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Entry 2024/09/09
Update

『天のしずく辰巳芳子いのちのスープ』あらすじ感想と評価解説。料理研究家が食とレシピを通して“今の人間の尊厳”を見つめ直す

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

勇気をくれる伝説の人間記録『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』は2024年9月10日(火)〜23日(月・祝)に東京都写真美術館ホールで上映!

長寿の伝説の偉人たちを撮ってきた河邑厚徳監督が、料理家・作家辰巳芳子の思う農と食を通して、人の命の尊厳を見つけるドキュメンタリー『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』

本作は東京都写真美術館ホールの特集上映「勇気をくれる伝説の人間記録」で、『笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ』(2016)『天地悠々 兜太・俳句の一本道』(2019)とともに上映されます。

「良い食材を伝える会」「確かな味を造る会」の会長を務め、食の大切さを訴え続けている料理研究家の辰巳芳子。

病床の父のために作り続けたスープが「いのちのスープ」と注目され、病院にスープを運ぶ試みから、看護師らを中心にしたスープ教室などを通して全国に広まりました。

『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』は、食によって日本の自立を訴える辰巳芳子の生き方を通して、現代の日本を生きる私たちに‟食の大切さ”を語りかけてきます。

映画『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』の作品情報


(C)2012天のしずく製作委員会

【上映】
2024年(日本映画:2012年初公開)

【監督】
河邑厚徳

【キャスト】
辰巳芳子

【作品概要】
監督を務めたのは、NHKに入局し、数々のドキュメンタリーを手がけてきた河邑厚徳。『笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ』(2016)『天地悠々 兜太・俳句の一本道』(2019)など長寿の伝説の偉人たちを撮影してきました。

今回“勇気をくれる伝説の人間記録”として、河邑厚徳監督の3作品が東京都写真美術館ホールにて特集上映されます。

主人公の辰巳芳子は、1924年に生まれ、日本の家庭料理家の草分け的存在として知られる母・辰巳浜子から料理について学び、その後宮内庁大膳寮で修行を積んだ加藤正之氏にフランス料理を学び、イタリア、スペインなどで西洋料理の研鑽を積んだ料理研究家。

本作は、そんな辰巳芳子の生き方を映し出したドキュメンタリーです。

映画『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』のあらすじ


(C)2012天のしずく製作委員会

「良い食材を伝える会」「確かな味を造る会」などの会長を務め、生きる力を支える食の大切さを訴え続けている料理研究家・辰巳芳子。

かつて病床の父親のために工夫を凝らして作り続けたスープが、いつしか「いのちのスープ」として多くの人々に知られるようになります。

母から教わった食への姿勢をスープの教室を通して人々に伝えていく辰巳芳子は、食を通して日本の独立を考えています。

四季とともに食を慈しみ、農や土に思いを馳せる辰巳芳子の生き方を通して、いつしか人々が忘れてしまった原点を思い出させます。

農と食を通して、人の命の尊厳を改めて考え直す映像記録。

映画『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』の感想と評価


(C)2012天のしずく製作委員会

辰巳芳子の生き方を追ったドキュメンタリー『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』。

四季の移ろいを感じながら料理を通して自然と向き合う辰巳芳子は、食を通して日本の自立を考えています。現在、日本は食の6割を輸入に頼っています。

しかし、食は自国で賄うべきだと辰巳芳子は言い、大量消費や環境破壊の観点からも「この国が持つもの、持たざるもの」分際をわきまえることを説きます。

ファストフードが流行し、添加物を多用した食事が増え、若者の成人病も問題になっています。ラクさを求めてきちんと食に向き合わなくなってきた現代人。大地と共に生きる大切さも失われているのかもしれません。

そのような食を通して自然と向き合うこと、大地と共に生きること、人間の根源を改めて感じさせます。

そんな辰巳芳子は、家庭料理家の草分けとして知られる母・辰巳浜子のもとで料理を学んできました。母は、病気により、ものを噛んで食べることができなくなった父に何とかして食べさせてあげたいと、丁寧に炒め、すり下ろしたスープを作り父に毎日食べさせます。

母の死後は、辰巳芳子が父のためにスープを作りました。そのスープは「いのちのスープ」として知られ、辰巳芳子の元に「いのちのスープ」を学びにくる生徒が増えました。

辰巳芳子は、病院にスープを運ぶ活動をしたり、病院や介護の職についている人に向けて「いのちのスープ」の料理教室を開催したりして、自身の生活の知恵や料理への向き合い方を伝えていきます。

辰巳芳子にとってそれは特別なことでも、高尚なことでもなく、かつて母が自分に伝えてくれたことを受け継ぎ、バトンをつなぐという思いなのかもしれません。それは人々が代々続けてきた根源的な営みともいえます。

時代が移り変わって生活や様々なことが変化しても、食べることは生きることであり、時代を経ても変わらぬものです。辰巳芳子は「料理は愛である」と言います。愛すること愛されること、料理だけでなく、すべてのことの通じるのは愛なのです。

現代人が忘れていた“何か”を辰巳芳子の生き方を通し、このドキュメンタリーは伝えてくれるのです。

まとめ


(C)2012天のしずく製作委員会

技術の発展により、現代社会はモノがすぐ手に入るようになり、様々なことに対しコストパフォーマンスを求めるようになりました。食も家電の発達により、簡単にすぐ調理できるもので溢れかえっています。

便利さを求めること自体が、必ずしも罪というわけではありません。しかし、環境汚染や貧困など様々な問題に目を向けると「私たちは何かを見失っているのではないか」と思うこともあるでしょう。

日々に忙殺され、効率を求めた生活を送る私たちにとって、自然と共に生き、向き合いながら調理をし、食す、そんな生活を送っている辰巳芳子の生き方に忘れていた何かに気づくことができるかもしれません。

生活を変えることは簡単ではないですし、誰もが皆辰巳芳子のような生き方をできるわけではありません。それでも、本作を観てふと自分の生活を立ち止まって見つめ直す、そんな時間があってもいいのかもしれません




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