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Entry 2019/04/01
Update

三野龍一映画『老人ファーム』あらすじと感想レビュー。空気を読みすぎる社会へ警鐘を鳴らす

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

三野ブラザーズが放つ自由と解放の映画『老人ファーム』

老人ホームで働く介護職員の和彦が、仕事に葛藤しながらも向き合う姿を通して、現代社会の問題点を浮き彫りにさせる映画『老人ファーム』

2019年4月13日から渋谷ユーロスペースにて、2週間限定で公開される、本作をご紹介します。

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映画『老人ファーム』の作品情報

【公開】
2019年4月13日(日本映画)

【原作】
MINO Bros.

【監督】
三野龍一

【脚本】
三野和比古

【キャスト】
半田周平、麻生瑛子、村上隆文、合田基樹、山田明奈、堤満美、亀岡園子、白畑真逸

【作品概要】
兄の三野龍一が監督、弟の三野和比古が脚本を担当する、兄弟による映画制作チーム「Mino Brothers」初の劇場公開作品。

本作は「カナザワ映画祭2018」にノミネートされ、観客賞を受賞した他、「TAMA NEW WAVE ある視点部門」、「日本芸術センター映像グランプリ審査員特別賞」、「新人監督映画祭」など多くの映画祭で高い評価を受けています。

2019年には、「踊る大捜査線シリーズ」の本広克之監督が、ディレクションを担当している「さぬき映画祭」に正式招待され話題になりました。

映画『老人ファーム』あらすじ

病気の母親を支える為に、実家へ戻ってきた和彦。

和彦は、老人ホームの介護職員として、新たな職業に就きますが、慣れない仕事に当初は戸惑います。

家に変えれば母の小言が待っており、和彦にとって心が休まる時間は、恋人の遥と過ごす時間だけでした。

ですが、母親は遥との交際を良く思っておらず、和彦は頭を悩まします。

老人ホームで共に働く同僚や、施設管理者である後藤のサポートを受け、仕事にも慣れてきた和彦ですが、次第に施設のやり方に疑問を持ち始めます。

また、施設内の老人の中で、唯一職員に反抗的な態度を取る、アイコの存在に触発され、和彦は独自に施設を「過ごしやすい環境」に変えていこうとします。

ですが、時に施設内のルールも破る行動を取る和彦を、後藤は良く思っていません。

和彦は後藤から「規則を破らないでもらえるか?こいつらは動物と同じだから」と忠告を受けます。

それでも自分のやり方を貫こうとする和彦ですが、アイコが突然施設内から姿を消してしまい…。

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必要以上に合わせすぎる社会への疑問

高齢者が入所する施設である「老人ホーム」と、家畜を飼育している場所「ファーム」を合わせた造語がタイトルとなっている映画『老人ファーム』。

ショッキングなタイトルではありますが、本作で描かれているのは、老人ホーム内の問題ではありません。

物語の主軸は、主人公の和彦が直面する施設内の内情、それに伴う葛藤を描き、「必要以上に合わせすぎる社会」に、疑問を投げかけているのです。

老人ホームの介護職員として働き始めた和彦が、最初に目にするのは、老人を幼児扱いする施設の内情です。

当初は施設のやり方に従っていた和彦ですが、アイコの存在に触発され、施設を変えていこうとします。

ですが、そこに立ちはだかるのが施設管理者の後藤。

規律と秩序を重視する後藤は、独自路線を貫こうとする和彦を良く思っていません。

おそらく一般社会において、正しいとされるのは後藤のような人間でしょう。

何事においても、リスクを背負って新たな事に挑戦するより、トラブルを起こさず、無難に物事を進める人物の方が、組織内では優秀とされます。

厄介なのは、無難な人間が正しいとされるあまり、その人物の考えや、やり方に従う事が正しいとされる風潮です。

本作の和彦のように、独自のやり方を貫き、最終的に失敗した場合、非難の的にされます。

「失敗したくない」という考えから、無難な方向を選びたがる人が増えている現状がありますが「本当にそれで良いのか?」と本作は疑問を投げかけています。

和彦を追い込む不条理な世界

前述したように『老人ファーム』で描かれているのは、老人ホームの問題ではなく、現代社会への問題提議です。

監督の三野龍一と、脚本の三野和比古の映画制作コンビ「Mino Brothers」は、問題定義を明確にする為、現実社会とは違う、もう1つの世界観を作り上げ、物語を展開させています。

『老人ファーム』内の舞台は現代で、登場人物も身近に感じるキャラクターばかりです。

ただ、映画内の世界は和彦を徹底的に追い詰めます。

個人的に連想したのが、1988年に第一弾が制作されて、以後シリーズ化された映画『バカヤロー!』シリーズです。

『バカヤロー!』シリーズは、ストレスの溜まった現代人が、上司や客、取引相手など、本来なら逆らうことが許されない相手に、最終的に怒りを爆発させる展開が特徴で、主人公にストレスを与える社会を、かなり拡張して描いています。

不条理としか言えない世界が広がっており、『バカヤロー!』が制作されて30年後に、『老人ファーム』が制作された事に、日本社会の本質が何も変わっていないと感じます。

『老人ファーム』でも、精神的に追い詰められた和彦が、ある行動を起こします。

秩序や規則の前に、潰れかけていた和彦が起こすクライマックスの行動は、究極の自己防衛に見えますが、人によっては身勝手に見えるかもしれません。

本作の和彦の行動は、我を通す事の究極とも言えます。

全員が同じような行動を取れば、明らかに社会は成立しません。

個を通せば公は成り立たないからです。

しかし社会の中で「どこまで自我を通せるか?」「自分はどのような行動を取れるか?」これを考え、自分の答えを見つけ出す事、自分の意見を持つ事の重要性が、本作からは伝わって来ます。

三野龍一監督は「僕にとって映画はシュミレーション」と語っており、インタビューで以下のように答えています。

日本で生きていると個人的な意見を求められることは少ないと思いますが、映画だからこそ自由に考えてほしいし、自分の意見に自信を持ってほしいと思います。

自分が和彦と同じ状況になった時「果たしてどうするか?」を考える事、それが本作の狙いでもあります。

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まとめ

兄の三野龍一監督が、社会の「常識」とされる事に対して、疑問を持っていた事から制作された本作。

何故、老人ホームの介護職をテーマに選んだのでしょうか?

三野兄弟が、映画の原案について話をした際に「自分たちが、一番できないであろう職業は何だろう」と話をした事がキッカケです。

三野兄弟が「一番遠い職業」と意識している、老人ホームの介護職。

これを現実ではなく、三野兄弟の目線を持って描き、最終的に老人ホームというルール自体を、破壊する事に主眼を置いた作品となりました。

「荒っぽい作品」という印象を受ける方もいるかもしれませんが、本作では老人と社会の関わり方に関する、新たな提案もされています。

それは、和彦が遥と交際している事を、あまり良く思っておらず、小言ばかりを聞かせる母親とのエピソードにあります。

目まぐるしく変化する社会で、その役目を終えたと思われる老人達。

しかし、社会がどんなに変化しても、人間の本質は変わりません。

長く生きてきた老人の経験に、若者は少しでも耳を貸すべきで、それこそが理想の社会のような気がします。

そんな事を感じるような、少し皮肉の利いたラストシーンとなっています。

観客に一切媚びる事無く、力強いメッセージが込められている本作は、観る人の社会や組織についての捉え方で、評価が真っ二つに分かれる作品です。

ですが、本作はさまざまな映画祭で評価されており、そのメッセージは決して独りよがりではありません。

『老人ファーム』に込められたメッセージと、問題定義を受け取り、社会における自身の在り方を、じっくり考えてみてはいかがでしょうか。

映画『老人ファーム』は、2019年4月13日から渋谷ユーロスペースにて、2週間限定で公開

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