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Entry 2017/04/19
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牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件あらすじネタバレと感想!ラスト結末も

  • Writer :
  • ちょり

台湾の名匠エドワード・ヤンの代表作にして映画史上に残る傑作『牯嶺街少年殺人事件』をご紹介します。日本では92年に劇場公開され、ソフト化もされましたが、その後、複雑な権利関係のため、長らく劇場公開もソフトの再販もなく幻の名作となっていました。

このたび、マーティン・スコセッシが設立したフィルム・ファウンデーションのワールド・シネマ・プロジェクトと米クライテリオン社との共同で、オリジナルネガより4Kレストア・デジタルリマスター版が制作され、劇場公開される運びとなりました。

以下、あらすじやネタバレが含まれる記事となりますので、まずは『牯嶺街少年殺人事件』映画作品情報をどうぞ!

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映画『牯嶺街少年殺人事件』作品情報

【公開】
日本初公開 1992年, 4kレストア・デジタルリマスター版公開 2017年(台湾映画)

【原題】
牯嶺街少年殺人事件(英語タイトル:Brighter Summer Day)

【監督】
エドワード・ヤン

【キャスト】
チャン・チェン、リサ・ヤン、ワン・チーザン、クー・ユール、タン・チーガン、ジョウ・ホェイクオ、リン・ホンミン、チャン・ホンユー、タン・シャオツイ、ヤン・シュンチン、チャン・クォチュー、エレイン・チン、ワン・ジュエン、チャン・ハン、ジャン・シウチョン、シュー・ミンヤン

【作品概要】
1960年代初頭の台北が舞台。夜間中学に通う小四は、「小公園」という不良グループに属する王茂や飛機らといつもつるんでいた。小四はある日、小明という女子学生と知り合う。彼女は小公園のリーダー、ハニーの彼女だった。当時、実際に起こった少年殺人事件を元に、大人たちが醸し出す時代の不安感を肌で感じながら生きる少年、少女の姿が描かれている。本作には3時間版と4時間版が存在するが、今回デジタル化されたのは4時間版。

映画『牯嶺街少年殺人事件』あらすじとネタバレ

建国中学夜間部

1959年夏。
小四(シャオスー)は、建国中学昼間部の試験に落第し、父は何かの間違いではないかと入試委員会を訪れていました。委員会は調査させますと回答しますが、結局、小四は夜間部に通うことになります。

小四の両親は上海から渡ってきた外省人で、父は公務員。母は元教師です。小四には兄が一人と、姉が二人、そして幼い妹がいます。彼らは、日本統治下時代に作られた日本家屋で生活しています。

父と小四は学校からの帰りに近所の食堂兼雑貨屋に寄り、かき氷を注文しました。ラジオからは大学合格者の名前が粛々と読み上げられるのが聴こえてくるのでした。

1960年9月
最近、学校の直ぐ側に映画のスタジオができ、小四は、クラスメイトの王茂(ワンマオ)とこっそり忍び込んで階上のキャットウオークで、撮影を眺めていました。

主演女優が映画監督に衣装の色のことで文句を言い、監督は「なんで色を気にするんだ。これは白黒映画だぞ!」と怒鳴っています。

その際、王茂が、読んでいた本を落とし、警備員に見つかってしまいました。小四だけがつかまりますが、王茂がガラスに石を投げ、警備員がそちらに気を取られている間に、小四は逃げ出します。が、すぐに戻ってきて警備員の懐中電灯を盗むのでした。

大陸反抗を謳う国民党の厳しい思想統制下、時代の複雑な社会階層を反映するかのように、少年たちも「小公園」、「217」というグループにわかれ、闘争を繰り広げていました。

小公園に属している王茂や飛機(フェイジー)らのところへ、滑頭(ホアトウ)が小学校で因縁をつけられたと仲間が走ってきます。懐中電灯を貸してくれと言われ、小四も現場について行きました。

2つのグループがぶつかっている時、小四が教室の電灯をつけると、制服姿の女の子が一人、後ろのドアから出ていくのが見えました。

滑頭のところに、逃げ遅れた敵グループの少年が連れてこられます。自分は関係ない、ついてきただけだと必死に懇願する少年。滑頭は、仲間にレンガで殴りつけるよう命じますが、皆実行できません。

滑頭は自らレンガを少年の顔に振り落とすと「お前らのボスに伝えろ。二度と小公園に遊びに来るな」と言い放ちました。

その日、遅く帰った小四が、家の電気をつけたり、消したりしていると母に何をしているのかと問われます。目の調子が悪いんだと応える小四。

学校では集会が行われていました。卒業生であるらしい若い医師が、学校への恩返しに、医務室の診察をボランティアで勤めると話し、拍手を受けていました。

続いて、生徒がバットで教師を殴った事件があったことから、学校に持ち込むバットはすべて許可制をとり、そうでないバットは没収するとの業務連絡がありました。

集会の終わりに「86089」の生徒が呼び出されます。それは小四の番号でした。映画のスタジオで捕まったときに、番号を覚えられていたのです。

スタジオの管理人が学校に抗議にきており、懐中電灯を盗んだか問われますが、小四は否定します。

休み時間、滑頭が小四のところにやってきて、俺が小学校で女といたと、でたらめを言いふらしているだろうと詰め寄ります。

小四は近くにあったバットを取り、一触即発の状態になりますが、教師がやってきて、その場はおさまりました。

しかし、教師はバットを没収。俺のバットなのに、という飛機に、「返すよ」と応える小四でしたが、「70元もするんだぞ」と飛機は半泣きです。小四は兄の老ニ(ラオアー)に70元を借りるのでした。

体育館ではバスケット部の小虎(シャオフー)が女子生徒とバスケに戯れている光景がみられました。

小明(シャオミン)との出逢い

小四は、目の治療のために、学校で定期的に注射をうってもらっていました(※当時はそのような治療だったようです)。隣の部屋では膝を怪我した女子生徒が、医師の治療を受けていました。

教室まで付き添うようにと言われた小四。女子生徒は小明(シャオミン)といい、それが二人の出逢いでした。

二人は、教室に戻らず、スタジオに忍び込みます。監督と主演女優がまたもやもめています。どうやら女優はスポンサーのゴリ押しでキャスティングされたらしく、監督はそれが気に入らないようでした。

スタジオを出ていこうとした小明に気付いた監督は、彼女に映画に出ないかと声をかけ、オーディションに来るように誘います。

小明は小公園のボス、ハニーの恋人でした。ハニーは217のリーダーと小明を奪い合い、挙句に殺人を犯して台南に逃げていました。

軍の演習場にやってきた小四と小明は、小公園のメンバーにめざとくみつけられ、ちょっかいを出されますが、小明は少年の急所を蹴り上げて、撃退します。

「送るよ」と小明に声をかける小四でしたが、小明は方向が違う、バスに乗るとなにやら不機嫌そうに帰っていきました。

その頃、老ニは、217の溜まり場のビリヤード場にいました。小四に貸した金は母の大切な腕時計を質に入れたもので、取り返すために勝負しにやってきたのですが、コテンパンにやられてしまいます(※最終的に長女によって返済されます)。

滑頭は、小翠(シャオツイ)という少女を連れてご満悦です。小翆が小四に「私のことを言いふらしているでしょう」と話しかけてきます。小四は小学校に行った時、教室に女子生徒がいたと言っただけなのですが、「君だったの?」と聞くと、小翆は「そうよ」と応えるのでした。

王茂は、時々、飲食店でバンド演奏のボーカルを担当していました。彼はプレスリーに憧れを抱いている音楽少年なのです。時々、小四の家を訪ねては、洋楽の歌詞の聞き取りを、小四の上の姉、張娟(チャンジュエン)に頼んでいました。

王茂は小四の家のラジオを分解して聞きやすくしようとしますが、却って悪くなったようです。聴けなくなったラジオをそれでも父は大切にしていました。友人が選んでくれたものだからです。

そんなある日、小四たちのクラスに転校生がやってきました。小馬(シャオマー)という少年で、司令官の息子だといいます。

「あいつ、板橋中学で人を切ったらしいぜ」と王茂が小四にしゃべっていると、教師が王茂を前に出し、彼の名前の「茂」という文字を黒板に100回書くようにと命じました。

「シー」という抗議の声を小馬が上げますが、教師は小四を立たせて「誰が声を出したのかいいなさい」と詰め寄ります。黙って応えない小四を立たせたまま教師は授業を再開させます。

放課後、小明が小四のところにやって来ました。「オーディションの通知が来たの。来ない?」という小明。その横を小馬が通り過ぎていきます。

小明が帰宅すると、母が喘息でひどく苦しんでいました。母は住み込みで家政婦をしており、小明も一緒に住んでいるのです。奥様にあわてて知らせに行き、病院へ運びました。

このことをきっかけに、小明と母親は、屋敷にいられなくなり、叔父の家に転がり込みますが、そこでも露骨に嫌がられてしまいます。母は小明に、早く大人になってね、お前だけが頼りなんだからと言うのでした。

小明はオーディションを受けに行きました。カメラテストは好評で、今度は衣装をつけてみようと監督に言われ、時代ものの衣装をつけていると、スポンサーが現れます。主演女優に関するいさかいはまだ続いているのでした。

その頃、小四は滑頭と一緒に職員室に呼ばれていました。二人の答案がまったく同じという理由からです。小四は滑頭が勝手に見たのだと主張しますが、間違いかたもまったく一緒だと教師たちはかんかんです。

小四は、わざと間違えたのだ、自分は悪くないと訴えますが、教師は耳を貸そうとしないどころか、小四の態度が悪いと怒鳴りつけるばかり。

事情を聞いて怒った父が教師を訪ねて学校へやって来ました。滑頭は退学なのだから、小四の減点は妥当だと主張して聞かない教師の態度に、父は、滑頭は別の素行の問題がからんでいるからだ、信用して預けているのだからちゃんとした教育をするようにと訴えます。

それでも尚、小四を責める教師に父は激怒し、そのせいでかえってたくさん減点されることになってしまいました。

自転車をおしながら並んで歩く父と息子。ついカッとなってしまったと反省する父に、父さんのほうが正しいと応える息子。「間違ってないのに謝るなんて卑屈だ」と父は言い、「自分の未来を信じろ。努力すれば未来が開けるんだ」と語るのでした。

抗争

ビリヤード場に出入りしている葉っぱは、コンサートの興行の斡旋をしている優男です。現在の217のリーダー山東(ジャンドン)は、彼に滑頭と俺を会わせろと命じます。本来なら敵同士の二人。山東には魂胆がありました。

滑頭と山東は映画館で会い、山東はコンサートで組まないかと話を持ちかけます。会場にしたい中山堂を管理しているのが滑頭の父親なのです。

「仲間を裏切れと?」と最初は抵抗していた滑頭ですが、彼には野心がありました。逃亡中のハニーに変わって、自分がリーダーになりたいと常々思っていたのです。彼は山東と手を組むことにしました。

教室にいた小虎が、あわてて逃げ出しました。すぐあとに小虎を探しにやってきたのは、軍の演習場で小四にちょっかいをかけてきた少年たちでした。小四は小虎に間違われ、連れ出されますが、小馬に助けられます。

これを機に、小四と小馬は仲良くなり、小馬の家に出入りするようになりました。小馬は日本刀を持っており、それを皆に見せびらかします。屋根裏に隠されていたその刀は、かつて日本の陸軍少尉が持っていたもののようです。

ある日、突然、ハニーが姿を現しました。滑頭は、217とのトラブルはあんた個人の問題だとハニーに言い放ち、今和解の話があると報告します。それは明らかな造反でした。

ハニーは小明が小四といるところを見ていました。「小明はお前のことが好きだ。ひと目でわかった」というハニーに、小四は「小明はあなたをずっと待っていた」と言います。

中山堂でのコンサートは大勢の観客で賑わっていました。そこへハニーが単身で現れました。いきり立つ217の面々をなだめながら、紳士的な態度をとっているかに見えた山東でしたが、彼はハニーを車の前に突き飛ばし、殺してしまいます。

学校で小明を見かけた小四は彼女のあとを追い、「僕がいる。僕は一生離れない。君を守ってあげる」と叫びますが、小明はすげなく立ち去ってしまいます。

小四は小馬にダブルデートに誘われます。コンサートの時に小馬は小翆に目をつけ、二人は良い仲になっていました。小四はもう一人の初対面の少女をあてがわれますが、遊び感覚で女と付き合う小馬のような気分にはなれません。

台風の夜、激しい雨風の中、カッパ姿で人力車をひく男たちの姿がありました。ハニーと懇意だった本省人のヤクザものが、仇をとるため217の面々を襲いに来たのです。

それは当初の思惑を超えた凄惨なものとなりました。いきがってついてきた学生たちは身を竦めます。

山東も刀で切られ凄絶な最期を遂げます。その現場にやってきた小四は山東の死体を見て立ち尽くします。山東の傍らには泣き叫ぶ彼の恋人の姿がありました。

小公園の食堂でカード遊びをしていた滑頭たちも襲撃されましたが、かろうじて命は落とさずにすんだのでした。

受難

その日、家では、父が公安から呼び出され、尋問を受けていました。父は何日も拘留され、大切な友人たちを告発する文章を何度も書かされます。

帰宅を許されたものの、尊厳を奪われ、心身ともに疲れ果てた父は、妻に「僕には君と子どもしか残っていない」と吐露し、妻は泣きながら夫を抱きしめるのでした。

姉と老ニが書き起こしたプレスリーの歌詞に王茂は大喜びし、早速テープに自分の歌を吹き込みます。誰かにテープを送るつもりのようです。

小明の母は、入院し、丁寧な治療を受けていました。担当医は、中学の医務室でボランティアをしているあの医師でした。

小明は、医師が婚約をしたことを知り、「私は多くの男性に告白されるけれど何か問題があったら皆逃げていく」と呟きます。

いつものように医務室にやってきた小四は教官に乱暴な口をきいたと激しく叱咤され、職員室に連れて行かれます。彼の言い分も聞こうとせず、一方的に責め立てる教師についに小明は我慢できなくなり、バットで照明を叩き割ってしまいます。

父親が、減点の免除を願い出ますが、学校は態度を変えません。自転車を押しながら並んで歩く親子。小明は「いい機会だ。夜間部をやめて昼間部に転入する」と決意を語ります。
そして父親が以前言った言葉通り、努力して未来を切り開くのだと力強く宣言するのでした。

煙草に火をつけようとした父は、ふと顔をあげ、自分が煙草を我慢すればその分の金で、お前の眼鏡を月賦で買うことが出来ると呟きます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『牯嶺街少年殺人事件』ネタバレ・結末の記載がございます。『牯嶺街少年殺人事件』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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小馬のところに、小四や王茂、飛機そして小明が遊びに来ていました。小明はピストルを振り回して、小四の方に向け、二人は互いにふざけあっていましたが、小明が引き金をひくと銃声が響き、二人は呆然として立ち尽くします。

幸い、小四に怪我はありませんでしたが、音を聞きつけた小馬が来て、小明の頬をぶちました。

信心深い二番目の姉、張瓊(チャンチョン)の紹介で、教会の図書館で小四は勉強に励みます。小明も彼の勉強を応援してくれていました。二人の関係はうまくいっているようにみえました。

ある日、小四は滑頭と偶然再会します。彼はすっかり真人間になっていました。小四は彼から小馬が小明と付き合い始めたことを知らされます。

小馬を訪ねて真相を問いただす小四。小馬は適当にものを与えたらあとは遊ぶだけだ、女なんて、と嘯きます。小明の母親が退院し、小馬のところに住み込むことになったようなのです。小四は立ち去ります。

小四は兄にお金あるかと聞きますが、「いくら?」と尋ねた兄に「やっぱりやめとくよ」と応えました。

映画館で小翆と出会った小四は、滑頭が真っ当になっていて人は変われるんだと慰められる気分だと彼女に語ります。

小翆は「あなたは私を軽蔑していたはず。私が変わらなければ相手にしない?自分勝手ね」と小四をなじり、「滑頭が小学校で217の連中にちょっかいを出された時、一緒にいたのは私じゃなくて小明よ」と思いがけない真相を告白します。

小四が家に戻ると、母の大切な時計を持ち出しただろうと兄が父に激しくぶたれている姿が見えました。

張瓊は「もう少しそこにいなさい。犯人があなただと知れば父さんも母さんももっと悲しむ」と小四に語ります。

兄は小四が時計を持ち出したのを知り、取り戻すためにまたビリヤードの賭けをしたのです。しかし、彼は小四のことは一切話しませんでした。

小明は、滑頭や小馬だけでなく、小虎とも(彼とバスケットボールをして彼女は足を怪我したのです。彼が追われていたのもそのせいでした)、医師とも関係していました。小四は深く傷つきます。

王茂は小四を心配し、スタジオに彼を呼び出しますが、今日は都合がつかないから明日必ずといって、慌ただしく出て行ってしまいました。

小四は椅子に腰掛け、懐中電灯を置きます。そこに監督がやってきました。小四を見て小明を思い出したようです。

「あの娘はどうしているかな。連絡がとれないんだ。彼女は素晴らしい。演技が自然だ」と言う彼に、小四は吐き捨てるように言います。「何も見抜けてない。何撮ってんだ!」小四は懐中電灯をそのままにして立ち去りました。

張瓊は小四のことを心配し、牧師に話を聞いてくれるよう頼んでいました。しかし、時間になっても彼は現れません。

その頃小四は留守の王茂の部屋を訪ね、彼の部屋の屋根裏部屋から出てきたという短刀を持ち出しました。

小明を待ち伏せする小四。彼に気付き、小明が声をかけてきます。一緒に歩きながら、小四は語りかけます。「僕は全部知っている。僕だけが君を救うことが出来る」。

すると小明は立ち止まり「助ける? 私を変えたいのね。私の感情という見返りを得て、安心したいのね。私は変わらないわ。社会が変わらないのと同じようにね」と激しくまくしたてます。

小四は思わず、持っていた短剣を彼女につきつけ、何度も彼女を刺してしまいます。道路に倒れて動かなくなった小明に「早くたってくれ」と呼びかける小四。周りの人々が彼らに気付き始めます。

張瓊が泣きながら警察署に駆け込んできました。嘘であってくれという彼女の願いもむなしく、先に到着していた家族の表情を見て彼女は泣き崩れます。

小馬は学校に日本刀を持ち込んだことから今回の事件との関与を疑われていました。母親が怒鳴り込んできて、夫の力を誇示して帰りますが、小馬は涙を流していました。小四はたった一人の友達だったのにと。

王茂は警察に言葉を吹き込んだテープを持ち込んで小四に渡してくれと頼みます。警察は受け取りながら、すぐに捨ててしまいますが、その中には、王茂がテープをエルビス・プレスリーに送ったこと、返事が来て、遠い島国でも自分の歌を聴く人がいることを喜んでくれていたことなどが吹き込まれていました。

(※小四は死刑を宣告されますが、様々な議論のもと、最終的に懲役15年に処せられ、30歳になって釈放されたと字幕で記されます)

事件から二年後、小四の家族は引っ越しの準備の真っ最中でした。妹がラジオを落としてしまいますが、その衝撃により、ラジオが復活します。ラジオからはその年の大学合格者名が粛々と読み上げられているのが聞こえてくるのでした。

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映画『牯嶺街少年殺人事件』の感想と評価

冒頭の入試委員会の場面のあと、木漏れ日が淡い影を作る通りに、牛車を引く男のゆったりした歩みを固定カメラで長回しで撮っています。

やがて自転車に乗った小四と父の姿が見え、彼らは牛車を追い抜くと、カメラ手前にやって来ます。まだこの時、小四はこの牧歌的な風景の住人ですが、夜間中学に入学することにより「夜の人」となります。

すべての授業が終わったあとは、深い夜の闇が広がっています。明かりが灯る場所ですら(ビリヤード場のことですが)しばしば停電になり、闇に包まれます。映画自体も深い闇に覆われたかのような「夜の顔」をしています。

勿論、夜の場面ばかりでなく昼間の場面も多いのですが、放課後、少年たちが勢いよく教室から飛び出してきて思わず立ちすくむ、あの真の暗さは、「夜の顔」としての映画を象徴するものと言えるでしょう。

闇の中には誰かが確かにいる気配があるのですが、あまりにも黒くてその気配すら覆い隠してしまうかのようです。そこからいきなりバスケットボールが飛び出してくるシーンのなんと衝撃的なことか。

もっとも、夜市がたっている通りの風景などは、わくわくさせるような別の夜の顔があります。しかし、この風景の中で、ラストの悲劇が起きてしまうのです。

小四は何度か、スイッチのオン、オフを繰り返し、光と影を交錯させます。さらに彼は懐中電灯を手に入れます。視力が落ちてきた彼にとって、懐中電灯で暗闇を照らすという行為は、夜を生き抜くための一つの手段であったのかもしれません。(懐中電灯を手放す時、悲劇が起きます)。

光と影の交錯といえば、小明と母親が勤めていた屋敷を追われて叔父の家に行く際のビリヤード場を通り過ぎてからのシーンが思い出されます。それまで画面奥にある急な階段に気づかなかったのですが、手前の人物が建物の中にはいってしまうや、ふいに現れたかのように視覚に入ってきます。そこを振り返りもせず登っていく母娘は闇に包まれたと思えば、光に照らされ、まるでスポットライトを浴びているように浮かび上がり、また闇に隠れていきます。

光と闇といえば、映画にはフィルム・ノワールというジャンルが存在します。アメリカの1940年代~50年代にかけて量産された、モノクロ映画で大半は犯罪映画です。

そこには男たちを惑わせる魅惑的なファム・ファタールが登場しますが、『牯嶺街少年殺人事件』における小明はファム・ファタールと呼ぶのに相応しい人物です。

彼女は多くの男性と付き合い、小四だけでなく全ての男性を破滅させます。

勿論、彼女は意図して悪女ぶっているわけではなく、ジャンル映画の役割を背負わされているわけでもありません。貧しく、頼るべき大人がおらず、未来が見えない(寧ろ、不幸な未来しか見えない)からこそ、不安な気持ちを埋め合わせるがごとく、様々な男性を翻弄してしまうのです。

「私は変わらない」と同じような台詞をはき、同じように奔放な少女、小翆と小明は似ているようでまったく似ていません。誰かを傷つけたか、傷つけていないかという問題だけでなく、本人に自覚があるのかないのかが大きいのかもしれません。

フィルム・ノワールが、当時のアメリカ社会に蔓延した不安な気持ちを反映していたように、本作もまた、60年代初頭の、そして、この映画が作られた80年代後半から90年代にかけての台湾の社会情勢と深い関係にあるといえるでしょう。

欺瞞に満ちた大人社会への不信は、夜学に通う子どもたちを覆っています。あまりにも理不尽なことがらが多い中、正しく生きようとするものに限って災いに見舞われるかのようです。

本来、小四はこのような事件を起こす類の少年ではないのに。小明にだけみせる彼の無邪気な笑顔を思い出すにつけ、慟哭の想いを隠せません。

そんな中、王茂は、どんな状況でも狭義心に溢れ、行動力もある爽やかなキャラクターとして物語の救いになっています。

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まとめ

小四を演じたのは、当時、まだ演技経験のなかった張震(チャン・チェン)。今や台湾のみならずアジアを代表する映画スターとなった彼ですが、本作では実に初々しい姿を見せてくれます。小明にみせるあどけない笑顔は必見です!

登場人物が大変多いうえに、彼らの関係が複雑に入り乱れているので(同じグループ同士で諍いがあったり、逆に敵グループのメンバーと交流があったりします)、人間関係がわかりにくい面もありますが、それが当時の台湾の複雑な社会階層、人間模様そのものを表しているともいえるでしょう。

そして同時に、ここに描かれる人々の、様々な葛藤を抱えた暮らしぶりには、今の日本に住む私達にも他人事ではない臨場感が漂っています。名作はどの時代にも響く普遍的なものを宿しているのです。四時間の大作ですが、長さをまったく感じさせません。

2017年は、エドワード・ヤン監督の生誕70年、没後10年にあたります。この機会に是非、大きなスクリーンでこの傑作を体感してみてください。

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