ノルウェーがホロコーストに加担していた衝撃の過去を描く
映画『ホロコーストの罪人』が、2021年8月27日(金)より新宿武蔵野館ほかで全国公開されます。
第2次世界大戦時、ノルウェーの警察や一般市民までがホロコーストに加担していたという事実をもとに、あるユダヤ人家族が直面する悲劇的運命。
あまりにも非情なノルウェー最大の罪を隠さず描き出した、本作の見どころをご紹介しましょう。
映画『ホロコーストの罪人』の作品情報
【日本公開】
2021年(ノルウェー映画)
【原題】
Den storste forbrytelsen(英題:Betrayed)
【監督】
エイリーク・スベンソン
【脚本】
ハラール・ローセンローブ=エーグ、ラーシュ・ギュドゥメスタッド
【製作】
マーティン・サンドランド、テレッセ・ボーフム、カトリン・グンデルセン
【編集】
クリスチアン・シーベンヘルツ、エリセ・ソルベルグ
【キャスト】
ヤーコブ・オフテブロ、シルエ・ストルスティン、ミカリス・コウトソグイアナキス、クリスティン・クヤトゥ・ソープ、シルエ・ストルスティン、ニコライ・クレーベ・ブロック、カール・マルティン・エッゲスボ、エイリフ・ハートウィグ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー
【作品概要】
第2次世界大戦時、ノルウェーの秘密国家警察がホロコーストに加担していた事実をもとに、あるユダヤ人家族が直面する悲劇と運命を描きます。
出演は『獣は月夜に夢を見る』(2014)、『ラスト・キング 王家の血を守りし勇者たち』(2016)のヤーコブ・オフテブロ、『ソフィーの世界』(1999)のシルエ・ストルスティン、「ミレニアム」シリーズ(2009~2010)のミカリス・コウトソグイアナキスら。
日本のアニメに憧れる少女を描いた『HARAJUKU』(2018)で高い評価を得たノルウェー出身のエイリーク・スベンソンが、監督を務めました。
映画『ホロコーストの罪人』のあらすじ
第2次世界大戦中のノルウェー。
父ベンツェルを家長とするユダヤ人一家のブラウデ家は、ボクサーの次男チャールズがアーリア人女性のラグンヒルと結婚し、長男イサク、長女ヘレーン、三男ハリーらも含めて幸せな空気に包まれていました。
しかし1940年4月、ナチスドイツがノルウェーに侵攻したことで状況は一変、チャールズたちユダヤ人男性はベルグ収容所に連行され、過酷な労働を強制されることに。
残されたチャールズの母サラやラグンヒルは、愛する家族の帰りを待ちながら、スウェーデンへ逃亡する準備もを進めます。
1942年11月、突然夜中に起こされたチャールズら囚人は、所長によって2つのグループに分けられます。それはベルグに残る者たちと、アウシュビッツ収容所へと移送される者たちでした……。
映画『ホロコーストの罪人』の感想と評価
本作『ホロコーストの罪人』は、1940年4月のナチスのノルウェー侵攻により家族を引き離されたブラウデ一家を記したマルテ・ミシュレのノンフィクション・ノベル「Den storste forbrytelsen(最大の罪)」を映画化したものです。
ナチスが定義していた人種のカテゴリーでは、ノルウェーは「優等な北方人種」の国として、占領地でありながらドイツの保護領とされていました。
そのため、19世紀に主にバルト地域からノルウェーに移住してきたユダヤ人も、占領当初は平穏な生活を送っていました。
しかし、次第に戦況が激しくなるにつれ、ノルウェーでも反ユダヤ主義政策が導入されることに。
ノルウェー屈指のボクサーだったチャールズ・ブラウデとその家族に起こる悲劇は、そのままノルウェーで暮らしていたすべてのユダヤ人に当てはまるものでした。
本作で描かれるのは、罪なきユダヤ人が迫害・殺害される悲劇に加担した者の中に、同じノルウェーで暮らしていた人間もいたという事実です。
ノルウェー人警察官によるユダヤ人の逮捕・拘束、ノルウェー人財務官吏によるユダヤ人の財産没収、収容所におけるノルウェー人監視員の暴行、そしてノルウェー国鉄職員やタクシー運転手によるユダヤ人のアウシュヴィッツ移送…要職者はおろか一般市民までもが、“史上最悪の罪”に関与していたのです。
こうした出来事は、長らく問題視されたり公になることがありませんでしたが、1980年代に入ってホロコーストから生還したユダヤ人が次々と証言し始めたことで、ナチスの戦争犯罪について再検証がされることとなりました。
本作監督で1983年生まれのエイリーク・スベンソンも、自身が生まれた地元の街近辺で起きたにもかかわらず、こうした出来事について無知だったとして、「自分がこの作品を映像化しないのであれば、映画そのものを作り続ける意味はないのではないかと思った」と、映画化した意義を語っています。
「虐殺はナチスの仕業だが、ノルウェーにおけるユダヤ人の強制連行は、ノルウェー人が行ったことである」
時のノルウェー首相イェンス・ストルテンベルグが、自国が第2次大戦中にユダヤ人の追放・虐殺に加担した事実を認め、初めて公式に謝罪したのは、終戦から67年後の2012年でした。
まとめ
本作は、ほかのナチ・ホロコースト作品で散見される直接的な残酷描写こそありませんが、心理的かつ精神的に、観る者の心を抉っていきます。
昨日まで親しかった隣人・友人から、突然遠ざけられたり蔑まれるようになってしまう……あまりにも理不尽な人間同士の迫害は、今なお世界各地に存在します。
自国の罪を「過ぎたこと」とせず真正面から提起・告発する――スベンソン監督の「映画そのものを作り続ける意味」を、ご自身の目で確認下さい。
映画『ホロコーストの罪人』は、2021年8月27日(金)より新宿武蔵野館ほかで全国公開。