、かつ歴史的事実としての側面を強調しているように思います。
その分余計に、シンドラーによって救われた実際のユダヤ人やその子孫たちがカラー映像で登場するラストシーンは、この映画で描かれた内容が「現実」に起こった出来事に基づいているという再認識を否応なくさせられる展開となり、強烈なインパクトを残すものとなっているのです。
また、プワシュフ収容所ができたことでゲットー内のユダヤ人が追い立てられる場面では、モノクロの中でも象徴的に赤いコートを着た女の子だけがカラーで描かれています。
自身の工場に務めるユダヤ人たちがゲットー内で追い立てられ居場所を無くし、収容所送りになる。同じ「人間」であるはずのユダヤ人たちが理不尽に銃殺されていく様を丘の上から見ていたシンドラーの心情が変化し始める、きっかけとなる場面でもあります。
「人間」がいかに残虐かつ大量に「人間」を殺せるのかを目の当たりにしたシンドラー。赤いコートの女の子は、「過去」でも「空想」でもないシンドラーが見た「現実」を象徴していると思えてなりません。
アカデミー賞で作品賞・監督賞を含む7部門を受賞した本作は、「ホロコースト」を描いた映画を語る上で欠かすことのできない作品、また映画史上において重要な歴史映画の一つとなっています。
また音楽は、スピルバーグ監督の盟友ジョン・ウィリアムズが担当。切ない響きが胸に響く『シンドラーのリスト』のテーマ曲など、映画が観衆に訴え投げかける内容と共に耳に残り、深い余韻をもたらします。その結果ウィリアムズも、本作でアカデミー作曲賞を受賞しています。
まとめ
「一つの命を救う者が世界を救える」
終戦の日、オスカー・シンドラーがユダヤ人たちから受け取った指輪にあった刻印です。
その言葉通り、あの日・あの時シンドラーが救った1,100人以上のユダヤ人の子孫たちは、映画が制作された時点では6,000人以上になっていました。
一人が救えた命の大きさ。日本でも杉原千畝のようにリトアニアでユダヤ人を救いだした人物がいますが、人間の良心に沿って行われた人助けの様子を目にする時、その行いが美しく心に響くものであることが伝わります。
どんな状況であれ、人は人によって苦しめられることもあれば、その逆もまた然りで、人によって救われることがある。
戦時下という極限の状況下において人の善悪の面が分かれるときに、何をもって人としての良心を忘れないでいられるかは計り知れません。
シンドラーも当初は、自身の金儲けのためだけにユダヤ人を労働力として活用していましたが、ドイツ軍によってあまりに理不尽に罪のないユダヤ人が殺されてゆく様を見るにつけ、ユダヤ人を救う行動に出始めるのです。
そうして次第にシンドラーが、自分にできることや救いを願うユダヤ人らに期待されることに応えていく背景には、シンドラーのもとで働くユダヤ人であり会計士のイザック・シュターンとの民族や文化を超えた「人」と「人」との信頼関係が構築されていたことが挙げられます。
2021年現在、時代は「ダイバーシティ」が謳われ多様性を重んじる方向へ転換期を迎えています。同時に人種差別の根絶に対する人々の動きも加速しています。
過去を振り返り、人種差別がもたらした悲劇を知り、その中で人としての良心は何かということを問わずにはいられない作品です。今なおどこかで続く差別や虐殺について、今一度考えるきっかけとなることを願ってやみません。
また戦争という側面においても、世界平和の実現のため、過去から学びより良い明日へと世界を変えていくためにも、人間が犯した過ちを知り、そしてその中で人間が見せられる善意を知る作品として、誰しも人生で一度は観るに値する作品です。