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映画『山懐に抱かれて』感想と評価解説。田野畑山地酪農牛乳のおいしさは「助け合う家族と酪農への思い」

  • Writer :
  • もりのちこ

山懐に抱かれて「牛」も「人間」も力強く生きています。

岩手県下閉伊郡田野畑村で、安心安全の酪農「山地酪農」を実践している家族がいます。5男2女と夫婦の9人で暮らす吉塚一家です。

お父さんの公男さんが、自らの手で山を切り開き、シバを植え、家族が一丸となって牧場を開拓してきました。その牧場には一年を通して完全放牧の牛たちが伸び伸びと過ごしています。

山地酪農への情熱と挑戦、そして家族が力を合わせて歩んできた24年を追ったドキュメンタリー映画『山懐に抱かれて』を紹介します。

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映画『山懐に抱かれて』の作品情報


(C)テレビ岩手
【日本公開】
2019年(日本)

【監督】
遠藤隆

【キャスト】
吉塚公雄、吉塚登志子、浅野都、吉塚公太郎、吉塚恭次、山崎令子、吉塚純平、吉塚雄志、吉塚壮太、吉塚和夫、吉塚淑、熊谷隆幸、熊谷宗矩

【作品概要】
岩手県下閉伊郡田野畑村で、酪農を営む大家族の24年を追ったドキュメンタリー映画です。

山地酪農を営む吉塚さん大家族を通して、酪農の厳しさと家族の在り方を映し出します。

地元テレビ局が独自に取材、放送を続けてきたテレビ番組が、開局50周年記念映画として公開されました。

ナレーションは、プライベートでも山地酪農牛乳のファンだという女優の室井滋が務めます。

映画『山懐に抱かれて』のあらすじとネタバレ


(C)テレビ岩手
岩手県下閉伊郡田野畑村。北上山系の山懐に抱かれたこの地で、山地酪農を営む牧場がありました。

東の空が明るくなってきました。夜明けです。にわとりの鳴き声と共に「はいはい、ほらほら」人間の声が聞こえてきました。そしてその声に導かれるように現れたのは、元気な牛たちです。

ここは吉塚さんの家族が営む牧場。牛たちは一年を通して完全放牧され、乳をしぼる時だけ牛舎に入ります。

山林を切り拓き、シバを植え、牛を放ち、牛が自由に交配し、子牛を生み、牛乳を生み、糞尿を落とし、山が育ち、シバが再生され、それをまた牛が採食する。

限りなく自然に近いサイクルで営む循環型農法。それが「山地酪農」です。

山地酪農の創設者の猶原恭爾博士は「山地酪農は新規異質の農業である」と言われました。

広い土地と何よりも牛が良く育つ豊かな自然がなければ出来ない農法です。何より牛舎で牛を飼い乳を搾るよりも、はるかに手間がかかり、人手が必要になります。

1974年、千葉県出身の吉塚公男さんは山地酪農をするために岩手県田野畑村に移住しました。「みんなが幸せになる、おいしい牛乳をつくりたい」その一心でした。

プレハブ小屋での生活に、牧場の開拓。それはそれは大変なものでしたが、得られる充実感や家族が寄り添って生きる生活は公男さんにとって何よりも幸せでした。

授かった子供は5男2女。夫婦あわせて9人の大家族となりました。

吉塚家には食事の前に行う、「いただきます」のあいさつがあります。「おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとう。お父さん、お母さん、ありがとう。都ちゃん、公太郎くん、恭次くん、ありがとう」。子供たちの名前が次々呼ばれ、最後は「牛さん、ありがとう」と続きます。

感謝の気持ちを学びながら、子供たちは自然の中ですくすく育っていきます。

牛とともに牧場をかけまわり、夏は冬のための草刈り、秋は木になるヤマナシをおやつに、冬は皆で薪拾いをし、春は牛の出産に立ち会います。

牧場の仕事には休みはありません。家族全員が働かなければ生活がまわりません。子供たちはそれぞれが責任感を持ち手伝っています。

長女の都は、お母さんと一緒に台所に立ちます。長男の公太郎、次男の恭次は力仕事もお手の物。三男、純平は心優しいムードメイカー。次女の令子と、四男の雄志は五男の壮太のお世話を率先してやります。

父、公男さんは「親として子供たちに普通の家庭のように遊園地やデパートに連れて行ったことがない。喜びや悲しみを受け止めてあげることしか出来ない」。と涙ぐみます。

そんな公男さんは、1995年一大決心をしました。

田野畑村の山地酪農研究会の集会で「プライベートブランド」の発足を提案します。

同じ山地酪農を営む熊谷家と共同でやってみることになりました。3か月後には生産がスタート。こうして、「山地酪農牛乳」が誕生しました。

千葉のおじいちゃん、おばあちゃんも喜んでくれました。そして、おじいちゃんの協力で、27年間住んだプレハブ小屋から新築の家に引っ越しもしました。

「山地酪農牛乳」を定期購入をしてくれる家へと一軒一軒届けます。盛岡市でも徐々に顧客が増えてきました。

2001年、長男の公太郎は高校を卒業し、北海道へ酪農の修行に出ることになりました。公男さんには、男の子5人を酪農家にし、山地酪農を大きくして行きたいという夢がありました。

子供たちは自分の夢を追いかけ成長していきます。吉塚家に新たな転機が訪れようとしていました。子供たちが、それぞれが決めた将来の道とは。公男さんの想いとは。

以下、『山懐に抱かれて』ネタバレ・結末の記載がございます。『山懐に抱かれて』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)テレビ岩手
2003年、長女の都の結婚式です。都は小さい頃からの夢を叶え、福祉施設で働いていました。

家族が増えた吉塚家では、父・公男さんが新たな挑戦に乗り出そうとしていました。第二牧場の開拓です。

今の牧場よりも大きな面積で、また一から開拓をする覚悟の公男さんは、都にも仕事を辞め手伝うように勧めます。

牧場の経営状況を知っている都は、「家族が食べられなくなった時にどうするの」と、父の意見に反発します。

経営の厳しさを分かりながらも、このチャンスにかけたい公男さん。「やりたいんだよ」と男泣きです。

長男の公太郎が戻り、山地酪農を応戦してくれる人たちも増えました。しかし、暮らし向きは苦しいままです。それは山地酪農だけではなく、酪農全般が厳しい時代でした

第二牧場の計画が白紙になりました。銀行の融資が受けられなかったのです。

次男の恭次も悔しそうです。「現実を受け止め少しでも前に進むだけです」。恭次もまた酪農の勉強のため家を離れていきます。

長女の都は、旦那さんの実家へ引っ越すことになりました。母を支えてきた長女・都との別れは、吉塚家にとってとても寂しい出来事でした。

母の登志子さんは、更年期障害に悩まされます。四男の雄志が母を助け、都の変わりに台所に立つようになりました。「母と同じことを出来ることは嬉しい」と皆のご飯の準備をします。

ある冬の日、牛舎に牛たちが入れられていました。長男・公太郎の案です。冬のうちだけでも中で育てる方が牛にとっても良いという思いからです。

しかし、父親の公男さんは猛反対です。「これは山地酪農じゃない。俺には大事なお客様がいる。お前のやり方をやりたいなら自分の牧場を持って他でやれ」。

公太郎は、「弟の恭次が戻ってくるまでに良い牛を育てたい」という気持ちと、経営が厳しいままの現実に焦りがありました。それは、弟思いのお兄ちゃんらしい悩みでした。

そして、2011年3月11日。東日本大震災が起こります。田野畑村でも深刻な燃料不足となりました。牛乳生産はストップ。牧場は福島からの放射能の影響を考え、何度も検査を重ねました。

2012年、山地酪農牛乳は家族一丸となって震災を乗り越えます。次男・恭次も人生のパートナーをもらいました。酪農大学出身の奥さんは、吉塚家にとって率先力となりました。

しかし、恭次にはある考えがありました。父・公男さんの山地酪農の考えと自分のやりたい酪農との違い。そして、下の弟たちの将来についてです。

5兄弟を酪農家にし、皆で山地酪農を続けていく考えの父・公男に、恭次は「その考えに閉じ込められたくない。下の弟たちにも本当にやりたいことをして欲しい。父の考えを強制してはいけない」と、意見します。

父親からの自立でした。結婚を機に、恭次は北海道へ。独自の牧場を経営しています。

2018年、山地酪農牛乳に新たな製品が誕生しました。山地酪農牛乳を使用したヨーグルトやチーズの乳製品です。そして、デパートでの試飲や営業活動も活発になりました。

乳製品の開発には、大学で学んできた四男の雄志が力を発揮しています。営業責任者として山地酪農牛乳を売り出すのは、三男の純平です。純平は社会人経験も積んできました。

そして、吉塚家の山地酪農を仕切るのは、長男・公太郎です。まだ幼い公太郎の息子が、楽しそうに牧場の手伝いをしています。

その姿は公太郎の小さい頃に重なります。親から教わったことを自分の子供へと受け継いでいく。

牛も人間も自然のサイクルの中で幸せに生きています。まさに山地酪農の本質がそこにありました。

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映画『山懐に抱かれて』の感想と評価


(C)テレビ岩手
テレビ岩手が独自取材をし、日本テレビ系ドキュメントで放送された「ガンコ親父と7人の子どもたち」シリーズが映画になりました。

ガンコ親父こと吉塚公雄さんは「山地酪農」をするために、岩手県の田野畑村に移住してきました。家族は一緒に暮らし助け合うのが当然。酪農に対する熱い思いを子供たちに伝えていきます。

リアル『北の国から』のごとく、プレハブ小屋でランプ生活からスターとした吉塚一家。暮らし向きは楽ではありませんでしたが、家族は常に寄り添い、力強く成長していきます。

赤ほっぺの天真爛漫な子供達が、お互いを思い合い成長していく姿が実に微笑ましいです。時にはケンカをしながら、それでも理解し合うことを諦めない吉塚一家。子供たちは父の背中をみて育ちます。

東日本大震災で、自然を相手にすることの厳しさを、痛い程経験しました。時代の流れの速さに付いていけず、歯がゆい思いもしました。

それでも続けて来れたのは、家族の絆の賜物です。そして公男さんが山地酪農を始める当初の想い「みんなが幸せになる、おいしい牛乳をつくりたい」その強い思いがあるからではないでしょうか。

映画の後日談として、五男の壮太は現在、フレンチのシェフを目指し修行中です。彼だけ酪農の道に進みませんでした。

しかし、何年か後に修行を積んだ壮太が、山地の牛を使ったフレンチ料理を作る日が訪れるのではないでしょうか。それもまた楽しみです。

まとめ


(C)テレビ岩手
岩手県下閉伊郡田野畑村で、安心安全の「山地酪農」を営む吉塚一家の24年間のドキュメンタリー映画『山懐に抱かれて』を紹介しました。

番組は第73回文化庁芸術祭のテレビ・ドキュメンタリー部門で優秀賞を受賞しました。これは、岩手県内の民放局では初めてのことです。

テレビ岩手の1階ロビーには賞状と盾が飾られ、映画公開を盛り上げています。そして、テレビ岩手のビルには「山地酪農牛乳」の定期購入者が大勢います。今も元気な配達員が新鮮な牛乳を届けにやってきます。

自然放牧で牧場のシバを食べ育つ牛の牛乳は、季節によって味が変化します。まさに自然の恵みの味です。牛、本来の乳の味は、コクがあり奥深い甘みが口の中に広がります。

「山地酪農牛乳」は、盛岡市の何カ所かの産直で購入できますが、映画公開が決まってからは、すぐに売り切れてしまうほどの大人気です。

山地酪農乳牛と、この牛乳を使用したヨーグルトやチーズ、の乳製品も通販にてご購入いただけます。

岩手の豊かな自然で育まれた「山地酪農牛乳」、ぜひ映画と共に一度ご賞味下さい。

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