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Entry 2020/06/22
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映画『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』感想と考察評価レビュー。多感な若者と心理学教授の儚くも尊い交流

  • Writer :
  • 松平光冬

青年を導く人生の師フロイトを熱演した名優、ブルーノ・ガンツの遺作

2019年2月に亡くなったドイツを代表する名優ブルーノ・ガンツの遺作となる映画『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』が、2020年7月24日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国で公開されます。

1937年、ナチス・ドイツとの併合に揺れる激動のウィーンを舞台に、17歳の青年フランツが精神分析学者ジークムント・フロイト教授の教えを請いながら、悩み、成長していく姿を描きます。

映画『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』の作品情報


(C)2018 epo-film, Glory Film

【日本公開】
2020年(オーストリア・ドイツ合作映画)

【原作】
ローベルト・ゼーターラー『キオスク』(2017年東宜出版・酒寄進一訳)

【原題】
Der Trafkant(英題:The Tobacconist)

【監督・共同脚本】
ニコラウス・ライトナー

【製作】
ディエター・ポホラトコ

【脚本】
クラウス・リヒター

【音楽】
マシアス・ウェバー

【キャスト】
ジーモン・モルツェ、ブルーノ・ガンツ、ヨハネス・クリシュ、エマ・ドログノヴァ

【作品概要】
2012年に出版されて以降、ドイツ国内で50万部以上のベストセラーとなったローベルト・ゼーターラーの『キオスク』を映画化。1937年、ナチス・ドイツとの併合に揺れる激動のウィーンを舞台に、17歳の青年フランツが精神分析学者フロイトの教えを請いながら、恋に悩み、成長していく姿を描きます。

フロイト教授を演じたのは、『ベルリン・天使の詩』(1987)、『ヒトラー~最期の12日間~』(2004)などでその名を世界に知らしめたブルーノ・ガンツで、本作が遺作となりました。フランツ役に、本作の監督ニコラウス・ライトナーが手がけたテレビドラマや映画にも出演した、新鋭ジーモン・モルツェが扮します。そのほか、『顔のないヒトラーたち』(2014)、『女は二度決断する』(2017)のヨハネス・クリシュが脇を固めます。

映画『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』のあらすじ


(C)2018 epo-film, Glory Film

1937年のナチス・ドイツとの併合に揺れるオーストリア。

母の古い知人で、傷痍軍人のオットーが経営するタバコ屋の見習いとして働くために、首都ウィーンへとやってきた17歳のフランツは、常連客のひとりで、“頭の医者”として知られるフロイト教授と懇意になります。

フロイトと親しくなったフランツは、教授から人生を楽しみ、恋をするようにアドバイスを受けるように。

やがてボヘミア出身の年上女性のアネシュカに一目惚れしたフランツが多感な青春を謳歌しようとしていた矢先、オーストリア全体は激動の時を迎えようとしていました…。

映画『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』の感想と評価


(C)2018 epo-film, Glory Film

大人になるアイテムが揃う場所、キオスク

本作『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』は、1937年のオーストリアを舞台に、田舎から出てきた青年フランツがタバコ店「トラフィク」で見習いとして働くことから物語が進行します。

「販売」を意味するイタリア語「traffico」を語源とするこの小売店は、ドイツでは「キオスク(Kiosk)」と呼ばれており、日本のJR駅構内にある売店の「キオスク」もここから来ています。

日本と同様に、フランツが働くキオスク(トラフィク)でも、タバコ以外に新聞・雑誌、文具などさまざまな商品を扱っており、テレビも存在せず、ラジオも普及しきっていなかった当時のウィーンでは、活字メディアは市民の重要な情報源でした。

その中でもキオスクで扱う重要な商品がタバコや葉巻で、キオスク店主のオットーがいみじくも言います。

「粗悪品のタバコは馬糞の味がする。良い葉巻はタバコの味がする。そして極上品の葉巻は世界の味がする」。

知識や快楽を得られる新聞・雑誌に、悦楽を味わう葉巻・タバコも揃えるキオスクは、いわば大人が嗜むアイテムの宝庫

キオスクを利用する客との触れ合いは、17歳のフランツにとって大きな刺激となっていきます。

(C)2018 epo-film, Glory Film

悩み多き若者を導く“頭の医者”フロイト


(C)2018 epo-film, Glory Film

そんなキオスクの常連客の一人が、精神分析学の創始者であるジークムント・フロイトです。

フランツは、上質な葉巻をこよなく愛する“頭を治す医者”から、人生を楽しみ、恋をするよう助言を受けることに。

やがて年上女性のアネシュカに一目惚れしたフランツは、彼女の奔放な性格に振り回され、戸惑います。

初めての恋に悩むフランツに、“3つの処方箋”を与えるフロイト。

その中の一つが、自分が見た夢を紙に書き留めるという、いわゆる「夢判断(分析)」というものです。

(C)2018 epo-film, Glory Film

原作では細かく描かれていなかったフランツの夢や妄想を、監督のニコラウス・ライトナーは幻想的なタッチで見事に映像化

「快感と恥は兄弟」、「男はズボンの中にリビドー(性衝動)を持つ」、「愛はいつも勘違いだ」といった勾玉のような助言をフランツに授けていくフロイトは、師弟でもあり友人でもある関係を築いていきます。

本作が遺作となったフロイト役のブルーノ・ガンツは、関連書籍を読みあさってフロイトという人物について学んだ上に、病に侵されていたという最晩年の肉声音源も聞き、役作りに活かしました。

まとめ


(C)2018 epo-film, Glory Film

しかし、ナチス・ドイツがオーストリア全土を掌握するにしたがって、精神的に未熟で夢見がちな青年フランツも、否応なしに激動の渦に呑まれていくことに。

本作は、時代設定こそ第二次世界大戦前ではありますが、描かれるテーマは、難民受け入れに反発し右傾化しつつある、現代のドイツやオーストリアを思わせます。

それでもフランツは、とある人物が掲げるスローガン「心の自由なくして民族の自由なし」にのっとり、自分に正直であり続けながら、恋とは何か、人生とは何かを学んでいくのです。

若き青年と老齢医師の儚くも尊い交流が、心に染み入る一本です。

映画『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』は、2020年7月24日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国で公開


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