いつまで続く?もう終わりなんだろ?
1970年代末のポストパンクの時代を描く英国青春ムービー
1979年のポストパンク時代の英国、マージーサイド。破滅的な若者たちの苛立ちと焦燥と暴力とを描く英国発青春ムービー。
完成から11年の歳月を経て公開された本作は、今まで描かれてこなかった英国フットボール発祥の文化“Football Casual”(カジュアルズ)の黎明期を描いています。
地元のギャング“パック”に憧れ、そこに拠り所を求めようとした青年と、ギャングの一員でありながら、芸術や人生について語り合う友人を求めていた青年の暴力とセクシャル、そしてロックンロールに満ち溢れた不安定で剥き出しの青春ムービーです。
映画『アウェイデイズ』の作品情報
【公開】
2020年(イギリス映画)
【原題】
Awaydays
【監督】
パット・ホールデン
【脚本】
ケビン・サンプソン
【製作】
デビッド・A・ヒューズ
【キャスト】
ニッキー・ベル、リーアム・ボイル、オリバー・リー、スティーブン・グレアム、ホリデイ・グレインジャー
【作品概要】
ケヴィン・サンプソンが1998年に上梓した同名小説をもとに、Joy Division、The Cure、Magazine、Echo & The Bunnymen、Ultravoxの音楽をバックに、溢れんばかりのエネルギーを持て余し、自らの拠り所を求め、もがき苦しむ若者たちの様子を描いた青春ムービー。
本作では今まで描かれてこなかったカジュアルズ(Casuals)の文化を描いています。イングランドでは毎週末にサッカースタジアムに通う労働者階級のファッション=“Football Casual”からきています。
リヴァプールのサポーターたちがチームに帯同してヨーロッパをまわりアディダスのスニーカーを手に入れ、それを履いてロンドンのチームとの試合に行き、そのファッションをみたロンドンのサポーターたちが取り入れた流れがあり、リヴァプールでは自分たちを“スカリーズ=Scallys”と呼び、“カジュアルズ”はロンドンでの呼称として広まりました。
映画『アウェイデイズ』のあらすじとネタバレ
母親を1年前になくした19歳のカーティ(ニッキー・ベル)はアート学校を途中でやめ、叔父の働く職場で下級公務員として働いています。家庭は中産階級で父親と高校生の妹(ホリデイ・グレインジャー)と住んでいます。
収入の全てはクラブ遊びや、レコード、サッカー鑑賞、ライブに費やしていますが、自分の中にくすぶる煮え切らない何かがあることを感じていました。
そして、その何かを発散させる拠り所を求め、悪名高いギャング集団である“パック”に憧れを抱いています。
“パック”はピーターストームにフレッドペリー、ロイスのジーンズ、そしてアディダスのスニーカーを履き、スタジアムで常に問題を起こしていました。
そんなカーティはある日、《Echo & The Bunnymen》のライブで、“パック”の一員であるエルヴィス(リアム・ボイル)と出会います。
エルヴィスは芸術、音楽、詩、そして死について語り合える友人を求めており、カーティとエルヴィスは意気投合します。
海をみて語り合い、一緒にベルリンに行こうというエルヴィス。そんなエルヴィスにカーティも同意します。
しかし、カーティは“パック”への憧れを抑えきれません。君のような上品な人が行く場所ではないと忠告するエルヴィスをよそに、カーティは遠征(=Awayday)に参加することになります。
“パック”は遠征(=Awayday)といって、サッカーの試合を見にスタジアムに行っては、他のギャングと喧嘩をし、問題を起こしていました。初めて喧嘩を体験したカーティは自身から漲る高揚感に酔いしれ、エルヴィスの警告にも耳をかさなくなっていきます。
映画『アウェイデイズ』感想と評価
ポストパンク、ニューデイズを象徴する音楽がどんよりした陰鬱なマージサイドの風景、爆発しそうな若者たちの鬱屈したエネルギー。暴力、酒、ロックンロール、ヘロイン…混沌とした世界で、自分の居場所を求める若者たち。
主人公カーティは中産階級に生まれ育ち、“パック”のような労働階級のギャングたちとは本来関わりのない暮らしをしていました。そんなカーティは暴力的な“パック”に憧れ、その刹那的な青春に酔いしれていきます。
一方で、エルヴィスは“パック”の仲間とでは語れない、芸術、音楽、詩、そして死について語り合える中産階級のカーティに憧れを抱き、惹かれていきます。
どちらも自身にないものに対する憧れを抱き、漠然とした焦燥感、痛々しく爆発しそうな感情を持て余しお互いを求めつつも傷つけあってしまう。
「いつ終わる?」「もう終わりなんだろう」と呟くエルヴィスの心情にはどこかでまだ諦めきれない気持ちもありながら、死への憧憬へと傾いていく危うさがあります。
それがエルヴィスの魅力を引き立てます。そして、暴力的で危険な世界に傾倒していくカーティスもまた、刹那的な危うさがあり、観客の胸に突き刺さります。
まとめ
陰鬱で爆発的な空気が突き刺さる、エモーショナルで痛々しい青春ムービー。
本国で公開された際には、『さらば青春の光』(1979年)、『トレインスポッティング』(1996年)、『コントロール』(2007年)、『スタンド・バイ・ミー』(1986年)などの要素を詰め込んだ、新たな青春ムービーと称されました。
また、今まで描かれてこなかった英国フットボール発祥の文化“Football Casual”(カジュアルズ)の黎明期を描いていることも注目を集め、足りなかったピースがこの映画によって埋まったと表現されていました。
1970年代末のポストパンクの時代を彩る音楽と共に、青春に思いを馳せ、そのヒリヒリした感情の爆発、刹那的な熱情をこの映画を通して感じてみてはどうでしょうか。
また、“パック”のユニフォームであるピーターストームにフレッドペリー、ロイスのジーンズ、そしてアディダスのスニーカーも非常に格好良く、この映画をみたら同じ格好がしたくなるかもしれません。
青春映画、そして1970年代末の英国ロックが好きな人必見の青春ムービーです。