連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第135回
2022年10月28日(金)にNetflixで配信された映画『西部戦線異状なし(2022)』。エドワード・ベルガーが監督を務めた、2022年製作の戦争ドラマ作品です。
ドイツの作家エリッヒ・マリア・レマルクが1929年に出版した長編小説であり、1930年・1979年に2度映画化された『西部戦線異状なし』(1929)を原作者の母国ドイツで新たに映画化しました。
第一次世界大戦下のドイツ。17歳のドイツ兵パウル・ボイマーは、祖国のために戦おうと意気揚々と西部戦線へ。しかし少年兵の高揚感と使命感は、やがて“新たな戦争”の凄惨な現実を前に打ち砕かれてしまいます。
本記事ではをネタバレ有りあらすじとともに、Netflix映画『西部戦線異状なし(2022)』をご紹介いたします。
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CONTENTS
映画『西部戦線異状なし(2022)』の作品情報
【配信】
2022年(ドイツ映画)
【原題】
Im Westen nichts Neues
【原作】
エリッヒ・マリア・レマルク『西部戦線異状なし』
【監督】
エドワード・ベルガー
【キャスト】
フェリックス・カメラー、アルブレヒト・シュッヘ、アーロン・ヒルマー、モリッツ・クラウス、エディン・ハサノヴィッチ、ティボール・ド・モンタレンベール、ダニエル・ブリュール、デーヴィト・シュトリーゾフ、アドリアン・グリューネヴァルト、アンドレアス・ドゥーラー、ヤコブ・シュミット、フリードリヒ・ベルガー、ミヒャエル・ヴィッテンボルン
【作品概要】
『ぼくらの家路』(2014)のエドワード・ベルガーが監督を務めた、アメリカ・ドイツ合作の戦争ドラマ作品。これまでに2度映画化されたエリッヒ・マリア・レマルクの長編小説『西部戦線異状なし』を、原作者の母国ドイツで新たに映画化した作品です。
本作は第95回アカデミー賞(2023)で作品賞ほか9部門にノミネートされ、国際長編映画賞・美術賞・撮影賞・作曲賞の4部門を受賞。さらに第80回ゴールデングローブ賞(2023)の最優秀非英語映画賞にもノミネートされました。
本作の主演であるフェリックス・カメラーは映画初出演。また『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)や『キングスマン ファースト・エージェント』(2021)などハリウッド大作でも活躍するドイツを代表する俳優ダニエル・ブリュールが出演するほか、製作総指揮にも名を連ねています。
映画『西部戦線異状なし(2022)』のあらすじとネタバレ
第一次大戦開戦から3年が経った1917年の春、ドイツ北部。17歳の青年パウル・ボイマーは祖国ドイツのために戦おうと、学友のアルベルト・クロップ、フランツ・ミュラー、ルートヴィヒ・ベームとドイツ帝国陸軍に志願入隊します。
パウルたちは学校職員の愛国心に満ちたスピーチを聞いた後、軍服を受け取りました。それが戦死した兵士から剥がされ、クリーニング・補修されたものとは知らずに………。
ドイツとイギリス・フランスをはじめとする連合国との戦いが続く「西部戦線」まで25キロの距離にある、フランス北部のラ・マルメゾン近郊に配属されたパウルたちは、自分たちが所属するドイツ陸軍第78予備歩兵連隊の先輩兵士スタニスラウス・カチンスキー(愛称:カット)と親しくなります。
しかし、西部戦線における塹壕戦の凄惨な現実はパウルたちのロマンに満ちた幻想を打ち砕き、ルートヴィヒは配属初日の夜、塹壕を襲った敵の砲撃で命を落としてしまいます。
1918年11月7日。ドイツの政治家マティアス・エルツベルガーはドイツ陸軍最高司令部を訪れ、ドイツ陸軍の参謀総長パウル・フォン・ヒンデンブルク元帥に連合国との休戦協議を開始するよう説得します。
一方パウルとカットは、占領地のフランス・シャンパーニュにある農場からガチョウを盗み、アルベルトとフランツ、そしてシャンパーニュ戦線の裏でともに戦ったドイツ陸軍第78予備歩兵連隊の先輩兵士チャーデン・スタックフリートにも分け与えました。
その日の夕方。文盲のカットはパウルに妻からの手紙を読んでもらう中で「いつか戦場から家に帰った時『敵兵を刺したのだ』と好奇の目で見られ、元通りの生活など送れないのでは」「それなら、5人で焚火を囲みながらガチョウを食べる今の生活の方がいいのでは」と心配します。
その日の夜中。フランス人女性と一夜を過ごしたフランツは、パウルたちに土産に持ち帰った彼女のスカーフを見せました。
11月8日の朝。パウルたち5人は、増援に来るはずだった行方不明の新兵60人の捜索任務へと出発。そして、ガスマスクを外すのが早すぎたために、敵の毒ガスにより全滅してしまった新兵たちの光景を目の当たりにします。
一方ドイツ陸軍のフリードリヒ将軍は、連合国との休戦交渉のため、、エルツベルガーとドイツの代表団をフランス・パリ郊外のコンピエーニュに送りました。
その日の夜。ドイツ軍のフォン・ブリクスドルフ少佐から「フランス軍の全師団がラティエール平原に集まる」との報告を受けたフリードリヒ将軍は、「私は降伏などせん。今こそ全力を持って突き進め」とフランス軍への攻撃を命じます。
その結果、パウルたちドイツ陸軍第78予備歩兵連隊は、フランス軍攻撃の最前線となるラティエール平原へと送られました。
映画『西部戦線異状なし(2022)』の感想と評価
凄惨な戦争の現実と、戦友を得たパウルたちの喜び
ドイツ陸軍に入隊した時には「祖国のために戦う」という使命感に輝いていたパウルたちの顔から、だんだんと笑顔が消えていく様を見るのはとてもつらく悲しいです。
凄惨な戦争の現実を知って自分たちのロマンが打ち砕かれただけでなく、パウルは目の前で学友たちや、戦場で出会った仲間たちがあっけなく死にゆく姿を目の当たりにしていきます。
配属初日に砲撃によって命を落としたルートヴィヒ、生きたまま火炎放射器の炎に燃やされていったアルベルト、体が不自由になった現実に耐えきれずに自死したチャーデル……彼らの死にゆく姿は、目を背けたくなるほど凄惨なものです。
そしてパウルとカットが、戦争が終結する直前で命を落としてしまったのは、「あと少しで生きて家族のもとに帰れたはずなのに」とやりきれない気持ちでいっぱいになります。
盗んだガチョウをフライドチキンにして和気あいあいと食したり、フランツが土産に持ち帰ったスカーフを皆で回したりして、つらく苦しい戦場の中で笑い合っていたパウルたち5人。
「熱き友情と強い絆で結ばれた彼らには生きていてほしかった」「戦争が終結した故郷で、笑顔で再会している彼らの姿が見たかった」と心底願うほど、登場人物に感情移入できるドラマが本作にはありました。
戦争終結に向けて動き出す2人
戦場で大勢のドイツ兵が死んでいることを知ったドイツの政治家エルツベルガーは、彼らの犠牲を失くすために戦争の裏で奮闘していました。
物語の後半、エルツベルガーが連合国最高司令官に直接休戦交渉を行う場面は、今後の戦争の行く末を決める大事なところなので彼らのやりとりは一瞬たりとも目が離せません。
しかしその休戦交渉に反対していたフリードリヒ将軍が、最後の最後でフランス軍への攻撃命令を下すという、たった一人のエゴと権力によって最前線の多くの兵士たちが虫けらのように死んでゆく光景には、権力が結局生み出すものは“無惨”でしかないことを思い知らされます。
まとめ
第一次世界大戦下のドイツとフランスを舞台に、理想と使命感に燃える若きドイツ兵たちが凄惨な戦争の現実を知り、なおも戦場で出会った戦友たちと生き残るために最善を尽くそうとする姿を描いた戦争ドラマ作品でした。
本作のエンドロール直前には「西部戦線は1914年10月の戦闘開始からほどなくして、塹壕戦で膠着。1918年11月の終戦まで、前線はほぼ動かなかった」「僅か数百メートルの陣地を得るため、300万人以上の兵士が死亡。第一次世界大戦では約1700万人が命を落とした」というテロップが流れます。
また本作では、原作小説にはない「休戦交渉」のストーリーという別視点から見つめた第一次世界大戦下のドイツも描かれます。そうすることで、休戦交渉が成功したにも関わらず最前線の兵士たちを襲った“無惨”はより観る者の記憶に焼き付けられるのです。
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