イラク戦争伝説の米スナイパーの半生
『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)『許されざる者』(1992)の巨匠クリント・イーストウッド監督作品『アメリカン・スナイパー』。
イラク戦争で最強の狙撃手といわれたクリス・カイルのベストセラー自伝を映画化した戦争映画です。戦争により心に傷を負ったクリスの苦しみを映し出します。
「ハング・オーバー」シリーズのブラッドリー・クーパーが主演とプロデューサーを務めます。
伝説のスナイパー、クリス・カイルの半生を描く衝撃作です。人間の心の脆さ、戦争の恐ろしさを正面から描く本作の魅力をご紹介します。
映画『アメリカン・スナイパー』の作品情報

(C)2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
【公開】
2015年(アメリカ映画)
【原作】
クリス・カイル、スコット・マクイーウェン、ジム・デフェリス
【監督】
クリント・イーストウッド
【脚本】
ジェイソン・ホール
【編集】
ジョエル・コックス、ゲイリー・D・ローチ
【キャスト】
ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー、ルーク・グライムス、ジェイク・マクドーマン、ケヴィン・ラーチ、コリー・ハードリクト、ナボド・ネガーバン、キーア・オドネル
【作品概要】
『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)『許されざる者』(1992)の巨匠クリント・イーストウッド監督による大ヒット戦争映画。
ネイビー・シールズの狙撃手クリス・カイルのベストセラー自伝を原作に、戦争が人に残す深い爪痕を映し出します。
主演・プロデュースを、イーストウッド監督と初タッグとなる「ハング・オーバー」シリーズ、『アメリカン・ハッスル』(2013)のブラッドリー・クーパーが務めます。
共演はシエナ・ミラー、ルーク・グライムス、ジェイク・マクドーマン。
映画『アメリカン・スナイパー』のあらすじとネタバレ

(C)2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
テキサス出身の米海軍特殊部隊ネイビー・シールズの隊員クリス・カイルは、訓練期間中に出会ったタヤと結婚して幸せな生活を送っていました。
同時多発テロを機に戦争が始まり、イラクに遠征したクリスはその狙撃の腕前で多くの仲間を救い、「レジェンド」の異名をとります。
同時に存在を敵にも広く知られることとなったことから、クリスの首には懸賞金がかけられ、命を狙われるようになりました。
数多くの敵兵の命を奪いながらも、家族を愛し、良き夫であり良き父でありたいと願うクリスは、そのジレンマに苦しみながら、2003年から09年の間に4度にわたるイラク遠征を経験します。
映画『アメリカン・スナイパー』の感想と評価

(C)2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
戦争が残す深い爪痕
イラク戦争に従事した実在の狙撃手を主人公に描く、名匠クリント・イーストウッド監督による戦争映画の傑作です。
イーストウッド監督はイラク戦争に反対の立場をとっていましたが、本作は中立の視線で描かれています。事実を淡々と描き出すからこその凄味を感じられることでしょう。
主人公のクリス・カイルは戦地で160人を射殺した凄腕のスナイパーでした。
平時ならば「殺人鬼」と呼ばれるところを、彼は「レジェンド」として崇められます。そこが戦争の恐ろしいところです。
クリスが最初に射殺したのは、爆弾を抱えて走らされる幼い少年でした。その次は、息子に爆弾を持たせた母親でした。
そんなにも多くの人々の命を奪った男が、果たして人間で居続けることは可能なのか。本作のテーマはそこにあります。
クリスの妻は最初から夫の心を心配していました。彼女にだけは、クリスの心はいつか壊れてしまうことがわかっていたからです。クリス自身も気づいていたはずですが、彼は現実から目を背けたまま4回もイラクに遠征します。
4回目のイラク遠征で本当の恐怖に直面したクリスは、戦火の中で妻に電話をかけて軍を辞めて家に帰ると伝えます。
しかし、生きながらえて帰国したクリスは、まっすぐ自宅に戻れませんでした。
死んでいった大勢の仲間の姿、自身が味わった極限の恐怖、そして、自分が奪った人々の命の重さに押しつぶされそうになっていたからでしょう。
彼を現実世界へと導いたのは妻のタヤでした。必死に夫を現実に呼び戻そうとする妻の献身と、同じく戦場で心と体に傷を負った傷痍軍人を助ける活動によって、クリスは人間性を取り戻していきます。
クリスの心が回復したと思われた中、彼は思わぬ形で命を落としました。同じくPTSDに苦しむ元兵士の凶弾に倒れたのです。戦争の爪痕が残した負の連鎖から逃れることは叶いませんでした。
実話のクリス・カイルの最期とは

(C)2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
妻タヤが最初から心配していた通り、4度のイラク遠征を経験したクリス・カイルは帰国後もPTSDに苦しみます。
そんなクリスは、傷痍軍人らを助ける活動をするようになり、彼自身もその活動により心を救われ次第に人間らしさを取り戻していきました。
しかし、退役軍人の社会復帰プログラムで射撃訓練場に出向いたクリスは、支援していた元兵士に射殺されます。
実際のクリスの追悼式の様子がエンドロールで流れますが、本編の中では詳細は明かされません。家族とやっと温かな時間を過ごせるようになったクリスの悲劇が、観る者の心をしめつけます。
支援していた相手に殺されるという衝撃のラストですが、これは完全な事実です。実在のクリスはどのように亡くなったのでしょうか。
クリスを射殺したのは、PTSDに苦しんで薬物と酒に頼り、自殺未遂を繰り返していた元軍人のルースでした。息子を心配した母親が、伝説のスナイパー・クリスが支援活動をしていることを知って頼ったのが発端です。
ルースは射撃場で至近距離からクリスとその友人の2人を射殺し、責任能力を認められて終身刑を言い渡されました。
不条理を突きつけられるエンディングですが、これが実話であることから私たちは決して目を背けてはなりません。
やっと心の安らぎを得たクリスが、支援していた相手になぜ殺されねばならなかったのか。
もともとクリスは愛情深いごく普通の人間でしたが、その一方で、自身の信じる正義のためなら大勢の人を冷静に撃ち殺す非情さがありました。
心を病み、精神が繊細で敏感だったルースは、クリスのその恐ろしい一面を感じ取ったのではないでしょうか。そして、反射的にクリスを恐れ、自分を守るために銃を乱射してしまったと思えてならないのです。
クリスが殺した160人以上の人々の存在は、目には見えずとも彼の中から消えることはありません。
あまりにも悲しい最期ではありますが、クリスだけはこの結果に納得していたのではないでしょうか。戦争の罪深さを改めて突きつけられます。
まとめ

(C)2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
戦争の残酷さを俯瞰するクリント・イーストウッド監督の視線にうならされる傑作『アメリカン・スナイパー』。
人の命がいとも簡単に消されていく戦場で、兵士たちが人間らしい心を持ち続けることがいかに困難であるかをまざまざと見せつけられます。
何人もの人間を射殺してきたクリスが、銃を構えながら心の中で、標的である子供に向かって武器を捨てるよう必死に訴えかけるシーンは印象的です。クリスは2人の幼い子供を持つ平凡な父親であり、決して人殺しがしたいわけではありません。
なのに、年端もいかない子供相手に銃を向けなければならない。こんな不条理がまかり通るのが戦場だと、本作は強く訴えかけます。


































