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あちらにいる鬼|映画化原作小説のあらすじネタバレと感想評価。キャスト配役解説も【瀬戸内寂聴の実話を基に作家同士の不倫を描く】

  • Writer :
  • 星野しげみ

小説『あちらにいる鬼』が実写映画化され、2022年11月公開に!

井上荒野による小説『あちらにいる鬼』。モチーフとして存在するのは、作者の父である井上光晴と2021年11月に逝去した瀬戸内寂聴との不倫関係です。

その関係を黙認してきた井上の妻を交えての3人の繋がりを、井上光晴の実子である作者がアレンジした長編小説です。


(C)2022「あちらにいる鬼」製作委員会

この小説『あちらにいる鬼』を、『ノイズ』(2022)や『PとJK』(2017)などを手がけた廣木隆一監督が、実写映画化しました。

寺島しのぶ、豊川悦司、広末涼子といったベテラン勢の俳優を揃え、不思議な恋愛模様を描き出します。

映画は2022年11月公開予定です。映画公開に先駆けて、原作小説『あちらにいる鬼』をネタバレありでご紹介します。

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小説『あちらにいる鬼』の主な登場人物

【長内みはる/長内寂光】
主人公の小説家。夫と娘を残して婚家を出て恋人の元へ。後に白木と不倫関係になります。(モデルは2021年11月9日に逝去した小説家で尼僧でもあった瀬戸内寂聴)

【白木篤郎】
小説家。みはると徳島市内で行われた出版社主催の講演会前に知り合い、男女の仲になります。(モデルは作者の父であり小説家の井上光晴)

【白木笙子】
白木篤郎の妻。(モデルは井上光晴の妻であり、作者の母)

【白木海里】
篤郎と笙子の娘。(モデルは作者)

【真二】
みはると同棲している男性。みはるはこの男と付き合うために夫と子を棄てたと告白しています。

小説『あちらにいる鬼』のあらすじとネタバレ


井上荒野:『あちらにいる鬼』 (朝日文庫、2021年)

人気作家・長内みはるは恋多き女。人妻であるのに真二と恋仲になり、夫と娘を捨てて真二のもとへ行きました。しかし、小心な真二は責任を感じてみはるを捨てます。

みはるは東京でひとり生きることになりました。そして、小説を書き始めた頃、小野文三と知り合い、愛し合います。

小野と半同棲のような生活をして10年がたった頃、真二が再びみはるの前にあらわれ、みはるはまたしても彼を選んでしまったのです。

1966年春。同棲中の真二を東京に残して、みはるは徳島への講演旅行に行き、そこで、戦後派を代表する気鋭の作家・白木篤郎と出会いました。

みはるは書き上げた小説を白木に見せて校正したもらったりしているうちに、真二という相手がいながら、白木と男女の仲になりました。

白木には、美しい妻・笙子と5歳になる娘の海里がいます。おまけに笙子のお腹には2人めの子供が宿っていました。

笙子が白木と出会ったのは23歳のときで、27歳だった白木は笙子に猛アプローチ。

白木に押し切られるような形で笙子は、彼と一緒に住むことにしましたが、それが決まってからも、彼には別の女の存在がありました。

「別れましょう」と笙子が言っても、白木は「あの女とは何ともない」と言ってききません。

別れようとしても白木から離れられない笙子。笙子は、今は白木によって他の女たちは決して行かない場所に連れてこられたからだろうと、あきらめの境地でいます。

このように白木の浮気は昔からのものでした。笙子は白木とみはるの間柄を女の直感で悟ります。ですが、繰り返される情事に気づきながらも心を乱さず、平穏な夫婦生活を保っています。

一方のみはるにとっては、白木は肉体関係だけの存在ではありませんでした。

小説家としての「書くこと」による繋がりを深めることで、真二とも違うかけがえのない存在となっていったのです。みはるは、恋人の真二とは当然のように別れました。

1966年のクリスマス、笙子は白木の次女となる焔を出産します。それからしばらくは、白木はみはると笙子という2人の間を行き来していました。

彼の度を越した女性との交わりは止まることがありません。笙子は“白木の女”のなかでも、みはるに一番親近感を抱くようになりました。

しばらくして、白木夫妻は調布市内に30年ローンを組んで土地を買いました。念願であるはずの土地なのに、白木は何かふさぎ込んだ感じがします。

笙子は家を建てることを後悔しているではないかと思ったのですが、「長内みはるは出家を考えているらしいよ」という白木の呟きで、そんな考えも吹っ飛んでしまいました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『あちらにいる鬼』ネタバレ・結末の記載がございます。『あちらにいる鬼』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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1973年。みはるの剃髪式が厳かに行われました。髪を切りながらみはるは、婚家を出てから一度も会ったことのない娘と昨年再会をしたことを思い出していました。

28歳になった娘は元夫とその再婚者に大切に育てられ、立派な女性になっていました。

捨てた娘との会話はそんなにはずまず、ぎこちなく別れたのですが、みはるの剃髪を聞いたようで、半月ほど前に電話があったのです。

「出家決意は、わたしのせいですか」と聞く娘に、みはるは「あなたには何の関係もないわ」と言います。

家と娘を捨てたのは自分が望む人生を生きたかったから。出家もそうです。みはるが俗世を捨てるのは、悔恨からではなく、自分が生き抜くためだったのです。

剃髪式が終わったみはるに、長内寂光という出家名が与えられます。みはるはその足で、幼馴染みの別荘に行きました。

そこの場所を知っていた白木が彼女を待っていました。白木の妻の笙子が「行きなさい、行った方がいい」と言って、送り出したと聞き、みはるは驚きます。

白木は「あんたとうちの嫁さんはすごく仲良くなると思うよ。俺たちがこんな関係じゃなければ」と言います。

みはるは「ええ、そうでしょうね」としか答えられませんでした。

1989年。白木は身体の不調を覚えました。精密検査でガンが見つかり、医者からあと二週間くらいとお考えくださいと言われます。

必要な方に連絡をと言われ、身内には連絡しているので、笙子は長内寂光に連絡を取りました。長内寂光は飛んで来ました。

意識がない状態の白木でしたが、長内寂光は彼と再会。白木はその翌々日に息を引き取ります。

2014年。長内寂光は92歳になりました。京都の寺での仕事と小説家の二足の草鞋で精力的に生きています。

白木の墓は寂光が住職をつとめる岩手の天仙寺にあり、寂光がお経を唱えて供養をしました。

その後、白木の娘・海里は小説家となり、直木賞を受賞。素直に受賞を喜ぶ寂光は、海里の受賞祝賀会に出向き、笙子と再会します。

その時笙子が着ていた着物は昔寂光が白木に託したもので、「これ、長内さんがくださった着物」と喜んで見せる笙子と仲良く手を握り合います。

その後、笙子はすい臓がんを患いました。病床に伏せながら、白木が眠る天仙寺に自分も埋葬してもらいたいと思います。

同じ墓地内の一区画を寂光が買ったと知り、死んでからも彼女が白木の側にいるなら自分もそうしたいと思ったのです。

「さようなら」。白木のことだけを考えて、笙子はつぶやきました。

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小説『あちらにいる鬼』の感想と評価

著名な作家同士の不倫関係を基に、その娘が2人の女性の視点から彼女たちの長きにわたる関係と心の変化を深く掘り下げて描いた長編小説『あちらにいる鬼』

驚くべきは、作中の人気作家白木の女性関係でしょう。美しい妻・笙子をめとりながら、自分に近づく女性と次々と男女の仲になるのですから……。まさに、女にだらしないヤツです。

本作の主人公でもある長内みはるも、その手中に落ちた一人と言えます。けれどもみはるの場合は、白木を単なる浮気だけでなく、仕事を交えての良きパートナーという関係を築いていきました。

また、白木の妻笙子とみはるは似た者同士だから、そんなところに白木は魅かれたのかも知れません。

物語は、妻公認の愛人としてみはるの存在を認めながら進みます。修羅場のようなものはほとんどなく、白木から訣別できない2人の女性の心情が交互に描かれています

作者は、小説のモデルである井上光晴の娘の井上荒野。彼女が小説を執筆する際には、浮気相手である瀬戸内寂聴は協力を惜しまなかったそうです。

小説刊行の際の瀬戸内寂聴のコメント

「モデルに書かれた私が読み傑作だと、感動した名作!! 作者の父井上光晴と、私の不倫が始まった時、作者は五歳だった。五歳の娘が将来小説家になることを信じて疑わなかった亡き父の魂は、この小説の誕生を誰よりも深い喜びを持って迎えたことだろう。作者の母も父に劣らない文学的才能の持主だった。作者の未来は、いっそうの輝きにみちている。百も千もおめでとう。」

あくまで小説家目線で自身の想いを述べ、作者を応援する瀬戸内寂聴。そして瀬戸内寂聴の話を素直に受け入れて作品を仕上げた作者。

2人の交流もまた美しく、このエピソードも小説の完成に華を添えました。

本作が不倫関係をモチーフにしているわりには、あっさりと明るいイメージを持つのは、作者の筆力はもちろんのこと、この三角関係が、どこまでが事実でどこまでがフィクションなのかわからないという、不思議感漂う大人のものだからなのに違いありません。

しかし実際には、人の道に外れた恋愛には違いなく、業を背負ったみはるは出家という手段を選びました。果たして‟人の心に巣くう鬼”は退治できたのでしょうか。

今はこの世になく、鬼籍に入ってしまった登場人物たちに聞いてみたい思いが募ります

映画『あちらにいる鬼』の見どころ

男女の三角関係を描いた小説『あちらにいる鬼』を、『ノイズ』(2022)や『PとJK』(2017)などを手がけた廣木隆一監督が、実写映画化しました。

瀬戸内寂聴をモデルにした人気作家・長内みはるを演じるのは、寺島しのぶ。井上光晴をモデルとした作家・白木篤郎は、豊川悦司が演じます。

寺島しのぶと豊川悦司は、廣木監督・荒井脚本の『やわらかい生活』(2006)で初共演を果たし、以降『愛の流刑地』(2007)、『劇場版 アーヤと魔女』(2021)などで何度も共演しています。

ベテランの2人のことです。切りたくても断ち切れないもどかしい大人の恋愛を、息のあった演技で披露してくれるでしょう

また、篤郎の妻・笙子は広末涼子が演じます。夫・白木を捨てきれずにしがみつくように生きている笙子ですが、最大の敵ともいえるみはるに、友情すら感じるという複雑な役どころです。

思慮深い大人の女性ともいえる笙子に扮する広末涼子の演技にも注目です。

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映画『あちらにいる鬼』の作品情報

【公開】
2022年(日本映画)

【原作】
井上荒野:『あちらにいる鬼』 (朝日文庫)

【監督】
廣木隆一

【脚本】
荒井晴彦

【キャスト】
寺島しのぶ、豊川悦司、広末涼子

まとめ

映画化に先駆けて、小説『あちらにいる鬼』をネタバレありでご紹介しました。

自分の両親と愛人関係にあった女性との複雑な繋がりをモデルにして、ある意味コミカルな人間模様を展開する井上荒野の長編小説『あちらにいる鬼』

不倫関係の男女とその妻の話となると、血みどろの醜い三角関係が思い浮かびますが、この小説では、さらりとシンプルな感情でまとめた不思議な関係が描かれています。

「あちら」とはどこか。「鬼」とは何をさすのか

人それぞれに思うところはあるはずですので、作品をご覧になって、じっくりと考えてみるのも良いでしょう。

映画『あちらにいる鬼』は、2022年11月全国公開!

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